客人 正統派イケメン③
突然の妄言にどう反応して良いか分からない様子のイケメン。
これは俺が悪い。全面的に俺が悪かった。
「ああいや何でもない。えっと、俺は坊野というんだが」
「……私はアルトスという」
偽名だな。最初の間からそんな感じがした。
まあでも良い。テュポーンとか最初、名前すら名乗ってなかったからな。
偽名でも呼べる名前があるだけありがたいというものだ。
「アルトスね。多分、あなたは困惑していると思う。ここはどこだってな」
「そうだね。何もかもが未知で正直、どう反応して良いのやら。魔術によるものだとしても魔力を感じないし」
ああやっぱりあるんだ魔術とか魔法とかそういうファンタジー。
異世界だもんなあ。槍とか剣も力を感じるし魔法とかあっても不思議じゃねえわ。
「ここはあなたの居た世界とは異なる世界だ」
「異なる、世界」
頷きマヨヒガについて説明する。
その中で個人情報は伏せつつ過去にも異世界人が訪れたことも付け加えておいた。
「……幸福か。まいったね。今更だろうに」
困ったように眉をハの字にするアルトス。
彼がここに来る直前まで身を置いていた戦いは何もかもを失うようなものだったのかもしれない。
「すまんね」
「いや良い。話を聞くに責任の所在は君にはないだろうからね」
やだ紳士。
「まあ何だ。今は考え込まずゆっくり体を休めると良いよ」
「……そうだね。君のお陰で表面的な傷はある程度癒えているようだが」
体を起こす際、アルトスは小さく顔を顰めた。
やっぱり深い部分までは治癒が行き届いていないのだろう。
「一先ず飯でもどうだい? 今こっちは夕飯時でね」
「頂けるのであれば頼むよ」
「了解。なるべく体に負担の少ないものにするからさ」
カウンターの中に引っ込みあれこれ漁ってみる。
マヨヒガの力でパッと出すことも出来るしその方が味もダントツに美味いのは分かってる。
でも少し前まで死にかけてて今もかなり弱ってる人にそれはどうなのよって感じだ。
素っ気ないというか味以外の部分で気が咎めてしまう。
(体に負担の少ないものつったらうどんとか……あ、パックご飯)
ママがドリアを作ってくれてあれも美味しかったなと再現するために用意してたんだっけ。
流石にドリアはアレだがこれを使って卵粥でも作るか。
(作るところが見えた方が安心出来るか?)
敵意はないと判定されたが怪しいことには変わりはない。
(位置関係上、見え難いし近くで作るとこ見せた方が良いな)
予定を変更しカセットコンロを使いテーブルで作ることに決めた。
「ちょっと待っててくれな」
「ああ」
言葉少なにじっと調理する俺を見つめるアルトス。
やはり俺の懸念は当たっていたようだ。
うん、そういう意味でもマヨヒガの力でパッと用意しなくて良かったわ。
毒はないということを示すため味見をしているところも見せてやり……完成。
特筆すべきところは何もないシンプルな卵粥に冷たい水。
漬物とかもつけようかと思ったが異世界の人だからな。
食文化の違いもあるだろうし受け付けないかもと思い止めておいた。
「熱いから気を付けてな」
箸はともかくスプーンは流石に使い方も分かるだろう。
異世界つったって見た目は同じ人間のそれなのだ。
食器の類も大体、同じ形になると思う。
「ありがとう。では」
アルトスは静かに食事を始めた。
(……綺麗だな)
おかゆを掬って口に運ぶ。
この単純な動作一つ取っても俺とは違い品があるように思う。
多分、高貴な立場の人間だなこれは。
「――――うん、美味しいね」
「はは、そりゃ良かった」
二割ほどを食べたところで水を飲み干すとアルトスは笑った。
キラキラ輝くプリンススマイルに正直、キュンキュンした。
ネタが……ネタがドンドン増えていく……。
「このスープもそうだが水が驚くほどに澄んでいて美味しい」
水……え、水?
(あいや、そうか。文明レベル)
アルトスの世界がファンタジーにありがちな中世ぐらいの水準ならば納得だ。
この世界だって安心安全に水が飲めるような環境整ったの割と最近なんじゃないか?
学生時代、水道施設の見学で伝染病対策に近代水道が導入されたのは明治とか聞いた覚えがある。
「冷えているのも良いね。本当に幾らでも飲めそうだ」
「うん? 魔術なんてものがあるなら冷やすのは簡単なんじゃないか?」
空になったグラスにピッチャーから水を注いでやりつつ聞いてみる。
滅菌とかは魔術で出来るかどうかは分からないけど冷やすのはいけるだろ。
氷の魔術とかお約束だろう。それで水瓶とかを冷やすも良し、コップに砕いた氷を入れても良しだ。
「可能かどうかで言えば可能だね。私自身は魔術は使えないが使える者は傍に居たし」
「なら」
「ただあの屑はそういう甘えを許してくれなくてね」
今屑つった?
「『下々の者は温く不味い水やエールで渇きを潤しているのに御身は魔術に頼るのか。
いや勿論出来るよ? 可能だとも。私ならば何の労もなく冷えた美味しい水を提供出来ようとも。
だが民草が同じことをしようと思ったら魔術師にどれだけの金を払う必要があるのかな。
それだけでどれだけの子供の腹を満たせることやら。彼らにとっては贅の極みだね。
いや無論、構わないよ? ああ、構わないとも。御身の勤勉に報いるのならそれぐらいは。
御身が庶民にとっての贅の極みを後ろめたく思わず甘受出来るならね』などと言われれば頼めないだろう?」
うぉすげえ一息で言い切った。
そして何だろう。誰かのモノマネなんだろうけどすげえムカつく。
「……あの時は尤もだと納得したがやっぱりおかしいな。あの屑、どの口で言っていたんだ?」
やっぱ屑つった?
ねっとりとした怨嗟を感じるがそこに触れられるほど仲良くなってないのでスルー安定だ。
「坊野、君の世界は随分と豊かなのだね」
はあ、と溜息を吐くと彼はしみじみそう言った。
「いやどうかな? 俺が特別ってだけかもだぜ?」
少しの悪戯心でそう返したが、
「それはないね」
アルトスは言い切った。
「マヨヒガなる異界は特別なものなのだろう。妖精郷のそれより隔絶した楽園のように思う」
そういう意味では特別と言えなくもないがこの水や食事は否。
確証があるような物言いに好奇心をそそられ根拠は? と聞き返す。
アルトスは澱みない弁舌で朗々と自身の推測を披露してくれた。
「最初は君が王侯貴族か何かだと思ったのだがそれにしては纏う空気が民草のそれだ。
その割に受け答えはしっかりしていて論理的な思考能力も備わっている。
民草にとって一定水準以上の教育は贅沢に分類が変わってしまう。
君ぐらいの人間を育てるのに必要な教育は贅沢のそれだが特別裕福そうには見えない」
ならばどういうことか。
民草が手厚い教育を受けられる環境が当然ということ。
「ならば教育以前に充実させておくべき衣食住が豊かだというのは当然のことだろう?」
「……やだ、イケメンの上に頭も切れるとかこんなんずるでしょ」
惚れるわ、と漏らすとアルトスは困ったような顔でこう言った。
「すまない。私はこれでも既婚者で」
「いやそういう意味じゃなくてね?」
じゃあ何だと言われたら説明かったるいんだけどさあ……。
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