ダメダメ親父と新国王
「父上、いえ、ギルバード国王陛下、速やかに退位をお願いしたい」
王城の一室にフォークラース国の王族が集まっていた。
ここは会議室、当然成人した者しか入れない場所だ。
なので王族でもジェフリーやジェシカなど子供たちはいない。
愛し子だが、王族でもなく、成人もしてもいないレイが入ることは出来ないはずなのだが、なぜかジェラルド王子から「是非、愛し子様にも見ていただきたい」と懇願され、まあいいかと軽い気持ちで受けたレイは今更ながらに後悔していた。
部屋に参加者全員が集まると、第一王子であるジェラルドが、王であり父親であるギルバードに退位を申し出たからだ。
(えー! 私ここにいていいのーー?!)
平常心を装っているが小心者のレイはドキドキだ。
でも折角こんな歴史的瞬間に立ち会ったのだ。
レイはダメ親父であるギルバードをジッと見つめどう出るか様子を伺う。
「はっ? 私が、退位? ジェラルド、何を言っている、気でも可笑しくなったか? 体調も何も悪くないこの私が王位を退くなどあり得ない。第一、私が王で無くなれば困るのはお前たちだろう?」
王位を譲りたくないギルバードは駄々をこねる。
自分がいなくなったら困るでしょう? と自信満々に問いかけるが誰も返事をしない。
妻であり王妃でもあるアンジェリカも冷たい表情。
息子三人だって当然無表情。
そして義理の娘である王子妃様たちもすんっとした冷めた表情だった。
(あらまー、王様、みんなに呆れられちゃっているよ、残~念)
空気が読めない王様は皆を見回し笑顔を浮かべた。
「ハハハッ、なんだ皆して、くだらない冗談ならもうやめておけ、今なら笑い話で済ませてやるぞ」
どこまでも自分が上の立場だと信じているギルバード。
道化師とまではいかないけれど、この場でギルバードだけが現実が見えていないようだった。
「話を進めましょう。まず、これが大臣たちからの署名です。大事にしたくはありませんので大会議は行わず、このような形を取りました。これを見ても貴方は冗談だと思いますか?」
「なに?」
ジェラルドから署名入りの書類を渡され、ギルバードはやっと焦り出す。
皆の本気が伝わったようだ。
「それと、貴方のご友人ギャイル侯爵ですが、筆頭侯爵位から降ろします」
「何故だ? 何故そんな勝手なことをお前がする!」
虚勢を張るためかギルバードがバンッとテーブルを叩く。
国王でありながらギルバードにはギャイル侯爵の行いが耳に入っていないようだ。
きっと信用しきっていて調べる気など起きなかったのだろう。
自分の妻や子供たちが苦しんでいながらギャイル侯爵家の甘言だけを聞き入れ、今までなんの対応もしなかったのだ、見限られて当然、期待も出来ない国王に誰も伝えることなどしなかったのだろう。
「新しい筆頭侯爵家は母の実家リアード侯爵家となります。これは決定であり、報告です」
「なっ、なんだとっ!」
またジェラルドから書類を渡され、そこに掛かれている署名を見てギルバードは驚く。
自分抜きでそこまで話が進むだなんて思ってもいなかったのだろう。
だが、王子全員と王妃、王子妃の許可があればそれが通る。
ギルバードはそんな事にも気づいていないようだった。
「父上、貴方が友人だとそう言って特別扱いした者たちが我々に何をしたか、エミリ妃に何をしたかご存じですか?」
「……エミリ、だと……?」
ギルフォードの母親であるエミリの名が出てギルバードの表情が変わる。
今もエミリに愛情があるのは分かるが、アンジェリカを睨みつけ「お前が犯人だ」とそう言っている表情は愚かすぎる。
冤罪を押し付ける国王などこの国には必要ない。
それも相手は王妃、自分の大切なパートナーだ。
一番信用するべき相手をギルバードは蔑ろにした。
国政とか全く興味がないレイだってそう思うのだ。
真剣にこの国を思うジェラルドは尚更だった。
「エミリ妃に毒を盛ったのは……エミリ妃、本人です」
「はっ? ハハハッ、何を……誰に何を聞いたか分からんが、そんなことある訳がない。ジェラルド、馬鹿なことを言うんじゃない。犯人はアンジェリカに決まっている、アンジェリカがエミリに嫉妬し、追い詰めたんだからな!」
怒りの顔を露にし、アンジェリカを睨みつけるギルバード。
自分の夫にこんな態度を取り続けられればアンジェリカが蟄居したいと、修道院に行きたいと言い出すのも頷ける。
アンジェリカはとっくにギルバードとの復縁を諦めたのだ。
この人に何を言っても無駄。
アンジェリカの顔を見ればその気持ちがレイに伝わる。
子供のころにギルバードとの婚約が決まってしまったことが可哀そうになるぐらいだった。
「エミリ妃を追い込み、毒を渡したのは貴方の信用する友人の妻、メッサリアですよ」
「なに?」
「そして貴方が私に付けたジュダス・ギャイルこそがメッサリアをそそのかした張本人。そしてジェフリーに呪いを掛けた犯罪者でもあります」
「なっ!!」
ジェラルドはそこでレイの鑑定が入った水晶を取り出し、ギルバードに渡した。
そしてギルバードはその鑑定結果を見て驚く、ジュダスの悪事が分かる鑑定結果だからだ。
ジェラルドは畳みかけるように毒盛り犯人のメイドの聴取、それから魔法薬を作った魔法使いの聴取もギルバードに渡し、現実を見せつけた。
「そんな……馬鹿な……」
「王族が毒を盛られたなど公には出来ません。なのでジュダス・ギャイルは王位を狙った逆賊として処刑し、共犯のメッサリアは毒杯の刑に、犯罪者の両親を持ったフアナは修道院へ、そしてギャイル侯爵は身内に犯罪者を出したことを問題とし蟄居、ギャイル侯爵家は男爵家へ降格させ、傍系の者に継がせます。まあ、継ぎたいという者が出ればの話ですが……そこはこれからとなるでしょう」
ギルバードは開いた口が塞がらない。
まさか一番信用し、傍に置いていた者がこんなことをしでかすなんてと、信じられない様子だ。
王には王だけが動かせる諜報員もいるはずなのに、ギルバードはギャイル侯爵の話だけを信用し、自らの手で調べることなどしなかった。
アンジェリカの嫉妬。
優越感に浸れるそれが、きっと心地よかったのだろう。
アンジェリカに愛されている、そして自分はアンジェリカよりも上に立っている。
ギルバードは常にそう思っていたかったのかもしれない。
「……退位は、分かった……だが、次の王は、ギルフォードに、ギルフォードに譲る……」
ここまで来てもまだ自分の望みが叶うと思っているのか、ギルバードがギルフォードの名を口にする。
懇願し、期待の籠った視線をギルフォードに向けるが、ギルフォードは首を横に振った。
「父上、お気持ちは有難いですが、私は王に就く器ではありません」
「そんなことっ!」
「いいえ! 父上、いい加減現実を見てください!」
いつにないギルフォードの強い言葉にギルバードはやっと周りを見る。
王族の皆が望む次の王はジェラルドだ。
レイだって少しの期間だけどジェラルドと一緒にいて彼の国を思う強い気持ちを知っている。
彼は国のためになるのなら、ギルフォードが王になりたいと言ってその資質があれば喜んで王位を譲るだろう。ジェイクに対しても同じだ。
だけどギルフォードはそれを望まない。
母が亡くなった王城に住むことを苦しいと感じている。
だからジェラルドは王城の外にギルフォード用の家を準備し、王城に呼び出しても必ず家に帰していた。
そんなことも理解できないギルバードはやはり王には相応しくない。
レイ的には自分の傍にいる人を大切に出来ない人には国王など務まらない。
そう思ってしまう。
「父上、私に王位を譲って下さいますね?」
「……」
強い口調で問われ、ギルバードは静かに頷く。
やっと諦めきれたのか、椅子に腰かけながらガックリと項垂れた。
「退位後は、精錬の宮に居住をお移し下さい、そこでは甘言など吐く者もいないでしょう」
「ま、まて、精錬の宮だと?! ジェラルド、私を王家の犯罪者扱いする気か!」
どうやら精錬の宮とは王族で犯罪を犯した者を入れる宮のようだ。
小説や漫画などに出る北の塔みたいなものだろう。
その宮には入れるものも限られるらしく、国王の監視下にも置かれるようで、ギルバードの顔にまた怒りが浮かぶ。
「私は、精錬の宮には入らん!」
ダンッとテーブルを叩くギルバード。
強がっているように見えて、情けなさしかない。
「……父上、貴方はそれだけのことをしたのですよ……いいえ、人任せで何もしてこなかった、それが正しいでしょうか?」
「……っ!」
ジェラルドに訴えても何も変わらない、そのことにギルバードは気づいたのだろう。
助けを求めるようにギルフォードに視線を送り、目が合わないと今度は自分が冷遇してきたアンジェリカへと視線を送る。
「……アンジェリカ……」
ギルバードに名を呼ばれ、アンジェリカが視線を向け微笑んだ。
それにホッとしたのかギルバードの顔に嬉しそうなものが浮かんだ。
「ギルバード様、離縁して下さいませ」
「へ?」
「ああ、言葉が悪かったですわね。王族に離縁は認められていませんもの……そうですわね、夫婦関係を解消してくださいませ。もう貴方の傍にいて振り回されるのはうんざりですわ。王妃の座を譲りましたら私は王城から出て、余生は国に奉仕しながら生きていきたいと思っておりますの。ギルバード様、どうぞご理解下さい」
優しく微笑むアンジェリカはとても綺麗だった。
やっと自由になれる。
自分の人生を歩むことが出来る。
ギルバードに別れを告げ、これからの未来に希望溢れるアンジェリカの瞳は輝いていた。
こんばんは、夢子です。
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このお話は明日に続きます。
緊張感のある会議室
ジェドに会いたい……
レイはそう思っていたと思います。




