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相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


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問題解決 表

 旭と話した翌日にはもう彼女は消えていた。

 別れはやっぱり唐突で寂しくはあったが何か答えを見つけられたのだから悪いことではない。


『……漫画描かないとなあ』


 旭がマヨヒガから消えた翌日より俺は本腰を入れて執筆活動に取り組んだ。

 人類を間引かれるわけにはいかないから、というわけではない。

 ましてやアイツがお荷物だったというわけでも。むしろモデルになってくれたりと多大な貢献をしてくれた。

 だからこそ新たな一歩を踏み出した旭のためにも新刊を出さねばならない。

 それがファンだと言ってくれた彼女にとっては何よりもの感謝の気持ちになると思ったから。


『出せたら必ずスペシャルサンクスに載せるからな……!!』


 したらもう筆が進む進む。

 時間はかかったがそれもスランプというわけではなくクオリティアップのためだ。

 数年ぶりの新刊。旭以外にも待ち望んでくれている人が居るかもしれない。

 そう考えるともっと良いものをとメラメラモチベーションが沸いて来るのだ。

 時間を忘れるほど執筆にのめり込み遂に原稿は完成した。


「ふぃー……ええ湯じゃあ……」


 そして今、俺は紅葉を肴に勝利の朝風呂を楽しんでいた。

 ネット販売ではなく直にと以前から考えていたのでやることは色々あるがそれは現世に戻ってからだ。

 今はただこの達成感に浸っていたい。


「ああそうだ。テュポーンにもお礼をせんとな」


 寝食を忘れてのめり込む俺を見かねたのかテュポーンがアシスタントを買って出てくれたのだ。

 完全な素人だし御気持ちだけで十分と思ったのだが、


『ベタ塗りはこんな感じで良くって?』


 普通にやれてた。

 当人曰く、


『私ってわりと何でも卒なくこなせちゃうタイプだから』


 とのこと。

 今回の新刊が素晴らしい出来になったのは間違いなく小さな万能アシの貢献も大きい。

 現世に戻った際、何かお高いお菓子とか買い込もう。


「別に気にしなくて良いわよ。私も初めての経験で楽しかったし」


 仕切りに身を任せてこちらを見つめていたテュポーンはそう言うけど、


「いやそれじゃ俺の気が……何やってんのお前!?」

「もう驚き過ぎよ」


 えい、っと仕切りを乗り越えるやクルクルと回り綺麗に着地。

 ポーズをキメるテュポーンは当然、マッパである。


「おま……おま……!」

「あら良いじゃないの。もっともっと仲良しになったのだからこれぐらい……ねえ?」


 ぱくぱくと酸欠の金魚みたいに口をパクつかせる俺をよそに奴は堂々と湯舟に入って来た。


(……これも老化の異常が影響してんのかな)


 以前、テュポーンは言っていた。精神にも老いの停滞が影響していると。

 理性と経験で大人の振る舞いは出来るが根っこの部分は子供のまま。

 だから平然と混浴も――いやでも小学生女子ならこれぐらいでも既にって感じじゃないか?

 昔の同級生はどうだったか思い出してみるが、


「う゛」


 古傷が痛んだだけだった。

 振り返ると子供時代は大体やらかしてる記憶しかねえんだよな。


「何か勝手にダメージ受けてるわね。どうしてもお嫌というなら戻るけれど……駄目?」

「いや」


 どうしてもと言われたら別にそんなことはない。

 絵ヅラがアウトってだけでやましい気持ちがあるわけでもないしな。


「駄目に決まっておろうが!!」


 露天から室内浴場に続く扉が勢い良く開け放たれた。

 現れたのはこれまたマッパの旭。

 コイツらに羞恥心はないの? それとも俺が男として見られてないの?


「じゃあお姉さんも駄目でしょ。何堂々としてるのよ」

「私は良い。貴様は駄目。理屈は要らん。私がどう思うかだ」


 うぉ、すげえ身勝手。暴君かな?

 軽く引いたが……うん、良いじゃん。


「良い顔になったんじゃね?」

「……お陰様で。っと、挨拶もなしに申し訳ありません」


 改めて、と咳払いをし旭は言った。


「失礼致します」

「失礼しますで本当に失礼する奴中々居ないからな。お前、ここ男湯だぞ」


 まあ別に良いけどさあ。テュポーン受け入れたのに旭だけってのも不公平だし。

 原稿明けで賢者入ってる今なら問題もなかろう。


「おじさま両手に花ね」

「花と呼ぶには中身が些か凶悪な気もするけどな」


 元がつくとはいえ陰キャ陽キャのラスボスコンビだし。

 人類滅ぼすとか人類間引くとかちょっと一般人にはスケールが大き過ぎる。

 それはともかくだ。ちらりと左隣で湯に浸かる旭を見ると彼女は小さく頷いた。


「コスパが悪い。実際に試してみましたが先生の御助言は一分の隙もなく正しいものでした」

「ほう……うん? 試す?」


 え、間引かれた? 人類幾らか間引かれちゃった?

 俺がマヨヒガで引きこもってる間にラスボス検証実験行われたのか?

 ギョッとする俺に旭は違いますよと笑い続ける。


「一番目障りなのは誰かと考えたら父を筆頭とする祓主家そのもの」


 ……そこは正直、擁護出来ない。

 旭の親もまた因習の被害者ではあるのだろう。

 だが悪因を繋げてしまった以上、旭にとっては加害者でしかないからな。


「なので現世に戻ったところで呼び出しがかかったので丁度良いかなと」

「……しちゃった? 族滅しちゃった?」

「とりあえず軽く全員が身動き取れなくなる程度のDVを」

「ほっ……そうか、良かった」

「世間一般的に良くないわよ? あと何か含みを感じるわね」


 言われてみればそうである。


「父を含む屑どもを虫けらのように這いつくばらせてから改めて考えてみたのです。

ここから奴らを皆殺しにした上で己に咎が及ばないようにするにはどうすれば良いか。

結論としては可能。しかしそのためにはかなり骨を折らねばなりません」


 満足感と労力を秤にかけた結果、


「コスパが悪いなと。ええ、本当に見合っていませんでした」


 自分で助言しておいて何だがちょっと笑う。

 とんでもねえ美形が滅茶苦茶真剣な顔でコスパって言うの面白いだろ。


「族滅程度でこれなのだから人類を間引くなどという世界規模の事業なら尚更です。

実際にやれば終わった後、屑どもへの苛立ちより甚大な徒労感を覚えていたでしょう」


 何故私はあんな無駄な時間を……って感じか。

 人類を間引くなんてとんでもねえ行いに反して感想軽すぎるけどな。

 いや、そこまでの行いに対してそんな軽い感想しか出ないような器だから大業が成せるのか。


「族滅しなかったのならお家を出て独り立ちすることにしたの?」

「それはそれでな。祓主の家が持つ金と権力は惜しい」


 旭自身、そこまで物欲はないように思う。

 なので惜しいというのは何か本気で欲しいやりたいと思った時に備えてのことだろう。

 金と権力なんてなんぼあっても困りませんからね。


「なので目障りな屑を居ると便利なカスに調教することで手を打つことにした」

「「えぇ……?」」


 おかしいだろその結論。


「何でお姉さんが妥協してやったみたいな態度なのかしら?」

「歩み寄る気皆無だよな」

「極々ナチュラルに他人を見下してるわね。ビックリだわ」


 俺たちのリアクションを受け旭は言う。


「先生。どうやら私は自分が思う以上のロクデナシだったようです」


 でも、と続ける。


「それで良いのです。だってそれが私という人間なのだから」


 それはもう晴れ晴れとした笑顔だった。

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◆ロクデナシ、覚醒──!
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