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相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


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客人 厄…強火ファン⑫

 思ったよりヤバい奴だったというのが率直な感想だった。

 いや特殊な客としてマヨヒガに来てしまうって時点で何かしらあるとは思ってた。

 でもちょっと予想外っていうか。何かこう色々おかしいよコイツ。


「間引く……間引くて……」

「いえほら、世の中屑が多いではありませんか。先生を苛んでいたブラック企業の経営者のように」

「……だから間引くって?」

「はい。そうすれば少しは世の中もマシになるかなと」


 ハッハッハと旭は爽やかに笑った。

 物騒な発言の付属品にして良いスマイルじゃねえだろ。


「お前、お前それさあ」

「はい。何でしょう?」


 屑を間引く。

 ようはそれって旭の採点基準に満たない奴らを弾くってことだろう?


「その採点って“一度で済む”のかよ」


 一度完全に屑を一掃したと思ってもだ。

 新しい社会で暮らしていく内にまた欠点が目につき始めるんじゃないか?

 下を見ればキリがないとよく言うがそれは上を見ても同じだ。

 もっともっとと求めてしまうのが人間なのだから。


「そうやって間引きを繰り返していけば最後には何も残らなくなるなんてことも十分あるんじゃないか?」


 説教をしたいわけじゃない。

 世の中がマシになると言ったからそういう最悪もあるんじゃないかと疑問を呈しただけ。

 いや御免そこまで深く考えてねえわ。

 あまりにも気楽にやべえこと言ったからついツッコミ入れただけだわコレ。


「その時はその時でしょう。人類にそこまでの価値がなかったというだけです」


 あっけらかんと言ってのける旭を見て俺は思った。


「お前陽キャ系ラスボスかよ……」


 テュポーンと祓主旭。どちらも共に過激なことをやらかそうとしていた人間だ。

 だがその心持ちは正反対。

 テュポーンが陰キャ系ラスボスなら旭は間違いなく陽キャ系のラスボスだ。


「陽……? あ、一応誤解無きように言っておきますが何も直ぐに間引くつもりはありませんので」


 あくまでこれはもう駄目だと限界を迎えるまではやらないとのこと。

 むしろその方がおっかねえわ。


「特に今は先生が新刊をお出しになられることも知れたわけですし」

「え、新刊出ないと間引くつもりだったの? 俺の双肩にとんでもねえもん乗せんなや……」


 潰れるわ。


「ってか話を聞いていて思ったがお前……」


 口元に手を当て思案する。

 今日に至るまでの祓主旭という人間を振り返ってみると疑問は更に増した。


「どうかなされましたか? あ、言うまでもありませんが先生へ永世除外対象ですのでご安心を」

「露骨な贔屓が過ぎるだろ」


 この発言もそうだ。


「なあ、一つ聞いて良いか?」

「何なりと」


 胸元に手を当て軽く頭を下げる仕草がかなり美しい。

 クソ、やっぱ最高だわコイツ。今直ぐペンを握りたい。


「お前は一体“誰のために”人類を間引くんだ?」

「え」


 ぽかん、という表現がピッタリの顔だ。

 痛いところを突かれたとかそういうことではない。

 思ってもみないところからボールが飛んで来た。

 そもそも“考えたことすらなかった”という意味でのぽかん、だと思う。


(ごめんテュポーン)


 内心で詫びを入れ、告げる。


「俺の知り合いに人類を滅ぼそうと思ってた奴が居るんだわ」

「マウント小娘……いえ、テュポーンのことでしょうか?」

「マウ? というか面識あったのか?」

「ええ。一ヵ月ほど前の夜に。切腹に行こうとしたら虫捕りに向かう奴と行き会いまして」


 切腹に行くって何だよ。いや大体予想はつくけどさ。

 切腹って頻出単語じゃねえだろ。何回使ってんだコイツ。


「……そうか、なら察しもつくわな」


 いや直接の面識がなくてもか。

 一応特定出来ないようにぼかしはしたが俺は一般人だからな。

 世界を滅ぼすような非常識と面識があるならそれはもうマヨヒガ関連だと予想はつく。

 もう一人の客人が人類を滅ぼそうとしていた奴だと考えるのが自然だ。

 特に旭は頭おかしいが回転の速さは俺よりも遥かに上だろうし。


「話せば長くなるし個人情報もあるから仔細は省く」


 だが原動力となった感情については語らせてもらおう。


「テュポーンが人類を滅ぼそうとしたのは責任感に起因する利他の心だ」


 真実を知っておきながら確実に訪れる最悪を見過ごすのか?

 まだ生まれてもいない名も顔も知らぬ未来の人々が地獄を味わうのを許容するのか?

 何かをしなければという責任感と、誰かのために何かをしてあげたいという情。

 その二つがテュポーンの足を進めさせたのだ。


(結局、背負い切れず荷物を下ろしはしたが……まあそこは良い)


 今重要なのは結論ではないのだから。


「旭は人類間引けば少しは世の中がマシになるって言ったけどお前のそれは軽いんだよ」


 嘘を吐いてるとか取り繕っているというわけではない。


「だってのに人類を間引きたいって部分にはまるで軽さがない」


 誰のため? 何のため? 根幹にあるべきものが欠落しているのだ。

 そして本人にその自覚がない。だから何かおかしなことになってしまっている。


「……では私の動機な利己的なもの?」


 その呟きは俺にというより自らへの問いかけなのだと思う。


「ああそうだ。いや別に責めてるわけじゃないぞ?」


 人類を間引くという行いの是非を問うならそりゃ非だよ。クソ迷惑だ。

 だが実際に行動に移していない段階ではどうこう言えない。

 思うだけなら自由なのだから。


「ただもうちょっと自分を正しく認識してみるべきじゃねえかなって」

「……と言いますと?」

「人類を間引くってのが利己に起因するものだとしてだ」


 世の中に屑が多い。目障りだ。一掃してスッキリしたい。

 その部分は嘘じゃない。旭は真実、不快には思っている。

 だが、


「憎悪が足りてなくない?」


 屑の存在が心底不愉快で存在を許容出来ぬほど憎い。

 そこまでの熱なら人類を間引くという行いにも釣り合うだろう。

 けど旭のそれは違う。


「そこまで煮詰まってたならストレスなんて簡単な言葉で表現しねえだろ」


 心底屑を憎んで心を軋ませるのもストレスではあるんだろう。

 だが言葉にする時、そんな軽い言葉にするか? しないよ。

 このストレスという言葉こそが問題の本質を突いているのだと俺は思う。


「……つまり先生は何が仰りたいのですか?」

「お前ってさ。良くも悪くも人間なんてどうでも良いと思ってるんじゃねえの?」

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