客人 厄…強火ファン⑬
話をややこしくしている原因は二つあると思う。
一つは旭の力。もう一つは当人の気質に由来しない普遍的な常識。
俺がそう言うと旭は力? 常識? と首を傾げたので例を挙げることにした。
「まずは後者から説明しよう。例えばクソみたいな上司が居たとする」
ムカつくからそいつをボコりたい。よしボコろうとはならんだろう。
ボコりたいという願望は生じても行動には中々移せない。
だって犯罪になるから。犯罪になるというリスクを飲み込んで移すには相応の理由が必要だ。
「コイツは暴力を振るわれてもしょうがないぐらい酷い奴だったんだってな」
言ってて気づいた。この例え俺にも刺さってる。
あそこまでやるレベルじゃなかったろどう考えても……。
いや俺の話は良いんだ。
「お前のケースに当て嵌めてみようか。利己的な動機で人類を間引くなんて考えないし」
「……人類を間引くほどのことをするのだから相応の結果があるはず、と」
「そう。それこそ世界がマシになるとかな」
でも普通はそんな変換が必要になったりはしないんだ。
腹の中で人類を間引きたいと思ってはいても不可能だと分かってるから。
「話が広がらない。でもお前には広げてしまえるだけの力がある」
確実に成せるかどうかはともかくとして可能性はゼロではない。
現実的にやれなくはないというレベルにまで持ち込めるだけの力があるんだろう。
「実際のとこ人類を間引きたいってお前の熱はゴキブリ見かけたから駆除しよう程度のもんなんだと思う」
不快だしやれるからやろう程度のもの。
「だから俺の新刊が出る出ない程度で左右され……」
「程度じゃありません。そこは違います。断じて」
「は、はい……すいません……」
と、ともかくだ。
そんな軽さで人類の間引きを考えんやろという常識が実態を遠ざけてしまう。
「何が何でも排除したいというほど憎めもしなければ何をしてでも良い方に変えたいという愛もない」
祓主旭が個人ではなく種としての人間に抱く熱量はその程度。
今回、人類を間引こうなんて考えが頭をよぎったのは……まあ巡り合わせだな。
たまさか屑に触れる機会が多かったから天秤が不快方面に傾いてしまっただけ。
「実際はさっきも言ったが良くも悪くもどうでも良いんだよ」
けどそれは特別でも何でもない。
人類という種に強い感情を持っている人間がどれだけ居るよ。
大多数はそんなことなど考えもせず日々を何となく生きてるだろ。
「お前は身の丈があまりにもデカ過ぎるんだな」
常人が我慢して飲み込んでしまうような不満も根絶出来てしまうスペックがある。
それゆえ当人も気付けないような不整合が生じてしまう。
「……ああそうか。分かったぞ」
「先生?」
「だからお前はここに隔離されたのか。気付かないまま突っ走れば不幸になるから」
実際に人類を間引いた後でも多分、後悔はしない。
自己を正当化出来るだけの頑健さはあるんだと思う。そこも含めての力だ。
だがそれは決して幸福とは言えないだろう。
だって真実、心の底から渇望したものではないのだから。
「では先生はどうすれば私は幸せになれると?」
「幸せになれるかどうかは知らんが一つだけなら俺にも助言は出来るな」
それで全ての不幸を遠ざけられるわけではない。
だが目下、浮上している不幸の種は芽吹く前に枯らせるだろう。
「それは一体……」
「――――コスパ悪くね?」
「は?」
「人類を間引くという労力に見合った満足感が得られるのかってことさ」
結局これに尽きるだろう
人にも世界にもそこまでの熱を抱いてないのに手間と成果が釣り合ってねえよ。
ゴキブリの例で言うなら部屋のゴキブリ殺したからって気分爽快超ハッピー人生最高! にはなんねえだろ。
「――――」
目も口もこれでもかと大きく開いて固まってしまった。
雷に打たれたような衝撃とか言うけど多分こんな感じなんだろう。
「今俺に言えるのはこんぐらいかな。何かあればまた相談してくれ」
その時は俺も真面目に考えるから。
それだけ告げて俺は宿に戻った。今は一人で考える時間が必要だろうしな。
「……腹減ったな」
何かこう気が抜けたからか急に空腹が襲って来た。
こんな時間に良かろうはずはないと分かっていたが仕方ない。
夜食の時来たれりということで俺は台所に向かった。
「あら」
「お」
台所に入るとインスタントの棚を漁っているテュポーンと遭遇した。
三角のナイトキャップがこれまた良く似合ってるな。
実年齢考えるとあらカワなパジャマはおいおいって言いたくなるが見た目はやっぱデケエわ。
「お姉さんとのお話は終わったの?」
「ああ……ってか気付いてたのか?」
「ええ。何やら真面目な顔で宿を出て行くおじさまを見かけたから」
それより、とテュポーンは柔らかな笑みを浮かべる。
「その様子を見るに悪いことにはならなかったみたいね」
「ここから先は旭次第だが、まあ俺に出来ることはやれたと思うよ」
「そう。それは何よりだわ」
「うん。それよかテュポーンも夜食かい?」
「ふふ、ちょっとお腹が減っちゃって。でも偶には良いわよね?」
「我慢する方が毒になることもあるからな」
夜食を正当化する言葉を口にして互いに笑い合う。
ふとテュポーンが手にしているものが視界に入る。
「ペオルド……良いねえ」
カップ焼きそばだ。
名前の由来はペアとオルドを組み合わせた造語だったかな?
老夫婦になっても仲良く二人で食べられますようにって。
「美味しいわよねペオルド。私も小さい頃はよく食べていたわ」
「ん? 異世界にもあるのか?」
あ、いやある時期までは同じ歴史を辿ってたみたいだし不思議でもないのか。
「ええ。ただ転移後の混乱で失われた技術や製法もあるから」
「あー、昔ながらの完全なオリジナルってわけでもないのか」
「そう。だからある意味、これは私からすればかなりのお宝と言えなくもないわね」
好事家に売れば結構な値段になるかも、と冗談めかして笑う。
焼きそば転がしとはまた斬新な……。
「にしても」
「? どうかした」
俺の分まで作ってくれているテュポーンを見て感慨深くなってしまう。
「いやラスボスにも色々あるんだなって」
「はい?」
「陰キャ系ラスボスに陽キャ系ラスボス……」
旭はもう陽キャとは言えなないか?
いや、やっぱあの軽さは陽キャで良いな。
「陰キャ系ラスボスがこうも元気になってくれて俺も嬉しいよ」
「とりあえずド失礼なことを言われているのだけは理解したわ」
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