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第3話「呪いじゃなくて」【完】


「他は? たまご以外」

「……冷凍餃子でグラタンみたいにしてたやつ……」

「あぁ……なんちゃってラザニアね。グラタンじゃないよ、ラザニア」

「……枝豆。あとは結の好きなの」

「ん、おっけ。分かったから――いったん離して?」


 さすがにずっと抱き締められているのは、そろそろよく分からない。

 胸に手をついて、少し離れる。

 ……海翔、泣いてるみたいに、見える。ずき、と胸が痛い。


 ――そっかぁ。そんなに、好きだったんだ。

 こいつを泣かせるとか、すげーな。

 ……今回は知らない子なんだよな、オレ……。話、聞いてやろう。


「海翔、とにかく上がって」

「やっぱり、今はつまみ、いらない」

「え?」


 また引き寄せられて、抱き締められる。

 本当によく分からない。


 ただ体は正直で。

 めちゃくちゃドキドキしてるし、多分、顔も、赤いんじゃないかと思う。


「オレ――何人も、付き合ってきた、だろ」

「え? あ、うん」

「もう……10年くらいさ」

「うん……?」


 海翔は、数秒黙ってから、思い切ったみたいに、続けた。 


「――ずっと好きな奴が、居るんだ」

「――――」


 涙声。

 ……泣いてる。


 10年。好きな奴? 海翔が10年も?

 そんな奴、居たの? 全然知らないんだけど。え、じゃあ付き合ってきてた子たちは?

 なんだか頭にたくさんの疑問が浮かんでは、聞けずに消えていく。


「でもそいつは――親友だから。ダメだって思って。

 他の子を好きになろうと思ってきたけどダメで……。

 一番気が合って、この子ならて思った子と付き合ったのに、やっぱりダメだった」


 10年。

 ずっと好き。

 親友だから、ダメ。

 他の子、好きになろうと思ったけど、ダメ。


「キスも、出来ない。だって、好きじゃないから」


 震える声。


 ――好きじゃないから、キスも、出来ない。


「……」


 いま、こいつが言ったことって、

 全部そのまま、オレの気持ちみたい。


 そう思ったら。

 胸の鼓動が大きくて。痛いくらい。


 なんだか緊張で張り付いた喉から、掠れる声で、オレは言った。


「海翔――」


 名前を呼ぶと、海翔は少し離れて、オレの顔を見下ろした。



「オレと、なら……」


 初めて見る、涙の滲む瞳。

「親友」とは違う、なにか別の想いがこもってる気がする。

 オレは、それが、何か知ってる、と思った。



「――キス、できる?」



 海翔の腕に触れて、視線をそらさずに、そう聞いた。


 海翔は、ぐっと眉を寄せて、泣きそうに瞳を細めたと思ったら。

 オレの目の前で、ぼろ、と涙をこぼした。



「――結としか……したくない」


 ぐい、と涙を拭ってる海翔の顔を、両手で挟んで。

 オレは、生まれて初めてのキスをした。


 数秒、触れた。



 ――永遠みたいな、数秒。



 ゆっくりと唇を離して、見つめる。



「――まったく同じ10年……過ごしてた、かも……」



 言ったオレの瞳からも、予期しない雫が、ぽた、と零れ落ちた。

 あ、と驚いて、拭ってるオレの頬に、大きな手が、触れた。


「キスしても、いい?」

「……今したけど。オレ」


 ちょっと泣きながら、それでも笑ってしまうと。


「――ん」


 ふ、と優しく緩む、海翔の瞳。

 それがゆっくりと、近づいてきて、


 一瞬ためらうように、止まってから。



「ずっと、好きだった……」


 言われてすぐに、唇が触れた瞬間、

 オレは、瞳を伏せた。




 また、熱いものが、目の端を伝って、零れ落ちた。






 呪いじゃなくて。

 多分。



 ――愛だったんだって。




 その瞬間。思った。








 ** Fin **



◇ ◇ ◇ ◇

10年の両片思いが、結ばれる、ほんの短いやりとりを書きたくなって

書いたお話でした(*´ω`*)

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