★S級冒険者誕生
「ギルフォード、お前は今日からS級冒険者だ……」
「は?」
ギャイル侯爵家の事件が解決した次の日、ギルフォードは兄二人から王城へと呼び出された。
ギルフォードは王都に来てからというもの、最初にレイと王都内を回ったきり王城へ通い詰めだ。
大きな問題があったので当然だと言えるが、せっかくレイと王都に来たのだから色々と遊びに連れて行ってあげたかったし、傍にいて話を聞いて上げたかったというのが本音。
王妃との面会も終わり、ジェフリーの解呪も終わり、ギャイル侯爵家の事件も解決したはずに、なぜか今日も王城に呼び出され、何を言われるかと思えば「今日からS級冒険者だ」と長兄ジェラルドに言われてしまった。
兄上たちも疲れでとうとう可笑しくなってしまったのか?
それとも自分の疲れからの聞き間違いか? と、ギルフォードは兄弟皆の健康が心配になったとともに、自分の耳も疑った。
「兄上、何を言ってらっしゃるのですか? 私はまだS級冒険者に相応しい功績を上げていません」
というかレイの祖父ロビン・アルクと比べれば、ギルフォードはまだひよっこ。
A級冒険者だと名乗るのもおこがましいぐらいだ。
そんな気持ちを前面に出せば、兄二人にくすくすと笑われる。
「ギルフォードは自己評価が低いのだな」
「案外自分のこととは見えないものなのかもしれないな」
兄たちが自分に甘いことは知っていたが、そんなこと言い出すとは思わなかった。
自分のことは良く分かっていますよ、そう言いかけたギルフォードの前、テーブルの上にドンと書類を置かれた。
「これは……?」
「お前をS級冒険者にしてくれという嘆願書だ。識字率が低い庶民からのものが多い、勿論ルオーテの冒険者ギルド長のものもあるぞ」
(あの野獣親父……)
ギルフォードは書類を手に取りながらエドガーの顔を思い浮かべる。
絶対に面倒なことがあってギルフォードに丸投げしたのだろう。
この嘆願書もエドガーの策略のような気がして素直に喜べない。
念のため深呼吸をし、心を落ち着かせてから書類に目を通す。
人生には思いもかけないことがあることを、ギルフォードはレイと出会ってから良く学んでいた。
『ギルフォードさんのポーションのお陰で病気が治りました、街の英雄にはぜひS級冒険者になって欲しいです』
『息子を苦しみから救ってくれてありがとう、ギルフォードさんはS級冒険者になるべきだ』
『この街の孤児院の者は皆ギルフォードさんに感謝しています。S級冒険者になって今度は国を救ってください』
「……」
ギルフォードは自分の目を疑った。
全く記憶にないが自分はルオーテの街を救ったらしい。
いつだ?
そもそもポーションと書かれているが、ギルフォードがポーションを誰かに渡した記憶などない。
そう考えれば答えは一つ。
「レイだ……」
それしかあり得ない。
てへっと誤魔化すように笑い、ポヤポヤした様子の教え子の顔が浮かび、ギルフォードは無意識に手を額に置いた。
あの子は今度は何をやったんだ。
まさかハイポーションよりも価値のある、栄養ドリンクを配り歩いたりはしていないよね?
呆れと困りと楽しさと、いろいろな感情が混ざり合わさり、ギルフォードから小さなため息が漏れる。
「まったくあの子は」と呟いたギルフォードが面白かったのか、フフッと楽し気に笑いながら兄たちが話しかけてきた。
「ギルフォード、知っているか? ギルフォードが新人冒険者を危険なダンジョンから救い出したと、そんな話も王都まで上がってきているんだぞ」
「それもレイです……あの子がダンジョンの最奥に進み、あっという間にボスを倒してカークを救ったんです。僕は本当についていっただけなんですよ」
「ギルフォード、お前が仕事をしないビアス領主にもA級冒険者として苦言を呈したとか……そんな武勇伝も上がって来てるぞ」
「くっ、それもレイです。街を汚いままにしているビアス領主に対してレイが怒って……僕は頼まれて会いに行ったに過ぎません……」
どれもこれもレイの功績、レイの行動の結果だ。
けれどあの子が目立ちたくないと言っている以上、世間に向け「レイがやりました」とは言い出せない。
それに世の中にレイが愛し子であることが知られれば、レイが危険になることは間違いない。
あの子なら「美味しいお菓子があるよ」と声を掛けられたらホイホイ付いていきそうで、ギルフォードは想像しただけで胃が痛くなる。
もし「良い風呂がわが国にはあるんだよ」なんて声を掛けてくるものが居たら、レイはすぐにその国に移住してしまいそうだ。
そして東の国オーストの者が「ウチには珍しい食材がありますよ」と声を掛けようものならば、喜んで国へついていき、監禁されていることにも気づかず料理を作り続けそうな気までする。
色んな悪い想像が浮かび、それが現実に起こりそうでギルフォードは頭を抱えた。
ガクリと肩を落とすギルフォードの姿を見ながら、楽し気なジェラルドの話は続く。
「ビアス領主のことだが……あれは酷い。調べた結果、ビアス領主は領主としての仕事をしていないどころか、領民の足かせにしかなっていなかった……ビアスの役人たちの間では横領が当たり前、商業ギルドも酷いものだった。それとお前から聞いた祭りの件も、役所の者が依頼料を着服していたから起きたことだった」
「兄上、調べていただき有難うございます。やはりそうでしたか……」
「ああ……」
そうでなければビアス領はあれほど酷い状態にはならなかっただろう。
街の汚さもここ数年で一番ひどい状態だ。
貴族街だけが美しく保たれていたのは、悪事がばれないようにするため。
あの領主が平民街に出掛けることなどあり得ない。
遊んで暮らすことしか考えていないビアス領主をだますことなど、悪意を持つ者からしたら簡単だっただろう。
「それでだ、ビアス領……まあ、辺境地と言われている領地だが、そこは全てお前のものとする」
「は?」
「王家を、この国を救って頂いた愛し子様へのお礼だ。本当はご本人にお渡ししたいがそうもいかない。ならばお前に渡し、お前が愛し子様の望むような領地を作ればいい。明日からお前は辺境伯だ。望み通り王位継承権も無くす。そうだなぁ、今後はお前の拠点があるルオーテ辺境伯と名乗るのがちょうどいいだろう? どうだ、これなら愛し子様もお礼として喜んでくれるだろうか?」
「……」
ギルフォードがルオーテの街を貰ったらレイは喜ぶだろうか?
ギルフォードは突然のことに真っ白になった頭をフルで使い考える。
綺麗な街にし、美味しいもの、楽しいものをたくさん街中に用意すれば、レイが喜ぶような気がする。
ルオーテの街が栄え、レイ好みとなれば、他からの甘い誘惑にも乗らなくなる。
ギルフォードはそんな希望を持った。
「それに愛し子様からあれほど熱烈な求婚を受けているお前を、一冒険者にしておくわけにはいかない」
「求婚?」
レイからの求婚。
兄からその言葉が出て、ギルフォードはレイが「ギルフォードは大切な人です」と皆の前で宣言したことを思いだす。
あれは本当に求婚だったのだろうか?
レイの性格的に人前で愛を告白するとかそんな面倒なことをするようには思えない。
けれどギルフォードのことを思って宣言したと思えば考えが変わる。
あの優しいレイなら、ギルフォードを王家から逃がすため結婚という道を選ぶ可能性はあった。
「……ですが、レイはまだ子供です、私への求婚は今だけの気持ちかもしれません」
弱音のような本心を吐けば、兄たちにくすくす笑われる。
ギルフォードこそ兄たちに子ども扱いされているようで、なんだか居心地が悪い。
「ギルフォード、だったらお前が愛し子様を夢中にさせたままにするよう努力しろ」
「ジェイク兄上……」
「そうだギルフォード、女性の成長は早い。愛し子様はその膨大な魔力のせいか成長が遅いようだが、あと数年後はもう立派な淑女となっているだろう。子供だからと遠慮して距離を置いたら最後、誰かにさらわれてしまうぞ、特にジェフリーとかにな」
「ジェラルド兄上……」
ジェフリーなら見た目的にも年齢的にもレイの相手としてなんの問題も不足もない。
それにジェフリー本人も命の恩人であるレイのことをとても気に入っている。
今は可愛い『お友達』でいる二人だが、この先その気持ちが恋慕に変わる可能性は高い。
二人の結婚式など想像すれば、ギルフォードの中で何か燻ったものが上がってくる。
「それに愛し子様を護りたいと、彼女の騎士になりたいと、父上に宣言したのはお前だろう?」
「それは、そうですが……」
レイを護りたい気持ちは本当だ。
それに王家から離れ、レイの過ごしやすい街を作るのも嫌ではない。
「だったら覚悟を決めろ、ギルフォード・フォークラース」
「……っ!」
王子としての名を呼ばれ、ギルフォードは下げていた顔を兄たちへ向ける。
「お前は今日からS級冒険者であり、ルオーテ辺境伯だ。愛し子様を護るため全力を注げ!」
「兄上……」
「これは王からの命令だ、ギルフォードしっかり頼むぞ」
「はい、兄上……いえ、陛下、その命確かに承りました」
こうしてギルフォードはS級冒険者となり、そしてルオーテ街を中心とした領主、ルオーテ辺境伯爵を叙爵することになったのだが、その日の夜そのことをレイに伝えれば「やったー!」と言って喜ばれた。
(これで好き勝手出来るね、ニシシ)
わーいと喜ぶ子供らしいレイが、そんなあくどいことを考えているなど思いも気づきもしないギルフォードだった。
こんばんは、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
ビアス領主マックス・ビアスは子爵になり、小さな田舎町に移動です。
今のように毎日夜会に出ることは叶わなくなりますが、彼は彼なりの重荷から解放され好きなように生きると思います。
補佐官オルトは残ります。彼はビアス領の補佐官なので今後はギルフォードに仕えることになります。




