客人 正統派イケメン⑥
「おっす!」
「やあ、いらっしゃい」
家を訪ねるとアルトスが爽やか王子スマイルで俺を出迎えてくれた。
数日前、過去の恋バナをしてから明らかに態度が変わったよな。
(多少異なるが相手の不貞で痛い目を見た者同士ってことだろう)
あの夜の飲み会を思い出す。まあ飲み会つってもジュースだがな。
アルトス本人は酒を飲みたかったようだがボロボロの体に酒はアウトである。
だがマヨヒガが気を遣ってくれたのだろう。酒ではないが酔えるジュースをお出ししてくれた。
それで良い具合に酩酊したところで彼は少しだけ自分のことを語ってくれたのだ。
『……僕も不貞で迷惑を被った経験があってね』
一人称も変わっていたあたり多分そっちが素なんだろう。
前に本人も言ってたがアルトスは既婚者だったらしい。
政略結婚ではあったがそれはどちらにとっても必要なこと。
一方的にどちらかが得をしていたわけでもないし彼なりに妻を愛して良き夫であるよう努めていたそうな。
『したらだよ。僕の一番信頼する部下が妻に手を出しやがった。妻も満更ではなくてね』
むしろノリノリだったとのこと。
正直もうその段階で両者への気持ちは完全に冷めたという。
部下も妻も感情だけで腰振る馬鹿という位置づけに認識が変わったそうな。。
『事が露呈したらタダでは済まない。見なかったことにするから関係を終わりにするよう言い含めた』
『……不穏な流れだな』
『正解。彼らは僕が警告した後も関係を続けてたのさ』
それどころかこっちの世界で言うところの“匂わせ”で事が露呈。
恋愛で完全に頭が馬鹿になっていたようだ。
『そこからはもう滅茶苦茶さ。血で血を洗う長い混乱の始まりだった』
そこでアルトスは潰れてしまったが多分、そういうことなんだろうな。
恋愛脳に端を発する混乱の中で起きた戦いで彼は死にかけていたのだと思う。
「ん? どうかしたのかい」
「いや何でもないよ」
そういう経緯もあって俺に共感を抱いたようだが……ねえ?
俺はあくまで個人間のしょっぼい色恋沙汰。血だって俺は流してない。
アルトスのそれと比べるのはあまりにも失礼だ。
「それよか準備は出来てるか?」
「勿論。それじゃあ行こうか」
「おう」
アルトスを伴い家を出る。
リハビリも兼ねて昼食は家ではなくスナックで取ることに決めたのだ。
「しかしまあ、最初はどうにも辛気臭いと思っていたけれど……」
「悪くはない?」
「ああ。曇天もどこか退廃的な空気も今の私には丁度良い」
気を張る必要がないからねと苦笑する。
お喋りをしつつそこそこの時間をかけてスナックへ到着。
ソファに座り汗を浮かべるアルトスにお冷を出してやると嬉しそうに礼を言ってくれた。
「今日の昼食は何なんだい?」
「お好み焼きつってな。俺の国でよく食べられてる料理の一つだ」
「オコノミ」
「これは自分で作ってその場で調理するやつでな」
百聞は一見に如かずだ。
キッチンで用意していたボールと必要な食材をお出しして目の前で一緒に種を作る。
ちなみに種はそれぞれオーソドックスな豚玉とシーフードミックスだ。
「……正直、あまり美味しそうには思えないかな」
「安心しな。コイツはここから化けるんだよ」
使い終わったものを片付けホットプレートをテーブルにドーン!
鉄板が温まるのを待ちお好み焼きの種を投入する。
「お、おぉぅ?」
「よしよし良い感じ。これをこうしてひっくり返すんだ」
「こ、こうかい?」
「OKOK! 器用だねえ」
そんなこんなで生地が焼き上がる。
これで完成かい? いやいや最後の仕上げが残ってると俺は笑う。
刷毛でソースを塗りたくりマヨネーズをかけ最後の青のりと鰹節を散らしてやる。
「ほう……何とも食欲をそそる香りだね」
「だろ? さ、食べようぜ。あ、熱いから気を付けてな」
「了解だ」
手を合わせていただきます。
ちなみにアルトスも箸を使っている。
異文化を体験してみたいとのことで俺が教えたのだが、まあ綺麗な箸使いですこと。
何なら俺よりお上品だと思うわ。
「ンン!? こ、これはまた何とも刺激的な」
ソースにマヨと濃い味付けの料理だからな。
あまり慣れていない人にお出しするのはちょっと心配ではあった。
だがアルトスの驚きからのご満悦フェイスを見るに杞憂だったらしい。
ほっとしたので俺も自分の分を口の中に放り込む。
(っぱキャベツなんだよなあ)
こんがり焼けた香ばしい生地の中に混ざるキャベツ。
しゃきしゃきとした食感もさることながら優しい甘さが良い仕事をしてくれるんだこれが。
マヨのこってりさ、ソースの酸味混じりの少々尖った甘さを調和させてるのはキャベツくんだよ。
キャベツくんの居ないお好み焼きはチーム崩壊もあり得ると思う。
「坊野、これはとても美味しいな!」
「そうかそうか。あ、こっちもどうだ?」
新たに切り分けたものを箸で掴んで差し出す。
ちょっと行儀が悪いかなと思ったがアルトスは気にせずパクリと食べてくれた。
「ではこちらもお返しだね」
「はは、サンキュ」
同じように差し出され豚玉をパクリ。
お好み焼きの豚肉って不思議だよな。
沢山入れたいと思いつつも、いやそれも何か違うよな。少ないからこそとも思うのだ。
「おっとグラスが空だな」
「ああ、すまないね」
とまあそんな感じで実に和やかに食事は進んだ。
食後、後片付けを終えた俺は一度アパートに戻ることにした。
旭からアルトスのリハビリ用のメニューを受け取るためである。
昨日の夜頼んで翌日に取りに来てくれと言われていたのだ
「こちら頼まれていたものになります」
「すまんねえ」
「いえ。それよりアルトスなる男の様子はどうでしょう?」
マヨヒガに来れた以上、俺を害することはないと旭も分かってはいる。
しかし自分より強い人間が傍に居るというのは不安なのだろう。
「良い感じに打ち解けられてると思うよ。共通の苦い思い出が鎹になってくれたみたいだ」
「苦い思い出ですか」
「恋愛関係のトラウマだな。まあアイツのは俺よりよっぽど深刻っぽいけど」
個人情報なので深く語るつもりはない。
旭もそこは承知しているので踏み込んでは来なかった。
「ただまあ、あっちはそう気にしてないようでシンパシーを感じてくれてな」
ぱらぱらと手渡された冊子をめくってみるが凄いなコイツ。
これらのメニューにはこれこれこういう意図があってと丁寧に書き込んである。
性格はちょいとスパイシーだがマジで何でも出来るじゃんよ。
「さっきも一緒にお好み焼き食べてたんだけど食べさせっことかしちゃったよ」
「……ほう」
よし、確認終了。
「じゃ、俺はこれで! メニューありがとうね!!」
「……いえいえ」
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