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レイののんびり異世界生活~英雄や勇者は無理なので、お弁当屋さん始めます~  作者: 夢子


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★他言無用

「ウオー! A級冒険者スゲー!」


「あのダンジョンから一瞬でカークを救い出したぞー!」


「さすがギルフォード様だ! カッコいいよなー!」


「……」


 カークを助け出し、一躍街のヒーローとなったギルフォードは、冒険者たちの称賛や賛美の声から逃げだすようにエドガーの声掛けに頷き、ギルド長室へと足を運んだ。


 ギルフォードがカークを助けたことになっているが、ハッキリ言ってギルフォードは何もしていない。


 レイに「付いてきてくれるだけでいい!」と言われた通り、本当にダンジョンに付いていっただけ。


 カークを助けるレイの姿をただ見守っていたに過ぎない。


 けれどそれを馬鹿正直に話したところで誰も信じないことは分かるし、信じられてレイが注目を浴び、狙われるのも困る。


 仕方なくうんともすんとも答えず、されるがまま自分を褒める言葉を笑顔で受け止たのだが、エドガーの「詳しい話を聞かせてくれ」という声掛けは天の助けに近かった。


「さあ、入ってくれ」


「はい、失礼します」


 促されて入った冒険者ギルドのギルド長室には、エイリーンといろいろと巻き込まれた形になるドルフがいた。


 ギルフォードは椅子に座り、その後ろにメイソンとゾーイが立つ。


 そしてギルフォードは冒険者としての顔を脱ぎ、この国の王子らしい顔つきで皆に声を掛けた。


「皆、これから()が話すことは他言無用で頼む」


「はい」


 ギルフォードが王子であることは上層部だけの秘密だが、その姿を見れば貴族であることはすぐに分かる。

 それに国の事情を知るものであればギルフォードの生い立ちにはすぐに気づくし、第三王子だということは公然の秘密ともいえた。


 その為この場でギルフォードが王子であることを知らないものはいなかった。


「レイ・アルクは……精霊王の愛し子だ……」


 ジャジャーン! と効果音が付きそうな様子でギルフォードが宣言するが、誰も驚く者はいない。


 そんなこと知ってますけど? 今更何言ってんの? と皆疑問顔でギルフォードを見つめている。


 物凄い秘密を暴露したと思っているギルフォードは拍子抜けだ。


 ギルフォードの後ろに立ち肩に力を入れていたメイソンやゾーイでさえ、(えっ?)と驚きを隠せなかった。


「えっと、ちょっと待って、もしかしてみんなレイが愛し子だってこと知ってたの?」


 ギルフォードの問いかけにエドガーは苦い顔をする。


「いやー、知っているも何も、レイが冒険者登録に来たその日に水晶に『愛し子』だと映し出されたんだが……ああ、そういえばギルフォードはあの場にはいなかったか……」


 名前やランクを表すだけの水晶が、何故レイが『愛し子』であることを表示したのかは分からないが、レイが特殊(可笑し)な生き物であることは分かっているため、わざわざそこを突っ込む者はいない。


 そんなことを気にしていたら時間がいくらあっても足りないだろう。


 もし調べるのならあの馬鹿高い水晶を分解するところから始めなければならない。


 ギルフォードは考えることを放棄するようにドルフに声を掛けた。


「ドルフさんはどうやってレイのことを知ったの?」


「いや、俺はたまたまだな……ギルド長に呼ばれて部屋に来たら街が、っていうかこの国自体が大変なことになってたから流石に気づいた。あんな急な展開はレイが『愛し子』であることが原因としか考えられないからな……」


 長年の冒険者としての感なのか、実際にレイと向き合ったからの経験だからか、ドルフには「だろうなぁ」と納得しかないようだった。


「ああ、ギルフォード、後モーガンもレイのことは知っているぞ」


「モーガンさんも?」


「ああ、モーガンはレイから栄養ドリンク(ポーション)を貰って古傷が治ったんだよ……失っていた腕を見せられた時は声が出なかったぞ、俺は」


「……」


 色々やらかしている上に愛し子であることを全く隠す気のないレイに頭が痛くなる。


 この街に来た初日、初めて会ったときは子リスのように警戒心が強かった気がするのだが、いつの間にかレイ自身があっけらかんとしているように思えて仕方がない。


 いや、黒髪だけは意識して隠しているのか?

 そういえばケンと同じ紺色の髪だと頑なに言い張っているようだし、男の子の服装も止めていない。


 そう考えるとレイ自身が何故か『愛し子』であることを重要視していない可能性があり、これはあの子自身の意識改革が必要なのかもと、無理すぎる課題にギルフォードはますます頭が痛くなった。


「っていうかレイは空間庫持ちであることも全く隠していないだろう」


「あっ……」


 エドガーの言葉を聞き、そういえばそうだったと今更ながらに思い出す。


 もうレイが空間庫から物を取り出すのが当たり前すぎて注意をすることを忘れていた自分にギルフォード呆れしかない。


 レイが色々と規格外すぎて(そんな小さなこと)と自分の感覚まで可笑しくなっていたことに気づく。


「あの、そう考えるとレイ君の可笑しさに気づいている人はもっといそうですよね?」


 エイリーンの言葉に確かにと頷きながらも胃がチクチクと痛みだす。


 一生懸命隠してももう無理な気がしてきたからだ。


「とにかく、レイは小さな依頼を受けて弁当だけを売って大人しくしててもらうことが一番だな!」


 開ききった顔で大きくまとめたエドガーの言葉に皆が頷く。


 レイには好きなことを勝手にやって大人しくしていてもらうのが一番良い。


 それもギルド内でお弁当屋をやっててくれるのが皆の心の安寧にも役立つと、納得しかなかった。





「とにかくレイに常識を覚えさせるよりも、大人なケンに物事を学ばせた方が早いと思うんだ、それにレイはカークを気に入っているみたいだから、カークを鍛えてレイの傍に置きたいんだよね」


 ギルフォードは自分にとってのメイソンとゾーイの役割を、ケンとカークに担ってほしかった。


 まだ低ランクの二人ならばレイと一緒にいても何か嫌がらせをされることはない。


 ドルフの件があっただけに今現在レイに何かしようとする者はいない。


 けれど人間というものは自分の都合が良いものだけを見ようとする。

 

 レイがのほほんと過ごしていればそのうちドルフとの一件など誰もが忘れるだろう。


 その時にまた同じような事件が起こり、国に危機が訪れてしまっては困る。


 今回はレイがすんなり許してくれたから何事もなく済んだけれど、次も同じとは言えない。


 そうなるとレイにはとにかくご機嫌でいてもらうように努めるしかなく、この中の誰かしらが見張っているのが一番だった。


「レイにも言ったが、俺はなるべく売店を手伝う。レイにもケンにも悪いことしちまったからな、傍にいることぐらいはさせてくれ」


「ドルフさん……」


 怖い顔をしているけれどドルフはいい人だ。

 ギルフォードは教育係として礼を言った。


「私はレイ君の新しい依頼先に出来るだけ顔を出します。レイ君が可笑しなことをしていたらすぐに報告させていただきますので!」


「エイリーン……」


 エイリーンは初めからレイを気に入っている。

 レイの方もエイリーンには心を許し、抱き合う姿をよく見かける。

 あの鬼の受付が! とエイリーンの緩む顔を見て驚く冒険者も多い。


「俺もモーガンもレイを気にかけている。ギルフォードは教育係だが、お前ひとりでレイを教育する必要はない、俺たち皆がレイを守る。ロビン・アルク殿との約束もあるしな」


「ギルド長……」


 一人きりになればすぐに弱音を吐くエドガーもギルフォードの前では年長者としてカッコつける。

 ロビン・アルクとの約束にも無理だ無理だと言いながらも、男のプライドが勝った瞬間だった。


「皆有難う……」


 ここに集まる者たちは皆、レイを思い、そして国の安泰を思ってくれている。


 だからこそギルフォードはここで自分の思いを打ち明けることに決めた。

 

「実は私は……先日王都に戻った際、国王陛下に王位継承権を放棄したいと伝えてきた」


「「「えっ?」」」


 ギルフォードの突然の告白に皆が驚く。

 だがメイソンとゾーイだけはギルフォードが以前から王族を抜けたいと思っていることを知っていただけに微動だにしない。


「私は王族として愛し子(レイ)を守る立場を担いたいと思っている、今後は冒険者としての仕事よりも彼女を守ることを優先するつもりだ」


「ギルフォード……それは本気か……?」


 エドガーの問いかけにギルフォードはあっさりと頷く。

 A級冒険者の中でもギルフォードはS級に近い立場だ。

 もう間もなくS級になるのではないかと言われているが、その立場をあっさり捨ててでもレイを選ぶ決断をした。


 それだけこの国の王子として愛し子を護ることが重要だと判断してのことだろうが、ただし噂に聞く国王にその気持ちがどこまで伝わっているかは分からなかった。


()はそもそも王家から抜け出したくて冒険者になった、S級を目指していたのも(国王)命令(願い)に立ち向かえるようにするためだ。だったらレイの傍にいることを選んでも変わらない、いや、愛し子の傍にいることを選んだ方がことは上手く運ぶ、僕は自分の欲のために彼女を利用した……ただそれだけなんだ……」


 ギルフォードの立場はここにいる者は知っている。


 だからこそ自分のせいで国に混乱を起こしたくない気持ちは良く分かる。

 ギルフォード自身が王位など望んでいないからだ。


「それにあの子の傍は心地いからね……ずっと一緒にいたいって欲が沸いてしまうんだ……」


「……」


 幼いころから色々と悪意をぶつけられてきたギルフォードだからこそ、愛し子の傍を望んでしまうのかもしれない。


 その思いを声には出さないが、皆無言で頷いていた。


「とりあえずここにいる皆で愛し子を、レイを守ろうよ。それが国を守るためにもなるしね」


 愛し子(レイ)のいない場での会談は、この後ダンジョン内でのレイの様子を伝えることに進んだ。


 レイの実力を知った皆がごくりと喉を鳴らし、ドルフに至っては(俺良く生きていたな……)と思ったが、レイを守ることに対し異論を唱える者はいなかった。


こんばんは、夢子です。

今日も読んでいただき有難うございます。

またブクマ、評価、良いね、など応援も有難うございます。


この話も載せるか悩みましたが投稿します。

書いた以上消せません。W

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