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ep41

銃声が聞こえた。あたしは音のした方へ走る。


ショウとリュウさん……どっちが撃ったの?

どうして、どうしてこんなことになったの?

あたしたちは、いつまでこんなことを続けるんだろう……。


ようやく追いついた先で、あたしが見たのは——倒れているショウだった。

リュウさんの姿は、もうそこにはなかった。


あたしはショウの身体を抱き上げ、そっと膝に乗せる。


「ショウ、しっかりして……!」


「ごめん……レイラ……もう、無理だ……。ほんとはもっと前から……わかってた。きっと、辿り着けないって……。レイラは……生きて……」


ショウは弱々しく微笑んだ。


彼の血が雪の上に赤く広がっていく。


「お願い、もう喋らないで……!」


必死にそう言うけれど、ショウはなおも話そうとする。


「最後に……キス、してほしいな」


「もう、こんな時に……」


震える手で彼の頬に触れる。

擦り傷だらけのその肌を、指でそっとなぞる。

両手で包み込むように彼の頬を抱きしめて——優しく、キスを落とした。


「ありがとう……これで、ゆっくり眠れそうだ……。愛してるよ、レイラ……きみに会えて、本当によかった……」


ショウの声が、消え入るように小さくなった。


それが、彼の最後の言葉だった。


あたしは彼の身体を抱きしめたまま、動けなかった。


涙が、あとからあとから溢れてくる。もうとっくに枯れたと思っていたのに……。

あたしはそっとショウの髪を撫でた。

ふわりとした薄茶色の髪が、指のあいだをさらさらと流れていく。


「……約束したじゃない。絶対に死なないって。みんなと約束したじゃない……。あたしたち二人で、楽園をつくるんじゃなかったの……」


彼をそっと横たえる。身を屈めて、もう二度と声を発さない唇に、もう一度、あたしの唇を重ねた。


「大好きだよ、ショウ……ずっと、愛してる」


ふと空を見上げた。


すでに日は傾いて、空は茜色に染まっていた。夕日が白い山を染めて、きらきらと世界を輝かせている。

こんなに暖かい色の世界に、あたしたちの居場所はどこにもなかった。横たわるショウとあたしの影が重なって、雪の上に長く伸びていた。冷たい地面の上、彼の流した血とあたしたちの影が静かに溶け合っていた。


「さようなら」


顔を上げ、冬茜の空に向かって呟いた。


立ち上がり、前に進んだ。前に進まなきゃいけないと思った。あたし一人でも、一人になっても進まなきゃいけない。あたしの中にいる誰かが、あたしを急かす。木々の間にはまだ雪が残っていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「どうやらヘリがこちらに向かっている。ゲームオーバーだな」


 背後から聞こえた声に、レイラは振り返らなかった。振り向かずとも、それが誰の声かくらい、すぐにわかった。


 彼の言う通り、遠くからヘリコプターの爆音が響いてくる。


 ゆっくりとレイラは体を翻し、リュウジの方を向いた。真っ直ぐに彼の目を見る。リュウジもまた、彼女の視線を正面から受け止めていた。


「リュウさんに殺されるなら、あたし、本望だよ」


 そう言って、レイラは彼の顔をしっかりと胸に刻むように見つめ、両手を広げて目を閉じた。


「お前がそれを望むのなら――」


 リュウジは静かに、しかし迷いなく銃口をレイラに向けた。


「リュウさんと過ごした10年間、あたしは幸せだった。とっても大切な思い出。だから今は辛くも苦しくもない」


 レイラの声は祈りのように穏やかで、透き通っていた。


「それは、俺も同じだ。……お前がもしも、普通の人間だったら」


 リュウジの低い声が、微かに震えている。


「リュウさん、ごめんね。こんなことさせて……ほんとうに、ごめんなさい。何度も、あたしを助けようとしてくれたのに……。今までありがとう」


 一筋の涙が、レイラの頬をつたって落ちた。


「もっと違う形でお前と出会っていたら……俺たちは共に生きることが出来ただろうか。俺はお前を――」


  レイラは静かに目を閉じた。そして、もう二度と開くことはなかった。


 『バン!』という乾いた音が、静寂を引き裂いた。心臓を撃ち抜かれたレイラは、ゆっくりと崩れるように倒れこんだ。


 一瞬、何が起こったのかわからなかった。リュウジの視線は、いつの間にか自分の隣に立っていた人物へと向く。


「アン……お前……」


 銃を握りしめたまま、アンは震える声で答えた。


「リュウジにレイラは殺させない。私は、リュウジにそんな十字架を背負わせたくない」


「エイジさんか……」


 リュウジが呟くと、アンは静かに頷いた。


「班長から連絡があった。リュウジにもしものことがあれば、援護を頼むって」


 リュウジは無言で倒れたレイラへと歩み寄る。

 彼女はすでに息絶えていた。まるで眠っているような顔をしている。髪がはらりと頬に落ち、影を作っていた。


 リュウジはそっとその髪をかき上げ、手のひらで彼女の頬を包む。

 まだ少しだけ温かくて、柔らかくて――彼はゆっくりとレイラの体を抱き上げた。


「リュウジ、どこへ行くの?」


 不安げな表情でアンが問いかける。


「……あいつの元に返してやる」


 その言葉だけを残し、リュウジは歩き出した。アンは黙って彼の背を見送った。


 彼の腕の中で眠るレイラは、とても穏やかな顔をしていた。


「……こんな形で、王子様の元に返すなんてな。すまない」


 静かに呟きながら、リュウジはショウの遺体がある場所へと向かった。


 レイラをそっと彼の横に横たえ、ショウの冷たい手に、レイラのまだ温かい手をしっかりと握らせた。


「この地球上で、二人きりで暮らすなんて、不可能なんだよ……」


 そう呟く彼の瞳は、どこまでも深い悲しみに沈んでいた。


 レイラとショウの遺体は、駆け付けた部隊によって回収され、様々な検体に回された後、火葬された。


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