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冒険者となって何をしたいのか

「えっと、もしかして幼く見えると冒険者登録は出来ないのでしょうか?」


 いつまで経っても冒険者証が手に入らないので、レイはいい加減痺れを切らした。


 性格の悪い水晶はともかく、ギルド長たちには素早く動いてもらいたい。


 レイとしてはこの後は馬を見に行きたいし、出来れば街も見て回りたい。


 どんなものがあるか確認をし、買い物だってちょっとしてみたいのだ。


 この場でぐずぐずしていては時間はあっと言う間に無くなってしまう。


 衛生面を考えて街の宿屋には泊らず自宅に帰りたいレイとしては、夕方前にはこの街を出たいと思っている。


 なのでギルド長の確認も済んだし、そろそろ冒険者証を下さいな。


 そんな思いの元声を掛けてみたのだが、ギルド長の顔はなぜか晴れない物だった。


「いや、見た目は関係ないし、年齢的にも問題はないのだが……その、冒険者になるには実力を確認する必要がある。ランク付けが必要だからね。レイ君は、いやレイは武器を扱えるのかな?」


 なんだそんなことか、とレイは元気良く頷く。


「はい、じっちゃんにそれなりに仕込んでもらったので武器はちょっとは使えます。でも、私は戦う気はないので、冒険者のランクも最低限のもので良いと思っています」


「ほう……それはどうしてなのかな? ロビン・アルクの孫ならばその名前だけでも冒険者としてやっていけると思うが」


 ギルド長の目付きがギラリと鋭いものに変わる。


 もしかして冒険者証を手にしたら悪いことに使うとでも思っているのだろうか。

 レイがそんな面倒臭いことをわざわざ時間を割いてまでするはずがないのに疑わないで欲しい。


 レイは犯人扱いされたままでは嫌なので、しっかりと自分の気持ちを話すことにした。


「私が冒険者になりたい理由は、身分証が欲しかったというのが一番の理由です」


「は? それなら他のギルドでもいいのではないか? 冒険者として登録すれば国を守る義務の為命の危険があるし、当然断れないような指名依頼もある。商業ギルドや薬師ギルドの方が危険は少ないし、女性は服飾ギルドを選ぶものも多いが……」


「そうですね、でも冒険者ギルド以外のギルドは必ず修行期間? 見習いとして働く期間がありますよね? 私にはそれが無理なんです」


 ズバッと無理だと言い切ったレイの前、ギルド長の眉間にしわが寄る。


「……レイ、興味がないのではなく、見習いが無理だと言い切る理由を聞いても良いかな?」


 ここで素直に 『面倒くさいから』 と言ったらギルド長は怒るだろうか?


 レイは大精霊の加護のお陰で大抵のことは出来てしまう、ハイスペックボディなのだ。

 なので今更誰かの下について見習いから初めるなんて絶対無理だし、ハッキリ言って時間の無駄だと思っている。


 それにじっくりのんびりなスローライフを楽しむ時間が少しでも短くなってしまうのは嫌だった。


 今世だっていつ死ぬかは分からない。だったら出来るだけ自分のやりたいことにだけ時間を割きたい。


 レイの本心はそれだけなのだ。


 異世界でせっかく元気で丈夫な体に生まれ変わったのに、この世界でも社畜になるつもりはない。


 自由を満喫する。


 それがレイの今世の目標なのだ。


「えーと……そう! 私の仕事はじっちゃんの残してくれた森を守る事だと思っております」


 レイはじっちゃんを言い訳にし、ギルド長へと納得できる理由を話し出す。


 実際森は精霊達のおかげでレイが何かする必要はないのだが、困った時のじっちゃん頼み。


 レイは全ての理由をじっちゃんに丸投げすると決めた。


「ふむ、つまりレイにとって冒険者は副業、そう言うことかな?」


「はい、言葉を濁さなければそうなります。勿論受けた仕事はきちんとこなしますし、怠ける気もありません、でも私が一番大事なのはじっちゃんの教えなのです。そこを疎かにするつもりは私にはありません!」


 最低限の仕事しか受ける気はないが、そこは勿論正直に話すつもりはない。


 なのでドヤ顔を浮かべつつ師匠であるじっちゃんの教えを守る弟子を演じてみた。


 それにレイにはある思惑があった。


 ギルド長が許せば得意な 『思惑(それ)』 を仕事にしたい。そう思っているのだ。


「ふむ、そうだな、あの森の一部はロビン殿が買い取っているようだしな……今現在なにも問題がないのであれば、君が成人するまで管理を誰かに依頼するよりも、このままレイに管理を頼むことが正攻法だろうなぁ。あのあたりの土地は魔獣が多く出るはずなのだが、君たち家族のお陰で落ち着いているようだがらな」


 そうなのだ、じっちゃんはレイにお金だけでなく土地まで残してくれたのだ。

 最悪その土地を売ればレイは働くことなくウハウハで生きていけるだろう。


 だけどそれは何か違う。

 異世界を自分の力で楽しむ。

 それに反する気がする。


 まあ、じっちゃんが残してくれた家やお金、そして土地があるからこそ、スローライフをしたいと余裕があることを言えるのだけど。


「最低ランクの冒険者の仕事は、薬草採取や手伝いなどで子供の小遣い程度の賃金しか入らないが、レイはそれでも大丈夫なのか?」


 ギルド長の問いかけにレイは心の中でニヤリと笑う。

 その言葉を待っていた!

 レイは空間庫の中からあるものを取り出した。


「実は私の仕事として、これを売店に置いてもらえないかなぁーと思っておりまして」


「これは……?」


 レイはテーブルの上に三つの箱を置く。

 それはレイ手作りのお弁当だ。

 不思議そうなギルド長の顔を見れば、この世界ではありえないものかもしれない。


 一つは小さめのわっぱ型のお弁当。

 これは冒険者は荷物が少ない方が良いとじっちゃんから聞いて作った物だ。

 誰でも収納魔法を持っている訳ではないので、女性の一食分を目安にしている。


 そしてもう一つは長方形のお弁当。

 男性一食分を想定して作ったものだ。

 こちらは荷物を多くしてでも食事をきちんと取りたい人用のお弁当だ。

 まあ力がある男性ならば問題ない大きさだろう。

 


 そして最後が特大サイズのお弁当。

 こちらはご飯大盛り、運動部で活躍する男子高校生レベルのお弁当量だ。

 絶対に荷物になるし、売れるか分からないけれど、興味本位で作ってみたものだ。


 人間として限界に挑戦してみたくなるのは当然で、レイもお弁当に 「これでもか!」 と食べ物を詰め込む喜びを味わいたかった。その快楽は楽しかったし爽快でもあった。


 なので一応お弁当屋のお弁当候補に入れてみたのだが、ギルド長が無理だと言えば諦めるサイズだ。


「これはお弁当です。もし可能ならば私の冒険者の仕事として週に二回、売店に置いてもらえると助かるのですが」


「おべん、とう? とは? ランチ(昼飯)かなんかのことか? あー、レイ、これは我々が開けてみても大丈夫なのか?」


「勿論です。中身も入っていますので、食べて下さって結構ですよ。あっ、三つあるのでもう一人いた方が良いですかね?」


 ギルド長と細身な受付のお姉さんの二人ではこのお弁当三つはきついだろう。

 それに一つは特大だ、レイなら五人ぐらい必要かもしれない。


 それにまだお昼には早すぎる時間。

 今は味見程度で後で残りを食べて貰ってもいいのだけど、それでも二人で三つはきついはずだった。


「エイリーン、ギルフォードを呼んできてくれるか?」


「はい、すぐに呼んでまいります!」


 三人揃うまでお弁当を開ける気はないのか、ギルド長は走り去っていった受付のお姉さんを見送ると、組んだ手を顎下に置き、ジッとお弁当を見つめたまま銅像のように動かなくなった。


 きっとお弁当が珍しいからだろう。

 でもちょっと顔が怖い。

 だがそんなところも渋カッコイイのだが、小さな子供には見せられない顔だと思った。




「ギルド長、呼ばれたから来たけど、その子がロビン・アルク殿のお孫さん?」


 数分のち、受付のお姉さんに連れられて、金髪碧眼の冒険者らしくないイケメンが部屋にやって来た。


 てっきり副ギルド長でも呼びに行ったのかと思ったけれど、やってきたのは王子様のような容姿の美丈夫だった。


 でもこの男性は顔だけの人ではないようで、一流冒険者だとレイには分かった。


 纏っている魔力が今日出会った人の中で一番洗練されている。


 その上身につけているものがもの凄い装備なのである。


(この人絶対にお金持ちだ! ヤッバーい!)


 その中でも特に剣は精霊たちが喜びそうなほど、力がこもった一流品だった。


「レイです。初めまして」


「僕はギルフォード・サーストンだよ、A級冒険者だ。まあ、気軽にギルって呼んでくれていいからね」


「はぁ……ありがとうございます?」


 キラキラの笑顔を浮かべたイケメン男子ギルフォードは、レイを興味津々顔で見つめながらギルド長の横に座る。


「で、僕は何で呼ばれたのかな? ギルド長」


 ギルド長の視線でテーブルの上のお弁当が呼ばれた理由だと分かっているようだったけど、ギルフォードは軽口な様子でそう声を掛けた。


 あ、この人……


 なんかチャラいかも。


 ギルフォードへのレイの第一印象は、残念ながらそれだった。

こんにちは、夢子です。

ブクマ、評価、いいねなど応援ありがとうございます。

レイはギルフォードをチャラいと言っていますが、世間では優しい男性と言われ人気があります。

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