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第94話『巨像から隠れ打つ円盤』

 『波紋』を使用してダッシュ。それと同時に発射される光線銃から身を捩って回避する。


『ドローンは構造上、真下を狙う時に若干発射するスピードが遅くなる』


「つまりドローンの下を通れ、か!」


 血肉を巻き上げて赤色の壁を作り出す。ドローンとエレファントは刹那、迅鋭を見失った。

 発生した隙に合わせて大きく移動。エレファントの背後、ドローンの真下へと回り込む。


 そしてエレファントの足を踏み抜き『波紋』を使ってジャンプ。体を跳ねて一気に駆け上がる。

 追いかけてきたドローンの銃口。集約した光の束は迅鋭に発射──される前に斬撃が放たれた。


「まずは一匹」


 迅鋭は二階部分の通路に着地。──そこへエレファントの薙ぎ払いがやってきた。

 通路を壊しながらやってくる腕をジャンプで回避。そのまま飛び乗る。そして──再度ジャンプ。

 飛んでいたドローン二機を縦に真っ二つに切り裂き、迅鋭は受身を取りながら着地する。


「二匹。三匹」


『狭い場所に誘導しろ。エレファントの行動を制限できる』


 残った二機は迅鋭に銃口を向け、エレファントは迅鋭を踏み潰そうと脚を振り上げる。

 ──波打つ地面を横に見ながら回避。放たれる光線銃も紙一重で躱しながら一階のアパレルショップへと飛び込んだ。


 ハンガーにかけられた服を巻き上げながら連射される光線。飛び散る布片に紛れながら迅鋭は移動。ある程度は低空になったドローン二機を──切断。


「──鬱陶しいのは潰した。後はデカブツだけじゃ」


『まずはエレファントの関節部分を狙え。装甲が薄いはず』


「分かった」


 ──金属の体躯が店の中へ入ってくる。

 店の高さは三メートル弱。五メートルの体を持つエレファントは屈んで入ってくるしかない。

 こんな狭さじゃ十分に動けないだろう。ならば迅鋭のフィールドだ。


 連続で叩きつけられる拳をのらりくらりと躱しながら股下へスライディング。膝裏の方へと移動し──斬った。

 しかしダメ。傷は付いたがダメージを与えるにまではいかなかったようだ。


「一応傷は付いたぞ! じゃが奥に切り込むには時間がかかる!」


『じゃあ首だ。エレファントの周りを動きまくって撹乱しろ』


 上から下へ小さい隕石のような拳が降り注ぐ。それを難なく回避し、迅鋭は積まれてあったセール品の服を目の前にばらまいた。

 エレファントは服ごと迅鋭を叩き潰す──しかし迅鋭は既にそこにいなかった。


 右側へ『波紋』を使って瞬時移動した迅鋭──すぐさまエレファントは拳を振るう。

 これも回避。巨体だからといってスピードは遅くない。特に拳を振るうスピードはこの巨体であってもボクサーに匹敵するほどだ。

 だが迅鋭は予測してるかのように軽く攻撃を回避し続ける。


 後ろ──攻撃。

 次は左──攻撃。

 残念、前でした──攻撃。


 柱を壊し、マネキンを砕きながら、エレファントは迅鋭に攻撃し続ける。

 機械に『怒り』などないはずだが、心なしか拳のパワーが段々と上がっている気がした。


 ──エレファントのアームハンマーが地面を砕いた。降りてきた拳に迅鋭は飛び乗り、腕の上を走り抜ける。


『首の稼働軸が動くたびにほんの少しだがか隙間が生まれる。そこを狙え』


 肩を踏み抜いてジャンプ。──同時にエレファントは自分の肩を自らの拳で打ち抜く。


 黒色に塗装された首。人間のものとは違う金属のもの。分厚さが段違いな刀では切り裂くことはできない。

 だが──傾けている方向とは逆の部分に小さな隙間があった。


 まさにドンピシャ。迅鋭は空中で刀を大きく構え──隙間に向けて正確に刀を滑り込ませた。


「──斬った」


 転がりながら着地。エレファントは切断した部分に電流を漏らしながらも、まだ倒れずに迅鋭を見ている。


『倒れないか。だったら通気孔を探せ。中の機材を冷やすために空気を入れる穴があるはずだ』


「了解。それはもう見つけとる」


 ──巨大な体躯。その胸の中心に小さな小さな穴があった。おそらくはそれが通気孔。


 狙う場所が分かったのなら簡単。迅鋭はエレファントに向かって真っ直ぐ走る。

 ──最後の抵抗。金属の巨腕が迅鋭に向かって発射された。


 テレフォンパンチなど恐るるに足らず。ジャンプで避けつつ足蹴にして加速。エレファントの胸に刃先を向け──。

 ──正確に刀を突き刺した。



 機械の体から熱が消える。漏れ出た電気も蒸散し──静かに倒れた。


「──よっこらせ」


 刀を抜いて血とオイルを拭き取る。


「人質はどうなった?」


『ちょっと待ってよ──安心して。全員保護されたってさ』


「……そうか」


 ……血と肉の海を見ながら、迅鋭は悲しそうにそう答える。


 半分は守れた、のではない。半分『も』死なせてしまった。

 もっと上手くできていたのではないか。もっと早く向かっていれば助けられたのではないか。考えるほど自分が憎らしくなる。

 そして──またあの言葉を思い出した。


『貴方は幕末から何も変わっていない』


 結局、今回も暴力で終わらせた。しかも前回よりも凶悪な暴力だ。

 アイスは実に的確に自分のことを表している。何も変わってなんかない。どこまでも血に濡れた殺人鬼でしかないのだ。


『……迅鋭。悪いのは碧愛会、もっといえば全部エンテイだよ。自分を責めないで』


「……ふぅ、分かった。気をかけてくれてありがとう」

「ヴォッシュもだ。お主のおかげでデカブツも倒せた。感謝する」


『……おう』


 ──さて、ブルーになるのは終わり。人質はとりあえず救出できたのだ。


「そういえば、イヴはどこだ」


『それが──居ないの』


「え? もしかして行き違いになったか?」


『それはそうなんだけど、多分迅鋭が思ってる行き違いとは違う』


「? イヴは家に帰っておらんのか?」


『うん……そうらしいんだ』


「じゃあイヴはどこに?」


『……統合政理局』


「は?」


『簡単に言うと──内閣総理大臣のところだよ』



* * *



「内閣総理大臣!? は!? なんでじゃ!?」


『私だって分かんないよ……急にロアから連絡が入ってきて『イヴが連邦本部に向かった』って』


「何を考えとるんじゃあいつは……!」


 イヴの行動原理が分からない。通話の奥からでもカレンが困惑しているのが分かる。


「くそっ……とりあえず儂も連邦本部って所へ向かう。ロア殿はどこじゃ? すぐに合流する──」


 ──迅鋭はふと違和感に気がついた。

 中の碧愛会の奴らは全員殺した。かなり暴れた上、一時的にショッピングモールの電気だって消えた。

 なのに──なぜ警団連が入ってこないのだ。


 彼らの目的は人質の救出と碧愛会の捕縛、討伐のはず。ならば中で異常が起これば突入してくるはず。

 警戒してしなかったとしても、碧愛会を掃討した今、警団連が入ってこない理由がない。


 なのになぜ警団連は来ないのだ。なぜ──人がいる気配がないのだ。


「……カレン。外の様子を見てきてくれ。なにか怪しい」


『分かった──』


 超小型ドローンは高速で出口へと走った。


「何が起きてる。カレン」


『──嘘、でしょ』


 映った映像に唖然とする。近くにいたヴォッシュの漏れ出た言葉も耳に届いてきた。


『死ん……でる……!?』


『外にいる警団連が全員殺されてる!』


「……」


 ──凄惨な現場であった。それこそショッピングモールと遜色のないほどに。


 不意打ちか、それとも真正面からか。──両者の痕跡がある。

 死体はほとんどがパズルのようにバラバラになっていた。腕は切られ、足も切られ、近くには生首が転ぶ。


 地面に付いた血液から、今さっき殺されたのが分かる。つまりこの現場を作り出した何者かが近くにいるのだ──。


「カレン。ロア殿に伝えろ──合流はしない。先に行っててくれ、と」



 ──高速で飛来する円盤。亜音速に匹敵するであろう円盤を迅鋭は『羽衣』を使って弾き飛ばす。


「──これを弾くかぁ……」


 円盤は弾かれてもなお回転力を落とさず、ブーメランのように軌道を戻し、迅鋭を通り超えて──元の持ち主の場所まで帰っていった。


「エレファントを倒したんだ。凄いね。オブスキュラが手こずるのも理解できる」


「誰じゃ」


「名乗る時は、まず先に自分から名乗るのがマナーなんじゃないの?」


「……答えろ」


 明確な殺気を持って迅鋭は話す。それに男は──笑って答えた。


「──ヴィンクルム。エンテイ様の忠実なる下僕。それだけ言えば、分かるよね?」


「外に死体がある。お前の仕業か」


「言わなきゃ、分からない?」


「いや──言わなくていい」


 刀は大きく構えられ、ヴィンクルムへと襲いかかった──。

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