何時かの客人
「どうだいこっちの日本は?」
頭上のテュポーンに語り掛ける。
今、俺はこの小さな友人を肩車して近所を散策していた。
観光地を回る前にまず俺ん家の近所を見てみたいと言われたのだ。
肩車をしているのはお願いと可愛くおねだりされたから。
事案的な意味で第三者の目が気になるけどそこは何とかしてくれるとのこと。
「そうねえ。やっぱり色々違うわ。例えば空気」
「「空気?」」
旭と思わず口を揃えてしまった後で気付く。
そういやテュポーンの地元(?)の日本は太陽系ですらなかったなと。
「貴様のところは大気の組成からして違うのか?」
「ええ。転移直後は空間異常の影響で生存する上での問題はなかったのだけれど」
影響が薄れるにつれ問題が顕在化して来たのだという。
ただ予兆はあったし適応するための時間はあったので最終的には上手いことやったのだとか。
「大気の問題を機械で補ってるから綺麗過ぎるぐらいなのよ私のところは」
「おぉ……じゃあその点ではそっちのが上なワケね」
「まあ空気の綺麗さとかどうでも良くなるレベルのマイナスがあるけどね」
ケラケラと笑うテュポーン。
生命循環システムのことをネタに出来るぐらいにはもう割り切れてるようで何よりだ。
「後は文化。21世紀をもう一度ってスローガンが私の世界にはあってね」
「ああそういやそんな話もしてたな」
失われた新世紀をやり直す、だったか。
「そうそう。当時の記録から文化を再現したわけで多少正確さに欠けてる部分があるんじゃないかしら」
「それに加えて一度断絶し連続性もなくなっているからその後の発展も異なるというわけだ」
「ええ。そこまで大きな乖離はないけれどそこかしこに差異はあるわ」
旭の連続性という指摘になるほどと頷く。
一度積み重ねたものがゼロになったわけだしそりゃ差異も生じるか。
「味覚とかもやっぱり微妙に違ったりするのかね」
「こ奴と接している限りでは感じませんがまあ大人ですしね」
旭の言うように気を遣ったりしてるのかもしれないな。
「私はそうでもないわよ? マヨヒガで出される飲食物はとっても美味し」
ああでも、と何か思い出したように呟いた。
「……実は私がマイノリティだったりするのかもしれないわ」
「ふむ。何か思い当たる節でもあるのか?」
「ええ。あれは何時だったかしら。大学は卒業してた……? まあ昔の話なんだけど」
そう前置きしてテュポーンは語りだした。
「マヨヒガの冷蔵庫にもあったパプシあるじゃない?」
「あるな。ちなみに明言しておくが俺はコケ派でもパプシ派でもないぞ」
気分で飲み分ける二刀流だ。
「それは聞いてないけど……私の世界にもあるのよパプシ」
「へえ」
ペオルドもそうだが親近感沸くよね。
「で、そのパプシの限定フレーバーで私基準でとてもおかしなのが出てたのを思い出したのよ」
「コズミックフレーバーとかかな?」
「宇宙の果てですしね」
気になる答えは何だろうか。
「――――あずき味よ」
信じられないわと溜息を吐くテュポーンに確かにそれは酷いなと呟く旭だが、
「いやそれこっちにもあったぞ」
「あるの!?」
「あったんですか!?」
まー、旭は家柄的に知らなくても不思議ではないか。
あと年齢もか? 確か俺が小学校高学年とかだった気がするし。
「あったあった。友達と冗談で買った覚えあるし」
というかあずきに限らずパプシって定期的に変なフレーバー出してるよ。
「何か紫蘇とかモンブランとかもあったような記憶が……?」
「「えぇ」」
「飲み物関係の話もっと聞きたいな。ちょっと自販機とか見てみようぜ」
「良いわよ」
そんなお喋りをしながら歩いていると頭上のテュポーンが小さく笑った。
「ふふ、良いわね。こうしてただ町を歩くだけっていうのも」
「楽しんでくれてるなら誘った甲斐もあるってもんだ」
「そうね。おじさまのお陰よ、ありがとう」
よしよしと頭を撫でられる。ちょっと恥ずかしい。
そして隣の旭がすげえ目でテュポーン睨んでるのがおっかねえ。
「あ、ドラッグストア発見。こんなとこにあったのか」
小さい頃はよく祖父さん家を訪れていたがやっぱこんだけ時間経つと色々違うわ。
これまで回って来たとこも殆ど記憶になかったし。
「基本マヨヒガ暮らしだがこっちに戻って来ることもあるし覚えとかんとな」
「先生。何なら先生の自宅付近に必要な施設を用立てましょうか?」
「金と権力にもの言わせた私的な町作りとか終わってるわねあなた」
「黙れ。奉仕の精神だ」
そうこうしていると良い時間になったので目についた飲食店で昼食を取ることにした。
商店街にある個人食堂だったが中々どうしてやるじゃない。
際立って美味い! とかではないが安定して選択肢に入りそうなクオリティだった。
「じゃあ、そろそろ東京行くか?」
そう大きな町ではないがまだ全部は見れていない。
だがこれ以上ここに居ても変わり映えしないだろう。
現在地は東北だが旭の力で瞬間移動出来るらしいので問題はない。
「そう……あら?」
「……チィッ」
「どうした?」
突然剣呑な空気になった二人に軽く身構える。
テュポーンは小さく溜息を吐くと俺から飛び降り地面に着地し言った。
「何やら良からぬものが居るみたいね。お姉さん、これは?」
「さて。私も初めて感じる気配だが、そう珍しいことでもない」
人に仇成す怪異とはそういうものだと旭は吐き捨てた。
どうやらこの町に化け物が潜んでいるらしい。
「数はそう多くはないけれど方角がてんでバラバラね」
「フン、先生が住まう町にこのような害虫が居ることは看過出来ん。処理するぞ」
「ええ。私はあっち担当するからお姉さんはこっちをよろしく」
「ああ。というわけで先生、少々お待ちください」
「ちょっとそこでジュースでも飲んでて頂戴な」
言うや二人の姿がかき消えどこかに行ってしまった。
残された俺はどうしたものかと困惑したが、
「……言われた通り何か飲んでるか」
と自販機でコーヒーを買うことにした。
「お」
缶コーヒーを傾けながらぼんやり視線を彷徨わせていたら反対の歩道に美形を発見。
(白髪片目隠れ……黒メッシュも良いねえ。ミステリアスタイプのイケメンだ)
顔面偏差値で言えば旭ともタメを張るがジャンルが違うな。
どっちもそれぞれ味がある。
メインの相手役でもサブな立ち位置でも映えるが個人的には後者だな。
(読む場合はともかく描く場合だと俺じゃ料理し切れ……いや待てあれ男か?)
ゆったりとした黒のワイドキュロットにこれまた黒のゆったりとしたアシンメトリーパーカー。
ユニセックスファッションで体のラインも出てないから女性の可能性も?
「やべ」
つらつら考え事をしていたら視線が合ってしまう。
彼もしくは彼女は俺を見るや軽く目を見開いた。
そしてタン、と軽く地を蹴るや信じられない跳躍で目の前に現れる。
「君は……そうか、道理で。幾ら探しても会えないわけだ」
「あ、あの」
声からも男か女かは判別がつかない。
というか驚くほど“どちらの匂い”もしないのだ。
困惑しているとミステリアス美形はそっと手を伸ばし俺の頬に触れ、
「――――何時かの僕によろしくね」
唇を奪った。触れるだけの軽いキス。
美形は呆気に取られる俺に小さく笑いかけそのまま何処かに去って行った。
「……新ネタゲットしちゃった」
今、俺の中の乙女が凄まじく刺激された。
と同時に一つ、思うことがある。
「……これ犯罪では?」
突然知らない奴に意味深キスするなんてのが許されるのは漫画の中だけだ。
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