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相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


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四畳半の宇宙

 飯の後は当然、風呂。

 折角だしと誘われたので三人で銭湯に行くことになった。

 銭湯と言っても昭和後期から平成初期ぐらいまでは栄えて(以下略)にあるようなものだ。

 スーパー銭湯だとかそういう類のものではない。昔ながらの古臭~い感じのそれだ。


『……何だかあの駅を思い出す空気ね』


 とはテュポーンの言である。

 年季の入った木造建築なので強ち間違いでもないだろう。

 俺のこだわりはあの番台。やる気のねえババアかジジイをセットすればさぞや映えるだろう。


『おい貴様、何をさらっと男湯に入ろうとしている』

『小学生なら保護者と一緒でも不思議ではなくってよ?』

『小学生なのは体だけで貴様は年長者であろうが!!』


 さらっと混浴しようとして来たテュポーンと旭でひと悶着あったがまあそこは置いておこう。

 温泉では一緒に入ったが今回はね。俺も原稿明けの時と違って素面だし。

 まあ壁を隔ててはいても会話は出来る勘弁ってことで押し切った。


『うぉ、熱ッ!? くぅ~これこれ! この温度調節がやたら極端なシャワーが良いんだ!!』

『このマヨヒガに来てからおじさまってばフェティッシュ全開ね』


 風呂は温泉ではないし大浴場があるだけ。

 それでも俺的にかなり楽しめた。何なら前の温泉宿より興奮したぐらいだ。


「お前らどれにする?」

「私はフルーツ牛乳が良いわ」

「私は普通の牛乳でお願いします」


 そして風呂上りの今、俺たちはお約束の牛乳を選んでいる。

 と言っても自販機で購入するタイプではない。

 メーカー名の入った冷蔵ケースから取り出すアレでここも地味なこだわりの一つだ。


(……改めて思ったがやっぱコイツら美人だなあ)


 テュポーンはシャツに短パンで旭はジャージ。

 かなりシンプルな格好なのにそれでも絵になっているのだから羨ましい。


「ところでおじさま。食事の前に仰っていた仕上げって何なの?」

「ん? ああ、部屋をコーディネートする上で欠かせない最後のピースよ」


 その組み立てをしようと思っていたところで二人がやって来たのだ。


「「組み立て?」」

「暇なら見てくか?」


 と聞いてみると即頷いたので二人を伴いアパートの部屋に帰還。

 押し入れから取り出したブツを見せてやる。


「……プラネタリウム作成キット、ですか?」

「何かの雑誌の付録かしら?」

「ああ。東京観光してる時にリサイクルショップで見かけてさ何となーく買ってみたのよ」


 特に使い道があったわけではない。

 ああいう店入ると特に必要のないものをつい買ってしまうのはあるあるだろう?

 このキットもそんな感じで買ったのだが部屋を弄っている内に思ったのだ。これ使えね? って。


「え、これが最後の仕上げなの?」

「そうとも」

「どういうことでしょう?」

「今回のテーマは一人暮らし始めたばかりの貧乏大学生だって前提をまず知って欲しい」


 金かけなきゃいけないところでケチったりと拙さ全開。

 その癖、ちょっとカッコつけたいと思っている。一人暮らしでテンション上がってるんだな。

 けど良い感じのインテリアは予算的にもスペース的にも厳しい。


「そこでご紹介したい商品がコレ。ミニプラネタリウムになります」

「「通販?」」


 今回はキットを買ったが手作りプラネタリウムってのはわりと簡単に作れたりするのだ。

 俺も小学生の頃、自由研究で作った覚えがある。予算もかなりお手頃だった。


「何かすっげえお洒落じゃん?」

「おじさまおじさま。すっごく馬鹿っぽい感想だわ」

「そうだよ。大体そんな感じなんだよ。少なくとも俺や俺の友達はそんな感じだった」


 仲間内で一時期、如何に金をかけずお洒落感出すかで盛り上がったものだ。

 やっすい観葉植物とかも候補の一つだな。

 最初はちゃんと世話してたけどその内、飽きて枯らしちゃうっていうね。


「このプラネタリウムだって一ヵ月ぐらいは毎晩寝る前鑑賞しちゃうんだ」


 最初はわりと酔っぱらえるだろう。

 だが飽きて来ると使うどころか普通に邪魔だと思い始めて押し入れに放り込んじゃう。

 で、翌年の春休みぐらいに掃除してる時にゴミとして捨てちゃうんだ。


「無駄じゃない?」

「そうだよ無駄だよ。でもその無駄を楽しむのが良いんだよ」


 無駄を楽しむっていうのは本当に大事なことだと思う。心が健康な証だからな。

 余裕がなければこんなもの見向きもしないだろう。


「……身に抓まされる話ね」

「……私も貴様よりはマシであろうが」

「だろうな」


 テュポーンは擦り減っていたので無駄を楽しむ余裕なんかなかった。

 旭の場合は趣味を楽しむ余裕こそあったが常に苛立ちを覚えてただろうしな。

 でもそれはもう過去のこと。今はこれでもかと好き放題無駄を楽しめるのだから良いのだ。


「さて、じゃあ作ろうか」


 俺が昔作ったものはプラボウルを組み合わせて球体にするタイプだった。

 だがこれはわりと手が込んでいるようで複数の平面を組み合わせる多面体型らしい。

 ざっと説明書に目を通してみたが子供一人ではちょっと難しいかな?

 大人と一緒に作るのを想定しているのだろう。


「「……」」


 鼻歌交じりに組み立てる俺を二人はじっと見つめていた。

 さっきの話で色々と思うところがあったのだろう。


「――――出来た」


 一時間ほどか。少々手古摺らされたがそれもまた良し。

 感慨に浸っているとテュポーンがさっとカーテンを閉め旭が電気を消した。

 試運転をしてくれということだろう。俺としても望むところだ。


「行くぜ?」


 闇の中、二人が頷く気配がしたので。俺も一つ頷きスイッチを入れると、


「「「わぁ」」」


 暗闇の中に宇宙が敷き詰められた。

 昔、社会科見学で行った科学館。

 そこでプラネタリウムを鑑賞したことがあるけどその時は正直、つまらなかった。

 人工の星々にも、宇宙を語る言葉にも興味がなかったように思う。


「……綺麗だな」

「……うん」

「……とても」


 なのに今はどうだろう?

 クオリティでは遥かに劣るお手製プラネタリウムだというのに俺は星々に見惚れている。

 さっきも言ったがこれもきっと何時か飽きてしまうだろう。

 思い出すことさえなくなるかもしれない。


(それでも今、この偽りの星を美しいと思う心は嘘じゃない)


 ならばそれで良いのだ。

 この時間には確かな価値があったと言える。


「ねえ、おじさま」

「あの、先生」

「何?」


 星々に目を向けたまま二人は言う。


「今日、お泊りしても良いかしら?」

「今宵はここに居させて頂けないでしょうか?」

「ああ、良いよ」


 その日、俺たちは小さな宇宙に包まれて眠った。

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