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第51話『キャットファイト』

 ──開幕と同時にイヴの飛び膝蹴りが放たれた。

 顔面へと向けられた膝は──軽くキャッチ。


「早速ド派手だねぇ──」


 すぐに空中で二段目の蹴りを放つ。──ガード。すかさず地面に叩き落とされた。


「ぐっ……!!」


 イヴも負けてはいられない。倒れたままパルムの腕を掴んで脚を巻き付ける。体を転がしての──『腕ひしぎ十字固め』だ。

 関節技の代名詞。固め技の中でも最もよく使われる技だ。完全に決まれば逃げられる方法はないが──。


「甘いわね」


 決まりきっていなかったようだ。一気に手を引き抜いてマウントポジションをとる。これも上を取られれば抜け出す方法はほとんどない。


 ──体を逸らして魚のように跳ねる。身体能力が上がれば、このような強引なやり方で脱出が可能だ。

 二人とも数メートルほど浮遊。体勢を立て直して着地した。


「──」


「──」


 すぐさまイヴの先制。ジャブの刻み突きを三連発。

 ──いなして攻撃──カウンター気味にアッパーをかます。


 ──回避。イヴの顔面にジャブを放った。


「ぅぁ……!?」


 怯んだ隙を狙ってハイキック。狙いは肋。最大威力、そして内蔵へと響かせるように腰を捻った蹴りだ。

 ──なんと山勘でこれを防御。片腕が痺れるが直撃よりはダメージを減らせる。


 ハイキックは威力こそ高いが隙が大きい。ここぞと言う時で使うべきだし、実際パルムは隙を作り出して使った。──しかし不発。逆に隙を晒すことになったパルムの顔面に雷を纏わせた拳を──。


 ──回避すると同時に肘と胸ぐらを掴む。腰を相手の腹に押し当てるように。イヴを後ろへとぶん投げた。


「雷系の能力ね……かっこいいじゃん……!」


 『巴投げ』という技だ。イヴは背中から床に落ちる。


「がっ──っ」


 立ち上がろうとするイヴの顔面を容赦なく踏みつける──前に体を捻ってパルムの脚を薙ぎ払った。

 倒れてゆくパルムに殴り掛かる──も、その前に腹部を蹴りあげられる。


「ぅう──っ──」


 腰から落ちる二人だったが、どちらも脊椎反射で立ち上がった。


 向かい合った二人が始めるのは──拳の連打である。

 ストレート。フック。アッパー。これらを防ぎながらカウンター。──これを回避。反撃──は防いで拳を──これも捌く。

 連撃。連打。連武。流れるような応酬に観客のボルテージも上がっていった。


 加速し、ペースを上げ、速度を増す。もはや目では追えないくらいの速度になった時──均衡が崩れた。


 イヴ渾身の右ストレートを逸らしてカウンターの肘打ち。


「っぐぁ──!?」


 ──喉に喰らった。骨はイカれて内容だが、呼吸が詰まる。脳への酸素が数瞬だけ途絶える。

 ──無抵抗となった刹那のタイミング。イヴの腕を引き寄せて──頭突きを顔面に放った。


「ぶっ──」


 意識が戻る。視界が戻る。──そこへ高高度のハイキックが顔面に迫ってきていた。

 防い──だが、体勢を戻せず地面に腰から落ちる。


 立ち上がろうとするイヴに向かってサッカーボールを蹴るかのようなキック。──両腕で防ぐも、連続のガードに腕も電流を流されたかのように痺れ始める。


 ──髪を掴んで顔面に膝蹴り。これはかなり効く。鼻からも血が飛び出してきた。


「ぶ──ぶ──!?」


 攻撃は途切れることなく続き。回り込んで裸絞め。スリーパーホールドと言った方が分かりやすいか。ともかくイヴの首を絞め上げる。


「が──は……ぁ!!」


「さぁて。このままダウンする?」


 気絶すれば戦闘不能。いわば敗北。もしかすれば──殺される。このまま落とされるのは、なんとしても避けなければいけない。


「ぐぅ……ぅぐ……!!」


「こんなもんじゃないでしょ? ──死にたくなかったら、さっさと本気を出しなさいな」




 ──イヴの体が発光。瞬間、完璧に決まっていた裸絞めを解いた。


「……いい姿になったわね。そっちの方がカッコイイわよ」


「はぁはぁ……!!」


 髪は黄色に。体からは黄金の雷がバチバチと音を立てて弾けている。──これぞオーバーボルトモード(帯電状態)。イヴの強化形態だ。

 仕切り直し。イヴは鼻血を親指の腹で拭き取りながら立ち上がる。


「さてと。じゃあ仕切り直しと行きます──」



 ──言い終える前にイヴのミドルキックが炸裂した。


「がぅ──ぶ!?」


 さっきよりも数段速い。初速を見誤って直撃した。

 お返しの肘打ちを首へ。これは防がれるも──続く裏拳は頬を穿く。


 速度だけでなく威力までもが比べ物にならないほど上がっていた。防いでもガードの上から効かされる。これは──予想以上だ。


「やるぅ……!!」


 イヴは距離をとるために一旦バックステップ──かと思いきや急発進。顔面へのストレート一閃。

 ──今度は後ろへ回り込み、背中への肘打ち。──かと思いきや正面でボディブロー。──と考えていたら真横から飛び蹴りが。

 まさに圧倒。雷のように素早く。矢継ぎ早に攻撃し続ける。


「っっでやぁぁぁ!!」


 体が浮き上がるほどのボディブロー。拳を握り、体をねじり、後方へと力を溜める。


 ──ここで終わらせる。


 床を壊しながら得意の右ストレート。体の動きは完璧。威力は最大値(まっくす)。人間サイズの的なら外すこともなく。パルムの胴体へと放たれた──。




「──やった! 姉御の勝利だ!!」


 相手は無抵抗。ほぼサンドバッグ状態だ。一発一発が必殺の威力を持った連撃。これを耐えられる人間などそういないだろう。

 こうなっては勝利は必然。試合を見ていた控え室ではもうお祝いムードが流れていた。


「……ダメじゃ」


 ──迅鋭を除いて。


「え? なんでダメなんですか?」


「そうですぜ親分。ああなってはもうパルムも抵抗できないっすよ」


「よう見てみぃ──時間のかけすぎじゃ」




 ──イヴは鼻血を出しながら反り返る。後頭部から床へと叩き落ちた。


「!?!?」


 困惑が隠せない。なんで。なにを。された。考えながら起き上がる──その頭をパルムが掴んだ。


「──サービスタイム終了。残念だったねお客さん。景品はナシよ」


 そう言うと──イヴの顔面を地面に叩きつけた。


「っっ──!?」


 持ち上げて──叩きつける。


 叩きつける。

 叩きつける。

 叩きつける。

 叩きつける。

 叩きつける。


 持ち上げて──蹴り飛ばした。


「さっきので私を仕留められなかったのはデカイわよ」


 ──パルムの皮膚に赤い線が浮かび上がっていた。目元から頬へ。頬から首筋へ。首筋から体の末端まで。まるで血管のような線が。

 形態変化だ。イヴだけでなくパルムも持っていたのか。


「ぐ……ぷっ」


 口の中を切ってしまったようだ。不快なので床に吐き捨てる。


「お互い、見た目が変わったところで。また仕切り直しとしましょうか」

「このままファッションショーをしても私はいいけどね」


「……それだと私が絶対に勝っちゃうよ? まぁこのままやり合っても勝てるけど」


「軽口は変わらないわね。それでこそ『わからせ』甲斐があるってもんよ」

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