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第8話『奇跡の織り成す千華街』

『奇跡の織り成す千華街(せんかまち)


 なんてホログラムがまず迅鋭の目に飛び込んできた。


「……ふぁ?」


 過去からやってきた迅鋭にホログラムなんてものが分かるわけもなく。支えもなく空中に浮いている映像に度肝を抜かれていた。


「なに固まってんの迅鋭?」


「へ、へ? な、へ? なんで、なんであれ、なんで浮いとるんじゃ?」


「ホログラムだからね」


「ほろぐらむ……?」


「分かりやすく言うと……幻ね。自分たちで操作して見せられる幻よ」


「ふぁぁ……?」


 ポカンとしている。脳が処理できていない。ただでさえ家の中でもオーバーヒートしかけていたのだ。既に脳の容量は天元突破している。

 だが――まだ家を出て二分も経っていない。つまるところ序章。まだまだ迅鋭の驚嘆は始まりに過ぎない。


「この街は田舎の方なんだけど、都会にも負けないくらい活気がある。今の時代では珍しく、人と人との繋がりが強いの」


「田舎……ここがか? 人は確かに少なめだが、京の都にも劣らぬ景観だぞ……」


「そりゃ発展したからね」


「三百年……まぁそうか。三百年は大きいよな……」


「──そんな辛気臭い顔はしないで! 作戦の物の買い出しついでに街の説明してあげるわ!」


「ま、待っとくれ──」


 アヒルの子供のようにオドオドと歩く迅鋭。周りを見てはびっくりし、カラスの声には刀を抜きそうになってしまう。


「……落ち着きなさい」


「だって儂こんな場所初めてで──っうぉ!? 虹の石版!?」


 人々が手に持っているのはスマホ──なんて古い物じゃない。これまたホログラムだ。人々の前に薄い水色の映像が流れている。それを人々は操作していた。


「あれはスマホよ。確か最新型だったわね。もう新しいの出たのかしら」


「すま……ほ」


「お金が無いから今は無理だけど、またいつか買ってあげるわよ──」


「──あ、あれはなんじゃ!? 虹が上に……吊るされとる!?」


「虹じゃなくて|Infinity All Diode《IAD》ライトよ。昔に発明されたLEDライトを改良したもので──」


 珍しい石版だと思っていたスマホは誰でも知っている当たり前の物で。誰でも持っているのが普通で。遠くの人と話せるのも普通で。空中に映像が流れるのでさえも普通で。

 三百年というのはあまりにも遠く。あまりにも長く。あらゆる初めての普通に迅鋭は戸惑いを隠せずにいた。

 ロアの話すことに相槌(あいづち)は打つものの全て右から左へ聞き流してしまう。目に入る情報を処理(しょり)するのに精一杯(せいいっぱい)で。耳に入る音を整えるのに精一杯(せいいっぱい)で。


「それで──説明はまた今度にしましょうか」


「おう……」


 戸惑いはあった。寂しさもあった。だがそれ以上に感動していた。

 不便だった生活はこれほどまでに改善し。これほどまで発展した。それが嬉しかった。それが『凄い』と思った。

 過去から来た迅鋭にとって未来は心地いい場所ではない。それでも──まるで天国に来たような気分になっていた。





「──よっロアちゃん! 食用マリモは買ってくか?」


「ごめんねおじ様。今はワカメが増えすぎてて」


 中年の男にロアは笑顔で返す。


「ロアちゃん! 新しいお肉が入ったよ! 持っていきな!」


「いいの!? いつもありがとうお婆ちゃん! 何かあったらいつでも来てね! 安くして依頼を受けてあげるよ!」


 中年の女に手を振って返す。


「ロア! 新しい骨董品(こっとうひん)はどうだい!? 結構いい品が手に入ったんだが――」


「どうせまた安物でしょ? まぁ今度見てあげるわ」


 同い年くらいの男には少しだけ冷たい。だが相手は嬉しそうだ。


「ロアちゃん! 新作のケーキ作ったんだよ! 試食してって!」


「いいの!? じゃあお言葉に甘えて──ん! 美味しい!」



 道行く人、すれ違う人々に「ロアちゃん」と挨拶をされ、世間話をする。ようやく落ち着いてきた迅鋭はその姿を見て微笑ましいと感じた。


「愛されておるな」


「それも仕事のうちよ──ほら、迅鋭も」


 スプーンに乗せられた一口サイズのケーキだ。白くてフワフワで。嗅ぐだけで(よだれ)が出てくる。


「ミカちゃんの新作ケーキ。ほら味見してみてよ」


 警戒しながらもパクリ──口の中に広がる甘み。こってりとしながらしつこくない。喉の奥に来ても鼻から甘い匂いが顔を出す。


「──美味い!」


「でしょ?」


「ありがとう! ……初めて見る顔だね?」


「幻水迅鋭と申す」


「へぇ……すっごいイケメン。もしかして──彼氏!?」


「そ、そんなわけないでしょ!?」


 強く否定する──だがむしろ怪しさが増した。ミカの声が大きかったのか、人もゾロゾロとやってくる。


「え!? ロアちゃんついに彼氏が!?」

「お、俺が先に予約してたのに!」

「こりゃパーティでもすっか」

「あの子がついに……ついにかぁ……」

「先越されてしまったなぁ……」


 集まる人の多さはロアが愛されている証拠を表していた。性別は関係ない。年齢の差も関係ない。色んな人にロアは愛されている。


「……愛されとるな」


 迅鋭は目を少しつむり──微笑んだ。





「──はぁ、誤解を解くのに時間がかかったわ」


「大変そうじゃったのー」


「他人事みたいにして──よーし!目的地に到着!」


 掲げられてる『クリスタール』という看板。これもホログラムだ。

 ここはアクセサリー店。指輪やらネックレスやらが売られており、『結婚指輪はここ以外ありえない』と千華街では言い伝えられている。


「やっほー! シルバおじちゃん来たわよ」


「ロアか。いらっしゃい」


 出迎えたのはおっとりとした顔つきの老人。白髪と猫背。毎日姿を確認しないと心配になるような見た目だ。


「……何を買うんじゃ?」


「待ってよー。これでもなくて、あれでもなくて──あった!おじちゃんこれ頂戴!」


 指を指したのは──銀色のペンダントであった。


「彼氏さんへのプレゼントかい?」


「なわけないでしょ。仕事で使うの」


「ほほほ、隠さんでもいいのに」


 ショーケースから出したペンダントを受け取り……QRコードに手をかざす。


「まいどありー」


 これで売買は成立したようだ。さすがの迅鋭も目を見開いて驚く。


「まったく。何を勘違いしてんだか」


「……ま、まぁいいか。それより、何に使うんじゃそれ」


「──すり替えるのよ。シンプルに」


 ロアは誇らしげにそう言った。

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