客人 正統派イケメン①
昭和後期から平成初期ぐらいまでは栄えて(以下略)に環境を変え一週間。
俺たちは起伏のないのんべんだらりとした生活を送っていた。
ダラダラした暮らしという意味では宿の時もそうだったがその時とは一味違う。
(やっぱり場所って重要だな)
穏やかな静寂が満ちる山奥の温泉宿と寂びれた狭い飲み屋街。
静かという意味では同じなのに後者での暮らしはどこか退廃感があるんだよな。
だがそれが良い。空気感を楽しむのがマヨヒガライフだからな。
天候も常に曇天にしてあるのでより退廃感が増している。
そろそろ降り出しそうがデフォで昼間でもまあ陰気陰気。
ただ場所は陰気でも住んでる俺らはそうでもない。
『折角ですし先生以外の趣味というものを見つけてみようかなと』
例えば旭。俺と同じく少女漫画好きだが趣味はそれ以外になし。
開き直って生き易くなった上、時間の制約からも解き放たれたのだ。
新しい趣味を開拓しようと小学生の頃、少しだけ憧れたという編み物に手を出した。
今は顔を合わせる時以外は日がな一日四畳半で棒針を操っている。
少女漫画にハマるあたり元々女の子らしいものを好む土壌はあったのだと思う。
『今回はインドア中心になりそうだし映画かしらね』
テュポーンの方は映画全般。
東京に行った際、テュポーンはマヨヒガライフを充実するため色々と買い漁っていた。
その中の一つが映画で今回はそれで攻めるとのこと。
ビデオデッキだろうが何だろうが用意できてしまうのがマヨヒガだからな。
ビデオ、DVD、BDなど媒体問わず大量に買い集めていた。
その置き場所にアパートの部屋が一つ潰されたがまあ良かろう。
そして俺は、
「そろそろかな?」
スナックの中で一人料理に勤しんでいた。
まあ料理と言っても手の込んだものではない。
幼少期にスナックのママが作ってくれたお手軽料理の再現である。
「……どうだ?」
甲高い音を上げて終了を報せてくれたトースターを開け中のものを取り出す。
少々焦げ目のついた食パンの上でしゅうしゅう小さく音を立てるツナマヨ。
見た目はかなり美味しそうだが……。
「うぅむ」
半ばほどまで噛み千切り咀嚼する。
さくりという焼いた食パンの小気味良い音に香ばしさ。
そこに加わる熱せられたツナマヨの脂っこさとまろやかさ少量混ぜたタマネギの酸味。
美味い……美味いんだけどこれじゃねえんだよなあ……。
「チーズ? チーズとか乗せてみるか? いやでもちげえか」
記憶にあるツナマヨトーストにはチーズとか乗ってなかったと思う。
じゃあ使っているツナ? これも特に関係なさそうだ。
『なぁに? 材料は何を使ってるのって? そんなもの都度安いものを選んでるだけよ~』
みたいなことを言ってたような気がする。
朧げな記憶なので断定は出来ないがナポリタンの作り方聞かれてたんだっけ?
ツナマヨトーストではないがそれだけ特別こだわりがあるとは考え難い。
ツナもマヨネーズも食パンも時々で違うものを使っていたんじゃないか?
「ってかそんな話覚えてるんだから作ってる記憶もしっかり覚えてろよ……」
ママが料理してるとこぼんやり眺めてたことは多々あったはずだぞ。
カウンターの向こうに置かれてあった味のある招き猫の顔まで覚えてるのにさあ。
「何だ。何が足りない? いや逆に何かが過剰って線もあるのか?」
本日三枚目のツナマヨトースト。
時間を置きつつではあったがロクに運動もしていないのだから腹がいっぱいだ。
夕飯のことを考えるとこれで打ち止めにしておくべきだろう。
ここからは座学だ。
広げたノートに気になった点、改良すべき点を書き込んでいく。
「スナックだし何か酒とか入れてる可能性もある?」
などと思案していたらピクリと体が跳ねた。来訪者を告げるあの感覚だ。
俺はペンを置きエプロンを外すと店を出た。
「ん?」
ぱらつく小雨の湿った匂いに混ざっているこれは……血?
幼少期からやらかす度に嗅いでいたので血の臭いは慣れたもの。直ぐに気付けた。
危ないか? 少し躊躇するがここはマヨヒガなのだからと心を落ち着け臭いを辿る。
「……!」
血塗れの男が虚ろな目でよろよろと路地を彷徨っていた。
齢は二十前半ぐらいか。テュポーンと同じ金髪碧眼、端正な顔立ち。
普段なら正統派王子様だと大喜びしていただろう。
だが今は状況もそうだが他に目を引く点があってそれどころではないのだ。
(鎧にマント……腰には剣、手にはこれまた血塗れの槍……おいおいおい)
その鎧も野暮ったいそれではなくアニメやゲームに出て来そうなスタイリッシュなもの。
あまりにもファンタジックなそれに俺はつい声が出てしまう。
「異世界か」
テュポーンのそれと違いまったくジャンルの異なる世界からの来訪者の可能性が高い。
そんなことを考えていると俺の声で存在に気付いたのだろう。
男は弾かれたように顔を上げ俺を見て槍の切っ先を突きつける。
「∇§&#⇒!?」
何て?
英語のようなそうでないような……やっぱりこれ異世界か?
敵意はないというジェスチャーをしようと思ったが寸前で止める。
世界が違えば通じない可能性が高いし、下手に通じてしまった場合が怖い。
敵意はないと示したつもりがぶっ殺す宣言だったなんてこともあり得るだろう。
どうしたものかと混乱していると、
「お、おい!」
どさりと男が倒れてしまい慌てて駆け寄る。
ゆさゆさと体を揺するが反応はない。
「え、ちょっとこれどうす……テュポ、あき……あ、そうか!!」
都合が悪ければ客人同士が顔を合わせることはない。
だが放置すれば人が死ぬ状況でもかと思ったが気付く。
アパートの部屋まで走り押し入れから手箱を取り出して現場に戻る。
「貼り付ければ良いんだよな?」
手箱の中には旭が万が一に備えてと現世でくれた護符セットが入っている。
治癒の符をぺたぺたと男に貼り付けると出血は直ぐに止まった。
命の危機を脱せられたようだし一先ずは大丈夫だろう。
「俺に何とか出来る手段があるなら二人は現れないわな」
安堵の息を漏らすが男は未だ目覚めない。
傷もそうだが疲労もかなりあったのだろう。
「お、重……こ、これはちょっと二階まで上がるのはキツイな……」
申し訳ないが槍と剣は一旦外させてもらった。
それでも外し方の分からない鎧があるせいでクッソ重い。
これを担いでアパートの階段を上るのはしんどいので距離も近いスナックに運ばせてもらった。
ソファに男を寝かせ外に放置していた剣と槍を回収してスナックに帰還。
「……」
深い眠りに就いている男を見て思う。
傷だらけのイケメンを保護し看病する。
「俺が女なら始まってたな。ラブストーリーが」
おいおいおい、また新ネタ供給とかやべえな。これもマヨヒガ効果か?
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