謝罪
「絶対に嫌です! どんな理由があってもあのカスハラ男を許す気はありません!!」
翌朝、レイの落ち着いた様子を見てギルフォードはドルフの話を伝えた。
反省しているし、ドルフにもいろいろと思いがあっての行動だったのだと伝えたのだが、レイの拒絶は酷いものだった。
「ケンに奴隷の印があったから下に見たってことでしょう? カスハラ以外の何物でもないじゃないですか! 謝られたって許す気はありません!」
「いやいや、そうじゃないんだよ、ドルフさんはレイを心配してたんだよ」
「心配? 心配したら私のお弁当を落とすんですか? 一生懸命作った大切な商品なのに!」
「いやいや、それもワザとじゃないんだって、ケンがレイを騙してるんじゃないかって、いや実際はケンの後ろにいる奴隷屋とかサジテ国を疑って声を掛けようとしてお弁当を落しちゃっただけなんだって」
「えっ?」
「それに売店のポーションも、落としたのはドルフさんじゃなくってあの売店の青年ロブなんだ、とにかく詳しい話を聞いてくれないか、僕からのお願いだよ」
「……」
話を聞けばカスハラ男を許してしまいそうで嫌だったが、あの天然ドジっ子ロブのことを思いだせば、偶然お弁当やポーションが落ちてしまっても何の不思議もない気がしてレイは仕方がなく頷いた。
ケンも「殺意は感じなかった」とギルフォードの与太話っぽいものに同意したので、レイはため息を吐きつつ話を聞く姿勢を取る。
レイご自慢のふかふかなソファーに座り、足も腕も組んでキリッとした顔でギルフォードを見つめれば何故かホッと息を吐かれた。怒ってるし、まだ許していないのにね!!
「実はさ……ドルフさんにはちょっとつらい過去があってね……」
ギルフォードの話が始まり、レイは仕方がなく耳を傾ける。
カスハラ男ことドルフの過去話。
つまり彼の黒歴史は結構重いものだった。
ドルフはB級冒険者に上がった当時天狗になっていたそうで、無理な依頼を受けダンジョンに潜り失敗をした。
その時仲間を亡くし、自分の行動を悔いた。
それからは無理な依頼を受けようとする若者を止める役目を自分の宿命だと思い買って出た。
生意気な若者も多く、そんな時は力づくでもいうことを聞かせた。
そして小さな子供が冒険者になったという噂がギルド内に流れた。
幼い子だからギルド長が保護をし、売店で働かせているのだろうとドルフは思った。
だがレイの悪い噂がドルフの耳に入った。
竜馬の血を持つ高値の馬を購入したとか、Gランクでありながら金貨を稼ぐ依頼を受けたとか、ロビン・アルクの孫だと名乗っているとかがその噂だ。
そんな時レイが到底低ランクの冒険者が持てないような奴隷を連れてきた。
これはレイ本人が奴隷屋に騙されているか、ロビン・アルクの遺産をレイが無駄使いしているかのどっちかだと思った。
そこでとにかくまずはケンに声を掛けてみようと思ったそうだが、ドルフは見た目がアレな上、売店のロブはドルフに怯えている。そこであの大騒ぎとなったわけでドルフに悪気はなかったそうだ。
「……」
「レイ、どう? これでもドルフさんに会ってもらえないかな?」
確かに話を聞く限りドルフは悪くない気がする。
っていうかレイの行動は過剰反応な上、過剰防衛な気までしてきた。
レイは申し訳なさを誤魔化すように子供っぽく口を尖らせる。
「で、でも、あの人、ケンを問い詰めようとしたんですよね? ケンの話も聞こうとしないで!」
レイはお弁当が無駄になったことが許せなくって、どうしても素直になりたくなかった。
子供っぽいかもしれないがドルフには悪者でいて欲しかったのだ。
「ほら、ケンってどう見ても半銀貨五枚の奴隷には見えないだろう?」
「……まあ、そうですね……」
「だから尚更心配になったんだと思うよ、ケンのことを見目の良い子供を狙う奴隷屋の手先なんじゃないかって疑ったんだと思う」
「えっ?」
「昔は安い奴隷だよって子供に買わせて誘拐する事件があったりもしたんだ。今よりも簡単に奴隷が手に入ったからね」
「そうなんですか?」
「だから今はものすごい理由か特別な紹介状かちゃんとした後見人がいない限り、高価な奴隷は子供が買えなくなっている。ドルフさんはそれを知っているからこそ、尚更レイのことが心配だったんだと思うよ、あの人あの見た目だけど優しいからねー」
「……くっ」
どうやらどんなにレイが足掻いても、ドルフはいい人枠の冒険者のようだ。
(クソ~、カスハラ男じゃなかったって落ちなのかー!)
悔しいがレイは仕方なく認めることにする。
良心が痛んでこれ以上拗ねているのは無理だった。
「分かりました、ドルフさんに会います……謝罪を受け入れますよ」
「レイ! 有難う!」
ギルフォードが抱き着こうとしてきたが、ケンがスッとレイに前に立ちそれを止める。
ケンはレイが十二歳と知ってからというもの、まだ子供なトイでもレイに近づきすぎることを止めるようになった。
兄としての自覚なのかもしれない。
「それにしてもロブさんはなんでポーションを落とすほど怯えたんですかねー、ドルフさんて優しい人なんでしょう?」
「ああ、ロブはドルフさんが怖いんだよ。ロブの二番目の指導係はドルフさんだったからさー、厳しく注意されたみたいだし、色々と思うところがあるんじゃないのかなー」
「……」
レイは最後の話を聞いて、急にドルフに親近感が湧いた。いや同情というべきだろうか。
あのロブの二番目の指導係と言えばつまり色々と丸出しになった人で……
そりゃドルフは怒るだろうしロブが怯える気持ちも分かる。
なによりドルフには憐れみしかなかった。
「本当に済まなかった!」
冒険者ギルドのギルド長室に着くなり、カスハラ男ことドルフに深く頭を下げられレイは謝られた。
たった二日前の事件なのにドルフは物凄くやつれて見えて、体も小さくなっている気がした。
それは隣に座るギルド長のエドガーも一緒で、レイはそこまで心配をかけていたのかと心苦しくなった。
きっと幼く見える見た目がいけないのだろうと、国の一大事にはまったく気づかないレイだった。
「ドルフさん、もういいです。許しますし、理由も聞いたので怒ってもいないですよ」
「そ、そうか、レイ、有難うな! これはほんの詫びだ、受け取ってくれ」
ドルフがテーブルの上にじゃらりと音がする巾着を置く。
どう見てもお金が入っていそうなその袋を見て、レイは首を横に振った。
「いえ、お金は受け取れません、ドルフさんの親切心からの行動だったんでしょう? それなのにお金をいただくのは可笑しいですから」
っていうかロブの指導係だったと聞いてから同情しかない。
この人絶対損な役回りを受け持つ人だよね。
そう分かるとこれ以上彼に何かを望むことは出来なかった。
「いや、これは俺のけじめだ! 受け取ってくれ!」
「じゃあ、お弁当代と、壊れたポーション代だけ下さい。後はこれから私のお弁当とか買ってくれたらそれでいいです。私もドルフさんに怪我させちゃったし」
痛みを思い出したのかドルフはレイが握った自分の腕をさする。
そして何かを考えたそぶりを見せた後「分かった」と頷いてくれた。
「じゃあ、私もけじめを付けますね」
「えっ?」
レイは自分の冒険者証を取り出しテーブルの上に置く。
もう分かっていたことだけど、やっぱり初めて作った自分の身分証を手放すのはちょっと心が痛む。
それに薄い水色の冒険者証は可愛くって、気に入っていただけに尚更だった。
「これ、お返しします……」
突然の行動に出たレイを皆がぽかんとした顔で見つめる。
「私、冒険者の試験に落ちたんですよね? だから冒険者証、先にお返しさせていただきますね」
レイがぺこりと頭を下げ顔を上げると、皆の視線がギルフォードへ向いていた。
ギルフォードは「いやいやいや」と首と手を振り慌てだす。
失格を宣言する前にレイが冒険者証を手放したことに驚いたのだろうか。
「レイが冒険者失格だなんて僕言ってないよねー?」
「えっ?でもギルフォードさん、教育期間なのに王都に行きましたよね? それって私が冒険者失格だからじゃないんですか?」
「いやいやいや、どう考えてもレイを不合格にするわけないでしょう! 立派に依頼も受けて合格も貰っているし、レイはちゃんとお弁当屋も営業してるじゃないかー! いったいどこの誰にそんなこと吹き込まれたのさ!」
今度は皆の視線がエドガーへと向かった。
あんたしかいない! と皆の視線が言っていて、今度はエドガーが「いやいやいや」と首と手を振りだした。
「俺はレイにそんなことを言ったりしないぞ! レイは立派な冒険者だ! ギルフォードからもそう聞いているしな!」
「そうなのですか?」
「当然じゃないか!」
あれ? これってもしかして最速合格だったのかも?
レイは自分の勘違いにここで初めて気が付いた。
それを誤魔化すように別の話を振る。
「えっと、私、ドルフさんに暴力振った形になりますけど? 死闘扱いにはなりませんか?」
「俺は腕と足を掴まれただけだ、暴力は振るわれてないぞ!」
今度はドルフが首と手を振る。
皆うんうんと頷いているがちょっと焦っているようにも見える。
もしかして子供であるレイを傷つけないようにと気を使っているのだろうか。
レイは疑問顔で皆を見つめた。
「あの、じゃあ、私、冒険者のままでいいんですか?」
「ああ、勿論だよ、レイは立派な冒険者だし、A級冒険者である僕の教え子だ。胸を張っていいんだよ」
ギルフォードの言葉を聞き、レイは水色の冒険者証を手に取った。
『Gランク レイ・アルク』 と書かれた冒険者証を見ると、安心して目がウルウルとしてきた。
「レイ、泣くな、俺が悪かったから!」
ドルフが心配げにレイに声を掛けてきた、レイに怪我をさせられたのにこの人はどこまでもお人好しだ。
それにギルフォードもエドガーも、ケンも、メイソンも、ゾーイも、皆焦っていて可笑しくってレイはふふふと笑った。
「はい、すみません、嬉しくって、でももう大丈夫です。私は立派な冒険者ですからね」
レイに笑顔が戻り皆ホッとする。
この国の平和は守られた、そんな気持ちだった。
その後、レイの勘違いが誰のせいなのかを知り、ロブの冒険者になる道がまた少し遠くなるのだが、それはレイもロブも知らないことだった。
こんばんは、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
またブクマ、評価、いいねなど応援も有難うございます。
ドルフは苦労人。というか苦労を自分でしょってしまうタイプです。




