表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/100

第80話『雪月花』

 小綺麗な廊下を走るマクレランとカレン。いつもは仕事に追われている人でごった返してるはずだが、今は人のいる気配すらない。


「新製品発表会の時は下っ端の従業員も見にこさせてるからね」


「意外と……厳しいね……」


「だ、大丈夫か?」


 もうヒィヒィ息切れしているカレン。ただでさえ運動不足なのに加え、行動を補助してくれるスーツも着ていない。

 となれば、ちょっと走るだけで酸素を取り込めなくなるのは当然のことだ。


「ちょっと……休憩……」


 柱に寄りかかって小休止。グルグルと回る肺の中を整える。


「エレベーターは……?」


「使えなくなってるようだ」


「なぁんで全部集中させちゃったの……」


 中央管理室はこの場所から二階ほど登った場所にある。ヘナチョコ体力のカレンには少々厳しい距離だ。


「……今思ったんだけど、さ。内部からハッキングしてるってことは、中央管理室に敵がいるんじゃないの?」


「そこは安心したまえ」


「なにか生きてる防衛システムでもあるの?」


 マクレランが内ポケットから取り出したのは──拳銃。装飾の入ったリボルバーであった。


「こんな時のために忍ばせておいたんだ。敵がいたらこいつでズドン、ってな」


「……」


 カッコイイにはカッコイイが……なんだか不安になってきた。レーザーやビームが普通の時代にリボルバーとは。そもそも銃刀法違反じゃないか。

 まぁとやかく言っても仕方ない。今の状況じゃ何も無いよりはマシだろう。


「昔『ガススリンガー』ってヒーローがいてな。幼き頃の私はデススリンガーに憧れて赤いマントを買ったり──」


「はいはいカッコイイ。早く行かないと」


「む、つれないな」


 呼吸も肺も整った。二人は目的地に向かって走り出す──。



「──!!」


 ──瞬間、後方から青白いレーザーが。ギリギリでマクレランがカレンを押しのけて回避に成功する。


「しゃ、ちょう……!」


「逃げてください!」


 傀儡のように操られる警備兵が銃口を二人へと向ける。


「やばいやばい……!」


「ちょ、銃あるでしょ! 撃ってよ!」


「社員を撃てるか! 会社にとって社員は宝だ!」


「そこで優しさ見せなくていいから! どうせスーツ着てるから致命傷にはならないでしょ!?」


 光り出す銃身。銃口は変わらず二人へと向けられている。


「ちくしょう、逃げるぞ!」


 背中から走ってくるビームを避けながらダッシュ。壁にできたビームの穴を見て背筋がゾワリ。さっきまでの疲労も命の危機とあっては無効化される。


 廊下を通り抜け、曲がり角をレーサーのように急カーブ。広めの階段を二段飛ばしで駆け上がる。

 どちらも小さい体に鞭を打ち、バッタのように押し上げながら走り抜け──。


「嘘でしょ……!」


 ──目的の階。そこには三体のドローンが待ち構えていた。

 ドローンに搭載されているのは警備兵以上の性能を誇るアトミックガン。当たれば原子すら焼き切るほどの高威力のビームを放つことが可能だ。


 ドローンはゆっくりと赤いレンズを二人へと向け──『発見した』と言わんばかりに十字の光を点滅させた。


「あ、あれこそ撃てるでしょ! 当たり所が悪くても死なないし!」


「いやでもあれ結構高かった気が……」


「言っとる場合か!? 早く撃ってよ!」


 即座にリボルバーを取り出し、狙いを一瞬で付けて発砲。昔ながらの火薬の音と共に鉛の玉は発射された。

 ──ガキン、と。銃弾はドローンに命中。

 他の二体にも速射。こちらも見事命中。ドローンへのダメージは微妙だが、接着時の衝撃により、少しだけ機動力を失ってしまう。


「今のうちだ!」


 その隙に二人は猛ダッシュ。ドローンの隙間を通り抜けて奥の廊下へと走った。


「どうだ? 火薬の銃もまだまだ捨てたものではないだろう?」


「レーザー銃の方が軽いし良くない?」


リボルバー(これ)の良さが分からんとは……やはり男と女は一生分かり合えないな」


「はいはい──ほら次も来たよ!」


 次は二体。音に反応したのか、敵に操られているのか。

 二体のドローンは高速移動でこちらへと接近してくる。


「ほいほい!」


 格好つけながら三連速射。火薬の甘い香りを鼻に取り入れながら、また再加速をして走る。


「カレンさんよ! いいニュースと悪いニュースどっちが聞きたい?」


「え、急だね。……じゃ、いいニュースから」


「この角を曲がれば、もうすぐ中央管理室だ」


「……悪いニュースは?」


「リボルバーは弾切れだ。あと変な打ち方をして手首がイカれたかもしれない」


「──っバカぁ!?」


 曲がり角をドリフトするようにカーブ。筋繊維の痛みに耐えながら前を見ると──その先には中央管理室が──の前には警備ロボットが待ち構えていた。


「やっばいじゃん!? どうするの!?」


「これは……大ピンチというやつか!」


 警備ロボットがこちらに気がついた。とりあえず逃げようと──後ろには復活して追いかけてきたドローンが追いついてきている。

 前には敵。後ろにも敵。唯一の反撃手段は弾切れで使用不可。それ以外に武器は持っておらず、二人とも戦闘技術などない。

 これは──相当ヤバい状況なのではないか。せめて一人くらい援護に連れてくるべきだった。


 警備ロボットにドローン。両者の銃口が光り輝く。同士討ちでもしてくれれば希望はあるだろうが、それは希望的観測というものだ。

 どうするか。どうやって切り抜けるか。思考回路を突っ走らせるが、どう足掻いてもデットエンドの結末しか思い浮かばない。


「……カレンさん。これが中央管理室のカードキーだ」


「え?」


 マクレランが冷や汗を震わせながらカレンにカードキーを渡す。


「ビームは誤射を防ぐために連射式じゃなく単発式を採用している。つまり蜂の巣にされても、逃げられる可能性は高い」


「……囮になる、とか言わないでよ」


「頭のいい子は理解が早くて助かる」


 銃口に溜まる光弾。十秒、いやそれよりも早く、光の弾丸は二人を撃ち抜くだろう。


「私も既に殲滅対象に入ってる。私だけを逃がすなんてできないでしょ」


「……ここのロボットは自動的に危険度を判断し、危険度が高い対象を優先的に排除しようとする」


 マクレランはそう言うと──弾の入っていないリボルバーを高らかと持ち上げた。

 ──二人に向けられていた銃口は一人に集約された。


「ヘイトは集まったな……頼んだぞ」


「待って、死ぬ気!?」


「二人死ぬか、一人死ぬか。どちらを選んだ方がいいかは子供でも分かるだろう?」


 残り三秒。三秒先に避けられない死がやってくる。

 恐怖だ。恐ろしい。ギリギリのプライドで漏らしてないだけで、脚が震えるほどの恐怖が襲ってくる。


 だが──このまま二人とも死んでしまえば、この会社にいる全員が死ぬ。そしてあの女の思い通りになってしまう。

 それだけは避けなければならない。カレンさえ行かせることができれば、小さじ一杯くらいの希望はあるはず。


「……後は頼んだ」


 会社を。そしてパッカーを。全部託すと言うかのような目線をカレンへと向ける。


「……あんまり重荷背負わせないでよ」


 ──カレンも覚悟を決めた。

 次のビームが再装填されるまでにロボットを通り抜け、中央管理室へと入り込む。

 鍵を閉めさえすれば時間はできるだろう。その間に──あ、でも中に敵がいる可能性があるし。だけどそうなると──。


「──えぇい! 考えすぎるな!」


 なるようになるし、なるようにする。できなければ死ぬ。死にたくないから、全力で頑張る。──今はただ、それだけだ。


 残り一秒。静寂と冷気に包まれる空間。

 カレンはただ入口を見つめ。マクレランは半泣きで両手を広げている。


 そして残り──ゼロ。光弾は発射前の最後の輝きを出した。

 同時にカレンは走り出し、マクレランは強く目を瞑る。閃光は廊下を包み込み、命を刈り取る光線が発射された──。



* * *



 ──凍りついた。


「……え」


 表現そのまま。ドローンと警備ロボットを巻き込み、廊下は氷の世界に包まれていた。


「……は?」


 なにか、起きたのか。カレンもマクレランも、周りと同じように固まっていた時──凍りついたドローンを破壊しながら、歩いてくる者を発見した。


 ──その髪は氷のように透き通っている。

 ──その目は氷のように煌めいている。


 彼女の吐く白い息は空間に掻き消え、氷によって密室となった空間に彼女の足音が反響していた。


「貴女は……」


「迅鋭の隣に居た──」


 彼女の名は──アイシクル・アヴァランチ。アイスは唖然とする二人を見つめながらこう言った。


「時間がないのでしょう。行きますよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ