問題解決 裏
『……最悪だな』
マヨヒガからブリテンに帰還した僕の率直な感想がそれだった。
友人との穏やかな生活から掃き溜めのような戦場に。
しかも足元には馬鹿の死体が転がっている。最悪の気分だ。
とはいえ僕の心は既に解き放たれているのでこの馬鹿にもそこまで憎しみがあるわけではない。
『確か物語ではベディヴィアに聖剣を託してアヴァロンへと旅立つのだったかな?』
目をかっ開いたまま死んでいる馬鹿の目を閉じてやりヨロヨロと歩き出す。
心身共に絶好調ではあるが今の私は満身創痍に見えているはずだからな。
そんな人間が元気に歩いていればおかしいだろう。
『王ッッ!!』
しばらく歩き迷い込んだ森の中。
大木に背を預けていると満身創痍のベディヴィアがやって来た。
物語では彼にエクスカリバーを返還するように最後の命を下すのだが生憎と聖剣はもうない。
なのでその代わりに幾つか心にもない遺言を伝えてからアヴァロンへと旅立った。
『……しかしこれどうするんだ?』
小舟でアヴァロンに辿り着いたは良いが問題はここからだ。
酔いどれアーサーとして僕は未来で存在しているらしいが千年以上先までどう生きれば良いのか。
元々老化は緩やかではあったが流石に千年も生きられはしない。
しばらく考え込んだ末、
『――――埒が明かないしとりあえず酒飲んで寝るか』
一先ず問題を先送りにすることにした。
酒を飲んで眠れば頭もスッキリして何か妙案が思い浮かぶかもしれない。
船旅の中で気付いたのだが友情の証に貰ったあの酒瓶。
どうやらただの酒瓶ではないようで酒が無限に湧き出して来るのだ。
僕は浴びるように酒を飲み咲き乱れる花々の寝台で眠りに就いた。
『……アーサー?』
体感では普段より寝過ぎたかな? ぐらいのものだった。
だがどうやら信じられないことが起きていたらしい。
その証左となるのが僕の時代にはなかった装いでこちらを見つめるモルガンだ。
『あぁ……アーサー! アーサー!!』
抱き着き泣きじゃくるモルガン。心底気持ち悪かった。
だが事情を説明出来そうなのがコレぐらいしか居ないので我慢して奴を宥めてやった。
本当に嫌い。見てて不快。存在そのものが問題外な女に何故優しくしてやらねばならないのか。
ともあれ我慢した甲斐はあり必要な情報を得ることは出来た。
どうやら僕は千年以上、眠っていたらしい。
『……君が僕に何かしたのか?』
『いいえ。私がアヴァロンであなたを見つけた時、あなたは既に死んでいました』
だからずっと寄り添うことしか出来なかったとのこと。
変態から譲り受けた魔道具は千年以上もこの女の目を欺いたようだ。
マヨヒガの恐ろしさを実感した。
変態の魔道具は単体でも一級品だが、それをここまで強化するのかと。
『君の仕業でないというのであれば』
『マーリンでもないでしょう。あの男であろうとも死者を蘇らせることは出来ない』
知ってる。というかもう消去法だ。
モルガンの仕業でないというのなら不老の理由は友情の酒瓶だろう。
時を超えて友との再会を手助けしてくれていると思うと胸が熱くなる。
この時、僕は酒瓶にシン・エクスカリバーという銘をつけたのだ。
『……そうか。ところでもう一つ疑問があるのだが』
『何?』
『何故、私の傍に寄り添っていた。君は私をあれほど憎んでいたはずだろう』
何なら僕の亡骸を辱めていてもおかしくはなかった。
にも関わらず寄り添う? 亡夫の墓守をする未亡人じゃあるまいし。
『ッ――――あなたを、愛しているから』
『は?』
困惑する僕に奴は涙ながらに叫んだ。
『弟と、なんて許されるわけがない。どう足掻いても道ならぬ恋!
だから忘れようとした! 憎むことで想いを捨てようとした。だけど捨てきれなかった。愛してるから!!』
僕はモルガンを切り捨てアヴァロンを出た。
変態から聞いた時代まではまだ遠いが、
『それも良い。沢山の土産話を持って会いに行こう』
僕の第二の人生が始まった。
当代の常識を学び、糧を得るため働き、酒を楽しみ色々な場所を見て回った。
日本にだって何度も足を運んだ。
そうして楽しい日々を過ごし遂に約束の時はやって来た。
変態から僕に連絡があったのだ。坊野との場を設けてくれると。
嬉しくはあったが、
『意外だね。君は男女問わず嫉妬するゴミカスメンヘラ女だと思っていたのだが』
『殺すぞ貴様。私をそんじょそこらのメンヘラと一緒にするな。最優先すべきは先生だ』
とのこと。
そんなこんなで僕は今、変態が用意してくれた店で坊野を待っていた。
「うぅむ。やはり日本酒は素晴らしいな」
代金は変態持ちなので食べ放題飲み放題。
一人で飲み始めるのはどうかとも思ったが仕方ない。
少し……いやかなり緊張しているので酒の力が必要なのだ。
「……遅いな」
そろそろ来ても良い頃なのに一向に姿が見えない。
どうしたのだろうと心配していると嫌な気配を察知した。
直感だった。考えるよりも先に店を飛び出し現場に急行すると案の定だ。
異界を彷徨う坊野と彼を襲おうとしている鬼を発見した。
(坊野を狙ったわけではなく巻き込まれ事故のようだね)
運が悪い……いや僕が助けに入ったのだからそうとは言えないか。
「“千五百年ぶりだぞ。邪魔をしてくれるなよ”」
友との再会に水を差された苛立ちと共に大鬼の腕を切り飛ばす。
一撃で仕留められれば良かったが中々どうしてやるようだ。
「この声、我が友アルトスではないか!?」
山月記?
「改めて名乗ろう」
久しく聞いていなかった友の声に胸が熱くなる。
この時をずっと待っていた。
「我が名はアーサー。かつて騎士王と謳われ」
今度こそ真の名を告げようではないか。
「――――今は酔いどれと笑われる男にして君の友だ」
不敵な笑みを浮かべつつも内心、僕は不安を覚えていた。
『――――恋ねそれは!!』
『は?』
『だからその魔女は異父弟に恋をしてるんだって!!』
それはかつて交わした約束。
『弟と、なんて許されるわけがない。どう足掻いても道ならぬ恋だ。
だから憎むことで想いを捨てようとした。だけど捨てきれなかった。愛してるから!
歪みに歪んだ情愛はやがて心中願望にも似たものに変わり……い、いけるでこれは!!』
あり得ないと切り捨てたはずのもの。
『ないない。もしそうなら私は君の国の首都を全裸で疾走したって構わないよ』
そこで終わり続きなんてあるはずのなかったもの。
(大丈夫、大丈夫。証拠は隠滅した。真実が露呈することはない)
幾ら酔っ払いと言えど東京のど真ん中を全裸で疾走するのは御免である。
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