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レイの作ったお弁当

「おお、これは凄い!」


「えっ、滅茶苦茶いい匂いがするんだけどー!」


「うわぁー、とっても綺麗ですね!」


 お弁当を開ければ三者三様に感嘆の声を上げる。


 一番小さなお弁当を受付のお姉さんが、そして中くらいのお弁当をギルフォードが、そして一番大きなお弁当をギルド長が担当した。


 年齢的にはギルフォードとギルド長は反対のお弁当だとは思うが、体型的には問題ない。ギルド長が大きすぎるのだ。


 今回のお弁当は全部パンを使ったお弁当にしたけれど、中々の評価のようで安心をした。


 ニコニコ顔のレイの前、受付のお姉さんがポッと頬を染めた。


「えー。どうしましょう。可愛くって食べたくないんですけどー」


 受付のお姉さんが選んだお弁当は、一口サイズのサンドイッチ弁当だ。

 卵サンドとハムとレタスのサンドイッチ、それとミニトマトと半分に切ったゆで卵を挟んだサンドイッチ。そして可愛さを求めウサギさん形に切った林檎を入れてある。


 ピックなどを使ってもっと可愛く飾りつけをしようと思ったけど、初回なので大人し目に作ってみた。


 それでもお姉さんの心はガッチリつかめたようで、レイは心の中でしめしめとあくどい笑顔を浮かべる。


「んまいっ! 真面目に美味いよ! レイ、君、天才!」


 王子のような美しい顔つきはどこへ行ってしまったのか、ギルフォードが口いっぱいにサンドイッチを頬張りレイを褒めてくれる。


 多分初めて見る食べ物だと思うのだけど、ギルフォードに戸惑う姿はない。

 それもその筈、ギルフォードのお弁当はカツサンド。匂いの誘惑に勝てるはずがないのだ。当然の行動と言える。


 案の定お弁当を開くと誰よりも先に手を付け、目を大きく見開きながら咀嚼している。


 男性冒険者向けのお弁当なので、カツにはソースとマヨネーズをかけたこってりしたお味だ。


 野菜はカツサンドのキャベツのみ。


 冒険者にはたんぱく質が必要と、ゆで卵は付けてあるけれど、ガツーンとお腹に溜まるものをと考えてカツサンドになった。


「こ、これは、なんだ?」


 ギルド長はお弁当のふたを開け固まった。


 一番大きなお弁当はハンバーガー弁当。


 それもバーベキュー味の濃い味付けに、三日月型に切ったポテトと唐揚げまで付いている。


 そして当然ゆで卵も入れてある。

 冒険者には必須の食材だと思ったからだ。


 お弁当が可愛くって手が付けられない受付のお姉さんとは違い、ギルド長はどうやって食べていいのか分からないといった様子だった。


「ギルド長、ハンバーガーは包んである紙ごと手で持って食べて下さい。ソースが零れてもその紙が受け皿になってくれるので大丈夫ですよ」


「か、紙……? レイ、君は紙の使い方がちょっとおかしいぞ……」


「え……?」


 紙の使い方って、突っ込むところはそこですか?


 レイこそがギルド長に突っ込みたくなったけれど、そこは大人と自負するレイだ。笑顔と無言でギルド長をかわす。


 まあギルド長も返事が欲しいわけでは無いようで、レイに言われた通り紙ごとハンバーガーを掴むと、もう待ちきれないといった様子でがぶりと齧りついた。


「……う、うまい……」


 でしょうね。


 レイはぬふふと心の中で笑う。


 レイ自慢のハンバーガーだ、不味いはずがない。


 それにギルド長の胃袋を掴めたら今後の冒険者活動が楽になるかも? とそんな邪な思いも浮かんでいた為、子供姿でなければ悪代官のような笑顔に見えただろう。


「皆さん、どうでしょうか? このお弁当、売店に置いて頂けたら冒険者の方に買って頂けるでしょうか?」


 レイの問いかけに咀嚼中だった三人はうんうんと大きく頷いてくれた。

 声を発する余裕は無いようだけれど言質は取った。レイは 「よし!」 と握り拳を作る。


(ぬふふ、これで危険な冒険には出かけなくてもよくなりそうだね!


 3K(危険、汚い、臭い)な冒険者活動は絶対に嫌だもんねー!)


 これでレイの冒険者仕事のメインはお弁当屋になるだろう。


 他に冒険者の仕事をやるとしたら薬草採取ぐらいだろうか。


 最低限の底辺冒険者になりたいレイの希望が叶いそうで、顔は緩みっぱなしだった。



「うん、これは冒険者ギルドのギルド員にも売って欲しいものだな。皆の昼飯にちょうどいいだろう」


 ギルド長の言葉に受付のお姉さんがうんうんと頷く。


 だけどそれを聞いたギルフォードが「ちょっと待ったー!」と手を上げた。


「このお弁当をギルド職員が独占するのは酷いと思うよ。そんな事をしたら僕が皆に言って暴動を起こすからね!」


 物騒なことを言うギルフォードをギルド長と受付のお姉さんが睨む。


 食べ物で戦争が起きるというが、それは本当のようだ。


 三人は睨みあった後レイの存在を思い出したのか、ゴホンと咳ばらいをした。今更感丸出しだけど。


 そして気まずそうな笑顔を浮かべると、レイに視線を向ける。


「レイ、この弁当は何個まで卸せるのかな?」


 ギルド長の今までで一番優しい声での声掛けに、レイはうーんと考える。


「えっと、週二回、三種類が十個ずつですかねー?」


 本当は週一でも良いが、今この場でそれを言ったら首を絞められそうだ。


 それにお弁当もレイならもっと沢山準備出来るが、正直にそれを伝える気はなかった。


 レイは最初の予定通り週二でどうだろうかと提案をする。


 これ以上は自由生活の負担になるし、あくせく働きたくはない。


 それにまだ子供なレイに対しこの三人なら無理強いはしないだろうとそんな思惑があった。


 案の定レイの言葉を聞いて「むむむむむ」と三人が渋い顔で唸り出す。


「全部で三十個か……早い者勝ちになるな……」


「ですがギルド長、冒険者は朝が早いですから、レイ君が来る頃にはだいぶ人数が減っているのではないでしょうか?」


 受付のお姉さんの言葉にギルフォードが手を上げる。


「はい! 僕はレイが来る日は遅めに出発するから、このお弁当ってやつを手に入れなきゃ仕事に行かないからね!」


 睨みあうギルド職員対冒険者。


 気に入って貰えたのは嬉しいけれど、このままでは話しが進まない。


 これからお弁当の値段も決めたいし、納品の曜日も決めて行きたい。


 取りあえず弁当以外に三人の気持ちを逸らせようと、レイは空間庫から別の物を取り出した。


「あの、軽食になるようなクッキーとかも売れますか?」


「「「クッキー?」」」


「はい、日持ちするものも作ってみたんですけど」


 レイはこれまた三種類のクッキーをテーブルの上に乗せる。


 ギルフォードが 「えっ、今の空間庫……?」 と何やら驚いているが、レイはそれどころではない。


 早く我が家へ迎え入れるお馬さんを見に行きたいのだ、途中でのツッコミは流すことにした。


「これは女性(レディ)向けの可愛いやつ~ん」


 ハートや星形、それにくまちゃんなど動物型に抜いたクッキーを可愛くラッピングした物を出す。


 くまちゃんを見て「魔獣」というのは止めて欲しい。

 馬鹿な事を言ったギルド長を睨んでいると、受付のお姉さんだけは可愛いと褒めてくれた。


「これはオーソドックスなやつー」


 シンプルな丸型のクッキーにクルミなどを入れて、プレーンとココアの二種類をまとめた物だ。


 美味そうだと呟くギルド長を見て、しめしめこれも売れるなとレイは確信する。


「で、これが日持ちするものです。ドライフルーツとかナッツとかふんだんに入れたちょっと硬いクッキーで、じっちゃんが好きだったオヤツです。甘さも控えめだし、男の人でも大丈夫だと思うんですけど……」


 シンプルな丸型クッキーは見るからに具沢山で、袋もずっしりと重い。


 ギルフォードがサッと手に取り封を開けると、パキッと良い音を立てて無言で食べ始めた。


(あ、この人ヤバいかも……いろんな意味で子供っぽい)


 ギルフォードは本当に躊躇なく食べ物を口に運ぶ人だ。

 もしかして毒の耐性でもあるのだろうか。


 レイがそんな物騒なことを考えていれば「美味い!」とギルフォードが声を上げた。


「これも売れますかねぇ?」


「「「絶対に売れる!!」」」


 三人がきっちりはっきり答えてくれたおかげで、レイはホッと息を吐き、お小遣いゲットを確信したのだった。

 

こんにちは、夢子です。

ブクマ、評価、いいねなど応援ありがとうございます。

昨日も言いましたがギルフォードは人気があります。レイだけが(この人ちょっと……)と思っています。

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