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第83話『詰め将棋』

 ──顔面。──左脇腹。──右脚。

 三方向から迅鋭を切り裂こうと、剣へ変形したアームが襲いかかってくる。


 それらをバク宙、片手側転で回避しながら、距離を一気に詰める──。


「ふふっ」


 ──そこへ残しておいたアームが展開。迅鋭を包み込もうと、花のように広がったアームが迅鋭を囲いこんだ。


「──っ」


 その直前に『波紋』で距離をとって脱出。だがその後隙を狙ってアームが振るわれる。

 ──これも避けた。


「ほらほら、頑張ってお逃げなさい」


 休む間もなく連続でやってくるアームの攻撃。迅鋭は接近するチャンスを伺いながら、それらを的確に躱していく。


 同時に迅鋭は敵の分析も行っていた。

 アームの射程距離は十メートルほど。これはナノマシンの動作によって変わるが、とにかく十メートルはある。

 そして単純な攻撃スピードは大したことがない。『先の点』を使用するまでもなく、見てからですら避けられる。だが──。


 アームの形状が変化。特殊な形の円筒となり──迅鋭に向かってビームが発射される。


「未来はほんっと光が好きじゃな!」


 体を捻ってギリギリ回避。しかし光線は追いかけるように薙ぎ払われる。

 ──またもや回避。切断される地面を見ながらバク宙で距離を取る。


 まだダメージを入れたのは最初の不意打ちだけ。迅鋭も無傷ではあるが、時間の問題だろう。

 素手の迅鋭が攻撃するには接近する必要があるが四つの難点がある。


 まずはアームの手数。六本のアームから繰り出される連続攻撃は、いくら遅いとはいえ厄介。攻撃に転じる暇がない。

 次にアームの性能。ナノマシンの変形により遠近両用、さらには防御まで可能と応用力が高すぎる。仮に接近できても壁を貼られては、今の迅鋭では何も出来なくなってしまう。

 そして地味に厄介なのが、二本のアームを使って浮いているという点。これによりシンプルに攻撃の射程が届かない問題が起こっている。

 最後に──相手がスーツを着てると言うこと。おそらくアームを掻い潜ることに成功したとしても、スーツ相手での近接戦闘はリスクしかない。まともに戦うのは困難だ。


 ──率直に言って無理ゲーだ。真正面から戦って勝てる相手じゃない。


「よく頭を巡らせてますわね。ですが──全部無駄。貴方では私を倒すことはできない」


「そういうのは、儂に傷を負わせてから言ってみよ」


 軽口を叩いてはいるものの、劣勢なのは変わらない。迅鋭は未だ攻撃に転じれずにいた。


「どうするか……」


 ──真正面からは倒せない。

 近づいて攻撃するには六本のアームを掻い潜り、馬鹿げた力を持つオブスキュラと素手で相対しなければならない。


 こんなもの正統法では到底無理だ。ならば──策を弄する。



 迅鋭は回避しながら更にバックステップ。オブスキュラから大きく距離を取る。


「あら、追いかけっこですか? 負けませんわよ」


 アームを駆使して虫のように移動。四本足で物品を壊しながら進み、残りの二本で迅鋭に攻撃を続ける。


 ──机の下をスライディング。さらに足を掴んで机の上へと飛び乗った。

 追いかけてきたアーム一本は机の下を、もう一本は上からと挟み撃ちのようにして潰しにきた。


「さぁ、捕まえましたわ──」


 アームが迅鋭を包み込む──その時。迅鋭の体が水になった。


「──へ?」


 アーム同士で正面衝突。混乱するオブスキュラ。

 ──迅鋭はその隙に回り込みながら接近していく。


「なぜ……!?」


 疑問は残るが目の前のことにとにかく集中。

 衝突でアームが引っ付いてしまった。とりあえず今は残りの四本で対処する。


 アームをハンマーに変形させ迅鋭を叩き潰す──これは地面を滑って避ける。

 続く丸鋸。オブスキュラの真下を通る迅鋭に切り付けるが──これもアクロバットに避けられた。


「ちょこまかと──」


 ──視界が暗転する。

 強烈な刺激が目を襲う。反射的に目を覆い──視界が塞がった。


(目潰しか! しかし何で──)


 直前のスライディング。あの時にオブスキュラ自身が壊した床面の破片をすくいとり、投げつけたのだ。


(小細工を……まずい。体を守らなくては……!)


 咄嗟に二本のアームを使って全方位にシールドを展開。とりあえず視界の確保を取らなければ──。


 ──後頭部に衝撃が走る。


「──っぁ!?」


 落ちる体──首筋と頭を掴み体を引き上げる。空中での膝蹴りがオブスキュラの顔面に突き刺さった。

 威力自体はそこまで。問題はオブスキュラの混乱がさらに深まったことだ。


 息をつかせる間もなく脳天に肘打ち。──この一撃にてオブスキュラの体は地面に着陸した。


 ──好機。大チャンスだ。

 側頭部への肘打ち。喉元への打撃。顎への掌底──。

 弱点に向かっての的確な三連撃。スーツのおかげで肉体強度が上がってるとはいえ、これはかなりの痛手だ。


「ぐ──このっ!!」


 苦し紛れのストレート。素人感満載の拳など、見切るのは容易だ。

 ──向かってくる手首を掴み、捻る。真正面に向いていた力は横へと流れ、体内の軌道は狂い──地面へと叩き落とされた。幻水流『海月風鈴』だ。


 これでトドメ。落ちたオブスキュラの顔面を踏みつける──。

 ──バリアを突き破ってアームが突入。狙いはもちろん迅鋭だ。


「クソっ──!」


 回避──アームは地面に衝突。頑丈と思われた床には大きくヒビが入り──床を崩壊させた。



 崩壊に巻き込まれて二人とも下へと落ちる。

 この階は吹き抜けとなっており、迅鋭は二十七階へ。オブスキュラはさらに下の二十六階へと背中から落下した。


 迅鋭は受け身をとってギリノーダメージ。オブスキュラは受け身も取れずに衝突するが、スーツのおかげで対してダメージはない。


「あぁ……痛いです」


「そうか。そのまま死んでくれると嬉しいんじゃが」


 こうは言ってみるが、こちらも今の連撃で倒しきれなかったのは痛い。あれだけ接近できて、あれだけ殴れる機会はもうやってこないだろう。


「女の子の顔をボコスカ殴るなんて……なんて酷い人なんでしょう」


「女の『子』って年齢でもなかろう」


「女性に年齢のことを言うのはご法度ですよ。デリカシーのない人ですね」


 ──繋がっていたアームは復活。視界も元に戻ったようで、涙の溜まった目を擦り、こちらを見つめていた。


 また仕切り直し。先程と違うのは──このフィールドだ。

 ここは社員専用の休憩階……といったところか。迅鋭の階には仮眠スペースに充電室、トイレにオイルチャージャーと人間とロボットが休息を取れる場所がある。

 見える範囲の下の階にはマクレランのオブジェと座席。一個下も休憩階か。なんとも贅沢なビルだ。


 さっきの場所も広かったが、ここは格別。オブジェこそあるものの、平坦な場所でオブスキュラとは戦いたくない。

 とりあえず狭い場所、廊下にでも誘導して戦う他ないだろう。


「仕切り直し……といったところじゃな──」



 ──二人と共に落下してきた瓦礫を掴み、迅鋭に向かって投げつける。


「うぉ──!?」


 身をかがめて回避。──しかし止まらない。瓦礫、ソファをダッシュで避ける迅鋭に投げ続ける。

 瓦礫もソファも弾切れ──その瞬間を見計らって迅鋭は手すりを踏み台にジャンプ。オブスキュラの近くにまで落下していく。


 オブジェを跨ぎながら向かってくるアーム。空中で身を捌きながら、迅鋭はオブジェの上へと着地した。

 ──と、同時にハンマーがやってくる。しかも二本のアームを掛け合わせた、先程よりも強力なハンマーだ。当たれば一撃即死は確定。

 ならば避ける。迅鋭は大ジャンプでオブジェから飛び降り、ハンマーの軌道から脱出した。


 砕けるオブジェ。破片は細かく飛び散るが、どちらも目線は外さない。


「これ、全部貴方が壊したことにしておきますね」


「馬鹿言え。修理費用は全部そっちのボス持ちじゃ」

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