★仲間への報告
フォークラース国の第三王子であるギルフォードは、母の実家の姓を名乗り、ギルフォード・サーストンとして活躍するA級冒険者。
ルオーテの街に拠点を置き、個人で活動する冒険者ではあるが、仲間がいない訳ではない。
それは彼を護衛として守っている者たち。
親友であり幼馴染でもある騎士のメイソンと、暗部出身の護衛ゾーイなのだが、王都への定期報告へと出かけて行った二人が、ルオーテの街に戻ってきたことで、ギルフォードはあることを二人に報告しなければならなかった。
深夜、居住に戻ってきた二人をギルフォードは疲れているだろうからと言って各自の私室に押し込んだ。
決して少しでも話を引き延ばそうとかそう思っていた訳ではなく。
大事なだけに色々と心の準備が必要だったのだ。いい訳ではない!
「メイソン、ゾーイ、おはよう」
「「おはようございます」」
そして翌朝、疲れを見せないいつも通りの二人と顔を合わせる。
ギルフォードは普段通りを振舞っているつもりだったのだが、何となく違和感を感じたのかメイソンとゾーイの視線が鋭くなる。
それを避けるようにコーヒーを淹れ、冷蔵魔道庫からパンとチーズとハムを取り出し、簡単な朝食を準備し二人の前に出す。
(ああ、そういえばレイの作った朝ごはんも、美味しかったなー)
そんなことを思い浮かべながらパンに噛り付けば、痺れを切らしたメイソンが話しかけてきた。
「ギルフォード様、まさかお一人でダンジョンに行ったりはしていないですよね?」
「うん? ああ、勿論、二人がいない間は依頼を受けていないよ」
「……ならいいのですが……」
メイソンの珈琲のような濃い茶色の目が本当か? というようにギルフォードを睨んでくる。
ゾーイも同じ思いだったのか、見つめる視線が鋭くなり「何か隠しているでしょう?」と紅茶のような薄茶色の目がそう言っているようだった。
「あー……ただ……その……」
「「ただ?」」
ギルフォードの何でもない言葉に、あまりにも二人が強く反応を示すのでギルフォードは苦笑いだ。
けれどこのまま曖昧にしているわけにはいかない。
一国の王子として重要な案件は報告せざる負えない。それが義務だからだ。
出来れば あの子とは観察対象や保護対象としてではなく、友人として付き合いたかっただけに、ギルフォードの胸には重いものが圧し掛かっていた。
「新人冒険者がいて、僕が指導係を受けることになったんだけど……」
「「ギルフォード様が指導係ですか?」」
「うん、そうなんだ……」
ギルフォードはA級冒険者。
実力もあり名声もすでにある為、普通ならば新人の指導係を受けることはあり得ない。
それに普通に考えて指導係はCランクやDランクの者が自分の評価のためや、めぼしい新人をスカウトするのが目的で受けることが多いのだが、ギルフォードが進んで指導係を受けたと聞いて、二人の顔には「何があった」と疑問が浮かんでいた。
「ここからは真面目な話、この国の王子として内密な話をする。二人とも心して聞いて欲しい」
頷くメイソンとゾーイ。
もともとギルフォードの話の内容を他言無用するようなことはないが、それでも命令されれば口を割らなければならない相手はいる。
ギルフォードは一つ息を吐くと、普段のギルフォード・サーストンではなく、この国の王子ギルフォード・フォークラースとしての顔で話し出した。
「僕の追随者は……高い確率で愛し子だ」
「「えっ?」」
「髪も瞳も黒く、その上両方とも信じられないほど真っ黒で、宝石のような美しさを持っている」
「「……」」
「それから、動物とも意思疎通が出来て、森へ入れば魔獣が避けていく不思議な力を備えている。魔法も使い方が可笑しいし、そもそも詠唱していない。それにポーションや魔道具を作れる能力もあるし、あの子は空間庫まで持っていた。それに何より……夜には聖獣があの子の家に来ていたんだ……」
「「聖獣……?」」
メイソンとゾーイの驚きは当然だ。
聖獣とはこの世界の守護神、おとぎ話に出てくるような存在である。
「ああ、それも一体ではなく四体ともだ。多分この世界の聖獣が全てレイのもとに集まったんだろうね、この目で見たから間違いない」
「「……っ!」」
「あの子はそれほどこの世界に愛されている存在だ。下手に手は出せない、君たちにもそれが分かるだろう?」
目を大きく見開くメイソンとゾーイを見て、ギルフォードは苦笑いを浮かべる。
二人が驚くのも当然で、勇者や英雄であってもそこまで世界に愛される者はいない。
それに黒髪黒目であると言われる聖女でも、レイほどに美しい髪を持つ者はいなかった。
聖女の髪や瞳は黒だと言われているが、光に当たれば茶に見える髪色の者もいたし、瞳だって黒よりも焦げ茶と呼べるものだって多くいた。
つまりレイの能力はそれ以上ということで、浮かべる表情を見ればメイソンとゾーイはギルフォードの言いたいことが正しく理解できた様だった。
「はー、これは僕が直接父上に話さなければならないことだろうねー、最重要案件だ、誰にも聞かせられない」
「「……」」
「この街の冒険者ギルドのギルド長たちにはどうにかあの子の能力については誤魔化した。あの子のことを愛し子だと知っているのは我々だけだ、それを肝に銘じて欲しい」
「「はっ」」
これで話は終わりだと、王子の仮面を脱ぎ、いつもの笑顔を浮かべたギルフォードは、伸びをしたあと頭の上で腕を組む。
「はー、二人に話せてちょっとすっきりしたよ」
笑顔を浮かべるギルフォードとは対照的に、重大な話を聞いたメイソンとゾーイの表情は暗い。
この世界の大切な存在である愛し子を、害せば何があるかは分からない。
下手をしたら国が亡びる可能性だってあるだろう。
まあレイの性格からしてそんな面倒なことはしないだろうけれど、それぐらいのスペックがあるのは本当のことだった。
「ギルフォード様はもしかして、その方を妻にとお望みなのですか?」
国のことを考えれば身内に愛し子を引き入れたいと思うのは当然で、きっとギルフォードの父親に話せば「どうやっても娶れ!」と言い出すに決まっている。
だけどレイの世話焼きなところや、幼い容姿を思い出すと自分の妻にしようとはギルフォードは思えなかった。
「いや、レイはいい子だ。僕の妻になんてなったら可哀そうだよ、凄く素直な可愛い子だしねー」
レイの笑顔を思い出し、ギルフォードは思いにふける。
追随者というよりも、自分の弟か妹のような存在、それがレイだ。
いやあの性格だと、ちょっと面白い乳母のような子という方が正しいだろうか。
レイの世話焼きな姿を思い出し、自然と笑みが浮かぶ。
「そうなのですか、ギルフォード様はその子を、愛し子を気に入られたのですね……」
ギルフォードが浮かべる笑顔を見て、メイソンがそんな言葉を漏らす。
ゾーイもどこか嬉しそうで、普段の視線とは違い、ギルフォードを優し気に見つめていた。
「ああ、そうだね、僕はレイを凄く気に入っているよ。自分の命よりも大切なぐらいにね……」
この国の第三王子であり、能力も見た目も問題なく備わっていながら、冒険者になるしか道がなかったギルフォード。
そんな彼を心配している幼馴染は、愛し子とかそんなことは関係なく、ギルフォードに心を許せる相手が増えたことがただ嬉しかった。
こんにちは、夢子です。
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誤字脱字報告も有難うございます。
ギルフォードは水晶が精霊王の愛し子だと表示したことを知りません。なのでエドガーとエイリーンが愛し子を知っていることも知りません。