問題解決 裏
「誰か! 誰かある! ご乱心! 若様、ご乱心!!」
我に返った家人の一人が叫びわらわらと人が集まりだす。
皆、怯えを滲ませながらも臨戦態勢を取っているが笑わせる。
愚か愚か愚か愚か愚か愚か愚か愚か何もかもが愚かとしか言いようがない。
「貴様らが束になったところで私をどうにか出来ると?」
「ぐわぁああああああああああああああ!?」
瞬きする間に全員に刃を通して腱を断ち動きを奪う。
経絡も同時に切っておいたので治癒も出来まい。
皆、地を這う虫けらとなった。ああ、これが正しい姿だ。
虫けら風情が二本の足で立っていたことがそもそもの間違いだった。
「敵わぬのであれば増援を呼ぶべきだ」
醜聞を恐れ内々で片付けようとしたがゆえの現状。
これでもう完全に詰んでしまった。
「あ、旭……お前、何を……うぐぅ!?」
黙れと意思を示すため愚かな父の頭を踏み付ける。
不愉快な呻き声だ。喉を潰しておけば良かった。
「あぁ」
死屍累々。まあものの表現で実際、死人は一人として居ないのだが。
この光景を見渡し私は心底から思った。
「先生は実に慧眼であられる」
コスパが悪い。先生はそう仰った。
「正にその通りだ」
ここから全員を殺した上で私に咎が及ばぬようにすることは可能だ。
しかしそのために強いられる労はかなりのものとなろう。
「……成果と労力がどう考えても釣り合わない」
あの夜、先生より助言を賜った私はしばらくの間動けずに居た。
頂いた御言葉がぐるぐると私の脳裏を駆け巡っていたせいだ。
咀嚼し考えれば考えるほどに言葉の重みは増していった。
そして一時間ほどか。ようやく動けるようになった私は宿に戻ったのだが……。
『は?』
部屋に入った瞬間、私は現世に居た。
住居として使っているマンションの見慣れた私室に佇んでいたのだ。
服装もマヨヒガに迷い込んだ時の仕事帰りの戦装束。
『……一分と経過していない』
時計を見れば私が現世より消失した時のまま。
呆然としていた分、多少の変動はあろうが差し引けば完全に同じだろう。
あの体験自体が夢か幻覚かとも疑ったが、
『この胸に宿る更に高まった先生への敬愛は真実だ。夢などではない』
そう判断した。
そう判断したのだがその直後に気付いた。
先生がお描きになられた私の似顔絵が机の上に置いてあったのだ。
マヨヒガに迷い込んだ人間は何か一つを持ち帰ることが出来る。
その伝承に由来する現象だろう。物証まで追加されてしまった。
『……何だこんな時に』
とりあえず額に入れ霊的保護を施さねばと動こうとした正にその時だ。
スマホが鳴り父から実家に来るよう呼び出されてしまった。
『佐伯め。密告したな』
少し考え原因に当たりをつける。
マヨヒガに迷い込む直前にこなした任務の後始末だ。
馬鹿どもに対する仕置きを家人に命令した。
それを父に密告したのだろう。どうにかして欲しいと。
『――――お前は非合理が過ぎる』
私の見立ては当たっていた。
家に向かったら開口一番、これだ。
『頭は悪いが権力のある俗物は基本的に放置しておくものだ』
連中は愚かだが他人の足を引っ張ることだけは上手い。
やり合えば勝てるが時間、金、リソースを無駄に浪費してしまう。
一定のラインを超えない限りは無視に限る。
『対処療法ではなく根治という言い分は一見筋が通っているように思えるが所詮は絵空事』
本当に根治を目指すなら人間という種そのものをどうにかするしかない。
だがそんなものは現実的ではない。
現実に即したやり方をすべきだと説教を垂れる父を他所に私は思った。
これは検証のチャンスなのでは、と。
『旭、聞いているのか』
誰が、何が私にとって一番目障りなのか?
先生が言うところの話をややこしくしている要因の一つ。
私という人間が無意識に取り繕っている普遍的な常識を捨てて考えれば答えは瞭然。
『貴様らを置いて他にあるまいよ』
結論と共に私はテーブルに足をかけ身を乗り出しその場で父を殴り飛ばした。
そうして今に至るというわけだ。
「何を……何を言っているのだお前は……!」
痛みに呻きながら心底理解出来ないという目をする父。
そりゃそうだ。突然、発狂したとしか思えないだろう。
「何を、か。まあ色々理屈は立てられるな」
愚かな教育を正答であると信じ貫いた結果の歪みが私であるとか。
余人の理解を得られるであろう理由は幾らでも思いつく。そう“思いつく”のだ。
常識というフィルターを通して感情を加工するという手順が必要ということ。
「が、理屈は要らん」
ならばそれは私の本質ではない。だから捨てる。
「シンプルに目障りなんだよ貴様ら」
何も取り繕う必要がない素の己を曝け出す。何と清々しいことか。
「私を不愉快にさせた罪で即刻処刑したいというのが本音だ」
ただしそれは私に一切の不利益が降りかからないというのが大前提。
気分で族滅しても面倒なことになるのなら話は別だ。
族滅で得られる満足感と族滅で被る後始末の大変さを秤にかければ後者に傾いてしまう。
「だがそれではコスパが悪いのでな。ほどほどで済ませようと思う」
どうやら素の祓主旭という人間はわりとロクデナシだったらしい。
だがそれで良いのだ。私にとって気になる他人の目はただ一つだけ。
先生の双眸に私への嫌悪の色が宿らないのであればそれで良い。
先生にさえ好かれているのなら有象無象にどう思われようと知ったことではない。
「き、気が触れたか!?」
「失礼な。正気だよ」
この上なくな。というかお前らだけには言われたくない。
良い畑が見つからないなら自分が畑になるとか考える奴らのがよっぽど頭がおかしいだろう。
先生、そして快不快を行動指針にすると決めた私の方がよっぽど真っ当だ。
「しかしどうしたものか」
ほどほどで済ませると言ってもどれぐらいがコスパ的に最善なのか。
全員四分の三殺し程度に痛めつけて出奔?
「いやでも金と権力を失うのは惜しいな」
祓主としての責務を果たす気は一切ない。だが祓主の家が持つ金と地位は惜しい。
そこらも加味してどのような始末にすべきかを考える。
「――――あ、宗教?」
閃いた。
「は?」
目障りな屑どもを居ると便利なカスに変える。
私にとって好都合だしコイツらは存在価値を得られるからどちらにも損はない。
俗に言うところのWIN-WINというアレだな。
そうだ。これだ。これが一番だ。凄まじく冴えてるな私。驚くほどの頭脳派ではないか。
「よく聞け屑ども。貴様らはこれよりU・リトルレディ先生の信者として生まれ変わるのだ」
祓主の歴史は今宵を以って変わる。
日本の霊的防衛を担う家からU・リトルレディ先生の活動を全方位から御支援する宗教団体にな。
「さあ、布教の時間だ。溢れる知性で教化してやろう」
信教の自由。貴様らにそんな権利は必要ない。
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