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第9話『作戦開始』

 ──その日の夜。昼の活気も消え、街は静かな音を立てる。

 千華街から離れた海岸沿い。そこには今は使われていない赤い倉庫があった。まぁなんというか……あからさまに悪い取引とかしてそうな場所だ。


「ここにヤクザがいるというのか?」


「カレンの情報網によるとね」


 ロアがポケットからなにかを取り出す。


「ちょっと動かないでね」


「な、なんじゃ──」


 その『なにか』を迅鋭の耳に入れ込んだ。


「これでよしと──マイクテストお願いねー」


「まいくてすと? なんじゃそれ──」


『──あー、マイクテスト、マイクテスト』


「──ワギャァァァァァ!!??」


 ──予想外の驚き方。咄嗟(とっさ)にロアは迅鋭の口を塞いだ。


「驚きすぎよ!!」


「じゃ、じゃって声が!」


『あはは! 面白い反応! 私だよ。分かる? カレンだよ』


「……あぁ! カレンか! どこにおるんじゃ? 姿を見せてくれ。声だけ聴こえるのはなんともむず痒くてな」


『んー。それは難しいね。私、家だし』


「……家?」


 ここは家からかなり離れている。まぁ普通声なんて届くはずもない。少なくとも迅鋭の時代はそうであった。――だがここは未来。時代は進化したのだ。


「家って……家からはかなり離れとるぞ。ここ」


『これが機械の力! 迅鋭の時代からかなり進歩したんだよ?』


 未来にやってきてから驚きの連続だ。これからもまだまだ驚きは増えそう。なんて予感がよぎる。

 それはそれとして情報の処理には時間がかかるようだ。


「こんなんで大丈夫かしら……」


『今回はロアだけで十分だったでしょ? なんでわざわざ連れてったの?』


「だって最初だし。どんなことをするか見せたくって。それに何かあった時の弾除けも必要でしょ?」


「た、弾除けか……」


『ふーん。まぁもう何言っても遅いけど。とりあえず迅鋭に説明するね』


 自分の名前を出されて正気に戻った。


『今回の目的はペンダントの奪還。ロアが買った偽のペンダントと本物をすり替えるの。こっそりとね』


「単純じゃな。……儂いるか?」


『私もそう思う。でもまぁもしもの事もあるしね。その時は……よろしく』


「出会って一日目のヤツに命を任せるとは。お主もなかなかイカれとるな」


『──何かあったら私が殺すだけだし』


 ……変わらないテンション。変わらない声質。だからこその圧があった。


「……肝に銘じておくさ」


 そんなカレンに笑って返せる。迅鋭もまたイカれていると言えるだろう。



『本題に戻るとして──ペンダントの位置は特定できてるから、迅鋭は私の言う通りに行動して』


「家に居るのに場所が分かるのか?」


『電子機器探知機っていうやつで目星をつけてんの。それと超小型のドローンで家からでも映像として迅鋭たちを見られるんだ』


「小型? ドローン? ……もしかして儂の周りを(ハエ)みたいにうろちょろしとるやつか?」


『──はぁ!? 見えんのこれ!?』


「これじゃろ?」


 迅鋭が指を指す。──大正解。自宅にいるカレン。その前のパソコンには迅鋭の指が映し出されていた。

 ちなみにドローンの全長はわずか二ミリ。音も二デシベルと無音とほぼ同義である。


『驚いた……この薄暗い場所でよく見えるね』


「昔から目が良くての」


『ふぅん。頼りがいがあるぅ!』



 二人の会話に割り込むように。ロアがカレンに尋ねた。


「位置が分かったってことは──」


『ロアの予測通り。あのペンダントには『情報』が入ってる』


「情報?」


「父親が遺した形見だけを盗んだ……多分ヤクザたちにとっても良くない情報が隠されてるんでしょう。もしくは──どっかに盗みの依頼でもされたとかね」


『どちらにせよ、ヤクザもペンダントを守ろうと必死になってるはずだよ』


「足でまといの一人や二人、私にはなんの障害にもなりやしないわ」


「誰が足手まといじゃ」


『まーまー。──それじゃ頼んだよ。期待の新人さん』




 倉庫の正面には警戒しているヤクザが二名。隙をついて入る──のも難しそうだ。ならば残る選択肢は三つ。横、上、下だ。

 上はまず無理。ほとんど掴む場所のない垂直の壁は登ることなど不可能。下からも時間的に無理。ならば残るは横からだ。


「あそこからなら行けそうね」


 倉庫の右側。外から二階へと登れる梯子が取り付けられてあった。


 陰に隠れてそそくさと移動。小動物にすら気が付かれないほど完璧な隠密で梯子までやってきた。梯子は古いが壊れる心配まではしなくてもいいだろう。

 錆びきった梯子を慎重に登る。手に着いた金属の粉を落としながら、足場へと身をよじ登った。足場は簡易的で歩くだけでも音が鳴る。


「ここからは静かにね。できるだけ遅く行くけど、頑張って着いてきて」


「心配されるほど歳はとっておらんぞ」


『私の声は外に漏れないから安心してねー』



 ──中は思っていたよりも明るい。陰に隠れていなければ一瞬でバレるほどに。


『確認してみたところ──中にいるのは二十人ほどだね』


「結構いるわね……」


 かといってやることは変わらない。念頭に入れつつ行動を開始する。

 配線を伝い、壁を伝い、コンテナへと飛び移り、地面へと降り立つ。抜き足差し足忍び足。ロアの素早い動きに迅鋭もついて行くのがやっとだ。

 見回りをしているヤクザから身を隠しながら──管理室に到着した。


「よく着いてこれたね。正直心配だったんだけど」


「なら初めからゆっくり行っとくれ。この歳になると動き回るのはキツイんじゃ」


「『この歳』? まぁよく分かんないけど……着いたよ」


 ともかく管理人室へと到着した。ガラス窓からは男が一人、ホログラムを弄っている姿が確認できる。

 部屋には一人。見回りもここにはあまり来ていない。──絶好のチャンスだ。


「一人」


『ならいつも通りに行こう』


「迅鋭はここに居てね」


「分かった」



 男はため息をついていた。理由は彼女とのメッセージ。ちょうど『もう別れましょう』の文字が流れているところである。


「そんな……お前もヤクザだからって理由でフるのかよ……」

「高いプレゼントだって……拷問だって体験させてやったのによォ」


 なんて頭がおかしいことを言っていた時──突然、ホログラムの動作が鈍くなった。


「ん? なんだ? 電波が悪いのか──」


 ──突如、ホログラムから爆発したかのような音が流れた。


「はぁ!? なんだよなんだよ!?」


 急いで電源を切る──がもう遅い。音に(じょう)じて部屋へとロアは侵入していた。

 彼女に振られた直後の男にそんな繊細な感覚など持っているはずもなく。机の上のペンダントをこっそりとすり替えられた。

 ──直後にまた爆発音。


「くっそ故障かよ……あー災難だ俺」



 作戦成功。びっくりするほどスムーズにことは終わった。


「はーい、いっちょあがり♪」


 見せつけるようにペンダントをクルクルと回した。


「す、凄いの……」


「私にかかれば、ちょちょいのちょいよ」


『ちょっとー。私のおかげっていうのも忘れないでよー』


「はいはい。帰ったら好きな物作ってあげるから──」


『──待って。誰か来た』

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