前世の血が騒ぐ?
今日は月曜日。
サラ商店の手伝いも無事終わり、レイは久しぶりに冒険者ギルドの売店にいた。
朝からお弁当を販売する中で、レイは掲示板に飾られているある物が気になって仕方がなかった。
【ルオーテ祭り 出店者募集】
B5サイズの紙にただそれだけが書かれ貼り出されている。
期間も何もなく、依頼対象のランクも書いていない。
サラ商店の依頼に行く前にはあんな張り紙は貼ってなかったので、きっとつい最近貼られたものなのだと思う。
この世界に生まれ落ちてから、レイはお祭りなど行ったことはない。
当然だ、じっちゃんと森にいたのだから行けるはずがない。
なのであの貼り紙を見ると前世の血が騒いで仕方がない。
レイが生まれた前世の国はイベント大好き国家だったので、祭りと聞くと気になって気になって仕事に集中出来なかった。
(お祭りかー、えー、綿あめとか林檎飴とかチョコバナナとかあるのかなー)
どんな屋台があるのかなと、お弁当販売中もソワソワワクワクドキドキしていると、巨人族二番目の知り合い、ドルフが声を掛けてきた。
「レイ、弁当は俺が見ててやるから行ってこい」
「えっ、でも……」
「子供は我慢するもんじゃねー、さっさと行け」
言葉はぶっきらぼうだけど、ドルフはレイを心配してくれていて、とても優しい。
いや、心配性というべきか、仕事中でもレイのことをよく見てくれているようで気遣いを感じる。
「なんだ、どうした、レイ? 何かあったのか?」
売店の奥に行き商品の確認をしていたモーガンが、レイとドルフのやり取りを心配気に聞いてくる。
モーガンは王都から戻ってからというもの、以前以上にレイのことを気にかけてくれている。
だからだろう「お前何をやった?」と聞くような、ちょっとだけ鋭い視線がドルフへと向き、ドルフがいやいやと焦ったように首を振った。
前科があるだけに、その行動は嘘を誤魔化すような悪人に見えていた。
「モーガンさん、俺はなんもしてないですよ、レイがもじもじしてるから声かけただけでっ」
ドルフの言葉を聞きモーガンがレイを見る。
レイどうした? とその視線が言っている。
「もじもじ? レイもしかして掃除でもしたくなったのか?」
レイといったら掃除。
もじもじしているのも掃除がしたいから。
モーガンはなぜかそう思っているようだ。
どうやら彼の中でレイは相当な綺麗好きらしい。
きっと先輩ロブがあまりにも何もしないため、レイの掃除風景が頭に残っているのだろう。
こればかりは仕方がないとレイは諦める。
「いやいや、モーガンさん、レイは掃除じゃなくってしょんべんっすよ。ずっとトイレの方を見てソワソワしてんですよー。漏らす前に行っちまえって俺が声を掛けてやったんです」
レイはドルフの足を踏んでしまった。
決してワザとではない。
たまたまだ。
ドルフの「ぎゃっ!」と痛がる悲鳴のようなものがきこえたが、狙ったわけではないので許してほしい。
(ドルフさんって、女の子がソワソワしてるからってなんでそれでトイレだって思うのかねー……コイツ、歩くセクハラ男か?)
ドルフの頭をかち割って中身を見てみたいものだが、今は我慢する。
「モーガンさん、私、あれが気になってて」
「あれ?」
痛がるドルフをちょっとだけ横目に見ながら、モーガンはレイの指さす方を見る。
確かに掲示板の先にはトイレがあるけれど、そこではない。
掲示板の隅にある 『お祭りの出店者募集』 の張り紙にモーガンはすぐに気づいてくれた。
流石気の利く男だけのことはある。
どっかの誰かさんとは全然違った。
「ああ、祭りか、そういえばもうルオーテ祭りの時期か」
「ルオーテ祭りって毎年あるんですか?」
「ああ、春の終わりから夏前の時期に毎年ある祭りだな。三日間あって冒険者でも店を出したい奴は申し込めるんだよ」
「そうなんですかー、それってランクが低くても申し込めますか?」
「ああ、ランクは関係ないから大丈夫、だが……」
モーガンはレイがやりたいことに気が付いたのだろう、「だが」と言った後少し困った顔になる。
そしてレイを上から下まで見てうーんと唸った。
「レイは祭りで店を開きたいんだよなぁ?」
「はい、何か食べ物屋さんをやりたいです!」
「うーん、そうか……だがなー」
ランク関係なく申し込めるのならば、底辺ランクのレイでも大丈夫だと期待したのだが、モーガンの曇り顔を見れば(ダメなのか?)と不安になった。
すると痛みが引いたらしいドルフが立ち上がりレイを見下ろす。
別に馬鹿にされたわけではないのだけど、あまりの身長の差にちょっとだけ見下されている気分になる。
どうやらドルフは体の大きさでも損をしているようだ。口の悪さもそれに拍車をかけている気がした。
「レイ、俺が手伝ってやるぞ」
「えっ? ドルフさんが? いいの?」
「ああ、ルオーテ祭りはスゲー賑わうからな、そんな中でお前みたいなちびっこが一人で店なんかやってたら何されるかわかんねーだろ、だから俺が親代わりだ」
「えー、ドルフさん、優しい……えへへ、ありがとー」
レイが礼を言えばドルフの顔が一気に真っ赤になる。
もしかしてこの人はお礼を言われ慣れていないのだろうか?
赤い顔が面白くってニヤニヤしながらドルフを見つめていれば、「あっち向けよ」とそっぽを向かれてしまった。
可愛い人だ。
「よし、じゃあドルフさん、エイリーンさんのところに申し込みに行こっか」
「えっ? お、俺もか?」
「うん、当たり前でしょう?」
大きな体で驚きワタワタするドルフのせいで売店が揺れる。
巨人族は自分の大きさが理解できないようだ、壊れそうだからやめて欲しい。
モーガンがすかさずレイの弁当を支えてくれた。やっぱり優しい。
「よし、じゃあ、行きましょう、善は急げです! モーガンさん、ちょっとお店離れますね」
「おう」
ドルフの手を引きエイリーンの受付へ向かう。
巨人族の体は大きくって、先に歩くレイの体が浮きそうだった。
「エイリーンさーん」
「あら、レイ君どうしたの?」
「あのね、僕、お祭りでお店開きたいんだ」
「レイ君がお祭りで?」
「うん!」
レイの元気な返事を聞いて、エイリーンは困ったわと言った顔になった。
視線がレイの頭から足の下まで行っているのでレイの幼さを心配しているのだろう。
モーガンと同じだ。
なのでレイは右手で掴んでいる最終兵器を投入することにした。
「エイリーンさん、ドルフさんと一緒に出店します」
「まあ、ドルフさんと?」
エイリーンの視線がドルフに向けば「うっ」と言葉を詰まらせた後真っ赤になった。
ここに来てのまさかのドルフのシャイさにレイは驚く。
(もしかしてこの人、女性が苦手とか?)
うんともすんとも言わなくなったドルフを見てレイは苦笑いだ。
「ドルフさん、私と一緒に屋台やってくれるんですよね?」
「あ、ああ……」
レイの問いかけにドルフが頷けばエイリーンの顔に笑顔が戻る。
それを見てドルフの顔はますます赤くなる。
茹でたタコみたいで面白い。
「ドルフさん、三日間大丈夫ですか? レイ君とちゃんとお店をできますか?」
「あ、ああ……」
エイリーンの問いかけにドルフはどうにか答えた。
視線は天井付近に向いていてエイリーンのことを全く見ていない。
どんだけシャイなのだろうか。
「ドルフさんが一緒なら大丈夫だと思うけど……レイ君、お祭りには街の外からもたくさんの人が来るから気を付けてね。何かあったらすぐにギルドに駆け込んでくるのよ、いいわね?」
「はい、分かりました! それにドルフさんが居れば悪い人も逃げていくと思うし、大丈夫だよ」
それもそうねと言ってエイリーンは屋台の受付を受け入れてくれた。
これでレイはお祭りで屋台を開くことが出来る。
もう楽しみで仕方がない。
「ねえ、ドルフさん、屋台では親子設定でいいですかね? さっき親代わりって言ってたし」
売店に戻りお祭りに何を出そうか考えながら、まだ顔の赤いドルフに声を掛ける。
ちびっこいレイと巨人族のドルフならば、どう見ても親子。
そう思ったのだがドルフが怖い顔でレイを振り返った。
「馬鹿言うな、親子設定ってなんだよ! 俺はまだ二十代だぞ! お前のせいで恋人が出来なくなったらどうすんだよっ!」
「えっ? ニ? ニジュウダイ?」
「そうだ! どっからどう見ても二十代だろうが!」
レイはドルフの上から下まで体を見た。
どう見てもメイソンよりも年上、ギルフォードと年が近いようには見えない。
失礼だがどちらかと言えばモーガンに近い年に見える。
可愛そうなので正直なことは言わなかったが、衝撃が強すぎてどう返していいか分からない。
「まあ、俺たちならちょっと年の離れた兄弟ぐらいでいいんじゃねーか?」
「……ウ、ウン、ソウデスネー」
今日一番の衝撃を受けたレイは、得意のスマイルが作れたか自信がなかった。
ただレイとドルフの様子を見守っていたモーガンが、そっと売店からいなくなり、少しして戻ってきたら目元が赤くなっていたので笑っていたのだと思う。
第三者から見てもレイとドルフの兄弟設定は無理があるようだった。
(ドルフさんが二十代……)
あんなに楽しみにしていた祭りのことをまったく考えられなくなったレイのショックはかなりのものだった。
こんばんは、十一月も宜しくお願いします!
あとドルフは人間です。




