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第6話『正午のアラーム』

「さっきの小娘も言っとったが、『フライヤー』とはなんじゃ?」


「『フライヤー』は私たちの会社の名前。簡単に言うと何でも屋ね。猫を探したり、引越しの手伝いをしたり。最近あった大きな依頼だと、盗まれた物を取り返したりしてるわ」


「話だけ聞くといい事だが……その割には物騒な娘がおったな」


「念の為にね。というか、イヴより世の中の方が物騒よ。ここ最近は『アスナロ』と『ツクヨミ』の小競り合いが毎日のように起こってるし」


「あす……つく……?」


 まず向かう先はリビング。部屋の各々を紹介しながら階段を降りていく。


「あぁ……まぁ知らないわよね」


「分からん……」


「『アスナロ』は対反乱軍制圧部隊ってやつで、日本各地で起きる暴動とかを押さえる役割をしてるの。『ツクヨミ』は逆。反乱軍っていうやつで、日本を根底から壊そうとするヤバいヤツらよ」


「あー。そういえばあの娘が『ツクヨミ』の手先やらなんやらって言ってたような」


「その件に関してはイヴに変わって謝るわ。いきなり襲いかかって、ごめんなさい」


「……世の中大変なんじゃろ? 疑心暗鬼になったって仕方ない。むしろ助けてもらったんじゃ。こっちが感謝したい」


「そういうわけではないんだけど……まぁいいか」


 リビングの前へと到着。洋風な扉に困惑する迅鋭をよそに、ロアは中へと入っていく。


「……まだ平和じゃなかったのか」


 そう呟く迅鋭の声を聞きながら。



 ──テレビにパソコン。隣接しているキッチンに柔らかそうなソファと椅子。そのどれもが迅鋭にとって未知数なもの。江戸はもちろん、明治や大正ですら姿形も見た事のないものであった。

 だがそれよりも迅鋭が興味を引いたのは《《色》》である。まるで虹のように多種多様な色が部屋のあちこちで光り輝いているのだ。脳が処理するのにすら時間がかかる。


 ──ということもあり。剣をぶつけ合っていたイヴがソファに寝っ転がっているのを認識するのも遅れてしまう。


「……起きたんだ」


 奇抜な色のキャンディを噛みながら迅鋭の方へと顔を向ける。


「イヴー。この人も今日からフライヤーの一員だからね」


「了解──は? え? こいつを?」


「うん。今日からイヴの後輩よ。ちゃーんと教えてあげてね」


 どちらも一度は剣を交えた仲──ではあるが。それで仲間意識を持てるはずなんかなく。お互いがお互いを(にら)み合っていた。

 そんなことはいず知らず。一触即発の雰囲気をぶった切ってロアが話を始めた。


「まずは! フライヤーのメンバーを紹介するわね」


「最初は私。名前はロア・カミリンよ」


「変な名前じゃな」


「あんたほどじゃないよ」


「あ?」


「ん?」


「こらこら喧嘩しないの」


 次は後ろにいるカレン。柔らかそうな頬をつつきながら話す。


「次にハッキング担当のカレン・ロフトよ!」


「どうも! カレン二十一歳です!」


「……はっきんぐ? ってなんじゃ」


「あ、そっち? 『思ったよりも年齢高いね』とか言われるかとおもったんだけど」


「は? なんでじゃ?」


「あーそういえば昔は平均身長も小さかったっけ。ハッキングは……説明するの面倒だから忘れて」


 お次は座っているイヴの両肩に手をのせる。


「この子は戦闘員のイヴ・カミリンよ! 見た目は可愛いけど、うちの最高戦力!」


「……女子(おなご)ばっかじゃな。大丈夫か?」


「失礼ね大丈夫にきまってるでしょ! ──たまに危ない時もあるけど」

「それに男だってちゃんといるんだから」


「は?どこに──」



 ──真後ろに気配もなく男はいた。灰色髪の七三分け。そして百八十を超える身長。迅鋭が抜刀するには十分の見た目であった。


「──ま、待て待て!! すまん悪かった!! だから斬らないでくれよ!!」


 男は腰を抜かして地面に倒れる。


「悪かったよ……おふざけのつもりだったんだ」


「……こいつも仲間か?」


「そう。フライヤー専属の医者にして技術者のヴォッシュ・ロフトよ」


「ちなみに──私のお兄ちゃん!」


 起き上がろうとするヴォッシュの頭をワシャワシャと撫で回す。


「……細いな。腕も脚も棒みたいじゃないか」


「自慢じゃないが、食生活が最悪でね」


「ほんとに自慢じゃないやつがあるか。……まったく。そんな体で妹を守れるのか? 男なら鍛錬のひとつやふたつくらいしておけ。儂が子供の頃はの――」


「あー聞きたくない。こんな時代になってもコテコテの老人語録を実際に聞くことになるとは思わなかったよ」


 ロア。イヴ。カレン。ヴォッシュ。迅鋭からすれば珍しいなんてもんじゃない名前だ。どういう発音なのかすら分からないくらいに。


「……もしかして異国の地にでも来たのか儂は」


「異国……でも侍でしょ?」


「ん? まぁの。大正となっては侍も時代遅れではあるがの」


「……大正? 何言ってんの?」


 事情を知らないイヴとヴォッシュが反応した。話をしているイヴの前にロアが耳打ちをする――理解したようだ。


「大正は大正じゃ。なんじゃ? 年号も知らんのか雷娘」


「……年号くらい知ってる。だから『何言ってんの』って言ったの」


「──えっと……お侍さん。名前は?」


「あぁ、皆が自己紹介してくれたんじゃ。儂もせねばなるまいな」


 刀を後ろへ。足を前に。手を前に。


「《《八代目幻水家当主》》にして『剣鬼』こと幻水迅鋭。かから世話になりんす。いかがぞ宜しくお願いいたす」


「……変な自己紹介」


「これが作法と言うやつよ。カレン……だったか?」


「早速名前覚えてくれたの!? ありがとう!!」


 コホン、と『妹は渡さん』との意思表示とばかりに咳払いを一つ。兄の顔に免じて迅鋭も身を引いた。


「さて──迅鋭、でいいか?」


「よいぞ」


「ええっと……迅鋭。驚かずに聞いて欲しいんだ」


「この歳にもなれば驚くことなぞ少ないわ。なんでも言っていいぞ」


「……今の年号は『ガイカク』なんだ」


「……がいかく?……は?」


「あのね迅鋭。迅鋭の言ってる大正っていうのは三百年くらい前の話なの」


「……」


「……」


「……さん……びゃく?」


「そう。三百。つまりは過去の話。迅鋭の感覚で言うと──三百年後の未来ね。ここは」


 深呼吸。手足の震えを抑えながら二度目の深呼吸。フライヤーの面々と顔を合わせながら三度目の深呼吸──。


「──ええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」


 ──現時刻は十二時ぴったり。周りに住む人々は後にこう語る。『お昼のアラームかと思った』と。

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