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第70話『予感はいつも唐突に』

今回ちょっと長めです。詰め込みすぎちゃいました

 ──香り漂うのは汗の匂い。耳に入ってくるのは衝撃の音。


 大男がもう一人の大男に投げられる。投げ飛ばされる。絞められる。

 型が終われば技を解いて仕切り直し。また技のかけ合いが始まる。


「もっと動きを大きくしろ! やりすぎなくらいに技を出せ!」


 たくましい肉体を持っている男たちの中だからこそ目立つ小柄な男──迅鋭だ。


「片側に気を取られすぎじゃ! 右利きだからって相手が右だけから攻めてくるわけじゃない! もっと警戒を強めろ!」


「押忍!」


 床に足跡が付くほど踏み込み、空気が震えるほど呼応する。


「そうじゃ。それでいい」


 迅鋭は満足そうに頷いた。


 なかなか筋が良くなってきた。これなら──なんて思っていると、また悪い型で動いている人を発見した。


「リューズ! また腕だけしか使っとらんじゃないか!」


 リューズ。最近入ってきた新人だ。迅鋭よりは大きいながらも、他の奴らと比べると小柄な体の持ち主。顔はイカついが、かなり弱腰な性格の持ち主である。


「すみません……」


「いいか、見ておれ」


 リューズと組手をしていたメロウを使って実演タイム。

 道着の胸ぐらと手首の袖を握って──見事な一本背負い。叩きつける音も素晴らしく。見ているリューズの前髪がたなびくように揺れた。


「いいか、ポイントは腰じゃ。腰で相手の体を曲げれば最小限の力で投げられる。そうすれば余った分の力を込めて相手を落とすことができるんじゃ」


 投げられてくれたメロウを労りつつリューズへのアドバイス。理にかなった助言にリューズの顔も明るくなっていった。


「スーツのない儂でもこれくらいはできる。ならスーツを着て筋力が上がっとるお主なら、もっと強くやれるはずじゃ」


「で、ですが僕には……」


「やる、やらん、の話ではない。警団連は市民の味方。いざって時はお主が頼りになるんじゃ。──やれ。お主ならできる」


「……は、はい!」



 リューズが再チャレンジ。先輩の胸を借り潰す勢いで気合を入れてアタックする。

 腕を使い、体のバネを使い。迅鋭のアドバイス通りに腰を使う。相手の体を引っこ抜き──迅鋭に負けないくらい綺麗な一本背負い。


 乾いた激しい音が心地いい。綺麗に投げられてリューズも満足そうだ。


「そうだ。その調子でゆけ」


「はい!!」


 言葉は質素ながらも機嫌が良くなったのがヒシヒシと声色から伝わってくる。師範が嬉しくなれば、教え子も嬉しくなるというもの。リューズの動きにも一層気合いが入るのだった。


「おら! まだ始まって二十分じゃ! へばるなよ! 気合い入れてけ!!」


「「「押忍!!」」」


 手を叩いて全員に気合を混入させる。部屋の熱気は燃え上がり、男たちは叫ぶ。

 消えることの無い熱意は迅鋭指導の元、道場を太陽にも負けないくらい熱くするのであった。




「「「お疲れ様でした!」」」


 長かった稽古も終わり、師範代の迅鋭に挨拶をして、男たちの戦いは終わった。

 全員が汗まみれ。これからシャワー室がごった返すのは事理明白だ。あまり汗をかいていない迅鋭は入るタイミングを遅らせてシャワー室を利用することにしている。


「……あ、カイよ。LIFE(ライフ)?とやらはどうやって使うんじゃったっけ?」


「このアイコンのやつを押せば見れますよ」


「おぉ、できた。ありがとう」


 迅鋭の前には青白い半透明のホログラムが出現していた。これは現代(二二二二年)のスマホ。安物ではあるが、ロアに買ってもらった代物だ。

 もうこの時代に来て数ヶ月が経った。技術の進化には驚かない。スマホだっておちゃのこさいさい……とはまだいってない様子。


 給料も入り、フライヤーの仕事も順調。道場以外では荒事は起きていない。しばらくは平和な日常を過ごしてきた。平和すぎてボケそうなほど。


「願わくば、こうやってゆったりとしていたいものじゃの」


 個性豊かな人たちに囲まれながら、なんて事ない平和な日常を過ごす。これほど幸せなことはあるだろうか。


 ──思い出すのは死ぬ間際の言葉。「もう一度やり直したい」という迅鋭の心からの願い。

 その願いは最高の形で叶っている。誰も失わず。誰も去らず。幸福な日常がここにある。


『帰る途中で卵買ってきてくれない?』


「えっとっと……『りょうかいじゃ』っと」


 カレンとの修行で会得した超スロー人差し指タイピング。最初は一分間に五文字しか打てなかったが、修行を重ねて、今では一分間に三十文字までなら打てるようになった。

 七十二歳になっても、学べるものはまだまだある。やはり未来というのは面白い。


「今日のご飯はなんじゃろなぁ」




 子供のような笑顔で子供のようなことを呟いていると、背後から呼びかけられる声がした。


「お疲れ様です先生」


 屈託のない笑顔を浮かべる青年──に見える男。ダイマだ。蒸れて暑いのか、シャワー室でもないのに既に上裸になっていた。


「ダイマ……風呂場じゃないんじゃから、上くらい着ろ」


「いいじゃないですか。どうせ男だけですし」


 手に持ったスポーツドリンクを浴びるように飲み干す。


「先生も飲みます?」


「じゃあ少し」


 投げ渡されたプラスチック製の水筒を受け取り口を付けずに喉へ流し込んだ。

 甘じょっぱい液が疲れた体に染み渡る。平常時に飲んでもあまり美味しくないが、こういう汗をかいている時に飲むと格別に美味い。


「この仕事には慣れましたか?」


「ある程度は」


「強引にスカウトしたのを引き受けてくれて……先生には本当に感謝していますよ」


「儂としても職なしの怠け者とは思われたくないからの」


 この道場師範のアルバイト? により、街の住人たちの見る目が変わったのは事実。『メトロノーム』の賠償も最終的には自分で払っている。


「しかし警団連とは国家が運営する組織じゃろ。儂みたいな素性も分からん奴を引き入れて良いのか?」


「そこはご安心を! 偉い立場の父親を持つ知り合いが居ましてですね。頼めばちょちょちょいっと書類を書き換えてくれました」


「……市民を守る者としてどうかと思うが」


「先生は優しい人ですから! 僕を助けてくれましたし!」


「打算ありきで助けてたらどうする。内部の事情を知るためかもしれんぞ?」


「先生はそんなことをするんですか?」


「いや儂はせぬが」


「じゃあいいじゃないですか」


「……」


 言葉が出ない、というのはこのことだろう。市民を守る仕事に就いてる者としてこれは如何なものかと。

 だが受け入れてくれたので文句はあまり言いたくない。出そうになった皮肉を引っ込めた。




「――ダイ君!」


 そんな感じに話していた時。道場を駆けてくる2つの足音が聞こえてきた。


「稽古お疲れ様! ポカリ買ってきたよ!」


「お、マナじゃん。サンキュ。先生それ全部飲んでいいですよ」


「そうか。なら有難く頂戴しよう」


 背中まで届く水色の髪をひとつに纏め、水晶のような透明な瞳は恍惚とダイマを見つめている。柔らかい顔はダイマ顔負けの童顔であり、小柄な体格も相まって一目見ただけでは中学生と勘違いしてしまうだろう。

 この女性の名前はマナ・パレス。ダイマと同期で隣の部署に所属している。よくこの道場にも来ており、迅鋭とも顔見知りだ。


「ってきゃあ!? ダイ君なんで裸なの!?」


「え?だって道場だし。あと裸なのは上だけ──」


「もー! 恥ずかしいから隠してよー!」


 顔を赤らめて指の隙間からガッツリと体を見ながらタオルを投げつける。


「わ、悪いな。見苦しいものを見せちゃって……」


「……み、見苦しくなんてないよ」


「そうか?」


「──いいから早く隠して! もう!」


 雰囲気はラブコメ。鈍感系主人公とツンデレが小さじ一くらい入れられたヒロインの関係みたいだ。

 最中にいる二人は楽しいだろうが……外から見ている迅鋭はちっとも面白くない。なんなら見てて無性に腹が立ってきている様子だ。


「あ、幻水先生。お疲れ様です」


「毎度毎度、目の前で乳繰り合うのはやめんか。なんだか無性に腹が立ってくる」


「乳繰り合うだなんて……ダ、ダイ君とはそんな関係じゃないですから! ただの友達ですから!」


「え……俺はもっと上の関係だと思ってたのに……」


「もっと……上……?」


「それをやめろと言っとんじゃ! いちいち画風と雰囲気を変えるでない!」



 少女漫画のようなでっかい目の幻覚は軽いチョップによって消える。


「こら。まだ職務中なんだからイチャつくのはやめなさい」


 高い身長に抜群のスタイル。しかも単にスタイルがいいだけでなく、ちゃんと実用性の伴っているであろう健康的な筋肉を感じられる。

 ピッタリと張り付いた警団連の制服は女性の体をよりセクシーに見せる。ただでさえ良かったスタイルが、人形並によく見えるのはこの制服のおかげだろう。


「未来は美人ばかりじゃな。儂の運がいいだけか……このままじゃと目が肥えてしまうぞ」


「美人だなんてそんな、幻水先生はお世辞がお上手なんですから」


 こっちの女性はマキア・レーズン。同じくダイマの同期であり、マナと同じ部署に所属している。

 警団連本部の本部長であるゲルム・レーズンを父に持つ超エリート。ダイマが言っていた『偉い立場の父親を持つ知り合い』とはマキアのことだ。


「世辞ではない。実際美人じゃろ。まぁロア殿には劣るが」


「一言余計な気がしますが聞き流しましょうか」


「俺は美人って思ってるぜ」


「私もー」


「はいはい」


 迅鋭以外の二人からは聞き慣れているのか、サッと受け流して小柄なマナを抱き上げる。


「とりあえずダイ君に会えたなら行くわよマナ。仕事はまだまだ溜まってるんだから」


「ちょっ、別にダイ君に会いに来たわけじゃないし!」


「え、そうなのか。なんだか残念だな……」


「あ、ちが、そ、そういう訳でもなくて……」


「さっさと連れてってくれ。このまま続けられると儂の画風も変わりそうじゃ」


 少女漫画風の迅鋭も見てみたい──というのは心に置いておいて。マキアはオフィスへと歩いていく。



「あ、そうだダイ君。──今日の会議、忘れてないよね」


 何かを思い出したかのように振り返ったマキアは真剣な表情と声でダイマに問いかけた。


「忘れるわけがないだろ」


 その問いかけに対し、ダイマもいつになく真面目な返事で応答する。

 一連の流れはついさっきまでの緩い雰囲気とはかけ離れていた。──疑問だ。気になる。これは聞かなければ後まで引きずるタイプのやつだ。



「なんの会議じゃ?」


「それはちょっと……いくら先生でも言えない事ですので」


 そう言われてしまうと気になるのが人間。きっぱりと断られてしまっては逆に問い詰めたくなるものだ。


「儂にも言えないことか。俄然気になるな」


「こればっかりは申し訳ありません。機密事項ですので──」


「別に先生ならいいだろう。完全な部外者ってわけでもないし」


「だけど……」


「マキアは真面目すぎるよ。先生が秘密を守らない人に見える?」


「そういう話じゃなくて……」


 わちゃわちゃと身体を捻り、頭を振り、悩みに悩み抜く。そして──。


「……まぁいいでしょう。これは絶対に他の人に話しちゃダメですからね」


「誓おう」


 警団連の機密事項。なんとワクワクする響きか。期待に胸を踊らせながらマキアの声に耳を傾ける。

 ──その口から語られたのは、想像以上の内容であった。






「──エンテイ討伐作戦が近々おこなわれるんです」


「……ほう」


 エンテイ。裏社会の帝王にして、『唯一王』の異名を持つ男。

 迅鋭も前にエンテイの写真を見せてもらったことがある。画面越しからでも分かる威圧感と覇気。一度見たら忘れられない印象に残る男であった。


「あまり驚かないんですね」


「儂はエンテイという男をあまり知らんからな。嫌われてる……というくらいしか」


「それは世間知らずも度が過ぎてるってものですよ先生」


「エンテイなんて名前は現代じゃ常識も常識。親や家族の次にその名前を覚えるってくらいには悪名高い人間なんですから」


「さすがに冗談じゃろ」


「冗談じゃないのがエンテイという男です」


 半笑いで返した迅鋭に強い言葉で返すマキア。想像よりも真面目な回答に少し萎縮する。


「存在が確認されたのは二一三五年。そこから現代に至るまでの八十七年の間に合計で五十二万四千五百三十人を殺害しています。しかもこれは直接的にエンテイが殺した数。間接的なもの、非公式なものを含めれば、その数は何倍にも膨れ上がるでしょう」


「……」


 あまりにも多すぎる数だ。これが普通に話されていたならば迅鋭も冗談と笑い飛ばせていたのだが……マキアの表情は変わらず真面目なまま。

 それどころかおちゃらけていたダイマとマナの顔も似合わない真剣な顔を貼り付けている。


「部下に命令するだけして、自分は安全な場所に引きこもる……とかなら、まだ全然マシなんだけどねぇ」


「とんでもない強者、なんじゃろ」


「そうです。何度も討伐隊が組まれましたが、ことごとく失敗。最後の討伐作戦からもう二十年も経過してしまいました」


 ──となると疑問が出てくる。なぜ今になって討伐作戦が行われるのだ。

 聞いた話によると、『どうせ倒せないから人員の無駄』という理由らしいのだが。確実に倒せる作戦でもあるのか。


「なんで今になってじゃ?」


「それには二つほど理由があります。一つはエンテイの年齢ですね」


「年齢?」


「情報が正しければエンテイは現在百十二歳。普通なら死んでてもおかしくない年齢です。おそらく肉体的にも精神的にも鈍ってるだろう、というのが上の見解です」


「そうか──百十二歳!? 儂より歳上!?」


「? そりゃそうでしょ」


「見た目もまだ若い方じゃったぞ!? 六十歳くらいじゃった!」


「え? 当たり前じゃないですか?」


「……そ、そっか」


 思い出した。医学の進歩のおかげで、未来ではどれだけ歳を重ねても、見た目を六十代くらいに保つ技術があるそうだ。

 金もそこまでかからない。それにやるやらないは自由だ。普通に歳を取りたい人はやっていない。ブラットが老人の見た目だったのもそれが理由だ。


「さっきも言いましたがエンテイは現在百十二歳。全盛期よりも実力が落ちているはずです──つまり叩くなら今のタイミングしかない」


「なるほどの……」


 一つは分かった。とても理にかなっている。いくら強くても歳には勝てないことを迅鋭はよく知っているからだ。

 じゃあもう一つの理由とは。自分でも考えながら次の言葉を待つ。



「もう一つはエンテイの動きが活発になってきたからです」


「活発とな」


「基本的にエンテイは自分から動きません。部下に命令して自分は高みの見物というのがエンテイのいつものやり方です」


「上に立つ者としては当然……ってことを下手に外で言うと刺されるかもだから気おつけてね」


「……言わんさそんなこと」


 などと言っているが、マナが言わなければ危うく口を滑らせていたところだ。まだ未来の常識に慣れていないのをヒシヒシと感じてしまう。


「しかし最近になってエンテイが自分から動くことが多くなったんです。あの有名なクイン・エルガーとその家族を拉致したのが一番最近の話ですね」


「そしてトップが動けば組織も動く。『碧愛会(へきあいかい)』ってのはご存知?」


「聞きかじった程度なら」


「碧愛会の主な活動場所は裏。アングラな部分が多いんですが……どういうわけが、ここ最近は表にも浮上してきてるんです」

「今朝のニュースは見ましたか? あの三毛銀行の」


「──あれか」


 それはロア達と朝食を食べながら見ていた時のこと。

 市内にある三毛銀行に刃物を持った男が来店。狂ったように暴れ回り、男女五名に重軽傷を負わせたという物騒な事件がニュースで報道されていた。

 イヴの高校も銀行の近く。テレビを見てロアが心配していたのを迅鋭は覚えていた。


「どうやら犯人は犯行当時、錯乱状態にあったらしいんです。それも脳に障害が残るほどの」


「その言い方じゃと、何かあったと言うよりは、何かされたの方が正しいか?」


「……最新型危険ドラッグ『SUBARU(スバル)』。巷でも流行している危険な麻薬です」


 麻薬と聞くと過去未来においても変わらず悪いイメージがある。迅鋭は特にそう。アヘンで狂う人間をその目で直接見ているので、麻薬と聞くと悪い印象しか思い浮かべない。そして実際にそれは正しいことだ。


「服用すれば最後。脳の快楽中枢を強烈に麻痺させ、人間を人間たらしめる理性を破壊させます」


「まさに『死ぬほど気持ちいい』ってやつですね。どうせ後に残るのは虚しい気持ちだけなのに……まぁ服用した人はそんなことを思える感情すら失われているでしょうけど」


 過去でも猛威を振るいかけた麻薬。色々なものが発展しているこの世界なら、麻薬も昔より強力になっているのは当然のことだ。

 それが当然……なのが悲しいところ。未来なら危険な麻薬など淘汰されている、なんて甘い考えは外れてしまった。


「今やスバルは一般層にも普及しかかっています。ついこの間も近所の高校でスバルが発見されました。このまま放っておけば日本中がパニックになる」


「そうなる前にさっさとトップを潰して麻薬ごと淘汰しよう、ということじゃな」


「その通りです」


「これ以上の被害者を出さないためにも。あの男に死に逃げをさせない為にも。俺たちが戦わなくちゃならないんです」



 ──長々と話をしているともうこんな時間。休憩の合間にやってきていた二人だったが、その休憩の時間ももうすぐで終わろうとしていた。


「──ってもうこんな時間。幻水先生、くれぐれもこのことは内密にお願いしますね」


「分かっとる。善処するよ」


 いい話を聞けた──と言っても何かができるわけじゃない。迅鋭はあくまでもバイト。作戦に参加するとか、会議の内容を聞くとかはできない。

 それに迅鋭も一応は一般市民。ダイマ達のためにやれることなんて戦い方を教えることくらいしかないのだ。


「先生も気おつけてくださいねー。ダイ君を助けてくれたとはいえ、危ないことには首を突っ込まないように。先生も一般人。私たちが守らなきゃならない対象なんですから」


「嬉しい話じゃな。しっかり守ってくれることを期待しとるよ」


 小さくなっていく二人を見ながら迅鋭は見えるように大きく手を振っていた。



「──となると、儂は悪を倒した英雄に戦い方を教えた、ということになるのかの?」


「自慢してもいいですよ?」


「書物に記して後世に残しておくことにするかな」


 残ったスポーツドリンクを全て飲み干し、迅鋭とダイマはシャワー室へと向かう。これだけ時間が経てば人も減っていることだろう。


 (エンテイ……)


 柔らかな地面を踏みながら迅鋭は嫌な予感を感じていた。平和な日常が壊れるかのような。そんな予感が──。

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