客人 正統派イケメン⑧
(エクスカリバー、だと……?)
内心の動揺を悟らせぬよう取り繕いつつ思考を回す。
私は私の世界の言葉を、彼は彼の世界の言葉を使っている。
通じ合えているのはマヨヒガの力だ。
独自の単語などは近しいものが割り当てられていると見るべきだろう。
(ならばエクスカリバーというのは聖剣、ないしはそれに類するものを指す言葉……か?)
だがもしそうでなかったら? 確かめるしかない。
「エクスカリバー……変わった名だね。何か由来はあるのかい?」
「変わってるか? 伝説に出て来る有名な聖剣だよ」
「伝説?」
うんと頷き彼は答えてくれた。
「――――アーサー王伝説」
それは私が望んでいなかった答えだ。
異世界というもうどうしようもないぐらい離れた場所だからこそある種、割り切れた。
だがこれは……。
「大昔のイギリスの王様で何か岩に刺さった剣抜いて王様になった人らしいぜ」
いや、遠い未来というのもある意味離れた場所ではあるのだが。
イギリスという国に覚えはないが、ブリテンのことだと思う。
その国で岩に刺さった剣を抜き王になった人間。
(……私以外に誰が居るというのか)
ここまで符号していて他人のわけがない。
今、胸に去来するのは虚脱感。
国が滅ぶ。それはもう受け入れていた。どうにかなるものではないと。
だがここが異世界でなく未来だというのであれば話は別だ。
(知らねばならない)
アーサーという一人の人間ではなく王として。
知る術がないなら目も背けられたが知ることが出来るのなら受け止めねばならない。
愚かな王と愚かな叛逆者によって国がどう滅び民がどのような道を辿ったのか。
それが責任というものだ。
(……まるで夢から現実に引き戻されたかのようだ)
脱ぎ捨てていた王の衣をまた着させられた。
心が冷えていくのが自分でも分かる。
「ほう、面白そうな話だね。詳しく聞きたいな」
「え、いや……それぐらいしか知らないんだけど」
興味ねえしと頬をかく坊野に少しばかり沈んだ。
興味ない、興味ないか……いや別の国の大昔の話などそんなものか。
「気になるんなら映画でも借りて来ようか? 確かあったはずだし」
「映画?」
「ああ映画ってのはな」
映画について軽く説明をしてくれた。
正直、理解しかねるところはあったが物語という形でも大筋は問題あるまい。
少なくとも私の死や国の滅びなどは変わらないはずだから。
「頼むよ」
「OK。じゃ飯食ったらテュポーンから借りて来るわ」
「ありがとう」
「何の何の。あ、そうだ。酒はその時に回そうか」
「……そうだね。それが良い」
酒でも飲まねばやってられないだろうから。
「ところで坊野。変人に纏わる酒というのはどういうことなんだい?」
少しばかり気持ちも落ち着いたので料理をする彼に尋ねてみる。
文脈からしてアーサー王が変人ということではないだろう。
「ああ実は俺の世界に酔いどれアーサーってのが居るらしくてな」
「よ、酔いどれアーサー?」
「うん。アルトスの世界と違って俺の世界じゃ魔術だの魔物だのは架空の存在と認識されててさ」
だがそれは一般人が知らぬというだけで現実に存在している。
その日の当たらない世界における実力者が件の酔いどれアーサーなのだという。
「自称現代に蘇ったアーサー王で常に酔っぱらってるらしい」
あまりにも不敬じゃないか?
我が国の人間ならばその場で手打ちにしていたぞ。
「で、そいつが使う武器がコレなわけ」
「…………酒瓶?」
「そう。このエクスカリバーって酒の瓶を振り回してるらしい」
湖の乙女が激怒して呪詛を放ってもおかしくないな。
「……騎士王アーサーを自称するのなら剣を使うべきじゃないか?」
いや別に槍や斧でも良いが。
「でもかなり強いらしいぜ。特に剣技に関しては驚くべき冴えだとか」
「酒瓶だろう」
「いや何か酒瓶でスパスパ切り捨てるらしい」
「えぇ……?」
頭がおかしいのではないかその酔っ払い。
(……いやでも真面目な騎士として振る舞いながら他人の妻を寝取るような男よりはマシか)
他にも主の不在に反乱を起こすような輩も騎士を名乗っていたのだ。
そう考えると酔っ払いぐらいは十分許容範囲な気がして来た。
(いや、やっぱりないな。普通に無礼だ)
こっちは選定の剣を抜いたあの日から己を殺し国のため民のため尽くし続けて来たんだぞ。
何の悩みもなさそうな酔っ払い風情に名を騙られるのは心底不快だ。
まあどう足掻いても会えないので見逃すけれど……。
「いよし出来た! 食おうぜ」
今日の昼飯はツナトーストにスープ、サラダだと楽しそうに笑った。
この笑顔を見ていると私も沈んだ気分が些か回復するというもの。
「時にアルトスよ。お前やばい方の客人については言及したけどもう一人には何かないの?」
異世界のパンは美味しいと思っていたが未来だったのだな。
そんなことをしみじみ噛み締めていたら坊野が思い出したように聞いて来た。
「もう一人か」
いや居るのは当然、分かっていた。
だが怪物の存在感があまりにも大き過ぎて正直一度も気にしたことはなかった。
「いや、かなりの実力者であろうことは分かるんだけどね?」
「……旭が聞いたらキレそうだなあ。あいつプライドたけえし」
「え、何で? 私褒めたつもりなんだけど」
「その実力者なんだろうけどってフォローがアウトかなって」
見下されてるように感じるとのこと。
どうやらもう一人の客人は気位の高い人間のようだ。
「な、なるほど」
気位が高いと言えば、
(……嫌な女を思い出してしまった)
兎に角私のことを貶めたくてしょうがない汚泥のような女モルガン。
初対面でお前の全てが嫌いだとまで言い放った相手とよくもまあ子供を作れたものだ。
あの女のせいで私の破滅は定められてしまったようなもの。当然怒りや嫌悪はある。
だが今こうして一歩引いた目線で考えると馬鹿じゃないかと呆れてしまう。
(存在すら許せない相手に正体を隠して近付き愛想を振りまき媚を売り魔術で前後不覚にして腰を振るとか馬鹿なんじゃないか?)
もしくは常人には理解し難い癖を持つ変態か。
どちらにせよ救えない。他の魔女にも失礼というもの。
いやそんな女と件の客人を重ねてしまうのも失礼だったな。
「ああそうだ。坊野、私からも良いかい? 君の意見を聞いてみたいことがあるのだが」
「何?」
「実は知り合いにこういう女が居てだね」
もろもろをぼかし知り合いの話としてモルガンについて語ると、
「――――恋ねそれは!!」
「は?」
「だからその魔女は異父弟に恋をしてるんだって!!」
彼は一体何を言っているのだろう。
「弟と、なんて許されるわけがない。どう足掻いても道ならぬ恋だ。
だから憎むことで想いを捨てようとした。だけど捨てきれなかった。愛してるから!
歪みに歪んだ情愛はやがて心中願望にも似たものに変わり……い、いけるでこれは!!」
……確か漫画なるもので恋物語を綴っているのだったか?
現実と混同するのはどうかと思う。
「ないない。もしそうなら私は君の国の首都を全裸で疾走したって構わないよ」
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