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相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


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メルヘン事案

「それで私は何を手伝えば良いのかしら?」


 食後。腹もこなれて来たところでテュポーンが切り出した。

 俺は一つ頷きこれまでの経緯を伝える。


「君が宿直室にこもってるあたりからちょこちょこ実験をしててね」

「実験?」

「そう。マヨヒガは家屋や環境を変えられるがそれはどこまで可能なのかってな」


 駅舎が出来たのだ。山小屋や温泉宿、庵なんかもやれるだろう。

 ではファンタジーな変化は可能なのか。


「ファンタジー?」

「一番分かり易い例を挙げるなら竜宮城」

「……あー」


 得心がいったようだ。

 竜宮城。浦島太郎に出て来る海の底にあるという煌びやかな御城だ。


「科学の力で水中に建造物をというのは可能だろうさ。でも」

「まあ、竜宮城に科学技術なんて使われてないわよねえ」


 水が入らないよう完全に密閉しているわけでもなし。機械で酸素が供給されているわけでもなし。

 水中で人が活動するために必要な部分を担っているのはファンタジー要素だ。

 いや理屈すらない。そういうものなのだという語る必要もない問答無用さと言うべきか。


「話の流れからして実験は失敗だった、と」

「そう。君が居たしがらっと環境変えるのもどうかと思って小物でやったんだよ」


 試みたのは水晶の花。雪に映えるかなと思ったのだ。

 加工して外見を取り繕った物ではない。

 ちゃんとした植物として成立するように念じてみたのだが結果は失敗。

 ならばとその後も現実には成立し得ない小物をあれこれ試してみた。

 試したのは俺が小さい頃読んでた児童文学に出て来るファンタジーな物品や現象だ。


「まあ結果は全敗だったんだが」


 けど完全に無理という感じではなかったのだ。

 そういう機能がマヨヒガには存在していないというわけではないと思う。

 あくまで感覚的なものだがどうにも俺の認識に問題がありそうなんだよな。


「固定観念が足を引っ張っているという感じ?」

「うん。いや食べ物出したり駅舎作ったり十分ファンタジーなことやっておきながら何をって感じだけどさ」


 だが無理なものは無理なのだ。


「重要なのは俺の中のイメージが現実として像を結べるかどうかなんだと思う」


 例えばあの駅舎。まったく同じものを見たことはない。

 だが写真でああいう雰囲気のレトロな駅舎を見たことはある。

 待合室に貼られていたポスターもそう。写真や映像などで似たようなものを見ている。

 だから抽象的なイメージでも像が結ばれ形になったのだろう。


「俺が実験で試したものの中にもイラストはあったが」

「空想を出力した絵であり肉付けには弱いってところね」


 大体分かったわとテュポーンはうんうんと頷く。

 流石は年の功。ニュアンスをバッチリ汲み取ってくれたようだ。


「ようは私が非現実的なことを実際に見せて認識を変えれば良いわけね」

「ああ。不思議な力があればやれるって思えるようになれば幅が広がると思うんだ」


 マヨヒガのポテンシャルを引き出すためには俺自身が進化する必要がある。

 その手助けをテュポーンにお願いしたいのだ。


「良くってよ。ここでお世話になってる私としても悪いことではないもの」


 定期的に変化する住居とかワクワクするわと微笑む。

 花が咲いたようなという形容に相応しい実に愛らしい笑顔だ。


「ふむ。そういうことならまずはどうしようかしら」

「そこは君にお任せするよ」


 彼女の霊能力とやらは汎用性が高いとのことだが俺にはどこまでやれるか分からないからな。

 テュポーンは少し考え込んでから俺にこう提案した。


「ちょっとこのマヨヒガを西洋風のお城に変えてもらえるかしら?」


 天候は青空、地形は緑映える平原のような感じでとのこと。

 俺は一つ頷き写真で見た外国のお城をイメージしマヨヒガを作り替えた。


「とりあえず外に出ましょうか」


 ポンと肩を叩かれたと思ったら気付けば外に居た。

 視線の先には設定通りどこまでも続く平原に佇む白亜の城があった。

 どうするのかとテュポーンを見ていると、


「えい」


 という可愛らしい掛け声と共に軽く腕を振るった。

 その瞬間、


「うぇぇええええ!?」


 ゴゴゴゴと大地が鳴動し何と城が浮上し始めたではないか。

 呆気に取られる俺を他所に城はどんどん上昇していき高度100メートルほどのところで静止した。


「あーとーはー……こういうのも如何?」

「うぉおおおおお!?」


 テュポーンが指を鳴らすとキラキラ輝く光の粒子が虹を形作りそれは城に続く階となった。

 メルヘン、迸るほどにメルヘン!


「ではお手を拝借」


 興奮する俺の手を取りテュポーンは歩き出す。


「……いやでもこれちょっと怖いな」


 虹の階段はしっかりとした足場をしていて崩れるような気配は一切ない。

 しかし下が透けて見えるので上がれば上がるほどちょっと怖いのも事実だった。


「ふふ、大丈夫よ。万が一落ちても地上に直撃する前に私が拾うから」

「すまんねえ」


 テュポーンにエスコートされ階段を上り切り一息吐く。


「絶景だ」

「そうね。でも私たちだけだと少しばかり寂しいと思わない?」


 一つ二つと軽やかにステップを刻みくるりと一回転。

 テュポーンが両手を広げると大地に大小様々色とりどりの花々が咲き乱れた。

 それだけならば俺にも出来なくはないが、


【Hey diddle diddle♪】

【The cat and the fiddle♪】

【The cow jumped over the moon♪】

【The little dog laughed to see such fun♪】

【And the dish ran away with the spoon♪】


 花たちが歌い始めたではないか。

 低い声、高い声、老若男女入り乱れた陽気な合唱。


【――――♪】

「うぉ!?」


 影が差したかと思えば上から地響きのような低い唸り声が聞こえ弾かれたように顔を上げる。

 城の更に上空には大きな翼を広げたドラゴンが花たちに合わせて歌っている……のだと思う。


「……こ、これどうなってるの!?」


 少し興奮気味に問う俺にテュポーンは微笑ましいものを見るような優しい目で答えてくれた。


「疑似的な生命の創造。人間を進化させる研究をしている過程で身に着けた力よ」

「そうか」

「もう使うことはないと思っていたけれど」


 そこまで言ってフフ、と笑う。


「おじさまを喜ばせることが出来たのならきっとこれも無駄なことではなかったのね」

「……ありがとうな」


 わしゃわしゃと頭を撫でてやると彼女は猫のように目を細め体を摺り寄せて来た。


(やっぱこれ絵ヅラやべえな)


 メルヘンの香りに混ざる犯罪臭よ……。

気に入って頂けましたらブクマ、評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
ラスボスさん……まぁお花とかメルヘンな生命誕生させたからまだいいけど、人間が主食なキモグロ系とか創造したらアウトな絵面になりそう(^-^;
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