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第75話『負の遺産と負の偉人』

 ──最後にやってきたのは歴史ブース。ここではファーブル社が手がけた歴代のスーツや武器、雑貨用品が展示されてある。

 展示品の下にはホログラムに自動音声。製品の説明、小ネタなどを教えてくれるようだ。


「凄いよ見て見て! ファーブル社の作ったパソコンがズラっとある!」


「うぉぉ! 歴代スーツじゃん! 全部かっけぇ!」


「もう。恥ずかしいからはしゃぎすぎないでよね」


 ロフト兄妹は聞く耳持たず。興奮材料が多すぎてクールダウンすることが頭から離れているようだった。

 ヴォッシュはスーツコーナーへ。カレンは雑貨用品コーナーへと走る。


「あの子たちったら……」


「子供じゃないんじゃ。ほっといても大丈夫じゃろ」


「子供じゃないからこそ止めた方がいいと思うけど」


 比較的に冷静さを保っているイヴ。正直、機械には興味が無いので、歴史ブースへ行くのも楽しみではなかった──が、ある物を見た瞬間、その考えは変わった。



 ──見間違えるはずがない。奥にあるのは『デット・デックス』シリーズに出てきた自転車だ。

 小道具はオークションサイトで何度か見たが、自転車は初めてだ。しかもイヴなら分かる。あれは──本物だ。


「な、なな!? なんであの自転車が……あれ主人公が乗ってた自転車でしょ!?」


「ファーブル社はデット・デックスシリーズのスポンサー。かなり多額の出資をしています。つまり──そういうことです」


「嘘でしょ!? しかもアラインの銃まで──うわぁ! リーナちゃんの乗ってた車まであるよ!」


 冷めた目で見てたイヴの顔は一転。歳相応の子供らしい笑顔を浮かべ、デット・デックスコーナーへと走るのだった。


「あ、イヴ! ……もう、みんなしてはしゃいじゃって」


「ロア殿は見に行かないのか?」


「私は特に興味無いわね。どっちかと言うとお昼ご飯の方が興味があるくらい……」


「儂と一緒じゃな。じゃが昼食まで時間がある。儂と一緒に見ないか?」


「まぁそうね。パッカーさん、案内よろしく」


「お任せ下さい。他の方は?」


「あの子たちは……むしろほっといた方が正解かもね」




 そんなわけで三人が来たのは武器コーナー。これまでにファーブル社が開発してきた武器が展示されている。

 銃に剣と種類は様々。物によっては手に取って試し斬りや試し撃ちをすることが可能だ。


「これってこんなさらけ出しても大丈夫なの? 普通に持っていけそうだけど」


 展示品に仕切りはない。やろうと思えば、全ての武器に手が触れられそうだ。


「武器は微粒子洗浄で常に綺麗に保たれてます。それに武器はアルグレイド磁石によって壁に固定されてるので、持ち出すことはできません」


「どれどれ……あ、ホントじゃ」


 試しに近くの展示品を持ち出そうとする──ダメだ。迅鋭がいくら引っ張っても、根を張ったかのようにビクともしない。


「これなら安心じゃな」


「はい。我が社のセキュリティは完璧ですから」


「……なんかフラグに聞こえるのは私だけ?」



 ──まず迅鋭が注目したのは二〇六七年に発売された『超振動ソード』だ。

 目に見えないほどに超振動させることにより斬れ味を増幅させた剣。生産性とコストの面から実用化も一般販売もされなかった、知る人ぞ知る武器である。


「ほうほう。これはなかなか」


「……み、見た目どうにかならなかったんですか? これ」


 強い武器で好きな人は好きなんだろうが……見た目が少し抵抗感がある。

 表現すると朝か昼に流れている某仮面ライダー系の番組に出てくる子供向けの玩具みたいな形と色をしていた。

 率直に言ってダサい。子供は好きそうだが、大人がこれを持ってたらちょっと距離を起きたくなるくらいのダサさである。


「開発者の趣味が出てたらしいですね」


「趣味……か」


「一般販売されなかったのって、この見た目が原因だったりして」


 ……人の趣味にケチをつけてはいけない。特撮は男の子なら誰でも通る道。それを馬鹿にしてはダメだ。

 とりあえず次に行くとしよう。



 ロアが気になったのは二一五一年に発売された『スラッシュストラッシュ』という剣だ。

 内蔵された空気圧縮機と空気固定機により取り入れた空気を圧縮し、固定する。その状態で剣を振ることにより『飛ぶ斬撃』を出すことができるのだ。


「斬撃を飛ばせると」


「はい。試してみますか?」


「試せるのか!?」


「迅鋭やってみる?」


「よいのか? ならお言葉に甘えて」



 射撃場へと剣を持って移動。銃を撃っている隣で迅鋭は剣を構えた。


「狙いは適当で大丈夫です。基本は当たりますから」


「わ、わかった」


 おおよその狙いをつけて──剣を振る。

 するとあら不思議。遠くにあったはずの的は真っ二つに切断。地面へと落っこちるのだった。


「──かっこいい! かっこいいぞ!」


「こりゃ男の子が好きそうな剣ですね」


「確かに男性によく売れたそう……なんですが。問題点がありまして」


「問題点?」


 満足した迅鋭が鞘に剣を収める──。



 ──バッチーン、と。鞘が弾け飛んだ。


「その……振らなくても斬撃が出る不具合が多発したそうなんです」


「──いや、そんな危ないの展示したらダメじゃないですか!?」


 ごもっともな意見にパッカーも苦笑い。迅鋭は血の気が引いた表情で剣を眺めていたのだった。



 気を取り直して次へ。迅鋭とロアの二人が同時に気になったのは、二〇三七年に発売された『ホーミングデストラクション』だ。

 銃弾が目標に向かって自動追尾するホーミング性能を備えたハンドガンタイプの銃であり、性能はもちろんのこと造形にもこだわられたファーブル社でも特に人気の一品だ。


 形はガバメントを元にしたクラシックなカッコ良さを持ちつつ、刻まれた赤いレーザーは未来的なロマンくすぐってくる。


「説明を見てる分にはすごいけど、これが実用化されたって聞いたことないわよ?」


「はい。実用化はされませんでした」


「なぜじゃ? 銃弾が自動で向かってくるなど、儂は考えたくないほど脅威じゃと思うが」


「理由は簡単ですよ。ホーミング性能に特化した結果、銃弾そのものの威力が極端に弱くなったんです」


 なんと銃の有効射程は脅威の五メートル。その距離を超えてしまうと威力が大幅に下がり、人肌すら貫けなくなってしまうのだ。

 二千年代前半にはもっと強力な銃が数え切れないほどある。それらにロマンの一点のみで対抗するのは……まぁ無理があったそうだ。


「迅鋭一回撃たれてみる?」


「いやじゃよ。普通に怖いし」




 そんなこんなで一時間。莫大な数の武器や装備を見るのに、えらく時間がかかってしまった。


「はぁはぁ……つ、疲れた」


 ずっと立ちっぱなし。ずっと歩きっぱなし。二十代後半に差しかかろうとしているロアにはキツかったようだ。


「だらしないぞロア殿。じゃから朝は儂と一緒に鍛錬しようと言っとるのに」


「仕方ないでしょ……スーツ脱いで動き回るなんて、子供の時以来なんだから」


 現代人はスーツに頼って行動している。脱ぐ時はせいぜい風呂に入る時か寝る時くらい。外で脱ぐことは滅多にないのだ。

 スーツは身体能力を強化する反面、頼りすぎると本来の肉体が弱くなってきてしまう。


「私も運動とかした方がいいのかなぁ……歳を取って寝たきりになるとか嫌なんだけど」


「寝たきりは嫌じゃぞぉ。今までできていたことが人に助けられながらでないと出来なくなる。その時の情けなさといったらもう……」


「……私、運動するわ」


 元年寄りの言葉には強い説得力がある。とりあえず朝のウォーキングから始めてみることにしておくとしよう。



 そんな感じで自身の未来を憂いていると、尿意を催してしまった。このままでは少し先の未来が大惨事になってしまう。


「パッカーさん、トイレどこですか?」


「こちらに。案内します」


「迅鋭ちょっとここで待っててね」


「分かった。ゆっくりしておく」


 トイレはエレベーターを出て少し先のところ。ここからじゃ、そう遠くはない。時間もあまりかからないだろう。

 ロアに言われた通り、椅子に座って待ってることにする。下手に動いて迷うのも面倒だ。



 歴史ブースに人が増えてきていた。招待された人やテレビ局の人が暇つぶしと取材を兼ねて見に来ているらしい。

 人が多いとそれだけで疲れる。ロアにはああ言っていたが、迅鋭もなんだかんだで疲れ始めていた。


「武器も発展したんじゃの……大砲が新鮮だった時代が懐かしいわい」


 今じゃ大砲なんて使われていない。命を救い、命を奪われかけた大砲がそんな扱いになってる。迅鋭からしてみれば複雑な気持ちだ。



 過去を思い出してゆったりとしていると──迅鋭の隣に女性が座った。


「お隣に座ってもよろしいですか?」


「それ座った後に言っても遅いと思うんじゃが……まぁ別にいいがの」


「ふふ、ありがとうございます」


 透明と見間違えるほど透き通った髪色。水色の眉と長いまつ毛の奥には宝石のような瞳が凛として存在している。

 艶のある白肌は思わず手で触れそうになるほどの端麗さ。赤ちゃん並のベイビースキンだ。


 顔もよし。スタイルもよし。こうまで美しい女性だと目立つと思うのだが、迅鋭は隣に座られるまで一切気が付かなかった。それもまたミステリアスな感じがしてよい。


「お名前を聞いてもよろしいですか?」


「儂か? 儂は幻水迅鋭。お主は?」


 ──女性は迅鋭の名前を聞くと嬉しそうに微笑み、自分の名前を口に出した。


「私は──アイシクル・アヴァランチ、と申します」

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