糞領主
「リサさん、体調はどうですか?」
サラ商店から帰ろうと思ったレイに、「せっかく来たのだからリサとレイラに会って行って」とサラが声を掛けてくれた。
二人が心配だったレイは悩んだ末にその言葉に甘えることにする。
レイは手洗いうがいをしっかりとし、浄化もしっかりと掛けてから二人の下へ向かった。
愛し子の自分なら出来る事がある。
そう確信していたからだ。
「レイ君いらっしゃい、こんな姿でごめんなさいね」
昨日から体調を崩しているリサさんは少しだけやつれていて、ベッドに寄りかかったままレイラを抱っこしていた。
「レイラ、ほら、レイお兄ちゃんが来てくれたわよ」
体調の悪さからかリサさんが抱っこしていないとレイラはグズってしまうらしい。
うとうととしているけれど目元には涙の跡があり機嫌が悪そうだ。
今のところレイラは熱などはないけれどお腹を壊していて乳を飲んでもすぐに出てしまうらしく、リサさんは心配でゆっくり休めていないようだ。
「レイラ、すぐに良くなるからね」
レイラの側に行き、そっと回復魔法を掛ける。
赤ちゃんに対し魔法がどれほど影響があるのかレイは分からないため、点滴に近い感じでゆっくりとかけていく。
青白かったレイラの頬が少しずつ桃色に染まれば、(もう大丈夫そう)だとホッとして、レイはレイラから離れた。
「あら? レイ君に会ったからかしら、レイラの顔色が良くなった気がするわ」
「まあ、本当ね、小さくても大好きなお兄ちゃんのことは分かるのよ。レイラ良かったわねー、レイお兄ちゃんが来てくれて嬉しいでしょう」
リサさんとサラさんがレイラの落ち着いた様子を見て顔をほころばせた。
きっと昨夜はかなりぐずっていたのだろう。
スースーと規則正しい寝息を立てだしたレイラを見て二人とも安心したようだ。
(王都に行く前で良かったよ、このまま出発してたら大変なことになってたもん!)
無事魔法をかけられてホッとしたけれど、領主に対しての怒りは燻ったままだ。
本当にこの街はどうなっているんだ? と文句を言いたい気持ちが収まらない。
「リサさん、僕が作った栄養ドリンクです。良かったら飲んで下さい。体が楽になると思いますよ」
「栄養ドリンク? まあ、レイ君は本当に器用なのね、ありがとう、頂くわね」
これまでお菓子や小物などレイの手作り品を知っているだけに栄養ドリンクを見てもリサは驚かない、素直にレイの栄養ドリンクを受け取り飲むと「あら?」とリサは驚いた顔になる。
「これ凄いのね、体が凄く楽になったわ」
「なら良かったです」
リサの笑顔にレイもサラもホッとした。
自分もお腹を壊し、レイラの面倒も見なければならないリサが一番キツかったはずだ。
レイを家族だと言ってくれるサラ商店の皆の役に立ててレイは嬉しかった。
「サラさん、これ私が、いえ、僕が作った林檎です。林檎は病気知らずって昔から言うから、家族の皆さんで食べてください。あと多めに渡すので、ご近所の皆様にもどうぞ」
「あら、まあ、レイ君、こんなに沢山悪いわぁ」
「いいえ、林檎は沢山あるので大丈夫ですよ。それに僕はレイラのお兄ちゃんなんで、これくらいはカッコつけさせて下さい」
「あら、まあ、うふふ、ありがとう。レイくんは本当に素敵なお兄ちゃんだわ、レイラの自慢のね」
「いいえー、えへへへ」
サラがレイの頬に触れニッコリと笑ってくれる。
その笑顔だけでプライスレス。
レイは大満足だ。
病人の前で長居は無用だと、万が一のために栄養ドリンクを数本渡しレイはサラ商店を後にする。
(レイラをいじめた奴め、絶対に許さん!)
レイの大切な妹、レイラを苦しめた原因を特定する為、レイは普段以上に汚いルオーテの街をずんずん進んで行った。
「よう、坊主、怖い顔してどうしたんだ? どっか行くのか?」
レイが完全武装をして汚い街を歩いていると、見知らぬ男性に声を掛けられ驚いた。
誰だこいつ?!
機嫌の悪いレイの視線と疑問に気が付いたのか、声をかけて来た男性が慌て出す。
「坊主、俺だよ、俺、ほら、この顔見てみろって!」
目の前のおっさんは帽子をとりレイに顔を見せる。
(この世界にも俺俺詐欺があるのかぁ……)
一瞬そんな考えを持ったが、レイは男性の顔を見てハッとした。
「ああ! 門兵のおじさん!」
「そうだ、そうだ、やっと気づいてくれたかー、良かった怪しいやつだと勘違いされたかと思ったぜー」
「うん、人攫いかと思ったよ」
「ぐぁっ、マジかー」
「うん、ごめんねー、えへへへ」
正直な感想をレイが吐けば、門兵のおじさんはガックリと肩を落とす。
でもレイが気づかないのも仕方ないと思う。
仕事が休みだからか門兵さんは私服だし、無精髭姿なのだから分かるはずがない。
「あー、坊主はお使いか何かか? 金はしっかり稼げているのか? 大丈夫か?」
レイはスッカリ忘れているが、貧乏宣言をしたレイのことをこの門兵は覚えていた。
なのでバンダナで顔を隠していてもレイに気がついたのだが、レイが「使いではない」と首を横に振ると、稼げていないと答えたと門兵は勘違いをした。
「あー、坊主、そのー、良かったら飯でも食うか? 俺はこの辺には詳しいから美味い店を知ってるし、奢ってやるぞっ」
門兵の優しい気遣いにレイはきょとんとした顔になる。
急に奢ってやると言われても理由が分からないからだ。
もしかして私ってそんなにお腹すいているみたいに見えるのかな?
やっぱり小さいから?
と門兵の心遣いには全く気が付かない。
「あー、坊主、たらふく食っても大丈夫だぞ、俺には多少の稼ぎはあるからな。それに、俺はこの街生まれだから知り合いも多い、どこへ行っても俺と一緒ならサービスして貰えるぞ」
「……この街……生まれ?」
「ああ、そうだ! 俺はこの街生まれのこの街育ちだ! 街のことならなんでも聞いていいぞ、俺に知らない事などほとんどないからなっ!」
アハハと笑いながら胸を張る門兵の腕を、レイはガシッと掴む。
「お兄さん!」
「な、なんだ?」
「ゴミ置き場の場所教えてっ!」
幼いはずの少年の迫力に、何故か押されてしまった門兵だった。
「ここが祭りのごみの収集場所だ、ああ、今年はごみが全然片付いてないなぁ、酷いもんだ」
門兵のおじさんに案内されて来たごみ置き場は、貧しい人たちが住む地域にあり、その空き地には所狭しとごみが散乱していた。
屋台で使った木材や、生ごみ、人が出したごみ、それから商品だっただろう腐った野菜や果物など、箱に入ったまま放置されているものもあって、酷い匂いを発している。目が痛くなるぐらいだ。
「おじさん、いつもはこんなにごみは出ないの?」
「いや、ごみは出ることは出るが……ちゃんとごみ処理の依頼を受けたやつがいるはずなんだが……役所の指示はどうなってんだぁ?」
綺麗好きなレイだけではなく、この世界が基準なおじさんでさえ、このごみの状況には驚きしかないようで、目が怒りの色に染まる。
ルオーテ祭りは領主が主催で、役所が実行委員会。
そんな情報をおじさんからもらったレイは、領主への感情が負の方へと一気に流れていった。
(糞領主、絶対に許さん! 思いっきりぶん殴ってやる!)
異世界に来てからの不衛生さにうっぷんがたまっていたレイの怒りは最高潮だった。
その上、このごみが可愛い妹のレイラを苦しめたのだ。
領主に対し、仕返ししてやりたい気持ちが募っていく。
「おじさん、つまりこのごみは本来役所が片付けなければいけないごみってことなんだよね?」
「あ? ああ、まあ、そうだな、実行委員会がこの場所にごみを集めろって参加者に言ったんだから、最後まで責任を持つのは役所の実行委員たちってことになるだろうなぁー」
で、その役員たちの上司が領主なのだ。
つまり領主が全て悪い! ということだろう。
レイが浮かべる笑顔が黒色に染まる。
「おじさん有難う、後は僕に任せてくれていいよ」
「あ?」
レイがにっこりと笑って門兵に声を掛ければ、門兵は怪訝な顔をする。
ごみの傍へ寄り手をかざし始めたレイを心配げに見つめた。
「ぼ、坊主? お前まさか……金がないからってここにあるもん食うわけじゃないよなぁ?」
心配そうな様子の門兵にレイは笑顔のまま首を横に振った。
「やだなー、僕がそんなことするわけないじゃないか」
「だ、だよなー」
「んふふっ、問題が起きたら責任者に返す、それだけだよ」
そう言って笑ったレイは空間庫を開け、ごみを全て吸収したのだった。
「エイリーンさーん、こんにちはー」
「レイ君、こんにちは、今日はどうしたの?」
「んふふっ、実はちょっとお願いがありまして、てへ」
門兵のおじさんと別れたレイは、笑顔を浮かべたまま冒険者ギルドへと足を運んだ。
そして頼りになる受付嬢エイリーンの下へ向かい、ギルド長への面談をお願いする。
「……ギルド長との面談って、レイ君、今度は何があったの?」
「ううん、別に大したことじゃないよ、ちょーっと糞領主に会いたいってギルド長にお願いしようと思ってね、てへ」
「……えっ? 領主様に? レイ君が? 会いたいの?」
「そう、糞領主に僕がどうしても会いたくってね! てへ」
「……」
可愛いはずのレイの笑顔に何故かゾッとし、逃げ出したい気持ちになったエイリーンだった。
こんばんは、夢子です。
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インフルエンザになったはずなのに……
なんか太った気がする……あれぇ?




