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第27話『優しさの欠片もない相手』

 ──劣勢。一言で表すのならば、その言葉が最適であった。


 迅鋭の攻撃はまったくと言っていいほど効かず。外装には傷一つ付かない。これではジリ貧だ。

 今のところ迅鋭も攻撃は受けていない。しかし、だ。デクスターは機械。『体力』などという概念は存在しない。半永久的に戦闘を続けることが可能だ。

 アルクとの戦闘でダメージを負って体力も減っている迅鋭。そして万全の状態のデクスター。どちらが優勢かなど考えずとも分かるだろう。




「くっ……!!」


 デクスターの肩を切りつける──効かない。むしろ『桃』の方が刃こぼれしはじめた。


「無意味だ」


 迅鋭に手のひらを向ける。手の中にあったのは……光だ。赤い光は収縮し──発散する。


 手から発射された赤い光線。本能で避けられた迅鋭だったが体勢を崩してしまった。


「──な、なんだそれ!?」


 ──光線は壁を軽く貫き、大穴を開けていたのだ。


「どういう原理じゃ……!?」


 なんて言っている合間にも次弾装填。もう片方の手も迅鋭へと向けられた。

 あんなものに当たったら──迅鋭は机の下へと転がり込んだ。


 光線は外れてまた壁に穴を開ける。ならばとデクスターは机を叩き割った。


「うぉ!?」


 脱出が間に合って立ち上がろうとする──も、デクスターは既に目の前まで来ていた。(かかと)部分に備え付けられてあるブーストで一瞬で移動してきたのだ。

 瞬く間にデクスターの片手は変形。研ぎ澄まされた剣へと変貌(へんぼう)して迅鋭に振るわれた。


 ──弾く。まともに受け止めることはできない。刀を斜めにして攻撃を受け、滑らせるように弾く。これでパワーに差があっても対処が可能だ。

 しかし連続でこられては話が別。両手による連続攻撃は防ぐだけでいっぱいいっぱいだ。


「くっ……そ……!!」


 反撃の余地もない攻撃の連続──そこへ針の隙間を通すような隙を見つけた。


(カラクリでも人と形が同じなら……!!)


 狙うは関節。逆手に持ち替えて(みね)を蹴り飛ばす。『逆滝流れ』はデクスターの右脇から上へと──。



 ──壊しきれなかった。考察は当たり。外殻よりは関節部分は脆かった。外殻よりは。

 弱点は対策されるのが普通。脆いながらも強化コーティングされた関節部分に迅鋭の刃は半分ほどしか埋まらなかった。


(しくじった──)


 絶大に晒してしまった隙をデクスターは刈り取りにかかる。

 左手の拳が変化。象の足の裏のようなピストンの形へと変形。肘から勢いをつけるためのブーストを噴射して迅鋭を──殴りつける。



 使えない右腕でパンチを防ぐ──腕は粉砕骨折。その上、衝撃までは防ぐことができず、壁を壊しながらぶっ飛ばされた。

 一枚。二枚。三枚。真っ暗な部屋の奥へと突き進む迅鋭。デクスターは追撃になど行かず。──自らの勝利を確信した。


「……任務を続行する」


 そう言い残すようにしてその場を立ち去った──。




「酷い……ほんとに全員殺してるじゃん……」


 正面入口へと走る四人。目の端に映るのは惨殺された警備兵たち……血の匂いは辺りに漂い、嗅ぐだけでも気分が悪くなる。


「気が付かなかったの?」


「私は戦ってたから……危うく殺されてたし」


「私も集中してたから」


 そんなことを喋っている内に正面入口が見えてきた。


「ん? あれって──アルク!?」



 腕を押さえて倒れているアルクを発見。アイはすぐさま駆け寄った。


「アルク!? どうしたの!?」


「姉ちゃんか……やばい状況になってる。依頼主の言ってる刺客が来た……!」


「刺客……?」


「今は俺と戦ってた侍が足止めしてる。すぐに加勢しないと……!!」


「侍って、まさか迅鋭!?」


 アルクの負傷。近くで鳴り響く崩壊音。──危ない。迅鋭が危ない。


「イヴ!! すぐにお願い!!」


「分かっ──」




 ──岩が壊れるかのような音。二階の壁が壊れたのだ。

 そこから飛び降りてきたのは──デクスター。電子機器のピピピという音を発して四人を見ている。


(まさかこいつが……!?)


(刺客か……!!)


 異様な外見。殺意を纏った姿。血の付着した体。──即座に戦闘態勢を取るのには十分な見た目をしていた。


 ──デクスターの見る視界には『ロア』と『ハク』が映っている。両者共に目的としていた人物だ。デクスターは機械。機械は私情を挟まず。ただ命令を遂行する。

 ならば見逃すわけもなく。二人をロックオンし、邪魔となる者を排除する──。


「──発見。『ロア・カミリン』を生け捕りに。『ハク・ネテル』を抹殺する」


「……へ?」




 ──イヴが速攻で斬りかかった。

 攻撃は片手で簡単に受け止められ、蹴り飛ばされる。


 アイも続いて戦闘開始。イヴに気を取られている隙に背後へ回り込む。狙うはうなじ。爪を立てて襲いかかった。

 ──簡単に対処。顔面を掴んで地面に叩きつける。


「っづ──!?」


 地面をえぐりながら引きずり壁までぶん投げた。


 デクスターが拳を向ける。──ロアだ。先にはロアが居る。


「嘘でしょ……!?」


 手の甲からリングのような物が発射された──と同時にアルクがデクスターをぶん殴った。

 リングは装甲を壊しながらロアに接触──ロアの体に一瞬で巻きついた。


「な、なによこれ!?」


 外そうとするが外れない。それどころか締め付けが強くなってくる。脚は自由なので走れるはず──なのだが、ロアは徐々に力が込められなくなっていった。


「ちょ、ちょっと何やってんだ!?」


「動け……ない……!」


「あーもう!」


 デクスターは足止めされている。逃げるなら今しかない。ハクは動けないロアを引きずりだした。



 ──アルクは首を掴まれた。解くために腕を掴む──が、その腕をデクスターに掴まれ離される。


「ぐ……が……」


 ミシミシとデクスターの指がアルクの首へめり込んでいく。動脈、呼吸器官が締められ、呼吸ができなくなる。だが先にダメになるのは首の骨だ。


「お前……あの侍は……どうした……」


「排除した」


「クソっ……がぁ……!!」



 ──デクスターの顔面に剣がぶち当てられた。アルクを掴んでいた手は離され解放される。


 剣を当てたイヴに向かって手のひらを──向ける前に脇腹へ一撃。デクスターの装甲に軽くヒビが入った。

 雷を剣に纏わせて次なる攻撃。上から下へ振り下ろすシンプルな打撃を喰らわせた。


 地面まで落ち──ない。腕を即座に変形させて拳をピストンの形へ。肘からのブーストと共にイヴの腹部を貫いた。


「ぐぶ──っ!?」


 吹っ飛ばされるイヴ。──それと同時にアイがデクスターを羽交い締めにした。


「女の子の顔に傷を付けるとかサイテー!!」


 機械なので首を絞めても息は止まらないし意識も消えない。目的は首をへし折ることだ。

 金属と金属が擦れる音。機械としてのパワーが勝ったのは──デクスターだった。

 首をへし折られる前に脇腹へ肘を叩きつけられる。怯んだ瞬間に肩を掴んで地面へ投げ落とした。


 アイを踏みつけて固定。手のひらを向ける。不可避のビームが発射──。

 ──されるも外れた。アルクの突進で狙いが逸れたのだ。


「オラァァ!!」


 大振りの回し蹴り。顔面を狙った上段の回し蹴りはガードされた。──しかしダメージは防ぎきれず。右肩の部分から内部機器が壊れた音がした。

 すかさず二発目。デクスターの顔面を掴んで膝蹴りを叩き込む。これまたヒビが入った。


 三発目──の前にデクスターに足首を掴まれる。

 万力のような握力で握られ、振り回され、地面に振り下ろされた。


「っぁ!?」


 受け身も上手くとれずに背中からいった。体全体に『痛み』という名の行動不能時間が走る。


 その間に動けるようになったアイが走ってきた。


「アルクを──」


 迎撃するように、アルクをアイに向かってフルスイング──。

 ──ジャンプ。デクスターは空振り三振。ペナルティとばかりにアイのドロップキックがデクスターの顔面を襲った。


「──離せ!!」



 手からアルクが離れぶっ飛ばされ──はしない。足を引きずりながら停止。地面からは摩擦による煙が立っていた。


「……強いねアイツ」


「あぁ……人間じゃないと、ここまでやりにくくなるもんなのか……」


 拳を握る。多少の傷をつけたとはいえ、デクスターはまだまだ倒れる気配は無い。人数有利とはいえ勝てるかどうか……。


「あのお姉さんは……逃げれてるね。どうせアイツは起き上がってくるだろうし、さっさと倒すよ」


「……はぁクソっ」


 アルクは髪をかきあげ、デクスターを睨みつけた。


「勝ち逃げされるのも、借りを作るのも好きじゃないんだ──仇くらいは取らねぇとな」

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