冒険者ギルドへ行きましょう
「この道を真っすぐ行けばいい。冒険者ギルドはこの街で一番大きな建物だからな、いけばすぐに分かるぞ」
門に入ってすぐ、レイは冒険者ギルドの場所を人に聞いた。
お礼にチップを渡すべきなのかな? そんな事を一瞬考えたが、冒険者ギルドへの道を教えてくれたおじさんはレイの頭をくしゃくしゃっと撫でると「気をつけてな」と笑顔を浮かべ去って行った。
第一街人があんなに良い人ならば、この街は良い街に決まっている。
世知辛い世の中だと思って諦めていたけれど、悪い人ばかりではないようでホッとする。
撫でられ乱れた帽子を直しつつ、レイは軽やかに足を進めた。
「あー、買い物したいなー。うわ、あれなんだろうー、気になるー」
本当は今すぐにでも初めて訪れた街中をジックリと見て歩きたい気持ちはあるけれど、今日の第一目的は身分証を手に入れること。
身分証がなくても街にはお金さえ払えば入れるらしいが、ワンコインと言えども毎回払うのはやっぱり勿体ない。
それに他国へ行くには身分証は必須、旅行をしたいレイとしてはやっぱり手に入れたいものだと思う。
つまり冒険者カードはパスポートや免許証と同じだよねと、じっちゃんの話に相槌を打っていたのは、レイが外へと興味を思った三年前だ。
それまではあの森の中で十分だと思っていたけれど、成長するにつれレイは多少だけど外の世界にも興味を持つようになった。
「うわー、これが冒険者ギルドかー、異世界感出てるー、マジでバグりそう」
冒険者ギルドの前で感嘆の声を上げる。
街一番の建物は、レイがこの世界に来て目にした建物の中で一番大きく、冒険者ギルドとは思えないほど可愛いらしかった。
水色の屋根が尖っていて、ちょっとノルウェーのお城っぽい。
凄いばえる場所だけにスマホがないことが悔やまれてならない。
ドレスなんか着て冒険者ギルドの前で自撮りをしたらきっと楽しかっただろう。
それが出来ない異世界、ちょっとだけ残念だ。
「ふわー、マジで神ってるな~」
三年間楽しみにしていた冒険者ギルドが今目の前にある。
本当はじっちゃんと一緒に来たかったけれど、そこは寿命だ仕方がない。
「レイ、いいか、街ではあんまり変なことを言うんじゃないぞ」
じっちゃんの有難い忠告を胸に、「任せて!」と頷いたレイは、冒険者ギルドの門を誇らしげにくぐった。
ドンッ!
「うわっ」
「おおっと」
上を見ていたレイは誰かとぶつり、前屈みに転んでしまう。
これが世に聞く冒険者ギルドの洗礼か? そう思ったけれど、転んだレイを見て相手は慌てだした。
「うわぁ、ごめん、ごめん、坊主大丈夫か、怪我は無いか?」
大きなリュックを背負った、青年とも少年とも呼べる年頃の男の子が、転んだレイの手を引き立たせてくれる。
「うん、大丈夫だよ」
ホッとした青年はゲームに出るキャラクターのような水色の髪に、整った顔立ちでかなりのイケメンだ。
そんなイケメンな青年は背負っている荷物の大きさなど気にすることなく、屈んでレイのズボンを叩き埃を払ってくれる。
どうやら第二街人も良い人らしい、異世界が世知辛いだなんて誰が言ったのか。
もしかしたらいい人ばかりなのかもしれないと、レイの中に淡い期待が芽生えた。
「おにいちゃん、ありがとー」
レイがお礼を言えば、青年はニカッと笑いレイの頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「ぶつかって悪かったな、俺はカークだ、お前は?」
「僕はレイだよ。カーク兄ちゃん宜しくね」
カークと名乗った青年はこの世界でも珍しい水色の髪。
この街に来て初めて異世界人らしい珍しい髪色の人に出会って、レイの気分は上昇だ。
だってレイは残念ながら前世と同じ黒髪だ。
そしてじっちゃんはスキンヘッドだったので、昔は自慢だったらしい赤髪をレイが見ることは叶わなかったのだ。
「レイか良い名だな、これ、ぶつかった詫びにやるよ」
カークはズボンのポッケから飴玉を取り出すとレイの手に乗せてくれた。
(おおお! 食べ物をくれるなんて……この青年は絶対に良い人だ!)
「じゃあな、坊主、良い冒険を!」
カークは胸をドンッと叩き、冒険者の挨拶らしきものをレイに送る。
「お兄ちゃん、ありがと、気をつけてねー」
カークはレイの返事を聞き手を上げ応えると、重そうな荷物を物ともせず颯爽と去って行った。
「ばいばーい」
真面目そうな青年の背に向け手を振り見送る。
飴ちゃんは今日の記念に取っておこうと鞄の中へしまった。
「カーク君だっけ、若いのに偉いねー、高校生? ううん、中学生ぐらいかな?」
親目線でカークの姿が見えなくなるのを確認し、レイはやっと冒険者ギルド内へ入る。
お城のような冒険者ギルド内は、やっぱり中身も洗練されていて驚いた。
「ふぉー、これが冒険ギルド、エグい! めっちゃカッコいい!」
午前中だからかギルド内は人であふれかえっていた。
掲示板がありそこを覗く者や、ギルド内にある売店に並ぶ者。
それから壁際には受付用のカウンターが複数あって、その受付にも多くの者が並んでいた。
「えっと、私……じゃない、僕は、あそこかな? 総合受付でいいのかな?」
壁際にあるカウンターを見まわしてみたが、新人ギルドカード受付場とか、入会受付が見当たらなかったので、レイは総合と書かれた受付へと向かう。
「こんにちはー」
受付に座る綺麗なお姉さんに声を掛ける。
この世界で無難な茶色の髪色の女性だが、顔つきはとても整っていてクール美人だ。
「こんにちは、僕、どうしたのかな? お父さんとはぐれたのかしら?」
十二歳のレイだけどどうやら思ったよりも小さい子に見えたようで、迷子だと勘違いされたらしい。
でも綺麗なお姉さんの笑顔はプライスレス。
お子様に見えたことに感謝したいぐらいだ。
レイは身だしなみを再確認し、レディに失礼のないように話しかける。
「僕は新たな冒険者として登録をしに参りましたレイと申します。どちらの受付カウンターへ行けばいいのか分からなかったのでこちらに来たのですが、宜しかったでしょうか?」
子供っぽく見られなように出来るだけ落ち着きのある様子を心掛けたせいか、受付のお姉さんはパカリと口を開け固まった。
その様子に自分がいったい幾つに見られているのか少し不安になったけれど、レイは取りあえずじっちゃんの印籠ならぬ、プラチナカードを差し出してお姉さんに見せた。
「これは祖父の冒険者カードです。これで僕が怪しいものではないと分かって頂けると思うのですが?」
ほれほれ早く冒険者登録させろや、そんな思いを込めながらじっちゃんのカードを手に受付の女性を見つめれば、女性はなんとか動き出しプロ根性で営業スマイルを浮かべた。
「んんんっ、失礼いたしました。こちらがお爺様のカード、ということですよね? 確認しても宜しいですか?」
女性の問いかけに勿論と頷く。
正直さっさとカードを作って街へとくりだしたい。
ここまで歩いてきて、もうだいぶ時間は経っている。
だから出来るだけ素早く動いて欲しい。
そんな思いを込め女性を見つめていれば、女性は入口門にあった水晶よりも大きな水晶にじっちゃんのカードをかざした。
【S級冒険者ロビン・アルクの冒険者カード、家族登録者、孫レイ・アルク】
するとじっちゃんの名前とレイの名前が水晶に浮かび上がる。
じっちゃんはS級冒険者だったのか、だったら笑える二つ名とかあったかもと、ニヤニヤしながら考え事をしていると、「名前を確認したい」と女性に声を掛けられた。
「えっと、名前だけですか?」
「そうですね、水晶に手をかざしていただければ、貴方の名前と性別など簡単な情報が浮かび上がります。本人のスキルとかは個人情報となりますので見えないようになっております。ですから安心してくださいね。ただ、犯罪者の場合は別です。この水晶が赤く光りスキルも全て開示されます」
「そうなんですか……」
体重や胸囲とかはちょっと女の子としては見られたくはないけど、名前や性別なら別に構わない。
レイは頷き「こちらに手をかざしてください」と女性に言われた場所に手を出し、素直に水晶に手をかざした。
【レイ・アルク
十二歳
女
英雄ロビン・アルクの孫で弟子
精霊王の愛し子
引きこもり気味だがポテンシャル大な無職】
水晶が青く光り、レイの個人情報が浮かび上がる。
特に問題のない情報だが、レイはある一点だけが気になった。
(おい! こらっ! 水晶! 無職ってなんだよ!)
心の中で水晶に対し盛大に突っ込んだレイだった。
こんにちは、夢子です。
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別の新作『踏み台令息』もよろしくお願いいたします。
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