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18/30

お弁当屋開店

 売店が開店時間を迎え、レイのお弁当屋さんも開店となった。


 ギルフォードが先頭に並んでいたお陰でA級冒険者のファンらしき人達も並んでいて、とりあえずお弁当が一個も売れない、という事は無さそうでホッとする。


 白い帽子と、白いエプロンをつけ、得意の営業スマイルを浮かべたレイにギルフォードが注文をする。


「レイ、僕は大、中、小、全種類のお弁当を一個ずつくれる、あ、あとお菓子も各種一個ずつお願いね」


 ギルフォードには乗馬を習う為、約束したお弁当を準備してあるのだが、それはそれ、これはこれで買うのだそうだ。異世界の大人買いというところだろうか、それとも教育係としての優しさだろうか。並んでまで買ってくれるとは、有難いことである。


「はい、ご注文の品お弁当三つと、お菓子三つです」


「うん、有難う」


「いえ、お買い上げ有難うございます」


 レイの仕事としては言われた数のお弁当とお菓子を渡すだけ、後はお客様からお金を受け取れば完了だ。とっても簡単な仕事に笑顔も自然とついてくる。


 ギルフォードは買い上げたお弁当を腰に付けているポーチにしまう。

 辞書一冊ぐらいの大きさのポーチにはどう考えてもお弁当が入る訳はないのだが、そこは魔法があるこの世界、多分ギルフォードの鞄は魔道具なのだろう。吸い込まれるようにレイの作ったお弁当が入っていき、周りの者たちが「おお!」と感嘆の声を上げる。


(ふむふむ。やっぱりギルフォードさんはお金持ちだねー、高価な魔道具を見せつけてるよ、みーんな注目してるしー)


 どんな時でも無駄に目立つ行為をするギルフォードにちょっと呆れながら、レイは開店記念の粗品をギルフォードに差し出した。


「ギルフォードさん、これをどうぞ」


「えっ、何これ? 僕、注文してないけど?」


「ポケットティッシュです。今日私のお店が開店なのでその祝いの粗品ですね。ギルフォードさんは全部で六種類買ってくれたので、ポケットティッシュも六個どうぞ、ティッシュを使ったら焚き火にでも入れちゃってください、燃えてなくなりますから」


「ぽけっとにてぃっしゅ? ティッシュ? って何?」


「あ、でもティッシュケースは私のハンドメイドなんで、捨てないで使ってくださいね」


「……はんど? めいど?」


 渡されたポケットティッシュを抱えぶつぶつと何かを言いだしたギルフォードを無視し、レイは次のお客様を対応する。


「坊主、俺は真ん中のサイズの弁当を一個くれるか」


「はい、有難うございます。半銀貨二枚になります」


 冒険者のおじさんから半銀貨二枚を渡され、レイはお弁当と粗品のポケットティッシュを渡す。

 美味かったらまた買いに来るからなとの有難い言葉に、宜しくお願いいたしますと頭を下げる。

 常連客が出来れば売店での販売時間は減る。つまりレイの仕事時間が減るということで……


 そうなれば異世界製の社畜であるモーガンを手伝うこともできるだろう。

 面倒くさがり屋のレイだって人をいたわることぐらいは出来るのだ。

 元大人だからねー。


「お次の方どうぞ」


「ああ、あたしたちは小さい弁当を一つづつ、全部で四つ貰えるかい」


「はい、有難うございます」


 カッコいい女性冒険者のパーティーの登場に、レイのテンションは爆上がりだ。


 声を掛けてきたリーダーらしきお姉さんは男装の麗人のようにカッコよく、他のパーティーメンバーも美人ばかりで、目を引く一団なだけに常連客になってくれたらとそんな欲が沸く。

 それに彼女たちの服装がいかにも異世界っぽくて、転生気分を味わえてなんだか嬉しくなった。


「美味しかったらまた買わせてもらうからさ、坊主頑張りなよ」


「はい、お姉さん、有難うございます」


「おう、じゃあなっ」


「はい、行ってらっしゃいませ」


 きっとお姉さんたちは新人冒険者であるレイを応援してくれたのだろう。

 誰かにレイのお弁当屋のことを聞いて、買うためにわざわざ朝から並んでくれたようだ。有難い。


 手を振り去っていく女性冒険者のお姉さんたちにレイは深く頭を下げ営業スマイルで見送る。

 そんなレイを見てきゃっきゃしているお姉さんたちは前世のJKのようだと感じた。


「あれ? 坊主、もしかしてこの前のぶつかった坊主か? 確かレイって言ってたよな?」


「ああ! カーク兄ちゃん! いらっしゃい!」


 冒険者ギルド前でぶつかり、レイにあめちゃんをくれた水色の髪を持った青年が次のお客様だった。

 食べ物をくれる心が広い優しい青年を前に、レイの営業スマイルは最高のものになる。


「レイは小さいのに偉いなー、こんな朝早くから働いて」


 カークはそう言ってレイの頭を撫でる。

 自分(カーク)だってレイと変わらないぐらいなのに、それでも褒めてくれるカークはやっぱり優しい人だと思う。


「カーク兄ちゃんだって朝早くから働いているじゃないか、それに今日も大荷物だし……」


 先日と同じように大きな荷物を抱えるカークの背中に思わず視線が行く。

 小山のような大きさに大丈夫かと心配になるし、お弁当を買ってこれ以上荷物を増やすのかと尚更心配になった。


「ああ、俺はまだ駆け出しだからな、今は孤児院の先輩パーティーに入れてもらって荷物持ちしてるんだ」


 だから気にするな、そんな笑顔でカークはまたレイの頭を撫でる。

 どうやらカークは孤児院出身のためか、自分より小さな子供を見ると優しくしてしまう病に罹っているようだ。


 レイは成人した記憶があるので 『なんちゃって子供だ』 優しくされるとなんだか申し訳なくなる。


「えーっと、じゃあ、俺は一番大きい弁当を四つと、一番小さい弁当を一個もらえるか」


「はい、有難うございます」


 レイがお弁当を渡すと、カークの動きが一瞬止まる。

 どうしたのかと思っていると「この弁当の箱、何で出来てるんだ?」と聞かれた。


「ああ、お弁当の箱は厚紙で出来てるんだー」


「あつがみ? 紙って文字を書くあの紙か?」


「まあ、その仲間? みたいな感じ」


「紙の仲間……?」


 疑問顔を浮かべるカークにうんと頷く、冒険者は荷物が少ない方が良いとされているのに、空の弁当箱をずっと持ち歩くわけにはいかない。だから焚火で燃やせる紙で作ったお弁当箱にしたのだが、カークには理解し難いことだったらしい。


「レイ……お前、絶対に紙の使い方がおかしいぞ……」


「……」


 お弁当をリュックに仕舞いながらギルド長と同じことを言うカークに、レイは (気を利かせたのに……) とちょっと拗ねながらも、開店の粗品であるポケットティッシュを押し付ける。


「これは?」


「開店記念の粗品、ポケットティッシュだよ」


「ぽけっとって……レイ、どう見てもこれも紙だよな? お前紙の使い方を学んだ方が良い気がするぞ……」


「……」


 そう言い残しカークは 「急がなきゃ!」 と言って去っていった。

 レイに言いたいことだけ言っての言い逃れ、ちょっとだけ心が傷ついた。

 親切心が仇になった気分だ。

 じっちゃんの「冒険者は荷物を減らせ」という教訓を恨みたくなるぐらいだった。


 それにしても冒険者パーティーにも、前世の運動部のように先輩を待たせてはいけないとかあるのだろうか、カークのあわてっぷりを見て、レイは絶対にパーティーなど組まないと心に誓った。


「レイ君、お弁当、小を四つと可愛いクッキーも四つ貰える」


「はいって、エイリーンさんですよね?」


「しー、今仕事中だから」


「……」


 手拭いを頭からかぶりエイリーンが売店にやって来た。

 その怪しさからギルド内で目立っているが、本人的には隠れているつもりらしい。

 もしかして仕事を放り出してきたのか? とちょっと心配になった。


「エイリーンさん、お弁当小を四つとお菓子四つですね、了解です。あの、まさかこれを一人で全部食べるわけではないですよね?」


 レイのお弁当を気に入ったからと言って、今日の朝、昼、晩、明日の朝で食べると言われたらどうしようと思ったけれど、友達の分だと言われホッとする。


 エイリーンはお金を払うとサササッと素早く動き、受付カウンターに戻れば何でもない風を装っていつものクールな笑顔を浮かべていた。


 エイリーンの周りいる受付お姉さんたちが、心なしかにやにやしていたので、多分あの人たちとお弁当を食べるのだろう。

 喜んでもらえたなら嬉しいが、あの笑顔のまま受付をしていると冒険者の人たちに気があると勘違いされそうで心配になる。


 けれど次のお客様が来て、レイはそんなことは吹き飛んだ。

 今は接客中。

 前世持ちとしてはお客様を放置するなど、そんなことは出来なかった。




「有難うございます。またのお越しをお待ちしております!」


 初日だけれどお弁当購入の客は続き、レイのお弁当はあっという間に完売となった。

 売れ残るかもとちょっと心配していたけれど、どうやらそれは杞憂だったらしい。

 珍しいものに飛びつくのはこの世界でも同じなようだ。

 あとはリピート客が付いてくれることを祈るだけ。


 まあ、レイのお弁当を食べれば虜になることは間違いないだろう。

 じっちゃんもギルフォードもエイリーンもそうなのだ。

 レイは心の中でしめしめと、悪徳商人顔で笑っていた。


「いやー、レイ、凄い売れ行きだなー、初日とは思えねー、感心したぞ」


「はい、モーガンさん、有難うございます。まさかこんなに早く売り切れるとは思っていなかったので私も驚いています」


「だよなー」


「はい、有難いです」


 一時間もかからずレイのお弁当は全て売れてしまった。

 モーガンさんの仕事を手伝いながら、もしかしてギルフォードが指導係としてお弁当屋を宣伝してくれたのかな? とそんな結論に行き当たった。


(A級冒険者お勧めのお弁当……そりゃあ買いたくもなるかぁ)


 インフルエンサーな力を持つギルフォードに感心していると「レイ」と小声で名を呼ばれ、カウンターへと振り向いた。


 何事かと思ったが、そこには大きな体を一生懸命小さくする冒険者ギルドのギルド長、エドガーが立っていた。


「レイ、俺に、弁当と菓子を、出来れば試食の時と別のものが良いんだが……」


 こそこそひそひそしているエドガーを見て、レイだけでなくモーガンも苦笑いを浮かべている。

 どう見ても隠れている意味がない。

 体が大きすぎるし、存在も大きすぎる。


 だったらギルド長として 「買いに来てやったぞ」 ぐらいのことを言った方がマシな気がする。

 挙動不審な不審者となっているギルド長に向け、レイは得意のスマイルゼロ円を向けた。


「ギルド長、申し訳ございません。本日完売です。またのお越しをお待ちしておりますね」


 レイの悪気ないその言葉を聞き、エドガーはその場でがっくりと膝をついたのだった。

こんにちは、夢子です。

ブクマ、評価、いいねなど応援ありがとうございます。

誤字脱字報告も有難うございます。

モーガンはギルド長と同世代です。

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