問題解決 裏
三つ巴の争いは佳境を迎えていた。
(……コイツらも多分、私と同じで姿を偽ってるのでしょうね)
褐色の肌に紫の瞳を持つエキゾチックな男“ヴリトラ”。
2メートル近い身長の黒髪赤眼の男“スルト”。
出会った時からコイツらは何となく女なんだろうなと思っていた。
というのもだ。パーソナルな部分はまるで知らないけれど私は彼らにシンパシーを感じていたのだ。
怪物の名を名乗っているのも私と同じような動機だろう。
だから組織を率いる上での効率を考えて性別を偽っているのも同じだと思う。
(あっちも多分……一度、ゆっくり話をしてみるのも悪くなかったかもしれないわね)
まあ事ここに至ってそんな機会はもう二度とないのだけれど。
(ごめんなさいね。私は一足お先に抜けさせてもらうわ)
怪しまれないよう技巧の限りを尽くして全力で奴らの命を狙いに行く。
狙いは意識のリソースを全て注ぎ込む刹那だ。そこなら誤魔化せる。
待って待って待って、遂にその瞬間が訪れた。
放たれた全力の一撃。私はなるべく不自然にならないように受け止めた。
ヴリトラもスルトも満身創痍だが致命には至らず。
傍から見れば私の一人負けのように見えるがこれで良い。
「――――我が大願、ここで潰えるか」
うちのナンバー2が私の名を叫んでいるのが聞こえる。
私は慌てず騒がず彼女に遺言を伝え、その場で果てた。
と同時に魂だけで逃げ出し“本来の肉体”に帰還する。
「……多分、これで上手くいったわよね?」
死んだのは私の本体と寸分違わぬ複製体だ。
スルトとヴリトラを始末するためにはどうする?
思索の果てに辿り着いたのは私が二人に増えて袋叩きすれば良いじゃないという答え。
それで私は秘密兵器として誰にも内緒でもう一人私を造ったのだ。
本来は魂を分割して二つの肉体を運用するつもりだったが死を偽装するために使わせてもらった。
「はー……何て晴れ晴れとした気分なのかしら」
自室のベッドで目覚めた私はかつてないほどの爽快感に包まれていた。
気持ち良過ぎてもう服だって脱いじゃう。はだかんぼでゴロゴロしちゃう。
「世界の終わらせ方はあなたたちに任せるわヴリトラ、スルト」
何時か人類を襲う地獄についてはもう丸投げだ。
どっちもロクでもない終わらせ方だけど私のそれもゴミなのだから変わりない。
本当の最悪を避けられるならまあ良いでしょ。
「こんなどうしようもない世界のことは忘れてこれからのことを考えましょう」
つまりはまあ、生まれて初めての恋を如何にして成就させるかだ。
マヨヒガでの暮らしで無意識ながら惹かれ始めていたのだと思う。
決定打になったのは全てを晒したあの語らい。
彼は一度も私から目を逸らさず真摯に言葉を尽くしてくれた。
懊悩の果て、背負っていた荷物を下ろすという決断をした時、私は私の想いを知った。
「好き。大好きよおじさま」
言葉にするだけで胸が幸せでいっぱいになる。
知らなかった。誰かを好きになるのがこんなにも素敵なことだなんて。
「世の人たちはこんな素晴らしい想いを胸に生きているのね」
世界の終わらせ方なんて考える暇があるなら恋をしろ。その方が絶対に幸せだ。
今の私なら胸を張ってそう言えるけれど、でも私の道も無駄ではなかった。
だって長く苦しい道のりがあればこそ私はおじさまに出会えたのだから。
「ふふ、ふふふ」
楽しくて楽しくてゴロゴロが止まらない。
少し休んでお土産を沢山持って会いに行こう。
世界を超える術は分からないけれど、今も確かな繋がりを感じる。
マヨヒガになら私は想い一つで飛んで行けるはずだ。
「ああでもその前にしっかり復習しておかないと」
恋をしたは良いがするだけじゃ駄目。成就させてこそだ。
ゆえに私は決戦の準備の傍ら色々と調べてみた。
その中でとある変態(♀)に出会い私は啓示を与えられた。
『何? こんな幼児体型じゃ男を落とせないかもって? 馬鹿ッッ!!
合法ロリとか最高じゃないの! 外見に見合わぬ大人の包容力とか無敵よ無敵!!
ちっちゃな体におっきな愛情! ロリにぎゅっとされてよしよしされたらそいつはもうバブゥ!!』
頭沸いてるなと思った。
包容力ならストレートに大人の女性のが有利だろうと反論すると、
『馬鹿ね! ロリに甘えるのは大人では味わえない背徳感も得られて超お得!!
あと男は甘えるのも好きだけど甘えられるのも大好きなのよ!!
でも大人の女に甘えられるのはちょっと違うの。いやそれもそれで良いんだけどね?
けど甘えられるなら小さな女の子なのよ! 庇護欲をかきたてるならロリ!!
男の甘えられたい欲を刺激するならロリのがダイアグラム的に有利!!』
システムの異常で人類の頭がおかしくなってる可能性も考えた。
他の人類に失礼だからそれはないかと直ぐに考えを改めた。
『小さきものが大きなものに打ち克つのはダビデとゴリアテの頃から続くお約束なの!!』
これにはダビデも大激怒。
『見なさいこの世に満ちるロリママのバブみが描かれた多くの作品を!!』
変態は私に全年齢、成人向け問わず多くの作品を押し付けて来た。
正直、馬鹿じゃないかと思った。現実を生きろと。
『漫画なんか参考にならないって? ええ、確かにこれは妄想よ。
じゃあ妄想って何? こうあって欲しいという“願望”じゃないの。見るべきはそこよ』
普遍的なものではないにしてもマイナーと切り捨てられるほど少なくもない。
一定の支持を得ている欲望である以上、そこには確かな理がある。
『その手の性癖がなくても欲望を学んで行けばどう? 種を植えられるかもしれない』
種を植えれば芽が出るかもしれない。芽が出れば花だって咲く。
好みというのは後天的に植え付けることも出来るのだと変態は語った。
『競うな持ち味を活かせッッ! 誇れ合法ロリ、お前はエロい!!』
変態の背に私は後光を見た。
人間的な部分ではまあ普通に好かれていると思う。共同生活をしていたものね。
だが男と女の関係になるならそこから更に進む必要がある。
進むための鍵が性癖ということだ。性的な意味でも好かれたらもう完全に陥落したようなもの。
「……おじさまは真っ当な人間だからハードルは高い」
薄い本をめくりながら静かに呟く。
それは宣戦布告、或いは決意表明。
「でも、だからって諦めるつもりはないわ」
今まで私は何をしていた?
死のない世界に人類が適応出来るよう進化させようとしていたのだぞ。
それに比べたら何てことはない。十分勝ち目のある戦いだ。
「やるわ、私」
やってみせる。
「――――おじさまを絶対、年上好きのロリコンにしてみせる!!」
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