ギルド長との面談です
「あー、君がロビン・アルク殿の孫、レイ・アルク君だね。私はエドガー・ヴァンス、この街の冒険者ギルド長だ。宜しくな」
「はい、レイ・アルクです。ギルド長、よろしくお願いいたします」
じっちゃんのプレミアムカードは効力が強すぎたようで、水晶を見て慌てた受付のお姉さんがどこへ行ったのかと思えば、なんとギルド長の元へ行っていたようで、レイはギルド長との面談をする羽目になった。
強面のギルド長は顔に傷がある渋い男性だ。
年齢は五十代ぐらいに見えるだろうか。
白と銀色の混じった髪色に、青く鋭い瞳。
体にはしっかりとした筋肉があり、一線を退いても鍛えていることが分る。
未だに現役でも通用しそうな壮年の男性を前に、素直にカッコいいとレイは感動をした。
「レイ君、ロビン・アルク殿は一緒じゃないのか?」
「はい、じっちゃんは去年亡くなりました。なので今日は僕の冒険者証を作りに来たんです」
じっちゃんが亡くなってすでに一年、その間レイは何不自由なく過ごしていたが、ギルド長も受付のお姉さんもそうは思わなかったのか、もの言いたげな表情でレイを見つめて来た。
まあ確かに、森の中に小さな子供が一人残されたと知れば同情を受けるのは仕方がないだろう。
その上親ともいえるじっちゃんの死をレイ一人で受け入れたのかと思われれば、同情が沸く気持ちもわかる。
だがレイは前世の記憶持ち、その上前世では一応成人もしていた。
それにじっちゃんが亡くなった時、レイの傍には友人たちが寄り添ってくれていた。
じっちゃんが亡くなった後、スローライフを楽しんでいたレイとしては、二人の様子を前にちょっとだけ申し訳ない気持ちになった。
「あっ!!」
「どうした?!」
「どうしたの?!」
ギルド長からじっちゃんの名前を聞いて、レイは大事なことを思い出した。
冒険者になり身分証を作る予定だったレイの希望を聞いて、生前じっちゃんがもしものことに備えてギルド長に手紙を残すと言っていたからだ。
一年以上前のことですっかり忘れていたけれど、レイはギルド長宛の手紙をじっちゃんから預かっていたのだ。
そんな大事なことを今更ながらに思い出し、レイは思わず大きな声を出してしまった。
(あっぶなー、マジで思い出してよかったよー)
これなら流石に冒険者証を作れないってことは無いだろう。
レイは安堵し、その顔には笑顔が浮かぶ。
「あの、ギルド長のお名前はエドガー・ヴァンスさんでお間違えないですよね?」
「あ、ああ、そうだ、先ほど名乗った通りエドガー・ヴァンスで間違いない」
「良かったです。実はお名前を確認したのはじっちゃんがエドガーさんへの手紙を残していたからでして……」
「ロビン・アルク殿からの手紙?」
「はい、ちょっと待ってくださいね」
ギルド長と受付のお姉さんが視線を合わせ何事か? と困惑する表情の中、レイは鞄の中をごそごそと探ってみる。
(あれ、手紙預かってからどこに入れたっけかなー、家じゃないよねー)
一年以上前のことなので思い出せない。
取りあえず自分の空間庫を探ってみることにする。
何も無い場所に手を突っ込み、自分の持ち物を確認する。
『じっちゃんの手紙』
そう脳内で言葉にすれば、手の中に一通の手紙が収まった。
それを空間庫から取出し、ギルド長に差し出せばお遣い完了。
無事に依頼をこなせた達成感でレイは満足げだ。
(ふー、じっちゃんからの依頼をちゃんと果たせて良かったよー、まあ、半分以上忘れていたけどね、てへへ)
「えーと、エドガーさん、いえギルド長、これがじっちゃんからの手紙です」
「「……」」
レイが手紙を差し出すが、ギルド長はなぜか受け取らない。
渋くカッコイイはずのその顔は、口と目が大きく開いていてちょっと情けないものに変わっている。
ギルド長の横に立っていたはずの受付のお姉さんは、いつの間にか空いていた席に座っていて、ただレイを見つめボーッとしている。こちらも当然口があきっぱなしで、美人が台無しだった。
(? 一体どうしたのかなー? あ、便箋が珍しいとか?)
二人の様子が明らかにおかしい、一体この一瞬で何があったのか?
レイは取りあえず押し付けるようにじっちゃんの手紙をギルド長の前に置く。
(うんうん、今度こそ依頼は果たせたよね。これでじっちゃんも成仏できる、今頃三途の川を渡れたかなぁ?)
じっちゃんが川を泳ぐ姿を思い描き、レイは大満足に頷いた。
「えっと、それで、ギルド長、わた、いえ、僕の冒険者登録は大丈夫なんでしょうか?」
なんだか一向に話しが進まない気がしてレイはギルド長に催促の声を掛ける。
ハッとしたギルド長と受付のお姉さんは「そうでした」とやっとこの場に何故レイを呼び出したのかを思い出したらしく、受付で見た水晶よりもちょっと大きな水晶をテーブルの上に置いた。
「レイ君、悪いがもう一度君の身元を確認をさせてもらいたい、水晶の上に手を置いてもらえるだろうか」
「はい、分かりました」
レイは素直に頷き手をかざす。
もう何度目かのこの行為に流石のレイも慣れてきた。
水晶は薄い青色に光ると、レイの情報を表示した。
【レイ・アルク
十二歳
女
英雄ロビン・アルクの孫で弟子
精霊王の愛し子
引きこもり気味だがポテンシャル大な無職
興味のない事には怠惰な部分が大いにあり】
(うん? なんか増えてる? 無職だけでなく怠惰って出ていた気がするがっ!)
もしかして冒険者ギルドの水晶は人を馬鹿にする使用になっているのだろうか。
それともレイの本質を見抜く恐ろしいものなのだろうか。
確かにレイは自分の生活さえ良ければ他はどうでもいいという傾向があるにはある。
なので怠惰な自覚はあるのだが、そこをわざわざついてくるこの水晶には嫌がらせのような物を感じた。
「「……」」
幼いくせに怠惰な生活を送る子供だと思われたのか、ギルド長と受付のお姉さんの視線が痛い。
この水晶の表示のせいで怠け者の冒険者は必要ないと判断され、登録が出来なかったらどうすればいいのか。
そんな心配をするレイの前、ギルド長が口を開いた。
「レイ君は……いや、レイさんは、もしかして女の子なのか……?」
そこを突っ込まれるとは思わず、レイはガクッと肩を落とす。
もしかして、ではなく、どこまで行ってもレイは可愛い女の子なのだ。
間違えないで欲しかった。
「はい、女です……ああ、今日は街へ来るために男装をしています、危険ですからね」
そう言えば学ラン坊主姿だったと、レイはギルド長の前で帽子を取った。
この世界、室内では帽子を取らなければいけないとかのマナーはないらしいけれど、不敬だったかなとちょっとだけレイは反省をした。
そしてレイの黒髪がさらりと肩に広がれば、ギルド長と受付のお姉さんが目を見開いた。
「……黒髪……」
「それもあり得ないぐらいに綺麗な黒髪です……」
驚くところはそこですか?
と思ったけれど、じっちゃんが黒髪は珍しいと言っていたことを思い出す。
「えっと、女だと分かってもらえましたでしょうか?」
「「……」」
髪をまとめ直しもう一度帽子の中に隠せば、ギルド長と受付のお姉さんがホッと息を吐いた。
黒髪は隠せ、それは異世界の共通事項のようだ。
誘拐されないためにも気を付けよう、レイは改めて黒髪を隠すことをじっちゃんに誓った。
「レイ君は、いや、レイさんは……」
「あ、ギルド長、レイと気軽に呼んでください、私は下っ端なんで」
プレミアムカード持ちのじっちゃんの孫だからか、敬称を付けて呼んでくれるギルド長に断りを入れ、レイと呼んでくれと頼む。
新入りがギルド長に敬われる形では絶対に目を付けられる。
余計な面倒事は必要ないとの考えがあるレイは、絶対に目立つのだけは嫌だった。
「そ、そうか、ありがとう……君はしっかりしているが、その、十二歳よりももっと幼く見えるねぇ……」
黒髪からわざとらしく年齢の話に変えるギルド長にレイは乗る。
どうやら黒髪は禁句でもあるらしい。
レイは街にいる間は帽子を取らないこともじっちゃんに誓った。
「そうですか? 十二歳で間違いないのですが、えーっと、ちなみに何歳ぐらいに見えますか?」
「八、いや、十歳ぐらいに見えるかなー、ハハハハハ」
笑って誤魔化すギルド長。
だけどレイにはちゃんと聞こえていた。
八歳?!
いくら何でもそれは幼過ぎだろう!
そりゃあギルド長室にも呼ばれるわ!
冒険者ギルドに八歳の子供が一人でやってきた。
保護対象と思われても仕方がないと、脳内で自分に突っ込みを入れ、色々と納得をしたレイだった。
こんにちは、夢子です。
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じっちゃんは天国で胃を痛めていそうです。