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【完結】レイののんびり異世界生活~英雄や勇者は無理なので、お弁当屋さん始めます~  作者: 夢子


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マルシャ食堂、新装開店

 今日は遂に、マルシャ食堂の新装開店の日を迎えた。


 あれからレイはマルシャ食堂へと毎日通い、手作りした従業員用の制服を渡したり、ミランにウエハースやパンケーキの作り方を指導したり、トイに営業スマイルや接客を教えたりと、依頼主フランクのために奮闘していた。


 その間、勿論お弁当屋も開いていたし、ケンの冒険者証も作ったりした。

 エイリーンの受付でケンがギルドの水晶に手をかざした際、名前と年齢、性別しか映らず、レイは(なぜ?!)と疑問しかなかった。


「レイ君、あのね、ケンさんが普通なのよ」とのエイリーンの言葉に尚更納得できないレイだった。


 そしてギルド長のエドガーは、レイが奴隷を購入したことを知って絶句していた。

 冒険者証を取り上げられる可能性があるレイとしては、ケンが冒険者証を持つことは必須だったのだ。ギルド内でお弁当屋を出来なくなるのは生活の糧を失うようで嫌だったからだ。


 でもレイの奴隷だと言うことで、エドガーの判断でケンの指導係もギルフォードに決まってしまった。


 王都から戻ったら教え子が二人に増えていてギルフォードはきっと驚くだろう。


 あのキラキラ顔がどう歪むのか……

 

 ちょっとだけその顔が楽しみだなと思ってしまったレイだった。




 そして奴隷購入から一週間たち、今日無事にマルシャ食堂は開店を迎えることが出来た。

 店の準備も順調、店員も立派に育った。

 ただ残念なことが一つあるとすれば、インフルエンサーなギルフォードがまだ王都から戻っていないということだろう。

 あの無駄にキラキラした人は人呼び役に最適、サクラ役にもってこいということだ。

 それでもクール美人な受付嬢エイリーンのお陰もあり、マルシャ食堂のアイスの宣伝は十分にできたと思う。


 案の定、開店前からマルシャ食堂の前には多くの客が並んでいた。


「まもなくオープンですのでもうしばらくお待ち下さい」


 朝から楽しそうに並ぶ客に向け店長であるフランクが声を掛ける。

 少し緊張しているようだが元文官だと考えればその行動は立派な店長らしいものだった。


 アイスについてレイ自身はそれほど宣伝はしていなかったのだが、エイリーンとその仲間たちにサービス券を上げる代わりに口コミをお願いしたので、きっとその成果がこの行列に現れているのだろう。

 冒険者ギルドの受付嬢の顔の広さには驚きしかない。


 そしてもちろんレイの知り合いであるオブリ馬屋のジェドや、この街の門兵のおじさんたち、それから冒険者の知り合いともいえるカークや、女性冒険者のお姉さんなどにも「おまけをするから来てね」と営業スマイルで声を掛けておいた。


 なので多少は(お客さん、来てくれるよね)と期待していたのだが、まさかこれほどだとは誰が思うだろうか。店の主であるフランクだけでなくミランとトイも並ぶ客の多さに顔が青ざめている。


(うんうん気持ちは分かるよ、自分たちだけでこの人数の客をさばけるのか心配になってるんだよねー)


 新店長、新店員、新料理人の三人にレイは依頼を受けた身として笑顔で発破をかける。


「大丈夫ですよ、席の数は決まってますし、アイスは出来ているんです! 前もって焼いておいたウエハースもパンケーキもあるし、私とケンもいます。だからこれぐらいの人数は皆の力を合わせれば絶対に捌けます!」


 どこぞのヒーローが言いそうな言葉を想像しレイは皆を激励する。


「そ、そうですよね、マスター、あれだけ練習したんですもの、きっと大丈夫ですわ」


「マスター、僕も頑張りますから安心してください」


「みんな~」


 ミランとトイは今はフランクさんのことをマスターと呼んでいる。


 流石に『ご主人様』はフランクさんも受け止められなかったようだし、『フランク』と主を呼び捨てるのはミランたちが無理だった。


 ケンに『レイ』と呼んでもらっているのでその気持ちが痛いぐらい分かる。レイ様呼びは一般人には落ち着かないのだ。人生無難が一番だった。



「フランクさん、皆で頑張りましょうね!」


 多分このメンバーの中で接客経験がないのはフランクさんだけだろう。


 ミランは商家の生まれだし、結婚先も商家だった。

 トイも幼いけれどそんな母親を見ていたので知識はある。


 ケンは戦闘奴隷の下積み時代に接客も経験しているため、言葉遣いも奴隷らしくないほど丁寧だ。

 そしてレイに至ってはスマイル0円は大得意。

 前世で学んだ接客術を胸を張ってお披露目したいぐらいだ。


「そうだね、私は一人じゃないもんね、みんな力を貸してね、頼んだよ!」


 フランクにも気合が入り、マルシャ食堂は開店の時間を迎えた。


 そして多くの客が店に入り始めると、レイとトイが注文を取り、フランクとミランが受けたメニューを仕上げていく。


 制服である白のシャツに茶色のズボン、そして茶色のサロンエプロンにハンチング帽を被ったケンはものすごくカッコいいので店の前で客の整理を頼んだ。


 レイが教えた営業スマイルを浮かべ接客する姿のケンは乙女の心を鷲掴みしたようで、並んでいる客たちからクレームが出ることはなかった。




「レイ様、開店おめでとうございます」


 店に入ってきた客に花束を渡され驚いた、その相手が奴隷屋ゴアのクライブだったからだ。


 クライブと店の従業員らしき男が二人、女性客が多いこの店に黒服姿の男性三人で来る強靭なハートには感服だ、心の中で拍手を送る。


「有難うございます。あ、じゃあ、フランクさんを呼んできますね」


「いえいえいえ、お忙しいと思いますので、店主殿のご挨拶は大丈夫ですよ。我々はアイスという新しい食べ物を楽しみに来ただけですので、お気になさらないで下さい」


 クライブはチラリとミランとトイ、そして当然一番変わったケンにも視線を送る。


 三人の姿を見て何か納得したような笑みを見せ、満足そうに頷いた。


「皆が元気になって何よりです。レイ様方に引き取られて彼らも幸せそうですね」


「あはははは……それならいいのですがー」


「ええ、レイ様の傍に居られる者は幸せでしょう」


「……」


 多分クライブはレイの力に気づいているのだろう。笑顔を受かべるその目がちょっと怖い。


 でもあの時じっちゃんの話を出したので「三人はじっちゃんの秘蔵のポーションで治りました!」と言い逃れができる。はず。


 けれどクライブはそれ以上何か言うことはなく、マルシャ食堂で一番高いメニューであるパンケーキのアイスとベリーソース乗せ、その名も『マルシャスペシャル』を注文し、しっかり完食して帰っていった。甘いものが好きなようで何よりだし、何事もなくてレイはホッとした。


(ふー、クライブさんに追及されるかと思ったけど何も言われなくってホッとしたよー)


 クライブの笑顔はどこかきな臭いけれど、甘いものも好きそうだし悪い人ではないようだ。

 それにレイたちが購入した奴隷がどう扱われているのかわざわざ見に来る優しさもある。

 意外と愛情深い人なのかもしれないとそう感じた。




「レイ、食べに来たぞ」


「ギルド長、お疲れ様です!」


 大柄の男性が店に入って来たと思ったらギルド長のエドガーだった。


 仕事の合間に来たのか、それとも休みを取って来たのかは分からないけれど、可愛くリノベーションしたマルシャ食堂には似合わない風貌だ。けれどエドガーの横に立つふわっとした小柄な女性はこの店にぴったりな雰囲気だった。


「貴方がレイ君ね、私はエドガーの妻、サーラです。よろしくお願い致しますわね」


「はい、新人冒険者のレイです。ギルド長にはいつもお世話になっております!」


 エドガーよりもモーガンによっぽど世話になっているが、そこは空気が読める前世の記憶持ち、上司を上げる術は分かっている。奥様の前なのだカッコつけさせてあげようではないかと礼を言う。


「まあ、レイ君はお小さいのにしっかりしているのねー、うちの子よりもよっぽど大人みたいだわぁ」


 オホホと笑うサーラはエドガーよりも十歳ぐらい若く見える。

 それに品があり貴族出身で間違いないなとレイは感じた。


(よく野獣みたいなギルド長と結婚したよね、きっとサーラ様は心が優しい人なんだろうなー、いや、視力が弱い可能性もあるよね?)


 貴族に偏見を持つレイはついそんなことを考えてしまう。

 貴族令嬢イコール王子様好きと思い込んでいる弊害だろう。

 エドガーだって生まれた時からこんな野獣のような風貌ではない。

 可愛い時期もあったことをレイが知らないだけだった。


「さあ、ギルド長、サーラ様、こちらへどうぞ、一番いいお席にご案内しますね」


「まあ、嬉しいわ。ねえ、あなた」


「うむ、そうだな、レイ、礼を言うぞ」


 ちょうど窓辺の席が空いたので、ギルド長を立てて一番の席だと言って案内をする。


 そしてついでに注文を取れば、案の定『マルシャスペシャル』二つの注文だった。


 お高いメニューを選択してくれたギルド長の株がレイの中でちょっとだけ上がる。


 もうその顔を見ても首を絞めてやろうとは思わない。


 金を落としてくれて有難うと感謝したいぐらいだった。



「お待たせいたしました『マルシャスペシャル』です。あと、こちらはいつもお世話になっているギルド長へ私からのプレゼントです、宜しければどうぞー」


「おお、レイ、すまんな」


「いいえー、ゆっくりして行って下さいね」


 レイが用意したおまけは『フライドポテト』。

 甘いものを食べた後はしょっぱいものが食べたくなる。

 そしてしょっぱいものを食べたら甘いものが食べたくなるわけで……


 負の連鎖にハマったエイリーンたち受付嬢グループは、しっかりとアイスのお替りをして帰って行った。


 それにカークや、女性冒険者のお姉さんたちもやっぱりアイスをお替りしてくれたのだ。


 きっとギルド長夫妻もその負の連鎖にハマることは間違いないだろう。


 レイは得意の営業スマイルを浮かべながらも、しめしめと心の中ではあくどい笑顔を浮かべていたのだった。

皆さまこんばんは、夢子です。

本日も読んでいただき有難うございます。

またブクマ、評価、いいねなど応援も有難うございます。

とても励みになっております。


マルシャ食堂の制服ですがレイとトイは半ズボン、ミランはロングスカートに三角巾です。

色は皆ケンと同じです。


ギルフォードはまだ王都から戻ってこれません。

もう間もなくそのお話も乗せますので楽しみにしていただけると嬉しいです。

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