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相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


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問題解決 表

 本当に自分の意思だけで選んだのか?

 我ながら随分な物言いだったと思うがそうとしか言えないのだからしょうがない。

 あれから少女――テュポーンとは一言も口を聞かなくなった。

 俺に対する隔意というよりは今ある時間を考えるために割いているからだ。

 世界規模の事柄なのだ。どれだけ意識を割いても十分ということはあるまい。

 まあご飯を差し入れればしっかり食べていたのであまり心配はしていなかった。

 そうして十日が経った頃、


【お世話になりました。この御恩は必ず】


 と短い書置きを残してテュポーンは居なくなっていた。

 マヨヒガから出られたということは何かしら答えは出たのだろう。

 人類を滅ぼすことの是非を問うつもりはない。

 それはテュポーンの世界の話で俺が口を挟むことではないから。

 ただどちらにせよ後悔のない選択をして欲しいとは思う。


「やっと落ち着いたな」


 テュポーンが去ったと同時に俺もまた一旦、マヨヒガを出て現世に戻った。

 辞職から始まったあれやこれやの些事がまだ残っていたからだ。

 時間はまるで経過していなかったので問題はないが放置するのも気分的によろしくない。

 元々テュポーンが来なければ数日で現世に戻って後始末をするつもりだったからな。

 そんなわけでこの一週間、俺はひたすら後始末に追われていたがようやっと全てが終わった。

 ここからは気楽な無職ライフだ。食うには困らないので実に気楽なものである。


「よし、準備も出来たし行くか」


 新しい漫画、ネットはないが電気はあるのでゲームや映画などのDVD。

 マヨヒガに持ち込む新たな娯楽品を手に俺はマヨヒガへ飛んだ。

 多分これらも出そうと思えばマヨヒガの力で出せるのだろうが自分の物の方が愛着あるし。

 一瞬の暗転の後、霧の中に佇む日本昔話に出てきそうな古めかしい大きなお屋敷が出現する。

 特に弄っていないデフォルトのマヨヒガ、略してデフォヒガだ。

 雪中の駅舎はもう十分堪能したから一旦戻したのだ。


「お?」


 デフォヒガの中に用意した私室に荷物を運びこみ一息吐こうとしたその時である。

 マヨヒガの存在する空間に気配を感じた。それも見知ったものだ。

 外に出てみると、


「ご機嫌ようおじさま」


 テュポーンが居た。

 何時かと同じようにカーテシーをしてニコリと笑った。

 だが以前とは違い限界OLオーラは微塵も感じない。

 晴れ晴れとした空気を纏っているように思う。


「ご機嫌ようお嬢さん。立ち話も何だ。入りなよ」

「ありがとう。お邪魔します」


 テュポーンを中に招き入れ客間に連れて行く。


「前とは違うのね。これが素の状態かしら?」

「分かるのかい?」

「ええ。何となくだけれどね。あ、そうそう。これお土産のお菓子よ」

「ほう?」


 紙袋を手渡される。正直、かなりワクワクしてる。

 何たって異世界のお菓子だからな。

 同じ日本という国ではあるらしいが所在地は宇宙のどこかだからな。

 日本列島も転移の際に現地の惑星と融合したみたいなことも言ってたし。

 環境が違えば同じ作物でも違う味になるのだから期待しても良いだろう。


「改めて感謝を。あの時は本当にお世話になりました」

「うん。受け取るよ」


 テュポーンは畳に両手を突いて頭を下げた。

 ……実年齢は上だが見た目子供が自分より綺麗な所作してるのはちょっとクるな。


「私ね、辞めたわ」

「辞めたって」

「うん。ラスボス辞めちゃった♪」


 ラスボスて。

 いや人類を滅ぼそうって輩は確かにラスボスに相応しいとは思うけど。


「結局、おじさまの言う通りだったわ。考えれば考えるほどあれ? ってなったの。

状況に追われながらも都度都度冷静な判断を下して来たつもりだったけれど……ねえ?

おかしいじゃない。何で一個人が世界の行く末を考える必要があるのよ」


 世界の真実を知ったのはテュポーンだけでなく他にも居たそうな。

 けど彼らは皆、どうにもならぬことを知ると逃げた。

 ある者は記憶を消して現実から逃げ、ある者は死ねなくなる前に自らを死を選び逃げてしまったという。


「私は彼らに失望したわ。逃げるのかと。でも今なら言える。間違っていたのは私よ。

責任感とか使命感に突き動かされるままここまで来てしまった私の方がおかしいの」


 逃げることの何が悪いのだとテュポーンは鼻を鳴らす。


「あの戦いで何人が真実を知ったのかは知らないけど少なくとも百は居たわ。

にも関わらず今、世界の在り様を考え舞台に上がることを選んだのは私を含めて三人だけ。

マイノリティはどっちなのって話。どう考えても私たち三人が少数派の変人じゃないの。

だから辞めた。辞めたわ私。もう世界なんて知らない!! ってね」


 自分なりの結論を導き出せたのは結構なことだが……。


「そんな簡単に辞められたのかい?」

「そりゃまあ色々大変ではあったわ。けど人類滅ぼすのに比べたら楽勝よ楽勝」


 何でも異なる詰ませ方を掲げる残る二人のラスボスに決戦を仕掛けたそうな。

 そこで自らの死を偽装してラスボスを辞職したとのこと。


「アイツらは多分、気付いてるでしょうけど」


 手を出して来ることはないと言い切った。

 警戒はしても邪魔者が消えたのなら藪を突いて蛇を出す気はないということか。


「これからどうするかは何も考えていないけど」


 自分の人生を生きてみようと思う。

 そう言って笑うテュポーンの顔はとても綺麗だった。

 異世界の事情に思うところがないと言えば嘘になるが俺に出来ることはない。

 ならば彼女が憂いを振り払えたことだけを素直に喜ぼう。


「折角だ。門出を祝って乾杯でもするかい?」

「ふふ、そうね。それならココアが良いわ。私とおじさまの思い出の味だもの」

「OK」


 今度は二人の分のココアを作って二人でカップを軽く打ち合わせる。

 何とも間抜けな絵ヅラではあるがきっとこれで良いのだ。


「しかし……世界を渡る方法が分からないって言ってたのによくここに来れたな」

「今も分からないわ。ただここには来れるって感覚的に分かるの」


 一度縁が出来たからだろうとのことだがテュポーンにも原理は分からないらしい。

 まあどうしても知りたいというわけでもないし構わない。

 俺としてもこの小さな友人との縁が続くことは嬉しいし。


「それで、その……ご迷惑でなければこれからも遊びに来て良いかしら?」

「勿論。何なら部屋を用意するから自由に使ってくれて構わねえよ」

「本当に? 嬉しい!」


 洋物座敷童みたいなもんだと思えば御利益もありそうだ。

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