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レイののんびり異世界生活~英雄や勇者は無理なので、お弁当屋さん始めます~  作者: 夢子


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祭りの後で

 ゼダとゴウがレイの家にやって来た。


 ルオーテの街から旅立ってからたったの四日。


 王都まで往復してきたと思うと信じられない速さだ。


 流石忍者(諜報員)だと言える素早い行動にレイは感心しかない。


「レイ様から頂いたお弁当や果物があったので今回の旅は楽でした」


「馬たちも元気いっぱいで乗り換えることなく走り抜けることが出来ました」


 休むことなく走り続け、そしてまたこの街に戻ってきた忍者二人。


 過酷な道中なはずなのにその顔は少しうっとりとしていて、被虐趣味があるのではないかとちょっとだけ疑ってしまう。


「そ、そうなんですか? それは良かったですー、アハハハハ」


「「はい、レイ様のお陰です、有難うございます!」」


 レイが愛し子だと知っているからか、ゼダとゴウはレイのことを絶賛し褒めてくれる。


 けれどレイは落ち着かない。


 だってなんだかゼダとゴウが上司をよいしょしている社畜のように見えてきて……


 この二人大丈夫かと不安になるからだ。


(諜報員(忍者)って大変なんだなー、護衛相手を褒めることまで仕事に含まれているんだもんね……)


 レイ(自分)の作った栄養ドリンクや果物、お弁当の効力をちゃんと理解していないレイは、二人の言葉を素直に受け止められない。


 ただ王妃に会える面談が整ったことは素直に嬉しかったので、ゼダとゴウにはお礼を言った。


「王妃様にお会いするのが楽しみです。ゼダさん、ゴウさん、色々と有難うございます」


 するととても恐縮されてしまい「いえいえ、そんなことは」「いやいや、私たちの方が」と、前世あるあるのような状態となり二人の社畜疑いは確定へと変わる。


(この二人働きすぎで自分の価値が分かっていなさそー)


 異世界の社畜も世知辛いねとゼダとゴウに同情しながらも、お礼を言ってくれたクール系忍者なゼダとゴウの笑顔は眩しかったので、レイとしては満腹以上のご褒美をもらった気分だった。






 そんなわけで、レイたちは二日後に王都へ出発するとに決まった。


 なんと馬車も準備してくれて、宿泊場所や衣食住、王都へ向かう間にかかる旅費も()()王家持ちだ。


(指定依頼、最高ではないだろうかっ!)


 嬉しくって楽しみで仕方がないレイは、友人たちに王都に行ってくる話を伝えることにした。


 自慢ではなく、いない間の不便を詫びるためだ。


 そう決して自慢ではない。


 初めての旅行に浮かれているレイは、お友達にこの感動を一緒に味わってほしいだけだった。




「ジェドさーん、僕、王都に行ってくるねー」


「王都にだすか?」


「うん、王都にだよー」


 まず初めに、レイの大好きな友人ジェドに伝えた。


 依頼で王都に行くのだと伝えればジェドは心配そうにしていたけれど、ギルフォードが一緒だと伝えれば納得してくれた。


 きっと子供なレイだけでは心配だったのだろう。


 心優しい友人の心配はとても有難かった。




 そしてこれから牛丼屋を始めるドルフやエイトにも挨拶をし、当然売店のモーガンやロブにも挨拶をする。


「モーガンさん、暫く僕はお休みしちゃいますけど、無理しないでくださいね」


「ああ、ロブと二人のやり方は慣れてるから大丈夫だ。それにドルフとエイトが牛丼屋を始めるみたいだから丁度いいだろう。最初は皆そっちに流れる、物珍しいもんが好きなやつが多いからな」


「はい」


 レイは最初お弁当をたっぷり詰めた魔法鞄でもモーガンに渡しておこうかと思ったのだが、それはギルド長にもモーガンにも却下された。


 ほぼ酒だけを売っているといえる食堂も冒険者ギルドにはあるし、牛丼屋を始めるドルフとエイトがいるから心配いらないと、少し焦ったように言われレイは驚いた。


(もしかしてお弁当が腐ることを心配してるのかな? それとも牛丼屋が始まったら暇になる私を心配してくれてるのかも、やっぱりモーガンさんって優しいよねー)


 気遣い屋のモーガンに笑顔を向けて、レイは「分かりました」と素直に頷いた。


 旅行中出会った人にお弁当を売るのも有かなーと、そんな企みもちょっとあったりもした。



「じゃあ、モーガンさん、ロブさん、暫くお手伝いできませんがよろしくお願いしますね」


「ああ、任せろ」

「レイ、楽しんで来いよ」


 モーガンは何となくホッとした笑顔をレイに向け、ロブはなんだかニヤニヤしたいやらしい笑顔を向けてきた。


 その笑顔を見てレイは頼まれていたものを思い出す。


「ああ、そうだ、ロブさん、頼まれてたしゅんがぼん? って僕良く分からないんで、ギルフォードさんかメイソンさんに聞いていいものを選んできますね、じゃあ、行ってきます」


 あのロブが本を欲しいなんて珍しいなーと思いながら売店を後にしたレイの後ろ、モーガンにロブが殴られているとは、浮かれ気味なレイは気づかなかった。






「うぇー、臭い、なんかいつもより街の中臭くない? 祭りの後だからかなぁ? でももうだいぶ経つよねー?」


 冒険者ギルドを出て街中を進みだしたレイは、余りの臭さ驚きに辟易していた。


 このまま家に戻りたい! 一瞬そう思ったが、王都に行く話を伝えなければいけない()たちがまだいる。


 レイはモーガンに貰ったバンダナを巻き、そしてその上からハンカチで口元を押さえ、どうにか道を歩いてマルシャ食堂に向かう。


 今日の街中は下のブツだけでなく上のブツもたくさん落ちていて、本当の本気で気持ち悪い。


 いくらエアーモザイクを発動させても目の端に色々と映り込んでしまうぐらいだ。


「うぇー、キッショ、見たくないよー! でも目を開けてないと踏んじゃいそうだし、歩けないもんねー」


 レイは出来るだけ早足でマルシャ食堂へ向かった。


 それも細心の注意を払っての速さだ。


(糞領主、全部この街の領主の責任だよね! こんな汚い街で満足しないで欲しいよ! 糞領主め!)


 過去最大級にきたならしいルオーテの街を見て、レイの領主への怒りは最高位に達していた。


(会ったら絶対に一発殴ってやる!)


 綺麗好きなレイの怒りはそれほど膨らんでいた。




「あれー? 臨時休業って看板出てる……えっ? まさか倒産の危機とか言わないよねー?」


 マルシャ食堂付近に着くと、アイス目当てで並んでいるいつもの列がなく、その上店の入り口には『臨時休業』と書かれた看板が出ていてレイは驚いた。


「こんにちはー、誰かいますかー? フランクさーん、レイでーす」


 入り口の扉を叩きながら店に向け声を掛ける。


 すると店の奥から制服を着たフランクが現れた。


「レイ君、いらっしゃい、どうしたの? あ、もしかしてアイスを食べに来たのかな?」


 どうしたの? はこちらのセリフだと思いながら、レイはフランクに答える。


「いえ、ちょっと報告があって来たんですけど……臨時休業ってどうしたんですか? まさか何か嫌がらせを受けているとかじゃ無いですよね?」


 商業ギルドの嫌がらせを知っているだけにレイは悪い方へと思考を走らせる。

 領主へのうっぷんがたまっていたからこその思考ともいえた。


「あー、違うよ、違う、実はね、ちょっとトイが体調を崩していてね」


「えっ? トイが? 大丈夫なんですか?」


「ああ、うん、それほど心配はいらないと思うんだけど、ちょっとお腹を壊しているからね、飲食店だしお客様にうつしてもいけないと思って、暫く休業にすることにしたんだ」


「フランクさん……」


 トイのことも心配だが、レイはフランクの衛生意識に感心した。


 お腹を壊した従業員がいるから店を休む。


 この異世界でそんな判断が出来るのはきっとフランクぐらいだろう。


 その上フランクに「だから念のため店を掃除してたんだ、ウチの店はアイス屋だから尚更お腹の病気には気をつけたくてね」と言われ感動した。


 この人となら一緒に生活できる。


 いや、フランクさんこそ領主になるべきじゃない?!


 そう思えるほどレイは心が震えていた。


 さすがフランクさん、私の綺麗好き仲間!


 汚い街を見てきただけに、レイはフランクの行動が嬉しくって仕方がなかった。


「フランクさん、これトイに飲ませてください、栄養ドリンクです」


「レイ君、いいのかい?」


 レイの栄養ドリンクの威力を知るフランクは遠慮気味に受け取った。

 そんなフランクに押し付けるようにレイは林檎などの果物も渡す。


「フランクさんとミランさんも予防のために林檎を食べてくださいね、勿論トイは絶対に食べて欲しいです」


「うん、有難う、皆で食べさせてもらうよ」


 笑顔なフランクと別れ、レイは今度はサラ商店へと向かう。


(なんだか嫌な予感がするよ、可愛いレイラは大丈夫かなぁ……)


 まだ生まれて間もないレイラは免疫力が低い。


 もしトイのお腹の不調が子供がかかる病気だとしたら……


 レイが作った手鏡を店に置き出してから、人の出入りが激しくなったサラ商店にならば、病気を運んでくる人がいても可笑しくはない。


 レイは街に広がる悪臭に耐え、可愛いレイラがいるサラ商店へ急いだ。


 どうか無事でいてね! そう祈りながら。



「サラさん、いますかー? レイです、こんにちはー」


 サラ商店は臨時休業にはなっておらず、レイはまずはそこにホッとした。


 けれど店の中はレイがいた時のあの賑わいは消えていて、シーンと静まり返っていた。


「はいはーい、お待たせいたしました……って、あら、レイ君、いらっしゃい」


 元気な姿のサラが現れ、レイはホッとする。


 サラのいつも通りの優しい笑顔が普段以上に眩しい。


「サラさん、こんにちは、あの、今日はお店が静かですが何かありましたか?」


 サラ商店はレイが初めて来た頃のような店の様子に戻っていて、きょろきょろするレイにサラは困った顔を見せる。


「ええ、そうなのよ、お祭りが終わったあたりからこの辺でお腹の風邪が流行っていてね……」


「お腹の風邪?」


「ええ、祭りの後は何かしら病気が流行るんだけど、今回は特に酷いし、何といってもお腹の風邪でしょう、皆買い物どころじゃないようなのよね……」


 サラ商店は小物屋さんだ。

 風邪が流行っているのならば食料品はどうにかして手に入れるにしても、小物はまた今度でいいかと諦めるかもしれない。


「それにね、ちょっと昨日からリサとレイラも体調が悪くてねぇ、二人の様子を見ながら店を開けたり閉めたりしてるから尚更ね、皆暫くはウチの店には来ないと思うわ」


 看病中のサラさんが手が空いた時だけ店を開け、後は休憩中の看板を立て店を閉めていたそうだ。


 汚い街に、お腹を壊す街の人たち。


 レイはこれは絶対にルオーテ祭りのせいだろうと確信をした。


 

こんばんは、夢子です。

まだフラフラしておりますが、だいぶ元気を取り戻しました。

ただちゃんと修正できているか、それが不安です。

誤字脱字チェックして下さった皆様有難うございます。

休めばいいのでしょうけれど、休んだら怠け病がでそうで休めない夢子です。

きっと明日には復活するはず! そうありたいです。

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