客人 正統派イケメン②
「ふぅん。やっぱり新しいお客さんだったのね」
少々申し訳ないと思ったが男を放置し一旦アパートに戻り二人を部屋に呼び出した。
事情を説明するとやはり二人も気配は感じていたらしい。
「で、どうだ?」
「今のところ会えそうにはありませんね」
テュポーンの時にも感じていた我と彼を隔てる壁を感じるとのこと。
分かってはいたが客人の対応は家主の俺が、か。
まあ友人とはいえ客に客を対応させるとかちょっとそれどうなのよって感じだしな。
「大丈夫とは思いますが念のためこれを」
旭に短刀を手渡される。
何これ? と聞けば祓主家に伝わる護り刀らしい。
「……これかなりの品じゃない? 値段をつけるなら億とかじゃ済まないでしょ」
「お……!?」
「だから何だ。先生の安全のためならば何を注ぎ込もうと惜しくはない。それが推し活というものだ」
止めろよその身持ちを崩すタイプの推し活。
いや実家ゴン太だからそう簡単には崩れねえだろうけど怖いんだよ。
まあでも、俺の身を案じてのことなのでお礼を言っておく。
「それにしても異世界、ね。お客さんの分布では今のところ同じ世界がマイノリティ?」
「どうだろうな。悩みを抱えたコスプレ好きの輩が迷い込んで来たという可能性もあるぞ」
「コスプレ好きて」
「いや居るのです。本当にそういう手合いが」
曰く、武者やら騎士はまだマシで魔法少女とかヒーローみたいな格好の輩が居るとのこと。
しかもそれはマイノリティというほどでもないぐらいには生息しているんだとか。
そしてそういう輩はわりと強いことが多いそうで旭は何とも微妙な顔をしている。
「有名どころで言えば酔いどれアーサーなどがそうですね」
「酔いどれアーサー」
「はい。戦場に出る際は騎士のような装いをしているのですが」
まあ名の通りのアル中でしてと旭は溜息を吐く。
「常に赤ら顔でヘラヘラ笑っている自称現代に蘇ったアーサー王」
「「自称アーサー王」」
「使っている武器はエクスカリバーなる日本酒の酒瓶」
「「酒瓶」」
そこはお前、剣にしろや。
俺もアーサー王とか名前ぐらいしか知らないけど剣有名なことぐらい知ってるんだからな。
騎士のような装いまで頑張ってるんだからキャラを徹底しろ。
何で一番分かり易いとこで手ぇ抜いてるんだ酔っ払い。
「本物は友情の証として友に捧げたそうで」
「妙な設定作るなら剣用意した方が早いでしょ」
「仮にその設定でも何で酒瓶なんだよ」
「いや何でも友と酌み交わした思い出の酒なのだとか」
「そこの設定詰めるぐらいならやっぱ剣用意した方が……クソ、ループしてんじゃねえか」
「そういう真面目に考えると疲れるタイプの手合いというわけね」
呆れたように言うテュポーンに頷きながらも旭はこう断言した。
「しかしその実力は確かなものだ。こと剣技に関しては恐ろしく冴えている」
「「酒瓶でしょ」」
ともあれそういう変な輩が居るのは理解した。
「でもあのイケメンは違うと思う。すんごいシリアスな背景持ちっぽいし」
「まあ満身創痍という時点でそうですね」
「ちなみにおじさまの見立てでは力はどれほどのもの?」
「そう、だな」
スペックは一般人ではあるが俺はマヨヒガの管理人。
領域内での知覚能力は高いというのが二人の見立てだ。
「テュポーンよりは下で、旭よりは強い……けど現実的な差だと思う」
どう足掻いても無理というほどではないんじゃないかな。
単体では届かなくても徒党を組んだり策を巡らせたりとかすれば埋められるだろう。
いやその備え自体がかなり大変だとは思うけどな。
「ぬぅ……しょ、精進致します!!」
「いや別に良いよ。ここで鍛えたところで何もなんねえだろ」
それはともかくだ。
「対応するにしても言葉が通じねえのがな。何とか出来ないかな?」
「……申し訳ありません。その手の術を修めておらず」
「私は出来るけどそこはマヨヒガ側で何とかなるんじゃないかしら?」
「マジか? いやでもそうか」
とりあえず言語良い感じによろしくと念じてみる。
だがこれで上手くいっただろうか?
「認識が壁になるかもって思うなら念のためかけておく?」
「お願いする」
俺が頭を下げるとテュポーンは分かったと言って俺の頭を抱き自分の胸に押し付けた。
ちょっとドキっとしたが、
(……かってえ)
女の子に抱き締められたのとか権藤さんに連れられて行ったウインドなお店以来だけどさあ。
その時の子がテュポーンとは真逆だったから余計にこう……ねえ?
「……何やら失礼なことを考えてるわね」
ぎゅうぎゅうと締め付けが強くなったので慌てて謝罪する。
というか今ちらっと見えたけど旭すんげえ目してて笑うわ。
「よしこれで良いわ。オートで発動するようになってるんだけど」
うーんと口を当てテュポーンは言った。
「愛してるわ」
「何……いや分かる!? ってか何語!?」
「スワヒリ語ね。牛肉と鶏肉どっちが良い? と迷ったわ」
「いやCAか」
何で候補が愛してるかビーフオアチキンなんだよ。選考基準どうなってんだ。
というか、
「え、スワヒリ語……? 何で話せるの……?」
「文化保全の一環で多言語教育がデフォなのよ私の世界」
あーそういう?
「それはともかく見て。胸のところ」
「お、お?」
幾何学模様の光が俺の胸に浮かんでいるではないか。
「術式が発動したら最初に光るようにしておいたわ。これなら分かり易いでしょ?」
「あ、なるほど」
マヨヒガ効果で言葉が通じたのなら浮かび上がらないと。
「もし術式が必要なら定期的にかけ直すからその時はまた言って頂戴な」
「分かった。ありがとうテュポーン」
「ふふ、どういたしまして」
ともあれこれで憂いは消えたな。
あの様子だとまだ目覚めていないだろうがそろそろ戻っておくか。
二人に礼と飯は向こうで食うことを告げアパートを後にした。
「……魘されてるな」
スナックに戻ったがイケメンはやはり眠ったままだが酷く魘されている。
「無理もないか」
発見した時の様子を見るに激しい戦いの最中にあったのだろう。
敗戦か引き分け、良くて辛勝ぐらいだと思う。
彷徨っていた時の憔悴した表情を見るに快なる勝利を得られていないのは間違いない。
「すまんね。俺に出来るのはこれぐらいだ」
濡らした手拭で汚れと汗を丁寧に拭いてやる。
ほんの少しだけ表情が和らいだので無駄ではなかったのだろう。
「下手な女性より綺麗な肌だな。まつ毛もなっっが」
パッとイメージする王子様という概念そのまま抜き出したような美形だ。
旭、ミステリアス、そして王子様。
こうも立て続けにイケメンとエンカウントしているのはこれもう天のお告げだろう。
これまでサボっていた分、漫画を描け。描いて描いて描きまくれと仰っているに違いない。
「……どうやら君に敵意はないらしいな」
新しい綺麗な手拭を濡らしておでこに置こうとした正にその時だ。
イケメンが目を開けそう言った。
何時から目が覚めていたのかとか意思疎通が上手くいったとかそんなことより、
「やだ……イケメンって声までイケメンなの……?」
「は、イケ――は?」
気に入って頂けましたらブクマ、評価よろしくお願いします。




