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相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


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客人 厄…強火ファン⑦

 我慢していた少女漫画談義を堪能出来たこともあり精神状態は万全。

 これまでにないモチベーションで釣りに専念することしばし。

 坊野を真似たのも良かったのか釣果はかなりのものとなった。


「現地でということだったがこれを全て消費するのか?」

「まー、無理をすりゃ食べられなくもないがそれはなあ」


 無理をして食べたところで食事の楽しさが減るだけ。

 半分ぐらいは残して夜に回そうという提案に私も頷く。


「してこれをどう調理する? やはり塩焼きか何かかね?」

「それも悪くねえが昼飯なんだしガッツリ行きたい気分だから天丼にしようかなって」

「ほう」

「ただそうなると魚だけじゃ寂しいんだよな。ちょっと山菜も獲ろうと思うんだがどうよ?」

「構わんよ」


 盗難の心配もないので荷物をその場に残し山菜採取へ。

 幾つかのポイントを回りそこそこの量を確保してから川原に帰還。


「よし。じゃあ下準備から始めるべ」

「うむ。指示を頼む」

「魚は俺が捌くから祓主は山菜の下処理を頼む。そう難しくねえから気楽にやってくれ」

「ああ」

「とりあえずあく抜きに時間かかりそうなのは夜に回すとして」


 坊野のレクチャーを受けつつ準備を進めていく。

 その間も普通に雑談をしていて私は一つ、気になっていたことを聞いてみた。


「時に坊野」

「うん?」

「君の下の名前は何というのかね?」


 初対面の時、彼は姓だけしか名乗らなかった。

 別にそれでも問題はないが折角友人になれたのだから知りたい。

 ……友人ということで良いのだよな?


「――――」


 坊野の手がピタリと止まった。


「……すまない。何か不快なことを言ってしまったか?」

「いや、そうじゃないさ。最初に言っておくが名乗らなかったのは祓主に含むものがあるとかじゃねえから」


 あくまで自分の問題だと溜息を吐く。


「まー、何だ。俺の名前はいわゆるキラキラ寄りでな」

「キラキラ?」

「あ、そこからか」


 曰く、名前にするには少々奇抜なものを指す俗称なのだとか。


「それで子供の頃はよくからかわれてな」


 愚痴りつつ彼は私に下の名前を教えてくれた。

 聞いてみればなるほど。確かに名前にするには些かどうかというものではあった。

 分別の分からない子供ならばからかいの対象にしてもおかしくはない。


「……ンでどいつもこいつも態度の割にあんな」

「む」

「ん? どした?」

「いや何でもない」


 少し寒気を覚えた。

 マヨヒガ内は初夏ぐらいの気温だが薄着で水辺に居ると少し冷えるか。

 脱いでいた上着を羽織直す。


「ま、何だ。出来ればこれからも苗字で呼んでくれるとありがたい」

「承知した。だがそれはそれとして私のことは名前で構わんよ。……折角、友人になれたのだし」

「そうか? じゃあそうさせてもらおうかな」


 友人と認識してもらえたことに胸を撫で下ろす。本当に良かった。

 それからお喋りをしつつ作業を続けることしばし。ようやく昼食が完成した。


「ほう」


 飯盒の上に乗せられた岩魚の天ぷらと山菜のかき揚げ。

 揚げたてのそれらにめんつゆをかけると食欲をそそる音と香りが耳と鼻を楽しませた。

 いただきますと二人で手を合わせ早速、口に運ぶ。


「これはこれは」


 淡白な白身に厚めの衣から滲みだす油分と甘いつゆが混ざり見事な調和を奏でている。

 まずは天ぷらだけを味わったがこれは間違いなく米に合う。

 今度は米も合わせて口に運ぶ。


「どうだ?」

「悪く……ああいや、良い。美味しい」

「はは、そうかそうか。そりゃ良かった」


 私としては褒めているつもりだったが受け取る側はそうではない。

 指摘された点に気を付け感想を述べると坊野は嬉しそうに笑ってくれた。

 ……少し、ドキっとした。


(ひょっとして、私は今、青春というものの中に在るのでは?)


 物語の登場人物に己を重ねて疑似体験するしか出来なかった遠い幻想。

 それを今、私は身を以って体験しているのかもしれない。


「岩魚は無論のこと山菜のかき揚げも良いアクセントになっているな」


 仄かな苦みと青臭さが油っこさを軽減してくれる。

 これのお陰でまた新鮮な気持ちで岩魚の天ぷらと向き合うことが出来るのだ。


「その、何だ。とても素晴らしいと思う」

「そうかいそうかい。たんとお食べ」


 人生で一番と言って良いほどに穏やかで得難い食事だった。

 食事を終えると後片付けだ。

 念じるだけで全て済ませられるのに手作業でやるのは坊野なりのこだわりか。

 非合理的ではあるが今はそれも悪くはない。


「ところで坊野、君は何が切っ掛けで同人活動に?」

「最初はただ絵を描くのが好きだったが次第にそれじゃ物足りなくなってさ」


 大学入学を機に制作もしている方の漫画サークルに入ったのだという。


「……新作描き上がったらイベントに参加してみるのも良いかもしれねえなあ」

「同人活動をしているのに経験がないのか?」

「基本、ネット販売だ。大学の頃は漫研ってデカい括りで参加もしてたけど」


 照れ臭くて販売は他の部員に任せていたらしい。

 まあ男が少女漫画を描いてそれを手渡しで売るなどすれば奇異の目で見られることもあるだろう。

 私は別に気にしないが気恥ずかしいという気持ちも理解出来なくはない。


「今は意欲があるようだが平気なのか?」

「歳取ったからな。キッズの頃とはまた考えも違うさ」


 男で少女漫画描いてるけど何か? と開き直れると坊野は笑う。


「どんな人が買ってくれるのか見てみたいし自分の言葉でお礼も言いたいからな」

「……そうか」


 そんな話をしつつ片付けを終え、帰途につく。

 いよいよ私をモデルにしたキャラが見られるのだ。自然と足取りも軽くなってしまう。

 宿に戻り手洗いを済ませると二人で坊野の部屋へ向かう。


(……意外と綺麗だな)


 よくよく考えれば男の部屋に上がり込むなど初めての経験だ。

 少しばかりそわそわしてしまう。


「ほいお待たせ。これがそうさ」


 座卓の上に漫画用に使っているというスケッチブックが広げられる。

 そこには男性体の私を二次元に落とし込みアレンジを加えたような少年が描かれていた。

 これは中々……うん?


(ちょっと待て。何か既視感が)


 絵のタッチに引っ掛かりを覚えた。

 私の知るそれとは些か異なる。

 だが数年遠ざかっていたブランクや心境の変化に起因するものならば変化にも納得がいく。


(……待て。まさか、そんなことがあり得るのか?)


 答えに辿り着き愕然とする。

 動揺を悟られぬよう必死で取り繕いながら私は坊野に問う。


「うむ。うむ。御上手であられるな」

「何だその言葉遣い」

「時に坊野。君が同人活動を行う際はどのようなPNを使っているんだ?」

「PN?」


 坊野は特に隠し立てする気もないようであっさり答えてくれた。


「――――U・リトルレディ」

気に入って頂けましたらブクマ、評価よろしくお願いします。

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点と点が線で繋がっちまった……!
(勝手に明かされた)衝撃の真実ゥー! 章題からしてとんでもないことになりそうで草生える
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