客人 正統派イケメン⑤
昼飯が済んだ後はお暇しようかなと思ったのだが、
『良ければ話し相手になってくれないかな?』
と言われ留まることになった。
どうやら俺の世界の話を聞きたいらしい。
「国家が九年の教育を課すことを義務付けているのか……」
で、初っ端質問されたのが教育について。
初日に自身の推測を話した時からずっと気になっていたらしい。
自分で言っておいて何だが本当にあり得るのかと。
「そう。ただ高校、中学の次に進む学校な。そこも実質義務教育みたいなもんだと思う」
進学率も確か九割とかそれぐらいじゃなかったか?
高校ぐらいは出て当たり前ってのが常識だからな。
俺の親世代とかになればまた話は違うかもしれんが。
「九年!? 何とまあ、子供の教育にそれだけの時間を」
心底感心し切った様子のアルトスに少しむず痒くなってしまう。
別に俺が褒められてるわけじゃないのは分かってるんだけどさ。
「それだけ民が裕福ということか」
「そういう面もなくはないけど国の保障とかもあるからな」
「いやそうか。義務を課すのだから滞りなく遂行出来るよう国家も助力はすべきだしね」
「ちなみに高校から先でも教育の機会はあってな」
「まだ!?」
「ああ。専門学校とか大学っつーんだけどな。これは高校ほどの進学率でもないけど結構なものだとは思う」
俺も詳しく語れるわけではないので概要だけさらっと説明する。
だが更にアルトスの興味を引いたようで幾つも質疑応答が繰り返された。
「私の国がそこまでの教育を民に施そうと思えばどれほどの」
「つっても俺らの世界だってずっと昔からそうだったわけじゃないからな?」
こういうのはやっぱ積み重ねだろう。
アルトスの世界でも今は非現実的かもしれないけど百年先、二百年先はどうだ?
「……未来、未来か」
「アルトス?」
「いや何でもない。坊野、君はどこまで学んだんだい?」
「俺? 俺は一応、大学は出させてもらったよ」
「ほう」
まあ卒業後の職選びで躓いてしまったわけだが。
折角大学まで出たってのに今俺無職なんだよな……。
「しかし、君の話を聞いていると君の国は素晴らしい王が統治しているようだね」
「あ、王様とかはいねえんだわ」
「え」
「昔は居たが今は民主制つって国民に主権があってだな」
政治体制について語るとアルトスはすんごい顔をして。
間違いなくこれまでで一番の驚きだ。
しかし俺の話を聞き終えると冷静さを取り戻しなるほどと頷いた。
「民の教養が一定水準を超えているからこそ、か。だからこそ破綻はしないと」
そこからは怒涛の政治談議が始まった。
教育や政治について熱心なあたり、やはりアルトスは立場のある人間だったようだ。
「っと、そろそろ飯時だな」
「おやもうそんな時間か。すまないね、長話に付き合わせてしまって」
「何の何の。それより……ふむ」
「どうかしたのかい?」
「いや今までは体を拭く程度だったけど表面的な傷はもう殆どないだろ? 飯の前に風呂でもどうよ?」
折角だし家風呂ではなく銭湯。
大衆浴場とかはありそうだがこれも喜んでもらえるかなと思ったのだ。
「はは、良いね。裸の付き合いというわけだ」
「お、乗り気だ。じゃあ行こうか」
というわけで二人して銭湯へ向かった。
「これはまた何と贅沢な……」
「湯ぶ……浴槽に入る前にまずはかけ湯をするのがマナーでな」
「ふむ、こちらの礼儀などは分からないから教授を頼むよ」
「はは、そう堅苦しいもんでもないから気負う必要はないよ」
かけ湯をして二人で湯舟に浸かると、
「お、おぉぉぉぅっふ」
アルトスは何とも言えない声を漏らした。
キリリとしたイケメンフェイスがトロンとなっていくのも味があって良し。
とりあえず気に入って貰えたようで何よりだ。
(にしても……)
ちらと横目でアルトスを見やる。見事な体だ。
体拭いたり包帯を変えたりでこれまでも目にはしていた。
だがこれまでは痛々しい傷とかの方にばかり意識が向いていたからな。
(服の上からだとゴリマッチョとかって感じはしないが
脱いだらすげえわ。
ただ鍛えているわけではない鍛錬と実戦で肉体を最適化させたような機能美を感じる。
とりあえず参考資料にさせて頂こう。
「どうかしたのかい?」
「ああいや見事な体だなと思って」
顔良し、体良し、性格良し。非の打ちどころがねえな。
「女の子にもさぞやモテただろうなあ」
と少しからかい気味に言ってみるとアルトスは苦笑を浮かべた。
「そうでもないさ。というかそういう坊野はどうなんだい?」
良い人の一人や二人は居ないのかと反撃を食らってしまう。
「いねえなあ。ちょっと恋愛関係でむか~し失敗しちゃって」
「ほう?」
「高校の時に付き合った彼女をさ、別の男に取られちゃったのよ」
しかも何がひでえってその男はかなり仲が良かった先輩なのだ。
世話焼きで後輩の面倒見が良くて俺もかなり世話になった。
「……」
「百歩譲って単に心変わりしただけなら良いよ」
先輩のが良い男だし惚れるのは仕方ないってな。
問題は事が露呈した後だ。
「お前にゃコイツは勿体ないだの、坊野くんはつまらないだの俺をディスりやがる」
恋愛は自由とはいえだ。後輩の彼女奪うとかそれどうなん? って感じだろ。
奪った挙句に奪った相手をこけ下ろすとかカスの所業だろ。
「挙句何があってもお前は俺が守ってやるとか泣かせねえとか目の前でイチャつかれてさあ」
ほならね? ってなるじゃん。
しかも何が酷いってアイツらその日の内に別れたんだよ。
気付けばどっちも学校辞めてて仏門に入ったと聞いた時は困惑したもんだ。
「お前ら何がしたかったんだって……ん? アルトス?」
隣のアルトスは俯き震えていた。
一体どうし――――
「坊野!!」
「うぉ!?」
ガシッ! と強く肩を掴まれ思わず変な声が出てしまう。
困惑する俺にアルトスは噛み締めるように言う。
「……不貞は、不貞はいけない」
「お、おう」
「最低の行いだ。私は心底から蔑如する」
えぇ? 何急に?
「当人たちだけで完結するならまだ良いが周囲に迷惑をかけるのは最悪だ。死ねば良い」
いや分かる。
アルトスも浮気によるトラウマ的なのがあるんだと察せはする。
でも何? この熱量何?
「……坊野、今夜は飲もう。大丈夫、幾らでも付き合うから」
えぇ? めっちゃ心の距離近付いてるじゃんね。
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