ep34
その後もエイジは何度もリュウジに接触したが、彼の態度は変わらなかった。だがある夜――
「お前か。この辺でいきがってるってガキは」
リュウジが夜の街を歩いていると、数人の男たちに囲まれた。喧嘩に自信のある連中が噂を聞きつけて挑んできたのだ。
騒ぎを避けようと、リュウジは場所を変えることを提案した。男たちはにやつきながらそれに応じ、彼を埋立地の海岸へ連れて行った。
造船所跡と倉庫が並ぶ静かな場所。男たちの中に、ひときわ異彩を放つ人物がいた。冷静で寡黙、だが明らかにその場の頂点に立つ存在感を持っていた。他を寄せ付けない空気を纏い、眼光は誰よりも鋭かった。
他の仲間に対する口調、服装、態度……あいつがこの中で一番立場が上のようだ。あいつを倒せばあっさりとカタがつくだろう。リュウジはそう判断した。
「こいつ、アホですよ。何も知らずについてきました」
男たちがリュウジを囲む中、彼は隙を殴り倒していく――そのはずだった。
「甘いな、たった17のガキが勝てると思うなよ」
背後から声がした。リーダー格の男が背後に回っていた。リュウジが振り向くと、彼の身体は呆気なく吹っ飛んだ。
倒れたリュウジの目に入ったのは、黒く光る銃口だった。初めて目にする本物の銃に、身体が一瞬すくむ。
「こいつ、親無し家無しダチ無しだから、やっちまっても問題ないっすよ」
「いなくなっても誰も気にしませんよ」
男たちが口々にはやし立てるその時、遠くから声が響いた。
「おい、お前たち、何してる!」
声の主は、鋭い眼光を携えた男――エイジだった。
「関係ない。俺の喧嘩だ。口を出すな」
リュウジは、平静を装って、精いっぱい答える。
「リュウジ、それは本物の銃だ。これはただの喧嘩じゃないだろ」
エイジはリュウジの言葉を無視して、ゆっくりと彼に歩み寄っていった――。
「誰だよ、おっさん」
男たちが嘲るように笑う。
「リュウジの友達だ」
エイジの答えに、男たちは一斉に哄笑した。
「お友達が助けに来たってよ」
「いやいや、こいつにダチなんかいねぇだろ。兄貴か?」
「兄弟もいねぇよ、こいつ捨て子だって噂だぜ」
「じゃあ、お友達も一緒にやっちまうか?」
どこからともなく現れたエイジを見て、男たちはまたぞろ騒ぎ出す。リュウジはその混乱に乗じて逃げることも考えた――だがその矢先、鈍い音が響いた。
「……ボコッ」
音のした方を振り向くと、リーダー格の男が地面に崩れ落ちていた。宙を舞った拳銃を、エイジが素早く掴み取る。
「リュウジ、こいつらはまとめて俺が引き受ける。今のうちだ、早く逃げろ!」
リーダー格の男を倒したのはエイジだった。しかしあまりにも速すぎて、リュウジには何が起きたのかすぐには理解できなかった。ただ、目の前に広がる光景に何度も瞬きをする。
「てめぇ、リーダーに何してくれたんだ!」
「まずはこいつからぶっ潰すぞ!」
興奮した男たちはナイフや鉄パイプを手に取り、リュウジではなくエイジに狙いを定めて突っ込んでいく。
「おい! あんたこそ逃げろよ! 殺されるぞ!」
リュウジが叫んだその瞬間、エイジが身を翻し、敵陣に飛び込んだ。
男の振り下ろしたナイフを寸前で避け、腹に鋭いパンチを叩き込む。別の男が振るう鉄パイプをかわして顎に一撃を食らわせると、男は吹っ飛んだ。
「こいつ、めちゃくちゃ強えじゃねぇか!」
「何者だよ、あいつ……!」
倒れた男たちが、息も絶え絶えに呻く中、最初に倒されたリーダー格の男がふらりと立ち上がった。仲間たちを制するように大声を張り上げる。
「もうやめろッ!」
両手を上げ、ゆっくりとエイジに歩み寄ると、男は媚びるように言った。
「分かった、勘弁してくれ。あんた、うちの仲間にならねぇか? 丁度、腕っぷしの強い用心棒を探してたところなんだ」
「断る。俺は知り合いを迎えに来ただけだ。ただ、この物騒なものは預かっておく」
エイジは冷ややかにそう言い、男から奪った拳銃を内ポケットにしまい込んだ。
そして、静かにリュウジの方を向く。
「どうだ、これで仲間になってくれるか?」
リュウジは呆れたように眉をひそめた。
「あんた、バカだろ。下手すりゃ、あんたも死んでたんだぞ」
「お前を仲間にするまでは、死ねないからな」
エイジは冗談めかして笑った。その笑みに、リュウジの表情が少しだけ緩む。
「……分かったよ。で、俺はどこに行けばいい?」
口元ににやりと笑みを浮かべながら、リュウジはそう答えた。
リュウジが18歳でエイジの仲間になったのは、その夜の出来事がきっかけだった。その後、トウリ、アン、そしてレイラが加わり、チームは形を成していった。
リュウジと出会って、もう16年が経つ。
彼は変わらなかった。
いや、変わらないからこそ、リュウジなのだ。
エイジは、しわくちゃになった指名手配犯のポスターを、もう一度強く握りしめた。




