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相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


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客人 厄…強火ファン⑨

 ……怪物に人の道理は理解出来ないか。

 まあテュポーンなどという名を名乗るような輩に常識を期待したこちらの落ち度だな。


「すまんな。程度を理解した上で発言すべきだった」

「おじさまから聞いてはいたけれどあなた本当にナチュラルに上から目線ね」

「はぅ!?」

「微塵も悪意がないから逆にどう対応すべき悩むのも納得だわ」


 やはり……やはり私の罪は重い……。


「それにしても……今、あなたと出会うのね」

「……偶然の出会い、というわけではなかろうな」

「ええ。普通の場所でなら――いえそれもあり得はしないけどここで起きたことについてはね」

「?」


 私とこの怪物を隔てていたのは先生ではない。マヨヒガそのものだ。

 それがこうして顔を合わせたということは何らかの意味を持つのだろう。


「クソ、切腹で忙しい時に」

「あなたちゃんと義務教育受けてる? 狂った日本語口にしてるわよ」


 はあ、と溜息を吐くと奴は場所を変えようと提案した。

 確かにこんな場所で立ち話というのも何だろう。


「少し行ったところに開けた場所があるわ。そこに行きましょう」

「良いだろう」


 場所を変え改めて仕切り直す。

 切り株に腰をかけこちらを見やるテュポーンは隙だらけ。

 しかし、手を出した瞬間に殺られるという確信があった。


「マヨヒガの性質を鑑みるに悪いことではないのでしょうね」


 そこは同意しよう。

 これまで出会わなかったのは顔を合わせれば不利益を生じるからなのは間違いない。

 だがここに来て顔を合わせることが益になると判断したからマヨヒガは壁を取り払ったのだろう。

 問題はその益が何かということだが……。


「私は既に己の問題を片付け幸福に生きるために必要な答えを得たわ」

「……ならば、私か」

「でしょうね」


 改めて考えてみる。

 マヨヒガが人に幸福を与えるというのであれば私の幸せを阻害するものは何なのか。


(最初は世に蔓延る屑どもの存在がそうかと思ったが)


 であればそもそもここには招かれまい。先生に害を成すからとかそれ以前の問題だ。

 だって幸せになる方法を自分で理解しているのだから。

 だからこれはないと選択肢から省いた。


「うぅむ……先生、か?」


 先生と会うことが出来て言葉も交わせた。

 そして新刊を描く意欲があることを知れた上、私をモデルにしたキャラがメインを張るという。

 これは紛れもない至福である。疑う余地はどこにもない。

 だが、それならもう私は幸せになれたとしてマヨヒガから出られるようになっているはずだ。


「やはり切腹?」

「切腹という単語が一時間以内にこうも頻出するなんて人生初の経験よ私」


 先生に対する無礼を贖わずして幸福になれない。

 それもそうだとは思うが、しかしだとすれば理屈に合わない。

 無礼を働いたのはここに来てからのこと。

 マヨヒガに来る理由となった根本的に幸福を阻害しているものとは異なるはず。


「大体、何故ここでこの娘に出会う必要があったというのか」


 この出会いが幸福に繋がる要素の一つだというのがもう意味不明だ。

 私が思考の海に溺れかけていると怪物少女はこう提案した。


「仔細を語るつもりはないけれど私の話、聞いてみる?」

「聞こう。参考程度にはなるやもしれん」

「その“程度”って言葉も使い方には気を付けるべきね。かなり上からに聞こえるわ」

「もう参考になったな。お前との出会いに意義があったと言えるだろう」

「参考になっても活かせてないじゃないの」


 はあと溜息を吐き彼女はゆっくりと語り始めた。


「私は使命感に駆られながら世界規模の凶行に及ぼうとしていたわ」

「ほう。似た者同士というわけか」


 世に蔓延る屑が多過ぎるし間引くべきだと思ってはいる。

 だがそれはそれとして人を間引くことが凶行であるとも理解はしている。


「……似た者同士? ああ、そういう。なるほど、勘違いを正せってわけね」

「は?」

「詳細を聞く気はないけれどあなたも何かしらの凶行に走ろうとはしているようね」

「そうだ。それが使命、責務であると思っている」

「そこよ」


 どこだ。


「共通点は世界規模の凶行だけ。あなたは使命感なんてものを“感じてはいない”わ」

「何を」

「だって別のことに気を取られ過ぎだもの」


 呆れたようにテュポーンは言う。


「今日、お風呂から上がった後に私、おじさまの部屋を訪れたのよ」

「何だ貴様、夜に男の部屋を訪ねるなど破廉恥が過ぎるな殺すぞ」


 これがどこの馬の骨とも知れぬ輩ならばどうでも良い。

 しかし先生のお部屋にというのは看過出来ん。

 人には勝てぬと分かっていても戦わねばならぬ時があるのだ。

 そしてそれは今この瞬間であると私は思う。


「その時におじさま、あなたの話を嬉しそうにしてくれたわ」

「詳しく聞かせろ」

「そのぐるんぐるん回る手首を少しは恥じなさいな」


 我が生涯に恥じ入る点があるとすればそれは先生に働いた無礼だけだ。

 それ以外の部分で己を省みるつもりは一切ない。


「楽しくお喋りが出来たこと。あなたをモデルにしたキャラを考えていると言ったら喜んでくれたこと。

おじさまは本当に楽しそうだったし、話を聞いているだけであなたも楽しんでいることがよく分かったわ」


 ……ふー。堪らんな。


「ここに迷い込むレベルのどうしようもない使命を抱えているのならそうはならない。

私だっておじさまとの暮らしを心地よく思ってはいたけれど心から甘受出来るほどではなかったわ」


 こびりついた心労は何時だって私を苛んでいた。もう何を持つ余裕もなかった。

 その言葉は奴を知らぬ私にも重く響き口を閉ざすしかなかった。


「ならば」

「何なのだとは聞かないでね?」

「おい」

「だって私相手に胸の内を全て語るつもりはないのでしょう? なら何を答えられると言うの」

「む」


 ……まあ、そうかもしれないが。

 何にせよ少しは参考になった。


「改めて思索を――いやだがその前に腹を斬らねば」

「何なの? その執拗なまでの切腹推し。あといい加減突っ込むけど先生って何?」

「貴様、U・リトルレディ先生をご存じないと言うのかァ!!」

「ご存じな……あ、おじさまが同人活動の際に使用しているPNね。何? ファンなのあなた?」

「世の摂理だろうが!!」

「摂理ではないけれど」


 一々癪に障る小娘だなコイツ。


「あぁはいはい。何となく察したわ。己の無礼を詫びるつもりで腹を切ろうとしてたってワケね」

「……そうだ」

「はあ」


 何だその溜息。喧嘩を売っているのか。


「どうせ腹を割るなら物理的にではなくその心を見せなさいな」


 それは……。


「己の恥部すら包み隠さず打ち明ける。それもまた贖いというものではなくって?」


 そう告げると怪物少女は立ち上がった。

 ついどこに、と口に出してしまうと奴は誇らし気に笑った。


「だからカブトムシ捕りよ。おじさまとの大一番に向けて大物を捕まえなきゃいけないもの」

「一々先生と仲良しアピールするな喧嘩売ってるのか貴様」

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― 新着の感想 ―
この娘初登場時に思ってた数倍面白クールだな
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