こんなん出来ました!
レイは魔法鞄を作った経緯をギルフォードに聞かれ、女性パーティー『バダンラの華』のリーダー、ベリンダから声を掛けられた話を伝えた。
「ベリンダさんのパーティー仲間に鑑定持ちがいるんですって、ケンたちの鞄がカッコ良かったからどこで売っているか気になって鑑定したら私の名前が出たそうなんです」
レイはケンやカークのリュックは、元S級冒険者である「じっちゃんのお古」だと言い逃れをしていた。でも鑑定眼のある人物にはそんな言い訳は通用しなかったらしい。
改めて恐ろしい世界だ。
ある意味人の秘密を暴く行為でもある。
初めて街へ行った日のあの失礼な水晶をレイは思い出していた。
「……はぁ、そうか、レイの作ったものを鑑定したのか……それは盲点だったなぁー」
机の上に肘をつき顔を覆ったままギルフォードが呟く。
鑑定されてしまったものはもうしょうがない。
けれどギルフォードは指導係として自分の甘さを責めているようだ。
そこまで気にしなくてもいいのに、ギルフォードはどこまでも優しい人だと思う。
「はぁー……魔法鞄か……また厄介なものを作っちゃったよねぇ……」
ギルフォードは普段のキラキラした笑顔とは違い、とても疲れているように見える。
A級冒険者って本当に大変なんだなと、レイは自分が悩ませている存在でありながらギルフォードに対し同情していた。
「ま、まあ、まあ、ギルフォードさん、甘いものでも食べて元気出してよ」
がっくりと項垂れるギルフォードにレイは甘いお菓子を出す。
今日のおやつはフィナンシェだ。
糖分を吸収すればきっとギルフォードもすぐに元気になるだろう。
「はー、僕の落ち度だ……鞄にレイの名が刻まれているのか……どうしたらいいと思う?」
珍しいことにギルフォードはお菓子に手を付けず、レイ……ではなく、メイソンとゾーイに問いかける。
だが二人にもいい案が浮かばないのか眉根を寄せ無言のまま、考える人状態となった。
「えっと、鞄って作ったら問題になりますか?」
もしかして服飾ギルドと揉めたりするのかな?
ちょっと不安になったレイが問いかければ、いつもとは違うギルフォードの笑顔がレイに向く。
まさに枯れる寸前の花のような笑顔、悲しみに濡れ萎れている。
まあギルフォードがやるとそれも絵になるが……
最悪サラ商店で知り合った縫製工場の会長さんに丸投げしよう。
レイは得意技を繰り出す気でいた。
「……鞄はね、別に作ってもいいんだよ、鞄はね。でもね、これは魔法鞄、でしょう?」
「はあ……?」
ギルフォードも持っているし、じっちゃんも持っていた魔法鞄。
作ってはいけないと決まりがあるのだろうか?
レイの疑問は深くなる。
「魔法鞄ってね、すっごく高価なの、ほぼ迷宮品、容量無限は王家の秘宝となっているぐらいなんだよ。それにレイの作った魔法鞄は聞いただけでも凄く容量が多いでしょう? 何とかどうむ? 一個分だっけ? それを世間の人に知られたら、レイはいろんな人に作ってってお願いされるよ。そしたらもうお弁当屋も出来なくなるし、ますます自由が無くなるだろうねー……」
「えっ?!」
高価だと分かっていたけれど、まさかそれほどの価値があるとはレイも思わなかった。
商人だって魔法鞄を持っている者もいると聞いていただけに、レイは「じっちゃーん!」と心の中でじっちゃんを呼び、S級冒険者である自分の常識を教えてくれたじっちゃんをちょっとだけ恨む。
『魔法鞄は、まあ、持ってるやつは持ってるな』
と、口数の少ないロビン・アルクの伝え方が悪かったのもあるが、ギルフォードが持っていることをレイが知っていたため、お金持ちなら誰でも持てる物とレイが勘違いをしたのも仕方なかった。
「えっと、じゃあ、ベリンダさんに鞄を売っちゃダメってこと?」
「……うーん……」
レイはしょぼんとした顔でギルフォードを見つめる。
出来れば頑張っている女性冒険者を応援したい。
彼女たちは魔法鞄を購入するためずっとお金を貯めてきた。
それにベリンダと『作る』と約束してしまった手前、今更断るのは申し訳なく、レイの黒くキラキラした瞳が涙に濡れる。
「ベリンダさんになんて謝ろう……」
「うっ……」
そのあざと可愛いレイの顔を見て、ギルフォードの心はすぐに揺らいだ。
「……し、仕方がないね、明日ギルド長に相談しようか……」
「え、いいの?」
「まあ、ギルド長なら色々と知ってるはずだから、一緒に相談してみようか」
「うん! ギルフォードさん、有難う! 大好きー!」
レイが初めて自分に抱きついて来て、ものすっごい嬉しいギルフォードだった。
「なにぃ? 魔法鞄を売りたい? レイの名を隠して? だと?」
翌日、頼りになるギルド長に相談するため、レイはギルフォードと一緒に冒険者ギルドのギルド長室に来ていた。
レイが魔法鞄を作った話をし、そしてベリンダたち『バダンラの華』に売りたい話をすれば、威厳あるギルド長は少しだけ天井を見た後「まあ、何とかなるだろう」と、エイリーンを呼び出した。
「エイリーン、すまんが、この鞄の製作者を『レイ』ではなく『アルク』と変えてもらえるか?」
ケンのリュックを指さし、エドガーがエイリーンに指示を出す。
するとエイリーンは「はい」と頷いた後、あの嫌がらせな水晶を持ってきてリュックを水晶にかざした。
【レイの手作りリュック
魔法鞄
容量無限
時間停止
ケンへの愛情が込められた一品
レイの匠自慢な一品
こういう時だけ無駄にやる気を発揮した一品】
(こいつ……)
相変わらず一言多く、失礼な水晶をレイは睨みつける。
「ではこの『レイ』君の名が書かれている部分を、苗字である『アルク』に変更させていただきますね」
水晶を触りエイリーンが作業をする。
それはパソコンの作業に似ていて、変なところだけハイテクな世界だなぁとレイは呆れしかない。
「嘘は付けんが、屋号などは付けれるからな。レイの名ではなく姓のアルクならば、ロビン・アルク氏だといい具合に勘違いしてくれるだろう」
好々爺のように微笑むエドガーはカッコよく、レイは頼りになるギルド長に尊敬の目を向けた。
「ギルド長、有難うございます!」
「ハハハッ、レイ気にするな、当然のことだ」
胸を張るエドガーにレイは次の魔法鞄を取り出す。
もう作ってしまったものはレイの名で登録されているそうなので、カークのリュックも改名をお願いした。
「それから、次はこの黒いリュックとー」
「……」
「ボディバックタイプと、ショルダーバックタイプと、ウエストポーチタイプもお願いしますね、ギルド長」
「……」
エドガーは無言のままエイリーンに指示を出す。
そしてエイリーンも無表情のまま作業を行う。
レイは笑顔で二人の作業を見守った。
「レイ、有難うな! これであたしたちももっと深くまでダンジョンに籠れるし、依頼の幅も広がるよ!」
レイが作った中で一番容量の少ないウエストポーチ型の魔法鞄を渡せば、ベリンダは少年のように頬をほころばせ、喜んでくれた。
(この笑顔が見たかったんだよー! 最高だねー!)
作り手として顧客の喜びようにレイは大満足だ。
「ベリンダ、あんまり大きな声を出したらマズいよ、坊主が注目されるだろう」
「そうだよ、内緒で購入したのがバレたら後が大変だって」
ベリンダのパーティー仲間であるベッキーとボニーが心配気にベリンダを止める。
ここはギルドの食堂、人がいない時間だけど誰が見ているか分からない。
ベリンダの仲間もレイのことを心配してくれていて嬉しくなる。
「あの、レイ君、秘密を暴いちゃったみたいでごめんね。その、あんまりにもカッコいい鞄だったから気になってさ……」
鑑定持ちだというバーバラさんがレイに謝ってくれた。
ただどこで購入した物なのか調べようとしただけで、彼女に悪気はない。
レイはシュンと落ち込むバーバラに「大丈夫ですよ」と笑顔を向けた。
「それに売店にも魔法鞄を置いてくれることになったんです」
「「「「えっ?!」」」」
「このギルドの売店に来れば魔法鞄が買えるって分かったら、バーバラさんたちの鞄も目立たなくなるでしょう? ギルド長にお願いしたんですよねー」
「「「「……」」」」
レイが作った黒色のリュックはメイソンに、ボディバックはゾーイに持たせた。
せっかく作ったものだし活用して欲しいとレイからお願いをした。
まあ、ケンとカークの面倒を見てくれているお礼だともいえるし、二人の鞄を目立たなくするための処方だともいえるけれど、お礼を言うメイソンとゾーイの笑顔はちょっとだけ引きつっていたように感じた。
「ケンとカークと僕と……そしてメイソンとゾーイが魔法鞄持ちか……うん……絶対に僕のせいだって思われるよね、まあ、別にいいんだけど……」
元から魔法鞄を持っていたギルフォードはいい隠れ蓑だった。
ある意味レイのずる賢さがさく裂した被害者ともいえる。
いつもの如くA級冒険者に丸投げだ。
そして残った一個、猫ちゃんのようなもふもふのショルダータイプの魔法鞄。
レイが使おうかなとも思ったが、レイには空間庫があるし、じっちゃんのお古もある。
それにレイのような子供が魔法鞄を持っていたら狙われる理由を作ってしまう。
なのでエドガーにお願いし売店に置いてもらうことにしたのだが、それを聞いたモーガンは黙ったまま微笑んでいた。
(やっぱりモーガンさんはカッコいいね、魔法鞄にも全く驚かなかったよー)
臨時収入が増えホクホク顔のレイは、「こんな田舎街に魔法鞄って……俺に寝ずの番をしろってことか?」というモーガンの呟きに気づかなかった。
そしてベリンダたちから受け取った報酬金が、金貨五枚ではなく、金貨五十枚であることにこの後驚くのだった。
こんばんは、夢子です。
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