客人 正統派イケメン⑨
今年最後の投稿になります。本年も大変、お世話になりました。
私が創作を続けられているのは読んでくださってる皆様のお陰です。本当にありがとうございます。
来年もどうぞよろしくお願い致します!
食後。坊野は一度自宅に戻るとでぃーぶいでぃーなるものを持って帰って来た。
そして何やら準備をすると天井付近を指さし説明してくれた。
あの飾り物だと思っていた黒い鏡のようなものでアーサー王物語を鑑賞するとのこと。
「おぉ!? す、すごいな」
「はは、良いリアクション。こんなことならもっと早く見せるべきだったかな?」
言いつつ彼は盃に酒を注いでくれた。
……エクスカリバー。私がこれを飲むのは何だか妙な気分だ。
「ん゛ん゛!?」
「あ、不味かった?」
「…………ふぅ。いや、不味くはないよ。ただとても強く辛い酒だったから驚いただけさ」
今度は少しだけ口に含んで転がすように飲んでみる。
やはり強い……が、美味い。ブリテンの酒精とは比べ物にならないほど洗練されている。
未来の酒なので当然と言えば当然だが少し、感動を覚えた。
「うん。美味しい。ゆっくり飲むのが正解だね」
「映画見ながらチビチビやろうぜ」
頷き視線をテレビに戻す。
そこでは魔術師マーリンとアーサーの父ユーサーが秘密の語らいをしていた。
彼らの視線の先では揺り籠で眠る一人の赤ん坊。この赤子こそが後のアーサー王だという。
【運命の子アーサー。艱難辛苦に満ちた旅路の果て君は永久にブリテンを守護する偉大な王となろう】
そのためにもこの子は父の下を離れねばならない。
ユーサーは眠るアーサーを優しく抱き締めると一筋の涙を流した。
そして小さく頷き赤子を託すとマーリンは王宮を去り何処かへ消えて行った。
(……娯楽ゆえ仕方ないことではあるのだが)
あんなやり取りがあったわけないだろう。
赤子の頃の記憶などないが私の辿った道を振り返ればある程度は察しもつく。
「ところで坊野。声と口の形が合ってないように思うのだが」
「え? ああアレは吹替つってね」
吹替の説明をしてくれる。
地味に気になって集中できなかったのでありがたい。
「……岩に刺さった剣抜いたら王様って一体どういう理屈なんだろ」
どこか気の抜けた感想を漏らす坊野の隣でちびちび酒を舐めながら成り行きを見守る。
物語としての面白さを優先してはいるがやはり大筋は間違っていない。
一介の騎士の子であった少年が選定の剣を抜き己が出生を知り王としての道を歩き出す。
(ああその通りだ。そうして僕は私となったのだ)
胸躍る冒険、頼れる仲間たちとの出会い、強敵との戦い。
栄光の日々はしかし、永遠には続かない。
日が昇りやがて夜へと落ちて行くように王道にも影が差し始めた。
(完璧な王であったなどと宣うほど恥知らずではない)
だが、私は真摯に尽くしたつもりだ。
国に、民に、皆のために一人の人間としての幸福に背を向けて必死に尽くした。
(その末路があんなものであるならば)
私の人生は一体、何だったのだ。
己を捨てたことが間違いであったというのならランスロットとギネヴィアは? モルドレッドは?
個人の幸福を追い求め多くを蔑ろにした彼らのせいで巻き起こった悲劇の数々は正しいのか?
もしどちらも正しくないというのであればそれこそ救いがない。
【アーサー王の墓碑にはこう刻まれているそうな】
陰鬱な思考を廻らせている内に物語は締めに入ろうとしていた。
現代。どこかの孤児院の庭で現代の装いをしたマーリンに似た男が子供たちに読み聞かせをしている。
というかマーリンだな。物語の流れからしてそうとしか思えない。
現実のマーリンとは違う。頭では分かっているがどのツラ下げて生きてるんだお前と思ってしまう。
【“ここに、過去の王にして未来の王アーサーは眠る”とね】
【何それ? アーサー王は死んだんでしょ? 意味わかんない】
子供たちの言葉にマーリンはそれは違うと穏やかに否定を返した。
【彼は眠りに就いただけさ。何時かこの国に危機が訪れた時、偉大なる王は皆を守るために剣を執る】
ああ、そういうことか。
序盤の永久にブリテンを守護する偉大な王となろうという伏線の回収か。
実際、この物語のアーサーの死は明確に描かれていない。
(傷を癒すべくアヴァロンの地に旅立つ間際にそれらしいことも言っていたしな)
ブリテンに危機が訪れれば自分は再び戻って来るとかどうとか。
そこで彼の出番は終わり、以降ブリテンの滅びと現代までの歴史が簡単に語られ今に至る。
【信じらんないなあ……本当に?】
【本当さ。今だって遠くアヴァロンの地で私たちを見守ってくれている】
子供たちの頭を撫でながらマーリンは空を仰ぐ。
【……なあ、そうだろう? アーサー】
その呟きと共に画面は暗転し文字の羅列が流れ始めた。
(いやお前が締めるのか)
悉く納得がいかない。アイツただの屑だぞ。
私を王に仕立て上げたのも奴にとって都合が良かったからだ。
奴から恩恵を受けた身ではあるが被った迷惑の方が多い。
挙句、最後の最後で役に立たないのだから本当に救えない。
「……なるほどこれがアーサー王伝説か」
「おう。つっても俺も詳細はこの映画見るまで知らなかったんだけどな」
坊野は感心したようにこう続けた。
「中々どうして良い男じゃないのアーサー。こんな立派な人を騙るとか酔いどれアーサー酷すぎんだろ」
「……立派、ね。私には馬鹿な男としか思えなかったよ」
「あら毒舌」
棘のある言葉が出てしまったが気分を害した様子もなく彼は笑っている。
……これなら少しは愚痴っても良さそうだ。
「だってそうだろう? 正義のために生きたと言えば聞こえは良いさ。
だが国のため人のためと心を押し殺して辿り着いた結末があのザマだ。
挙句、あそこまで馬鹿を見ておきながら何時か災いが起きればまた剣を執るだの……」
いや分かっている。あれは願望だ。
後世の人々が、円卓の騎士たちが、民が願ったアーサー王という理想。
ふざけるな。私の人生を何だと思っている。
「ま、確かに損な生き方はしてると思うよ?」
「だろう?」
「でも本人が納得してるならそれで良いし」
納得なんてしていない。私は――――
「嫌だと思ったんなら“やり直せば良い”じゃんよ」
「ぇ」
「いやだってあの話の流れだと絶対死んでねえでしょアーサー」
「あ、ああ……それは、そうだけど」
動揺する私に気付かぬまま彼は言う。
「傷が癒えて目覚めたけどとっくに国はねえし新しい国が上手くやってる。
ほんなら出る幕じゃねえべと隠居しつつ何かあったら俺やるんで! って感じでしょ?
ならやり直せば良い。自分の生き方がやっぱないなと思ったのならやり直せるじゃん。
死んでるならもう無理だけど生きてるんなら今からでも取返しはつくべや」
やり、なおす……。
「あのアーサーだってそう。あるある。よくあるよ。俺もそう。
寝る前に思い浮かんだネタをこれは最高だ! ってメモるも翌朝見たらそうでもないっていうね。
だからアーサーも眠る間際にカッコつけたけどやっぱあれねえわって思うかもだ。
一度全部の荷物を下ろして身軽になったら考えが変わる可能性は十分ある」
逆に、と坊野は私の盃に酒を注ぎながら笑いかける。
「そんな状態でも自分のこれまでを肯定できるならそれはもう本物だろ」
他人に文句をつける権利はないと彼は言う。
「じゃあ生き方を変えたら悪かっつーとそんなこともない。自分を省みた奴を責める方がどうかしてる」
「……なるほど、君の言う通りだ。愚かと断じた私こそが愚かだったというわけだね」
「い、いやそんなことは」
「ははは、冗談さ」
盃を一気に飲み干す。
かーっと体が熱くなるがそれがまた何とも心地良い。
「あぁ、美味い。実に美味い酒だ」
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