客人 正統派イケメン④
アルトスがマヨヒガにやって来て一週間。
少し起きては寝てを繰り返していたがようやく安定して起きていられるようになった。
まあ全快には程遠く外側の傷は消えても中身はボロボロのままみたいだが。
ただそれでも杖なりを使えば少し歩けるぐらいには回復したらしい。
というわけで、
「ちゃんとした住居を用意しようと思う」
何時までもスナックのソファで寝かせてるわけにもいかないからな。
俺がそう提案するとアルトスは不思議そうに首を傾げる。
「別にここでも問題はないのだが。無論、君が迷惑でなければの話だけれど」
「迷惑ではないけどここ家じゃねえからな」
「……そうなのかい?」
「ああ。ここはスナック……えーっと、酒場? なんだわ」
異世界にもスナックとかあるのかね?
「いや確かに酒瓶らしきものは並んでいたが」
どうやら俺の家の一室か何かだと思っていたようだ。
「ちなみに、だけどこの酒場は富裕層が利用するような」
「ものじゃねえな。庶民のオッサンが管を巻くようなとこをモデルにした場所さ」
「……なるほど。いや豊かな世界だと分かってはいたが」
少し暗い顔をするアルトスに俺は何と言えば良いか分からなかった。
そんな俺の心情を察したようで彼はすまないねと笑い話を変える。
「それで私に住居を用意してくれてるとのことだけど」
「ああ。何かあったらフォローに入りやすいよう俺が暮らしてるアパート……集合住宅の一室をと思ってるんだけど」
アルトスの体が大丈夫そうなら案内しようと思うんだがどうだろう?
俺が提案すると彼は問題ないと力強く頷いた。
「正直、辛くはある。だがまったく体を動かさないのは逆に回復が遅れてしまうからね」
「そっか。じゃあこれ」
とマヨヒガに作らせた杖を手渡す。
しかし……どうしようか。
「ありがとう――うん? どうかしたのかい?」
「あ、いや」
こちらから言及して良いものかと考えあぐねていると、
「あぁ」
納得したように頷きアルトスは続ける。
「申し訳ないが武具の類は君に運んでもらいたいのが構わないだろうか?」
「……了解」
今の体では武器の重さも結構な負担になるだろうと思った。
だがアルトスからすればここは未知の世界だ。
友好的に接してくれてはいるが警戒心も未だあると思う。
そんな状態で自分の武器を他人にってのはキツイかなと気付いたのだ。
それを察してあちらから申し出てくれたのは正直、ありがたい。
打算もまあ、あるのだろう。それでも根底にあるのは気遣いだと感じた。
(エアリード能力もイケメンに必要不可欠な要素だよなあ)
スパダリ目指すなら初期装備でこれがないと。
「……迷い込んだ時はそれどころではなかったけれど、どこか寂しい町並みだね」
少し歩いたところで休憩がてら立ち止まるとアルトスは町を見渡しそう言った。
「ああ。そういうコンセプトで作った環境だからな」
昭和後期から平成初期ぐらいまでは栄えて(以下略)とか言っても分からないだろう。
なので寂びれた町をイメージしたとだけ伝えた。
何故? と不思議そうにしていたがそれ以上は突っ込まれなかった。
「ここだ」
アパートの前に到着。
空いている部屋を指さしどこが良いか聞こうとしたのだが、
「……」
何故かアルトスは険しい顔で黙り込んでしまった。
「……何だこれは。赤き竜、白き竜ですら及びもしないほどの」
「アルトス?」
「……すまない。やはり別の住居を頼んでも良いだろうか?」
その視線がどこに注がれているかに気付き理解する。
(テュポーンと旭が言うには姿は見えずとも気配は感じるって話だもんな)
アルトスも二人の気配を察知しているのだろう。
俺一人でも注意を割く必要があるのに更に増えるってのしんどいか。
俺の配慮不足だったな。
「OKOK。じゃあ、もうちょっと歩くが大丈夫かい?」
「ああ、すまないね」
再度休憩を挟みつつ歩き出す。
向かったのはスナックを中心にアパートとは反対側にある古びた平屋。
……元は俺が気分転換に使うつもりだったこだわりのお宅だ。
今度は難色を示すこともなく受け入れてくれた。
「さて。じゃこれから生活していく上で必要な知識を伝えるよ」
「よろしく頼む」
水洗トイレの使い方や水道の使い方は教えたがそれでは不十分だろう。
これからここで暮らしていく上で必要になりそうなものの使い方などをレクチャーする。
驚きはしても飲み込みは早いのでスムーズに理解してくれた。
「後は……インスタント食品も教えておくべきか」
世話が必要だから足繁く通うつもりではあるが四六時中一緒に居るわけじゃない。
夜中にお腹が減った時とかに空腹を満たせる手段は必要だろう。
(マヨヒガの権能を付与すればアルトスが食べてたものを呼び出せると思うが……断られたしな)
便利過ぎて堕落してしまいそうだからなどと言っていたがどうも嘘っぽい。
テュポーンと旭に意見を仰いでみたらこんな推測が返って来た。
曰く、
『あまりに都合が良過ぎるからでしょうね』
『何かしらの契約を結ばされている可能性を考慮しリスクを回避したのではないでしょうか』
とのことだ。
「インスタント食品?」
「ああ。調理の手間がないお湯を注いだりするだけで食べられるものだよ」
「ほう? どんなものか気になるね」
「そうか。じゃ丁度良いし昼飯はインスタントにしようか」
元々俺が使うつもりだったから台所には当然インスタントも完備してある。
「アルトス、食の方はどうだい? 脂っこいものはまだキツイ?」
「そこまで量は食べられないと思うが多少、重いものでも平気だ。むしろ少し恋しいぐらいかな」
アルトス基準だからどうかは分からないが……まあ無理なら残してもらえば良いか。
箸は使えないだろうしスプーンとフォークで食べられるもので尚且つ、量もそこまで多くない。
となるとカップ麺か焼きそば? 後者は俺の好みでマヨありしかないしソースがキツそうだ。
「OK。なら醤油ラーメンあたりにしようか」
「よく分からないから君の判断に任せるよ」
チョイスしたのは謎の肉や海老が地味に嬉しい鉄板の一品。
本当にこれだけで? とアルトスは半信半疑な顔をしているのがちょっと面白かった。
そうしてお湯を注ぎ待つこと三分。
「! お、美味しい……信じられない、湯を注ぐだけでこれほどのものが……」
わなわなと震えるアルトス。かなりのカルチャーショックらしい。
「こ、こんなものがあれば我が軍の士気は一体どれほど」
ずるずると夢中で麺を啜る姿を見てふと思った。
(性別違うけどこれもハンバーガーお嬢様みたいなもんだよな)
庶民の食べ物で喜ぶアレね。
あとイケメンが可愛いところを見せるのもお約束だ。
(……とりあえず参考資料にさせて頂こう)
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