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【完結】レイののんびり異世界生活~英雄や勇者は無理なので、お弁当屋さん始めます~  作者: 夢子


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ジュダス・ギャイル

「ジェラルド様、お呼びとあってジュダス・ギャイル馳せ参じました。何か緊急ごとでもありましたでしょうか?」


 ジュダス・ギャイルが第一王子の執務室にやって来た。

 恭しく礼を取っているようだが、レイにはジュダス・ギャイルの副音声が聞こえた。


『ダメ王子が、仕事が忙しいのにこの私が急いで来てやったんだぞ、つまらない用事だったら許さないからな』


 レイの心が濁っているからか、それともジュダスを犯人として見ているからか。

 ジュダスの言葉を素直には受け止められない。


 彼の態度がまた横柄に見えてしまうのも、愛し子フィルターのせいなのかもしれない。


「忙しいところ済まないね、ジュダスにも愛し子様を紹介しようと思ってね」


「愛し子様……ですか?」


 執務室の横、扉が開いた状態の応接室にジェラルドとジュダスが入ってきた。

 ジュダスがここでレイを見て驚けば、愛し子の存在を知らなかったことになるが、ジュダスはニコリと微笑むだけで驚きはしない。

 やはり愛し子の存在を分かっていたようだ。


 なのでソファーに座ったままのレイは、何も言わずニコリと微笑み返した。

 愛し子ぶりっ子ともいえる。


「こちらが愛し子様だ。ジェフリーの命を救って下さったんだよ」


「……それはそれは、愛し子様、この国の大切な光をお救い頂き有難うございます」


 レイは言葉を発さずニコリと笑って頷くに留める。


『余計なことをしやがって』と思っているであろうジュダスと話をする気はない。


 そうあからさまに表現してみれば、それは彼にも伝わったようで、浮かべる笑顔がちょっと引きつっている。


(うーん、ジュダス・ギャイル、噂通り確かにイケメンだけど……性格の悪さが顔に出てるよねー。笑ってる口が斜めってるし、私から見たらおっさんだしねー)


 ジュダス・ギャイルはエルフを人間にしたような細身の男性で、色も白く、確かに美しい男性だった。

 だけど年齢はジェラルド王子よりも年上。

 自称二十代で四十代と見えるドルフさんと同じぐらいに見える。


 多分全盛期はブイブイ言わせていたのだろう。

 女性は皆自分を好きになる、そう思っていそうだ。

 だからレイの素っ気ない態度が納得いかないのだ。

 何故自分に靡かない?

 そんな疑問が顔に出ている。


(この人ヤバいよ、不満があからさまに顔に出ちゃっているよ……皆何とも思わないのかなぁ?)


 ジュダスは侯爵家の息子で顔もいい。

 きっと学生時代は勉強も出来ただろう。

 そして第一王子の側近でもあって将来有望。

 これだけの条件が揃えば女性にも不自由しなかったはずだ。


 それでも結婚していないところを見ると『自分に釣り合う女がいない』とか思っていそうで、レイはある怖い考えが浮かぶ。


 もしギルフォードが女性だったならば。


 きっとこのジュダス・ギャイルはどうやってでもギルフォード()を手に入れただろう。


 野心が見え隠れする気持ち悪い笑顔に、愛し子だと名乗ったレイは狙われているようでちょっとだけ寒気を感じた。


(いやー、男の子の格好で来ればよかったよ、てか、この人、第一王子の娘とか狙ってそうだよねー、怖いわっ!)


 レイがジュダスの性格診断を勝手に行っていると、ジェラルドの話が進んでいく。


「……それでな、今日お前を呼び出したのには理由がある。愛し子様にジェフリーを診てもらった結果、毒を盛られていることが分かったんだ……」


「毒、でございますか? ですが王族の方々が口にするものは必ず鑑定され、毒見もされるようになっておりますが?」


「ああ、そうだな……確かにお前の言うとおりだ……」


 ジュダスは白を切るつもりなのか、毒を盛られることなどあり得ないと言い切る。


 だけどジェラルドは 『王妃のお茶会で愛し子が毒を盛られた事件』 を持ち出した。


「先日、母上と愛し子様のお茶会で、あるメイドが愛し子様に毒を盛ろうとした……」


「それは、また……王妃様の行動力にも困ったものですね……」


 白々しく表情を曇らせるジュダス・ギャイル。

 毒盛りの犯人は王妃。

 皆が王妃を疑っている、そう思っているようだ。


「実行犯のメイドの話では、薬欲しさにある者に脅されていたようだ」


「ほう……()()()ですか?」


「ああ、タロイが調べた結果、その相手はジュダス、君の家の(魔法使い)だった……その者もメイドと同じように捕まえてある。お前はそれを聞いてどう思うだろうか?」


 ジェラルドの問いかけにジュダスはフフフッとジェラルドを馬鹿にしたように笑う。

 その程度のことで自分を疑うのか? と自信たっぷりな様子だ。


「ジェラルド様、申し訳ありませんが、我が家は王女が降嫁し、宰相も出るほどの歴史ある家。多少の恨みを買うこともありますし、実際あり得ない噂を立てる者もおります。その者たちはきっと我がギャイル家を陥れようとしているのでしょう……私にはそのような者達など認識がございませんので」


 ジュダスは本当に実行犯のメイドとも、メイドに怪しい薬を渡した魔法使い風の男とも顔を合わせてなどいないのだろう。


 自分の望みを遂行するため、人を上手く使い実行したに決まっている。


 トカゲのしっぽ切り。

 ジュダスはいつでも言い逃れ出来るようにしていたはずだ。

 でなければメイドや魔法使いが捕まった時点でもっと焦ったはずだ。


 でもジュダスは彼らのことを気にもしていない。

 結局使い捨て駒なのだろう。


 だからジェラルドに問いかけられても何も問題ない。

 ジュダスの自信気な顔がそう言っているようだった。


「そうか……ではこちらを見てもらおうか」


 ジェラルドが濃い水色の水晶を取り出す。

 手のひらに乗るそのサイズの水晶は、昨日レイが鑑定結果を保存したものだった。


 そしてジェラルドが魔力を注げば、その鑑定結果が空中に浮かび上がる。


【ギャイル侯爵領特別林檎

 ギャイル領で採れた普通の林檎をジュダス・ギャイルが呪いを入れ特別甘く美味しくしたもの

 一口食べればみんな虜になることは間違いなし

 男性が食べれば血が濁り衰弱し

 女性が食べれば血が濁り子供が出来なくなる

 自尊心の高いジュダス・ギャイル自慢の一品

 誰にも看破されないとジュダス・ギャイルの誇りと奢りが詰まった一品】



「なっ! 何ですかこれは、失礼にもほどがある! ジェラルド様、これは、偽造です! 鑑定結果がここまで詳しく出るはずがない! 流石にこれはジェラルド様だとしても許せないことですよ。ギャイル家として強く抗議申し立てます。こんなものを出して私を侮辱し、貶めようとしているのですか!」


 流石のジュダスもこれを見て笑顔を消した。


 でもどこまでも自分は悪くない。

 そちらが騙されている。

 そう言いたいようだった。


(はい、かっちーん! この野郎、私の鑑定結果を偽造だと言いましたよぉ?)


 確かにレイの鑑定は可笑しいかもしれない。

 でもレイの鑑定結果を『悪』だと言い出したジュダス・ギャイルには頭に来た。


 レイは立ち上がりジュダス・ギャイルに一歩近づく。

 そして愛し子らしい笑顔で首を傾げた。


「可笑しいですね、貴方は愛し子であるこの私の鑑定結果が間違っていると、そう言うのですか?」


 まさか鑑定した相手がレイ(愛し子)だとは思わなかったのだろう。

 ジュダスの余裕顔に焦りが見えだす。


「……貴女は、愛し子様は、まだ子供だ……か、鑑定を間違うことだってあるでしょう……」


 レイ(愛し子)が鑑定をしたと知って一瞬表情を変えたジュダスだったけれど、どうにか笑顔を作りレイを見つめる。


 幼い子供にしか見えないレイならば不安になるような言葉を掛ければ傾く、そう思っているのか、それともそれほど自分の魅力に自信があるのか、ジュダスはレイを見つめ優しく微笑んだ。


「確かに、誰でも間違いはありますもんねー」


 うんうんと頷くレイを見てジュダスはホッとし「その通りですよ、愛し子様」とニコニコ顔を見せる。

 初心な乙女ならば頬を染めるかもしれないが、今現在レイにはジュダス・ギャイルが胡散臭いおっさんにしか見えない。なので自慢の笑顔を見ても気持ち悪さしかない。


 それにジュダスと同じ年代の男性ならモーガンのようなカッコいい男性もいるし、ジェドのような包容力のある優しい男性も知っている。


 なのでジュダスを見ても、自分が凄いと勘違いした痛々しい男にしか見えなかった。


「では、今から私が貴方を鑑定しましょうか?」


「……は?」


「貴方も潔白を証明したいでしょう? でしたら私の鑑定を受けてみてください。私の鑑定は普通とはちょーっと違うので、あなたの考えていることまでぜーんぶ分かると思いますよ」


「……っ!」


 てへっ。


 レイが可愛く笑ってみれば、ジュダスはフルフルと震えだす。

 多分怒りからなのだろうが、おっさんが震えても何も可愛くない。


 こいつ怒ったり笑ったり震えたり、本当に面倒くさい男だなぁとレイは呆れていた。


「ジュダス・ギャイル、潔白だというのならば愛し子様の鑑定を受け入れろ」


 ジェラルドが声を掛けた瞬間、ジュダス・ギャイルは懐から短剣……ではなく、メガネの男の子が持っていそうなサイズの杖を取り出す。


 そして傍にいたレイの腕を引っ張り、レイの首元にその杖を置いた。


「黙れ、黙れ、黙れ! この無能な王子がっ!!」


 本性を現したジュダスが吠える。

 愛し子であるレイが捕まったからか部屋の中が緊迫した空気となるが、レイの実力を知るギルフォードやメイソン、ゾーイは落ち着いている。

 ジュダス・ギャイルの出方を見守っているようだ。


「ギャイル、愛し子様を放せ! これ以上罪を重ねるな!」


「五月蠅い! 五月蠅い! 五月蠅い!!」


 興奮しているのかフーフーと息が荒いジュダスの吐く生暖かい息が、レイの頭に掛かって気持ち悪い。

 それに多分こいつ(ジュダス・ギャイル)は昨日風呂に入っていない、なので微妙に汗臭い。


 レイはワザと捕まったが、違う意味で身震いが起きる。

 もう今すぐシャワーを浴びたいぐらいだ。


 そんなレイを見て怯えていると勘違いしたジュダスはニタリと笑う。


(うわー、嫌な笑顔。そもそもどんなに顔が良くても不潔な男は嫌だよねー、こいつ(ジュダス)だから結婚できなかったんじゃないのか? 風呂嫌いには悪いやつしかいないしー)


 レイはジュダスに犯行の理由を吐き出させたかったので、嫌だったけど大人しく我慢する。

 なるべく息をしないように菩薩のような表情を浮かべていると、ジェラルドやタロイが心配している顔が見えて申し訳なくなる。


(もう、早く理由(動機)話してよ!)


 レイがそう思っていると、ジュダス・がやっと犯行理由を話し出した。


「……私には子供のころから才能があった。王位継承順位は低いけれど、私には王位に就く資格がある。優秀な私を見て、家庭教師たちはいつも私が王家の子供だったらと、口癖のように褒めていたよ……」


 そりゃあ雇われ家庭教師なら褒めるよね。

 それも多分家庭教師たちはこいつが一番喜びそうな言葉を掛けたんだ。

 それを今も真に受けているのかこいつはと、菩薩顔のレイはジュダスに呆れていた。


お前(ジェラルド)の側近になるために初めてお前と顔を合わせた時、あまりの愚かさに私は笑ったよ、こんな者が未来の王なのかとな……」


 ジェラルドよりもジュダスの方が年齢は上だ。

 幼いころの一歳、二歳の差はとても大きい。


 なのに自分よりも出来ないことが多いジェラルドを見て、ジュダスはまた勘違いしたようだ。アホすぎる。

 きっと家で凄い凄いと褒められて甘やかされたのだろう。

 ジュダスはレイが大っ嫌いな貴族そのものだった。


「兄上はギルフォードにフアナを娶らせ、王家を我が物にしようとしたが、私は違う! 私は自分こそが王に相応しいと知っているのだ! だからこの国のため行動するしかなかった!」


 ギルフォードにフアナとの婚約を進めたのはジュダスの兄らしい。

 だからこそ兄嫁もギルフォードさんのお母さんと友達になったのだろう。


 でもジュダスにはそれ()邪魔だった。

 フアナが本当にギルフォードと結婚したら、ジュダスの王位がより一層遠のく。


 だから兄嫁を使いギルフォードのお母さんを追い込み、毒を渡した。

 もしかしたら兄嫁はジュダスのことが好きだったのかもしれない。

 だからこそ彼の言葉に従い、二人の輝かしい未来を夢見てのぼせ上ったのだろう。


「ギルフォードは城から出ていった、あと邪魔なのはお前たちだった。事件の後大きく動けば目立ってしまう。だがそんな時ジェシカが生まれた。私はそのお陰で簡単に王位につく方法が浮かんだのだよ……」


 つまりこの男は、まだ十二歳のジェシカ王女と結婚する気だったのだろう。

 なんで王女様が自分の父親より年上の気持ち悪い男と結婚しなければならないのか。

 ジュダスの考えが理解できない。


「妃たちにはもう子供を産ませたくはなかった、それにジェフリーは、私とジェシカの進む道の邪魔でしかなかった」


 どこまでも自分本位な希望。

 どこまでも自分勝手な行動。


 その為にアンジェリカやジェフリー、それに妃様たちが苦しんだと思うとレイには怒りしかない。


「黒幕は王妃がちょうどよかった、愚王は私の言葉を信用しきっていたよ。フフッ、自分の愛妻(側妃)が誰に殺されたのかも気づかずにねぇ」


「貴様……」


 ギルフォードが怒りの表情を浮かべる。

 ジェラルドやジェイクも同じ表情だ。


 兄弟ってやっぱ似ているね。


 レイはこんな時なのにそんなのんきなことを考えていた。


「フフフッ、だが、もうこの国などどうでもいい。今日、私は幸運なことに愛し子を手に入れた。天は私の味方だ……愛し子がいれば私はこの世界の覇者となれるだろう」


 自分優秀と言っておきながら、ジュダスはレイの力を使い、この世界を手に入れるつもりのようだ。


(えっ? もしかしてこいつ私と結婚する気なの? きもっ! ほんと無理なんだけどー!)


 腕に鳥肌がたち、レイは遂に我慢の限界を迎えた。


 丁度良くジュダスも話は終えたようで、ニヤリと笑いポケットから何やら怪しいものを取り出した。

 なのでレイはもういいか、とじっちゃんに止められていた危険な魔法を使うことにした。


「『結界』!」


 レイが結界魔法を使うとジュダスの全身がラップされた状態となる。


 手に持っていた杖も、何か分からない物体も同時にラップされ、ジュダスの動きはピタリと止まる。


「レイ!」


 ギルフォードが駆け寄りレイをぎゅっと抱きしめる。


 冒険者としては細身だけど、ギルフォードの体はちゃんと引き締まっていて筋肉もあってちょっと硬い。


 ちょっとだけじっちゃんに抱きしめられた記憶を思い出しながら、レイは抱きしめ返しギルフォードに笑顔を向けた。


「ギルフォードさん、これでこの人が犯人だって確定だよね?」


「ああ、進んで自供をしてくれたからね、全部レイのお陰だ、本当に有難う……」


 ギルフォードに抱きしめられながら、チラリとラップ状態のジュダスを見る。

 

(この人、酸素がない状態でどれだけ持つかなぁ?)


 ギルフォードの背中をよしよしと摩りながら、そんなことを考えていたレイだった。

こんばんは、夢子です。

本日もお読みいただきありがとうございます。

また、ブクマ、評価、いいねなど、応援もありがとうございます。


ドルフは自称二十代ではなく本当に二十代です。


そしてジュダスは一応エルフ風なイケメン親父です。

敵認定しているレイには全て気持ち悪く映ります。

お風呂に入っているけど緊張からか汗臭いジュダス。

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