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どちらがいいですか?(餃子)

 一日で乗馬をマスターしたレイは、指導係であり鬼教官でもあるギルフォードへお礼を言った。


「ギルフォードさん、有難うございました! お陰でアーブに乗れるようになりました」


 斜め四十五度に頭を下げお礼を言うレイを見て、ギルフォードの顔にはいつものキラキラ笑顔ではなくちょっと引きつった笑顔が浮かぶ。


 指導どころか全く何もせず、勝手にレイが馬に乗れた状態。


 そんな感じのためお礼を言われても素直に喜べないようで「僕の立場って……」と小さく呟いている。


 けれどそこはA級冒険者のギルフォード、立ち直りも早いようで、いつものキラキラした笑顔をどうにか作り出した。


「いやー、まあ、無事乗れるようになって良かったよ……」


「はい、全てギルフォードさんのお陰です!」


「アハハハハ……」


 乗馬が出来るようになったレイはご機嫌だった。

 冒険者証が手に入った日に負けないぐらい嬉しかった。

 なので子供らしく、そして前世の記憶持ちらしく、先輩を立てしっかりとお礼を言ったのだ。


 走らせた馬たちを休ませる間も、オブリ馬屋にある東屋に移動し、焼き菓子を取り出してギルフォードたちへと「是非どうぞ!」勧める。


「ギルフォードさん、珈琲と紅茶どっちがいいですか? 暑いから冷たいのも準備できますよ」


「……冷たいの? 良く分かんないけど紅茶の冷たいもの? にしようかな」


「了解です。アイスティーですね」


 レイはグラスを空間庫から取り出し、魔法を使いグラスに氷を入れる。

 そこにまた空間庫に入れておいた冷やした紅茶を注ぎ、ギルフォードの前にレモンとミルク、そしてストローとお手拭きも置いた。


 珍しく無言のままのギルフォード。

 もしかしたら乗馬で疲れているのだろうか。

 初心者に教えるのは大変だと聞く。

 だとしたら自分(レイ)のせいで気疲れしたのかもしれない、とそんな考えにレイは行き着いた。


「さあ、どうぞ」

「……」


 ギルフォードの様子を心配をしながらも、同じく疲れたのかボーっとレイの動きを見つめていたメイソンとゾーイにも声を掛ける。


「メイソンさんとゾーイさんはどうしますか? 珈琲と紅茶、どちらがいいですか?」


 二人は暫く考えた後「同じもので」と返してきた。

 なのでレイはギルフォードの時と同じようにアイスティーを作って二人に渡す。


「冷たいうちにどうぞー」


「「……」」


 そして自分にも同じようにアイスティーを作る。

 その間も三人ともなぜか口をつけず大人しいままだ。


 そういえば異世界あるあるでお茶会では主催者が最初に口をつけなければいけないとか、そんなルールがあったはずだとレイは思い出す。


 なのでレモンを縛り、ストローを使いくるくると混ぜてから一番先にアイスティーに口をつけた。


「うん、冷たくて美味しい」


 これが前世だったならば先輩よりも先に飲みやがって! と言われるところだが、今世ではそうではないことが有難い。


 焼き菓子のマドレーヌも最初に頬張り、「さあ、どうぞ、毒はないですよ」と声を掛けた。


「「「……」」」


 普段ならば、いの一番に食べ物に飛びつくはずのギルフォードだけど、今日はなぜか落ち着いている。

 いや、なんだか顔がニヤニヤとにやけていて気持ち悪い。

 メイソンとゾーイの方を見て面白がっているようにも見えるし、嫌な顔だ。

 

(ギルフォードさん、もしかして熱中症なのかなー? 顔も変だし全然喋らないもんねー)


 きっと友人であるメイソンとゾーイがいるから大人しいのだろうと、レイは考えることを放棄する。

 そういえばこの二人と会った時からギルフォードは口数が少なくなった気がする。


(うん、いつもこれぐらいならギルフォードさんの傍にいるのも我慢が出来るよねー)


 ギルフォードは普段が五月蠅すぎるのだ。

 そんな失礼なことを考えながら、レイは美味しい紅茶(アイスティー)に舌鼓を打った。



「あー、んんっ、レイ、実は僕、ちょーっと話したいことがあるんだけど……」


 ギルフォードがちらりとメイソンとゾーイに視線を送った後、そんなことを言ってきた。

 なんですか? と聞き返せば、ここではちょっとと言われてしまう。

 なのでご機嫌なレイは普段ではありえない声掛けをしてしまう。


「だったらうちに来ますか?」と


 そう問いかければギルフォードはとっても嬉しそうな顔をした。








 レイの家につき、前回同様浄化をしてから皆をリビングに案内したレイは、夕飯は何がいいかなと考えた。


 どうせなら人数も多いし餃子パーティーかたこ焼きパーティーにしよう! とレイは思いつく。


「ギルフォードさん、今夜の夕食、餃ティかタコパどっちがいいですか?」


 悩んだ末どちらが良いのかギルフォードに問いかければ「何それ?」と返されてしまい、すき焼きに続きA級冒険者が知らない料理だったかと反省をする。


「ちなみにメイソンさんとゾーイさんは……」


「「……」」


 二人も当然知らない料理だったようで、無言のまま首を横に振りレイに困ったような表情を向けてきた。


「あー、レイ、レイは疲れているし無理しなくていいよ、僕たちはパンだけの食事にも慣れているし、野宿だって慣れてるから全然平気だよ。だからレイが料理しなくても大丈夫だ、レイも少し休みなよ」


 今日はレイのお弁当屋初日。

 そしてその後は乗馬の練習、そして家へと馬に乗って帰ってきた。


 だから優しいギルフォードはそんな声掛けをしてくれたのだろう。

 決して餃ティとタコパという言葉に怯えているわけではない。


 なのでレイは首を横に振る。

 せっかく四人も人が居るのに、美味しいものを食べないだなんてあり得ない!

 疲れているなら冷凍してある餃子を焼けばいい!

 うん、今日は餃子パーティーにしよう。

 レイはギルフォードの気遣いからそう決心する。


「皆さんは休んでいてください、すぐに夕飯の準備をしますからね」


「えっ? ちょっとレイ?」


 心の中でそんな決意をしたレイは、足早にキッチンへと向かう。

 そして急いで戻りリビングのテーブルの上に卓上コンロを準備し、小皿や箸、フォークなども準備すると、小瓶に入れた餃子のタレもテーブルの上に置く。


「こっちから醤油ベースのたれ、味噌だれ、ニンニクダレ、マヨ醤油ダレ、ポン酢ダレです。餃子はそのまま食べても大丈夫ですが、たれをつけても美味しいのでお好みでつけてみて下さいね」


「う、うん……レイ、ありがとう……」


「「有難うございます……」」


「いえいえー」


 そのほか前回と同じように、口直し用に浅漬けやパプリカの酢漬けなども出していく。

 それからお酒もとビール瓶を数本テーブルの上に乗せ、各自でジョッキに注いでもらうことにした。


(メイソンさんとゾーイさんが居ればギルフォードさんもウザがらみしてこないよねー)


 鼻歌を歌いながらレイはどんどんテーブルの上に食材を並べて行く。

 メイソンとゾーイは初めて見る光景に目をぱちくりしていて、それを見たギルフォードが何故か満足そうに頷いている。きっと美味しい料理を一緒に食べられるのが嬉しいのだろう。


 ギルフォードは前回食べた白菜の浅漬けに手を伸ばし「これ美味しいんだよ」と先輩風を吹かせている。そんな三人のやり取りを見てやっぱりそうだったかとレイはうんうんと頷いた。


「じゃあ、焼いていきますね。匂いが付くのでお風呂は後にしますから、あまりお酒を飲みすぎないでくださいね」


「うん!」

「ああ」

「はい」


 大人三人に注意をし、レイはコンロの上に冷凍餃子を置いていく。

 そのまま数分焼き、裏面に焼き目が付いたら魔法でお湯を作り鉄板に注ぐ、そして蓋をし数分待てば焼き餃子の出来上がり、部屋中に香ばしい香りが広がっていく。


「焼きあがりました、さあ、どうぞ、熱々が美味しいですよ」


 見たことのない料理だからだろうか、それともお茶会と同じ考えなのか、三人とも動かない。

 なのでレイが最初に餃子を取り、たれも何もつけずにかぷりと噛り付く。


 中から肉汁が出て火傷しそうな熱さだけど、それが良い!

 ハフハフしながら(美味しい、自分天才!)と作り手であるレイ自身を心の中で褒めていると「じゃあ、僕も」と言ってギルフォードが最初に餃子に手を付けた。


「ーーっ!」


 熱かったのか、ギルフォードもレイと同じようにハフハフしながら餃子を食べだした。

 ちょっと涙目になっているが、食べ終わるとジョッキに入ったビールをごくごくと飲みだし、前世あるあるをギルフォードが披露する。


「ぷはーっ! 美味い! このぎょてぃって料理最高だね! ビールにとっても合うよ、ずっと食べていられそう、すっごく美味い!」


 ギルフォードの言葉を聞き、メイソンとゾーイがごくりと喉を鳴らす。


「お二人もどうぞ遠慮なく食べてくださいね。餃子は沢山ありますので遠慮はいらないですよ」


 レイの言葉を聞き、メイソンとゾーイがペコリと頭を下げ餃子を口にする。


 ハフハフハフ。

 言葉も出さず、餃子を咀嚼する。

 どうやら二人も美味しかったらしく、その顔はほころんでいて目は輝いている。

 言葉にしなくても分かる。

 二人のその瞳が「美味しいと」言っているからだ。


 あっという間に一回目の餃子を食べ終わり、レイは二回目を焼く準備に取り掛かる。


「レイ、それ何?」


「何ってキッチンペーパーですよ」


「いやいやいや、名前聞いても分からないけど、それも紙だよね? レイって紙の使い方がやっぱりおかしいよね?」


「……」


 また、それか。


 ギルフォードは五月蝿いので無視をすることにし、レイはメイソンとゾーイに話しかける。


「メルソンさん、ゾーイさん、ビール足りなくなったら冷蔵庫にあるので遠慮なく出して下さいね」


「あ、ああ、すまん」

「有難うございます」


 二人の返事がじっちゃんのようで何だか嬉しくなる。

 ここ一年、じっちゃんが居なくて餃子パーティなんて出来なかったけれど、久しぶりのこの賑やかな感じがとても楽しい。


「さー、沢山焼きますよー!」


 タネを変えタレを変え、レイたちの餃子パーティーは夜が深けるまで続いたのだった。


こんにちは、夢子です。

ブクマ、評価、いいねなど応援ありがとうございます。

誤字脱字報告も有難うございます。

今日は一日出かけてきます。明日の投稿が遅くなりましたら起きれなかったんだなと思ってください。

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